love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
木材を重ね合わせ、くぎを打つ。適度に固定された所でのこぎりを取り出して切る。何をやっているか?決してDIYじゃないよ。μ'sの舞台をつくっているんだよ!このくそ熱い土曜日、文実の監督をしに来たらアイドル研究部の奴らに捕まっちまった!矢沢が、
「えー、にこ、のこぎりなんて重たいものもてなーい♪」
とか言い出しやがって、星空が
「先生は男の人だから舞台作るの手伝ってにゃー」
とか乗っかりやがって、しまには園田が
「先生、よろしくお願いしますね。今日はここまでの作業予定です。」
とか決めつけやがった!こんなとこでも使われるのかよ!げに悲しきは下っ端の運命。分かってたけど。
「あー、熱い…」
こんな炎天下、ワイシャツは汗まみれだ。これ干したら塩できるんじゃないか?ファッキンホットくそ熱い。
「うるさいわね、そんなこと言わなくてもわかるわよ。わざわざ言わないでくれる?」
と同じく作業をしていた西木野がうんざりした風に言ってくる。この言い方誰かとそっくりだな…
「あ、そこもう少し短く取ってもらっていいですか?強度的に少し頑丈にしておきたいんです。」
と絢瀬が言う。唯々諾々と従いながら舞台を完成させていく。また1つ、また1つと舞台のパーツが出来、組み合わせているとき、ふと思う。
世界というものは舞台である、と表現したのは確かシェイクスピアだったか。そこに登場する僕らはさながら舞台役者か。果たして自分の役はどんな役なのか。恥知らずも自分に向けられた愛情に気付けなかった愚かな王か、はたまたその王を嘲り笑い、その実何も生み出していない道化か。いずれにせよ滑稽な役回りには違いない。
のこぎりを前後に動かす。木材はいくつもの木屑をまき散らしながら熱を帯びる。固定されていない方の木材が落ちた、カラン、という音が蝉の鳴き声と混じり合い、苛立ちを加速させた。
#25 ことりオラジュー
時をさかのぼること3日前、西木野から音楽データが入ったUSBを預かった。
「先生、これ、今度の文化祭で発表する新曲です。編曲お願いできますか?」
相変わらずこんなことなんでもないですよ、という雰囲気。4月から数えてもう5曲になるか、たった3カ月でこれだけの作曲を出来るのは才能だと思う。
「分かった。いつまでに仕上げればいい?」
「できれば今週末にでもお願いします。振り付けはもう考え始めているので。」
了解、と一言返す。その場では、まぁ、何とかなるだろう、と思っていた。
帰宅してその曲を聴いたとき、まったくと言っていいほどイメージが湧かなかった。
そうして音が付かないデータを持ったまま週末を迎え、いまこうして舞台作成を手伝っている。これは非常にマズイ。このままだとみんなの練習が遅れてしまう。焦燥感だけが重くのしかかっていた。ちょうど園田が計画していた部分まで舞台を作成し終えて、もうそろそろ切り上げようか、というときに西木野がこちらに来た。
「先生、編曲できましたか?」
と、ぶっきらぼうに聞いてくる。僕は詰まりながらも
「…まだです。」
と伝えた。すると西木野は
「はぁ!?まだ出来てないの?曲合わせ来週にははじめないといけないんだけど、どうするの!?」
と半ば怒るように言ってくる。
「いや…面目ない。明日には出来上がるから、もう少し待ってもらっていいかな…?」
と申し訳ない気持ちで言う。しばらく黙った西木野は半目になりながら、こう切り出してきた。
「先生、明日、どこで、どうやって、編曲するつもりですか?」
「自分の部屋で、パソコン使って、だけど…」
すると小悪魔のような、悪い笑みを浮かべながら、
「明日、先生の編曲ができるまで見張りますね。」
と言った。おい、編集者っぽいぞ!
「ちなみに、誰を連れていきましょうか?にこちゃんとか凛とか穂乃果でいいですか?」
「なになにー、真姫ちゃんどうしたのー?」
と矢沢が食いついてくる。部屋をあさるに決まっている、と確信した僕は、
「真姫さんだけでお願いします!できれば三バカトリオは勘弁してください!」
と盛大に頭を90°下げた。あまりの潔さにみんなの注目を集めた西木野がうろたえていた。顔を真っ赤にして恥ずかしがっているようだ。カワイイ。あとどうでもいいけど三バカトリオって腹痛が痛いみたいな感じだよな。もっというとこの場で恥ずかしいのは僕だろうけど。
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肉体労働の汗をシャワーで流す。この後南邸で三者面談だ。シャワーを浴び終えて携帯を確認する。聡子からLineが来ていた。
ミャー『明日暇?暇ならちょっとご飯でも食べに行かない?』
『ごめん、明日アイドル研究部でやることがあるから行けそうにない』
返すとすぐに返信が来た。
ミャー『そうなのね。ちなみに聞くけど、来週とかは空いてないの?』
『来週も文化祭の準備でどうなるかわからない。もし空きそうなら連絡する。』
ミャー『オッケー。期待して待っとくね』
ミャー『ところで、今週なんか私避けられてなかった?』
ぎくりとした。あの旅行の一件以来、何となく彼女たちに近づき難い意識が芽生えていたのだ。
『そんなことないよ。生徒会と文実の顧問かねてるから、どうしても忙しいんだよ。ごめんな。』
しばらくしてから、
『そう。ならいいの。頑張ってね。何かあったらサポートするから言ってね。』
と返信があった。すぐさま、ありがとう、頑張るよ、と返信を打ち、電源ボタンを押す。暗くなった画面に髪から滴った水が一粒落ちる。それをタオルでふき取ると大きなため息が漏れた。
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「どうかしら?神波先生、ハンバーグお口にあったかしら?」
といあうことで、南さんちのことりさんとの三者懇談@みなみけである。いや、ハンバーグ久々に食ったけどやっぱ美味しいね。ひき肉最高。メンチカツカレーとかいいよね。
「いや、本当に美味しかったです。デミグラスソースも美味しくて。学院長はお料理上手なんですね。」
と褒めるとふふっと笑う学院長と嬉しそうなことり。ん?と疑問符を頭の上に浮かべると
「そのソース、実はことりが作ったんです。」
えへへ、と照れることり。振り付けから衣装から料理までこなしてしまう女子力。あやかりたい...
「そっか、すごいな、ことり。いいお嫁さんになれるな。」
と伝えると顔を真っ赤にして喜ぶ。やばい!可愛いっす!
ついつい見惚れてしまうが、ここは話を進めないと延々ちゅんちゅんしてしまう、と思ったので、先に切り出す事にした。
「さて、お腹もいっぱいになった所で、始めましょうか。」
と伝えると、はい、と畏まる2人、親子で良く似るものだな、と思い話を切り出す。学習態度、成績、日頃の様子、部活での取り組み、等々、僕が気付いたことを全て伝えていく。好意的なコメントに学院長は満足そうに、ことりは恥ずかしそうに、でも誇らしげにしていた。
「...というのがことりさんの現状です。何かお気にかかる点はありますか?」
しばらく沈黙。学院長がことりを促しているようだ。学院長の方を見るとウィンクをしてくる。一瞬ドキッとしたが、これは『留学の話をしたことは内緒ね☆』という合図だろう。これが『今夜どうですか?』ならびっくりするが。
などとなわいもないことを考えていると、ことりが封筒を差し出してきた。これは?と聞くと、中身を見てください、と言われる。中身を見てみると英語で『是非うちのオフィスでデザイナーの修行をしないか』という主旨のことが書いてあった。
「これは、留学のお誘いかな?」
「はい...そうなんです...」
とことりはうつむきながら言う。
「すごいね、夢への第一歩じゃないか。」
「でも、どうしたらいいか分からないんです...」
「何故?」
すると震えた声で言う。
「穂乃果ちゃん達とアイドル活動するようになって、穂乃果ちゃんと、皆と一緒に学校を存続させようって、頑張って...なのに、こんな途中で辞めるようなこと...でも、将来デザイナーにはなりたい、いいチャンスなんじゃないか、って...でも、やっぱり穂乃果ちゃんが...そう思うとなかなか決められないんです...」
思いの丈をぶつけることり。そうじゃないかと思ったが。
「樹先生...先生なら、どうしますか...?」
縋る様な視線。学院長の方を見ると軽くウィンク。これは『アドバイスよろしね☆』のサインとみた。これが『私はいつでも大丈夫ですよ?』のサインなら逃げるが。
「うん...結論から言うと僕は行った方がいいと思う。」
その言葉を聞いてビクリ、と肩を震わせることり。
「知っての通り、僕はアメリカに2年ほど滞在したことがある。留学なんて大層な言い方は出来ないけどね。学校に通いながら、お金を貯めて、休みの日には車を走らせて遠くの街に行く。そこで色々な人を見ながら、音楽を聞いて、楽しむ。それだけの事しかしていないんだよね。」
じっとこちらを見つめることり。
「でも、不純だけど、目的を持って行った事は後悔していない。勉強にもなったし、僕の今後の人生の重要な1部分を、間違いなく形作ったと思う。」
母が行きたいと言っていた場所。ジャズに溢れた街。バーボンを飲みながら音楽を奏でるあの空間。
例えばあの空間は、間違いなく、僕を構成する要素の1つと言えた。そうだ、確かにあの空間は僕の夢の1つだった。
「...だから、僕は...」
大きく息を吐く。
「...行った方がいいと思う。夢のために。」
ことりの瞳が揺れた。止めて欲しかったのだろうか。
「でも...」
またことりはうつむく。そこに言葉を重ねる。
「もちろん、今君の目の前にあるのは、目の前にいるのは、μ'sの皆だ。だから、最終的にはことりが決めるしかないんだ。そしてそのどんな決断でも、皆は賛成してくれるはずだよ。」
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家に帰り、鞄を置く。ことりに言ったセリフはまさしく自分自身に言ったセリフでもあった。僕らは夢と同じ素材で出来ている。でも、今目の前にあるのは夢なんかじゃない。
スーツを脱ぎ、ハンガーに掛ける。来週の土曜日は絶対にジャージで行こう、と心に決めてベッドに体を預ける。もう一度、あのジャズの響く空間の夢を見たい、と願いながら。僕のささやかな今日は、程よい疲労感を伴いながら、眠りに包まれた。
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