love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
明るさを感じて目を覚ます。帰って泥のように眠ったおかげか、夢は見なかった。メールを確認するために携帯を立ちあげると、昨日のμ'sのページがそのまま開いていた。良く見る間もなく寝てしまったなぁ、と申し訳なくなり改めて見ようと更新ボタンを押す。するとμ'sのランキングが更新されたようだ。
「ふーん、19位か...19位!?」
ラブライブ出場枠は20位までだったと記憶している。ということは...
「このまま行けば出場できるのか!!」
あの講堂のライブからここまで漕ぎ着けたことに、皆が、穂乃果ちゃんが報われたことに胸が熱くなった。外は快晴。僕の胸の暗さを吹き飛ばしてくれる、そんな天気だった。
#24 希フリュテ
「いやー、それにしても19位だよ!19位!やっとここまで来たんだよ!」
朝のホームルームが始まる前、教室に入ると穂乃果ちゃんのテンションが高いようだった。
「穂乃果、先生がきましたよ。」
園田がやんわりとたしなめる。こちらをパッと向いた穂乃果ちゃんは
「樹お兄ちゃん、私達のランキング見た!?」
とこちらに走りながら聞いてくる。
「おう、見たよ。もうすぐでラブライブ出場出来そうじゃないか。今のうちにサインもらっとこうかな?」
「あ、さっきミカちゃん達にもお願いされたよ!さっきは失敗しちゃったけど、お兄ちゃんのは失敗しないようにするね!」
と一番前の子からペンを借りて、クラスの出席簿の表紙裏にでかでかと『高坂穂乃果』と書いた。
「おお、有り難う。これはこのクラスの家宝にしような!」
と言うと、クラス全員が拍手。
「穂乃果、よくやったー!」
「穂乃果ちゃん、頑張ってね!ライブ見に行くから!」
「園田さんも頑張ってね!応援してるから!」
と、クラス全体が穂乃果ちゃん達を応援するムードになっていた。拍手が鳴りやんだタイミングでチャイムの音が響く。ホームルームの時間だ。
「よーし、高坂達が頑張ってるから皆応援してあげような、ちゃんとラブライブのホームページではμ'sに投票すること!ではホームルームはじめるよー。席に着いてー。」
と冗談を交えながら皆を促しホームルームを始める。すると1つだけ席が空いているのが見えた。
「あれ?ことりは?」
彼女は滅多に遅刻しないんだけどな...
「朝は一緒に登校したのですが...」
「いつの間にか居なくなってたよね?」
と園田と穂乃果ちゃんが教えてくれる。まぁ、トイレでも行ってるのだろうと思いホームルームを始める。ことりは1時間目が始まるまで、教室には戻ってこなかった。
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1時間目を終え、職員室に戻ってきた。2時間目は他の先生も自分の授業があったため、人口密度は小さめだった。自分の席に座り、雑務をこなしていると、京子さんが戻ってきた。
「お疲れ様です、樹さん。」
「お疲れ様です、京子さん。」
「あまり顔色が良くないですが...体調崩されました?」
あまり意識はしていなかったが、顔に出ていたらしい。
「いえいえ、大丈夫です。もしかしたら昨日一昨日の疲れで自覚してない分があるかもしれませんね。」
嘘だ。そんなことはない。はっきり言って旅行中の僕は最低な奴だった。肉体的な疲れではなく、精神的な疲れがあるだけだ。自覚はある。
そもそも、人生でこんな状況は初めての事なのだ。本では幾度となく出くわしたが。そう言えば昔、恋愛シミュレーションゲームで似たような状況の物があった。そのゲームは12人のヒロインがいた上に、日本全国散り散りになっていたので修羅場らしい修羅場は無かったけども...いや、あったな。会いに来たヒロインがバッティングするシチュエーション。進めていくうちに女の子をふる必要があって、純情な僕は夢に見る位申し訳なさを感じたのを思い出した。
「運転全部して頂きましたものね。有り難うございます。運転お上手でしたよ。」
にこやかに言う京子さん。心に棘が刺さる。
「まぁ...海外ではかなり運転しましたからね。日本車運転したのは久々だったのでよかったです。」
こちらも出来る限りの笑みを浮かべて答える。作り笑いになってない事を祈りながら。
「そう言えば、今週末とかお暇ですか?宜しければ映画とかどうですか?」
「あー、すいません、今週から文化祭実行委員の仕事が始まるのであんまり時間取れないんですよ。ごめんなさい。」
断る理由を仕事にする所が、僕の意気地のなさをよく表している。
「そうですか、それじゃあまたの機会にしましょうか。」
すこし残念な様子の京子さん。その表情を見て、また一つ、棘が刺さった。その痛みに耐えていると
「神波先生、少しお時間よろしいですか?」
と珍しく学院長が職員室に僕を呼びに来た。何だろう、特に悪いことしてないけどな、いや、してるか。
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「南が留学、ですか。」
「そうなの、アメリカにいる知り合いのデザイナーがμ'sのページを見てね、衣装デザインがことりだって分かったら『是非パートタイムのアシスタントでいいから、うちに来ないか。』って。本当なら高校を卒業してからとも考えたのだけれど、どうせなら早いうちがいいのじゃないかと思って。」
「それで、どうされるんですか?」
「行くかどうかはあの子の意志に任せてます。先方からは9月からなら高卒の資格が取れるジャパニーズスクールへの編入が出来る、と言っているから、まぁ
1学期中には決めてもらいたいわね。」
それに、8月のうちにいろいろ手続きいるみたいだし。と付け加える学院長。
「そうですか、まだ行くかどうかは決めていないんですね。」
「そうね、神波先生は担任だし、一応言っておこうと。それに、留学経験があるから、ことりにアドバイスできるかもしれないし。」
「確かにそうかもしれませんね...」
留学経験なんていいものじゃないけど。
「そうそう、三者面談なのだけれど、」
そう言えば7月末は三者面談もあったな。
「私達は事情も事情だし、時間がかかりそうだから出来れば土曜日の夕方とかに、家に来てくれないかしら?晩御飯でも食べながら、お話しましょう?」
とにっこりする学院長。食べられるのは僕ですか...?テンション上がらねー...
「学祭のこともありますが...では期間外ですが、来週の土曜日19:00から如何ですか?」
「分かりました。ではその時間に。ちなみに、晩御飯のリクエストはありますか?」
だから可愛い笑顔で惑わさないで下さい、そんな気分でも無いので...
まぁ、しっかりハンバーグお願いしましたけど!
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放課後。文化祭の講堂の使用時間のくじ引き会場に来た。入場者が多く見込める文化祭は新入生歓迎式典の部活紹介と違って、講堂て行いたい、という部活は多く出てくる。特に文化部はそうらしい。そこで伝統的に講堂の使用時間はくじ引きで決めることになっていた。
「茶道部、午後3時から、1時間の間の講堂の使用を許可します!」
「やったー!」「やったよー!」
抱き合う茶道部の代表2人。後ろではアイドル研究部が待機していた。
「にこちゃん、ファイトだよ!」
「任せなさい!」
「にこ、講堂を使えるかどうかでライブのアピール度は大きく変わるわ!」
順に穂乃果ちゃん、矢沢、絢瀬の発言だ。そのやり取りを聞いているうちに不自然さを感じた。穂乃果ちゃんって矢沢のこと「にこ先輩」って呼んでなかったっけ...絢瀬も矢沢のことにこって呼んでたな...
「それでは、アイドル研究部、お願いします!」
ふんっ、と鼻息荒く、矢沢がガラガラのくじを回す。ちなみにこの機械の正式名称は「新井式廻轉抽籤器」だ。プロレスの新技みたいだな。
コロン、と出てきたのは白。
「残念ですが、アイドル研究部、講堂は使用できません!」
くず折れる矢沢と穂乃果ちゃん。周りでもため息が出ていた。
「にこちゃん、だめにゃー!」
「にこちゃん、なんで引いてくれなかったの...」
1年生の星空、小泉ペアが矢沢をなじっている。あれ?この二人もニコ先輩、矢沢先輩じゃなかったか?んん?どういうことなの?
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「あ、先生、文実の方は良かったん?」
放課後、生徒会室に行くとそこには東條がいた。
「講堂使用のスケジュールが出来たから後は各クラブで出し物洗練させて行くだけだろ。それより来賓関係の方が優先、と思ってね。去年の資料を見に来たんだ。」
文化祭では学内のことは文化祭実行委員が、学外のことは生徒会が、という決まりになっている。
「それはそうと、μ'sは講堂使えないんだよね。どうするの?」
「ええ、あの後皆で話し合って屋上に仮設ステージを作ってライブをすることになったんよ。やから資材関係の申し込みを急ごう、と思って。」
「それなら申込用紙書いたら文実には僕が持っていこうか。どうせ仮設ステージの組み立てとか僕も手伝うんだろ?」
ええ、期待しとるわ、と東條が笑って答える。惚れ惚れするような笑顔だった。
「そういえば、」
この際に気になることを聞いてみる。
「みんな、旅行中に仲良くなったみたいだね。皆、矢沢のこと下の名前で呼んでたな。」
「ああ、実は『先輩禁止』にしたんよ。踊ってるときは年齢の上下なんて邪魔やから、ってエリチが。」
「なるほど、それでなのか、小泉とかよく首を縦にふったな。」
「花陽ちゃんはそうでもなかったよ。一番面倒だったのは...」
「西木野だろ?」
とニヤつきながら言うと、絢瀬が苦笑しながら、
「そうやね、真姫ちゃんが一番苦労したね。まぁ、何とかなったけど。」
「まぁ、あの手のツンデレの扱いは誰かさんで慣れてるだろうしな。」
「せやね!」
と笑う東條。どこかのお姫様に聞かれたらおこになるだろうな。笑いながら、
「でも、良かったな。居場所出来て。」
と伝えると、一瞬キョトン、として
「うん。そうやね。」
とまた嬉しそうに答えてくれるのだった。穏やかな空気が流れて、キャビネットの方に近づいたのを合図に、お互いが作業に入る。ファイルを取り出しながら思う。この子達のようにお互いを純粋に尊重しあえる関係を築くのはなんと難しいことか、と。
単純に、2人が好きなだけなのに、こんなに苦しくなるなんて。
「はい、先生、申込用紙宜しくお願いね。」
そうこうしている間に東條の方は終わったようだ。ああ、ありがとう、と答えながら彼女を見る。すると、用紙を差し出したまま、
「先生...あんま顔色が良くないけど...大丈夫?」
と僕の顔をのぞき込んだ。生徒にも察されるとは、ダメな教師だな、と思いながら用紙を受け取る。
「ああ、大丈夫だよ。昨日の疲れが少し残ってるようだから。」
と頭を振る。東條は少し戸惑いながらも、
「あの、何か力になれることがあれば、何でもゆうてね。出来ることがあれば手伝うから。」
まさか、自分の身勝手さに参っているんだ、なんて言えるわけもない。大丈夫だよ、ありがとう、と伝える。
「頼りないかもしれへんけど、頼ってくれたら嬉しいんよ?」
とこちらを真剣に見ながら伝えてくれる。情に厚い子だ、と思う。
「ありがとう、どうしても我慢できなくなったら、頼らせて。」
と強がる。それ以上は踏み出さずにいたのか、納得したように荷物をまとめる東條。
「無理はしないでね...心配だから...」
背後でパタン、とドアを閉める音がした。普段使わないはずの彼女の標準語はまるで笛の音のように優しい響きで。それが余計に僕の胸の棘を緩やかに刺激した。
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