love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
携帯の通知音が鳴った。小さくはあったが、存在感のあったその音に眠りを妨げられた僕は、枕元から携帯を取り出す。時刻は8:00。普段の休みならまだ寝ている時間だ。昨日の晩に知らない番号から電話が来ていた。ぐっすり寝ていたのだろう、気付かなかった。先ほどの通知音は新着メールのようだった。
『おはようございます。西木野です。起きたら連絡ください。』
少しびっくりした。なぜ西木野からメールが、と思い、返信する。
『おはよう。ところで何で僕のメールアドレス知っているの?』
ちょうどいい時間か、と思いベッドから降りて大きく伸びをする。窓を開けてお湯を沸かし、コーヒーの準備をしているとき、またしても通知音が鳴った。
『絵里から聞きました。今日は何時ごろ、どこで待ち合わせしましょうか?』
と返信が来た。そういえば絢瀬にメールアドレス教えていたな。
『なるほど、そういうことね。10:00に神田駅南口でいいかい?』
ポットが甲高い音を立てる。火を落とすと、コーヒー豆を布フィルターの中に入れ、お湯を注ぐ。ゆっくりまんべんなく豆にお湯をかける。そうすると香りが引き立つ、ような気がする。
『分かりました。それでは10:00に。昨日の晩先生に電話したのは私なので、携帯番号、登録しておいてくださいね。』
コーヒーがちょうど出来たタイミングで西木野から返信。煙草に火を点ける。やはり煙草と合うのはコーヒーだな、と思いながら昨日の夢を思い出そうとした。起き抜けの軽いサプライズのためか、夢の内容は頭の中には姿を残していなかった。
#26 真姫アカンパニュマン
約束の10分前に駅に着くように愛車を走らせる。最近買ったシティサイクル、つまりは自転車だ。自転車に乗っているときは自分がエンジンになったつもりになるので非常に気持ちいい。運動不足にもなるし。俺は風になるっ!
時間通りに駅に着くと、そこには、青のAラインのスカートに白のブラウス、ブラウンの小さなショルダーバッグ、といかにもお嬢様然とした西木野がいた。そわそわと落ち着きがない感じがしているが。
「よっ、おはよう。」
と自転車を押しながら後ろから声をかけると、猫のようにびっくりしながら
「ヴェ!先生…びっくりさせないで下さいよ…」
と答えた。それを少しだけほほえましく感じながら、
「ごめんごめん、待たせちゃったかな?」
というと、ふい、と明後日の方を向きながら、
「別に、待ってなんかないです。たまたま早く着いただけです。」
とツンデレ気味の回答をしてくれる。それが可愛くて、笑ってしまった。本当に西木野は模範的なツンデレだな。ラングレーさんとかラヴァリエールさんと競えるくらい。
×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
西木野を自転車の後ろに乗せて走る。ものの数分の距離だが慎重に、ゆっくり運転する。すると肩に手をかけている西木野が、
「そういえば先生の家ってどこなんですか?」
と言ってきた。
「うーん?岩本町。近いだろ?」
「近くにスーパーありますか?」
「あるよ、大手スーパーの都市型小型店が。」
「そこに寄ってもらっていいですか?」
「ああ、ジュースとか買うの?一応用意してるけどね。」
というと、少しどもりながらも、
「えっと、昼ごはん、カレー、作ります。」
と言ってきた。驚いてハンドルを少し揺らしてしまった。
「きゃっ!」
「おっと、ごめん。ちょっとびっくりしちゃって。ありがとう、じゃあ、スーパー寄るね。」
と家を少し追い越してスーパーへ向かう。西木野が降りやすいように、店の前に自転車を軟着陸させる。ポールにキーチェーンを掛け、それじゃあ、行こうか、と西木野を促した。
店の中は空調が効いていて、快適だった。もちろん、僕の家も今はクーラーガンガンだけどな!帰ってきてから家が暑いとか考えたくない!
「それにしても意外だな。」
と後ろを歩く西木野に伝えると、
「何がですか?」
とこちらを訝しそうに見てくる。
「料理なんて作らないと思ってた。料理得意なんだな。」
「得意なんて…実はまったく作ったことがないんです。」
えっ、と言葉に詰まる。これはまさかのゲロマズフラグか!?
「先生、いやそうな顔してますよ。失礼です。」
「いやー、でも、何でそれなのに作ろうと思ったのかなー、なんて思ってしまって。」
軽く棒読みになってしまう。するとまたしても西木野はそっぽを向きながら、
「カレーくらい私にだって作れますよ!料理実習とかでやったし!」
と顔を赤くしてツンデレるのだった。あ、昼ごはん、カレーなんですね。嬉しいですけど。
×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
カレーの香りがする室内。僕はロフトの上のパソコンの前で画面とにらめっこをしていた。キーボードで音階を入力しては削除、入力しては削除、という作業を繰り返していた。すると、エプロン姿の西木野がロフトに上がってきて、
「先生、ご飯できましたよ。」
と言ってきた。僕は作業が遅々として進まない現状にげんなりしていたのだろう、西木野は
「先生、大丈夫ですか?顔が酷いですよ?」
と言ってきた。そんな言われ方をされると、僕の顔面が崩壊しているように聞こえるな。
「だめ…音が下りてこない…」
ふぅ、とため息をつく西木野。
「とりあえず、ご飯食べましょう。気分を変えたら何か思いつくかもしれませんよ。」
と梯子を下りる西木野。僕もそれに続いて梯子を下りる。
下には見た目は普通のカレーが出来ていた。いただきます、と合唱。カレーに手をつける。料理に慣れていない、という割にはおいしくできていた。ルーが甘口なのが少々気にかかるが。
「おっ、おいしい。よくできているね。」
と褒めると、
「そうですか。普通ですよ。」
と言いながらもどこか照れくさそうな西木野。色々話をしていると、どうやら先週の合宿では矢沢が料理で大活躍だったらしい。その姿を見て何か触発されたらしい。無事、僕が被験者に選ばれたようだ。一通り食べ終わり、後片付けをかってでる。終わった後に振り向くと西木野は部屋の中が気になるのかきょろきょろしていた。
「何か珍しいものあった?」
と聞くと
「いえ、パパの書斎の半分くらいしか広さがないんですね。」
とぐさっとくる言葉を吐いた。確かに大病院の院長と一緒にしないでほしい。僕が少し落ち込んでいるように見えたのか、西木野は慌てて
「ごめんない。失礼でしたね。」
と言った。
「いや、別に本当のことだし、大丈夫。本音を言うともっとお給料をもらって広いところに引っ越したいんだけどね。」
というと、少しほっとしたようだ。ふと沈黙が僕の部屋に響く。すると、西木野がぶっきらぼうに、こう言い出した。
「…で、編曲どうしてできないんですか?」
そのセリフに少し戸惑う。まさか僕が「笹原先生と深山先生を天秤にかけているんだよー!そのせいでメンタルやられててさー!最低だよねー!?」と正直に話したら何というのだろうか。
「イメージが…わかないんだよ。皆の曲だからできるだけ早くしないといけないってことはわかってるんだけど…」
「それ、本当にイメージの問題ですか?それならこれを渡したら思いつきますか?」
と僕に差し出して来たのは一冊のノート。
「これ、海未が書いたこの曲の歌詞全部です。都合上、曲は一部分だけしか作曲していないですが。」
ぱらぱらとめくるとそこには園田の手書きの歌詞が書いてあった。こうしてみるのは初めてだ。
そこにあった1フレーズが目に飛び込んできた。いつか夢見た誓いを、等身大の自分より少しでも大きくなって掴もうとしている、そんな意思がそこにはあった。
「先生は私に言ってくれましたよね。『迷いがあるうちは楽しくないだろう?』って。先生は何かを迷っているんですか?」
すごく、苦しそうです。と西木野が、そう呟いた。その言葉に僕は息を飲んだ。そうだ、僕はあの時、西木野に、この子たちに、どんなことを思ったのか。そうだ、彼女たちが全身全霊をもって取り組めるように、先へ進めるように、背中を押したい、そう思ったはずじゃなかったのか。
「…そうだな。ありがとう、西木野。少し気が楽になったよ。今なら出来そうな気がする。」
と言う。意識せずに声が小さくなってしまった。でも西木野はその言葉をきちんと受け取ってくれたみたいだ。
「まぁ、先生の悩みがどんなことか知らないですけど、話したら楽になるなら話したらいいんじゃないですか?」
「それ、東條にも言われたよ。2人とも優しいんだな。」
と苦笑交じりに言うと、西木野は今までよりもっと顔を赤くして、
「何それ、意味わかんない!」
と盛大に照れてくれるのだった。カワイイ。
「…どうせなら、西木野も一緒にやってみないか、編曲。今後の勉強にもなるだろう?」
僕はロフトに西木野を招待する。二畳ほどのスペースだから、2人で作業をしても大丈夫だろう。僕は自分のパソコンや使っているDTMソフト、MIDIキーボードの説明をしながら、西木野と一緒に編曲作業を進めた。この間のグランツリーでのセッションの時のように楽しく、でも心穏やかな時間を過ごすことが出来た。
×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
もう日も落ちる時間。西木野を家まで送り、2人で作った曲が入ったCDを渡す。はにかみながらそれを受け取と、ちょうどお母さんが家から出てきた。僕が学校の先生だ、ということが分かると積極的に僕を夕飯に誘ってきた。真姫さんが作ってくれたカレーがあるので、と断ると、練習した甲斐があったわね、真姫ちゃん、と秘密の特訓を暴露してきた。西木野は、違う、違うの!と手をブンブン振って否定していたが、そんなところもとても可愛らしかった。
なんとか西木野母の誘いを断り、家まで帰る。すこし涼しくなったし、少し遠回りして帰ろう、と決心して神田明神へ向かおうとお茶の水方面に走る。橋を渡り、神田明神を通り過ぎると、向かい側から見たことのあるサイドポニーの女の子が走ってきた。
「あれ、穂乃果ちゃん?どうしたの?」
と自転車を停めて声をかける。少し通り過ぎた彼女は
「あれ、お兄ちゃん?」
と不思議そうに振り返ってこちらを見る。その場で足ふみしながら、
「どうしたの?その自転車、カッコいい!!」
と聞いて来た。
「ちょっと健康とお財布のために自転車にしようかと思って、買ったんだ。穂乃果ちゃんは何してるの?って走ってんのか。」
「そう!ラブライブ出場のために気合入れていかないと!とくに文化祭でライブすることが決まったから、体力をつけとかないと!」
なるほど、さすが思考は体育会系。少し羨ましくもある。自転車で運動不足解消を目指している僕とはレベルが違うな!
「そっか、だからか、深山先生、最近高坂が授業中に寝ているって愚痴こぼしてたから。」
というか、あんたのクラスどうなってんのよ?的な。顔はやめな、ボディにしな、ボディに。
「えへへー、ごめんなさい!」
と全然反省の色がない風に言う穂乃果ちゃん。すると少し顔が赤いのが気になった。
「まぁ、ほどほどにね。体力付ける前に体力なくなったら意味ないしね。」
というと、
「もう、海未ちゃんみたいなこと言わないで~。分かってるよ~。」
とふくれっ面をされた。君はフグですか。ちなみにフグのなかまであるハリセンボンという魚は自衛のために膨らんで体表にある針の中にこもる。が、実際その針は500本ほどしかないらしい。名前が誇大広告もいいところだ。ハリゴヒャッポンに改名すればいいのに、いや、言いにくいからやっぱりいいや。
「でも本当に無理しないようにね、夏だっていっても不審者が出るかもしれないから、襲われないようにね!」
と心配すると、穂乃果ちゃんはパッと笑顔で
「大丈夫!逃げ足には自信あるから!じゃあ、穂乃果行くね、お兄ちゃんも頑張って!」
となにかよく分からない自慢をしてきた。上に走り去ろうとする穂乃果ちゃん。
「気を付けてね~。」
と背後から伝えると振り向いて大きく手を振ってくれた。
僕の心の中で、何かしらの予感が首をもたげた。が、その感覚は一瞬のうちに、まるでシャボンの泡のように通りすぎた。
太陽は沈み、夜が訪れる。街灯が点き、街は明かりで自分の存在を示す。自転車を街のほうに向け走り出すと、空には上弦の月が見えた。満たされない、半分だけ欠けたその月は、川沿いを走っているうちにビルの影に隠れて見えなくなった。
ちなみに僕はノーブラの歌詞は圧倒的に二番が好きです!感想お待ちしております!