love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
「あれっ!?樹さん!?こんなところで何してるの?」
ついに迎えた音ノ木坂学院文化祭。実行委員顧問として校内を見回っているとき、女子中学生から声をかけられた。
「あれ?雪穂ちゃん?文化祭見に来たんだ。ありがとう。」
その女子中学生は和菓子屋「ほむら」の次女、高坂雪穂ちゃんだった。
「お姉ちゃんたちがライブするっていうから来たんだけど、樹さん何しているの?」
隣には友達だろうか、銀髪のおとなしそうな子がいた。というか、外人さん?
「ああ、実は僕、ここで英語の先生してるんだ。そういえば、オープンハイスクールにも来てたよね?」
「いやいや、英語の先生?そもそもオープンハイスクールの時、樹さんどこにいたの?」
「µ’sのライブ会場でカメラマンしてたよ。」
「いや、私たちその場にいたし!?声かけてくれたらよかったのに!!」
と興奮気味の雪穂ちゃん。テンション上がると似たような感じになるな…
「雪穂、この人誰?」
「ああ、亜里沙、ごめん。この人は私とお姉ちゃんが小さい頃からお世話になってる人で、今は…音ノ木の英語の先生?の神波樹さんだよ!樹さん、この子は私の同じ中学校の友達で…」
雪穂ちゃんが友達に目線を送る。その子は、人見知りをしないのか、元気よく自己紹介をしてくれた。
「絢瀬亜里沙です!よろしくお願いします!」
絢瀬、という苗字はさほどポピュラーな苗字ではない。もしかすると、と思い聞いてみた。
「絢瀬?もしかしてお姉さんは…?」
「はい!お姉ちゃんは音ノ木の生徒会長をしてます!」
姉は金髪、妹は銀髪か。100歳超えたら正真正銘金さん銀さんだな。個人的には金のほうが好きだ。ほら、寄せるとき銀より金のほうが使いやすいじゃん?
「そっか、お姉さんには日頃お世話になってます。よろしくね、この学校で英語の先生をしている神波樹です。」
とさわやかに答えておく。JCからすると25歳とかおっさんだから少しくらい気を張らないとな。
テンションの高い雪穂ちゃんとそれをにこやかに見守る亜里沙ちゃん。文化祭を楽しんでくれたらいいな、とそう思った。
#27 μ’s, No.6, 『Montrez l’avenir pour le courage』
外はあいにくの雨。2日程降り続いているためかグラウンドはぬかるんでいる。音ノ木自慢の芝生グラウンドもこうなっては形無しだ。
「それにしても、樹さん先生やってたんだね~。言ってくれればよかったのに!」
特別棟2階の廊下を歩きながら雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんと文化祭を見回る。今はアルパカ研究部の展示教室の前を通り過ぎようとしている。すると、教室の中を見ながら、
「はらしょ~…雪穂!雪穂!アルパカだって!見に行こうよ!」
と雪穂ちゃんの袖を引っ張る亜里沙ちゃん。分かるよ、気持ちは分かる。アルパカ研究部って何やってんのか、私、気になります!
「え~、それより家庭科部の『炎のチャーハン対決』見に行こうよ~。面白そうだよ~!」
え、なに、その対決見に行きたい。ちなみに僕は周富徳ではなくクッキングファイター好を思い出した。超龍厨士とか出てくるの?
二人がイチャコラしていると、校内放送がかかった。
『神波先生、神波先生、至急文化祭実行委員本部までお越しください。』
「あれ?ごめん、二人とも僕呼ばれたみたいだからここでサヨナラだね。文化祭楽しんで。」
「はい、楽しみます!先生も楽しんでください!」
と亜里沙ちゃん。
「今度お店行くね、ばいば~い。」
と雪穂ちゃん。このコンビは非常に息が合っているようで何よりです。
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「どうしたの?」
と実行委員の本部に使われている教室に入る。すると総務の子が非常にあわただしくしていた。
「あ、先生!実はこの雨で出し物を出来なくなった陸上部とバレー部の子が諍いを起こしてまして…」
どうやら雨が降った時の予備の場所が体育館の横だったらしく、小競り合いを起こして喧嘩したようだ。吹っかけたのはバレー部の2年生らしい。
「深山先生は?」
と聞くと、
「深山先生は連行した生徒との話し合いで生徒指導室に行っておられます。」
「分かった。委員長、どうする?」
と文化祭実行委員長に尋ねる。どうやらこういうイレギュラーには慣れていないのか、
「…険悪なままで文化祭やってもらうのもどうかと思いますが、それでも3年生にとっては最後の文化祭になるし、邪魔したくないです…」
特にこの規模でやれるのも最後かもしれないし、と呟いた。確かにこのまま新入生受け入れをしなければ200人規模の祭りは最後になるだろう。しばらく考えた後で、
「分かった。それでいこう。各部の部長に通達。『今回は見逃すが、もう一度問題行動を起こした場合、両部活とも催事は撤退してもらう。』書面はこちらで作成するから、空いている人にお願いしたい。いいね?」
と委員長に確認を取る。どうやら委員長は納得したようで、至急書面を用意するように雑務に命令を飛ばしていた。そうこうしていると、教室のドアが開いた。
「お疲れ様、みんな、ごめんね、うちの子が迷惑かけて。」
と来たのは聡子だった。
「深山先生!こちらこそありがとうございます!」
と実行委員長が深々と頭をさげる。いいのよ、と答えていると、こちらに気付いたようだ。窓際で書面を待っている僕の方に来た。
「お疲れ、聡子。しんどかっただろ。」
と労いの言葉をかける。
「本当にね、報告してくれたのが志賀でよかったわ。その場で喧嘩してた2人の首根っこ押さえてきてくれたから。これが坂巻とか福原だったらと思うと…」
聡子が名前に出したのは全員風紀委員だ。坂巻は何でもかんでも愛のせいにしてしまうし、福原はすぐに笛を吹くからな…
「ごめんな、こっちこそ風紀委員とか言いながら問題児ばっかり抱えてて。」
と苦笑交じりに言うと、少し微笑みながらも、
「樹はその時いなかったんだから、任命責任は絢瀬さんでしょ?気にしなくていいわよ。」
と返して来た。任命責任はともかく監督責任はあるんだけどな、と言いたかったが、それ以上は突っ込むこともなく、先ほどの通達内容を伝える。
「あの子たちも悪気があってやったわけではないから。気持ちを汲んでくれてありがとう。」
とにこやかに返して来た。ふと気づくと、教室の時間が止まり、全ての視線がこちらに集中していることに気付いた。聡子もどうやら気付いたらしく、戸惑いながらも、
「あ、あれ、みんなどうしたの?」
と質問すると、一番近くにいた副委員長が、
「先生たちって…おつきあいしているんですか?」
と聞いて来た。それに僕は
「え?何で??」
と聞き返す、すると別の広報の子が
「だって…名前で呼び合ってましたよ…?」
とおそるおそる言う。あ、まずったな、コレ。女子高生は恋バナを好むのと同様に空腹のライオンの群れは肉を好む。鯨構文使いたいな。
しかも、なんと都合の悪いことに、聡子がさらに燃料を追加したようだ。
「いいいいいいいいやややや、別に、つつつきあってるとかでは…」
顔を真っ赤にしてうつむく。しかも次第に消え入るような声で。あちゃーと額に手を当てて天井を向く。その様子を見てテンションが上がったのか、
「「「「「「「きゃぁーーーー!!!!!!!」」」」」」」
と黄色い声が上がる。どうやって収集付けるんだよ、コレ。
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昼を過ぎても雨は上がらず。それにもまして強くなってきた。外で催事をするはずだった部活は軒並み屋内に撤退し、各自空いている場所で催事を行っている。そんな中、アイドル研究部は、というと…
「えっ、やるの?この雨で?」
研究部部室のすぐ横の空き教室、屋内練習場でもあり、控室でもある場所を訪れると、そこには衣装を着たµ’sのみんながいた。
「はい、どうしてもラブライブ前で順位を落としたくないですし…」
と答えるのは絢瀬。続けて矢澤が、
「はっ、この雨でも私たちの声でお客さんを呼べばいいのよ!」
と息を巻いている。すると星空が、
「にこちゃん、それ絵里ちゃんの言ってたことそのままにゃ~。」
と突っ込みを入れた。いつもならここで重なるように合いの手が来るはずなのだが…
「あれ?穂乃果ちゃんは?」
と聞くと、
「携帯に連絡しているのですが、まだ来てないんです…」
と園田が心配そうに携帯をかざす。
「どうしたのかな…大丈夫かな、穂乃果ちゃん…」
と同じく心配そうな小泉。
「大丈夫じゃない?心配しすぎよ、子供じゃあるまいし。」
とクールな西木野。すかさず東條が
「でも穂乃果ちゃんが子供じゃないっていえるん?」
と的確なコメント。教室を沈黙が支配する。誰かフォローしたげてよ!と、ここでいつも穂乃果ちゃんのフォローに回るはずの人間からの発言がない。ふとことりの方を見ると、
「…」
と下を向き、何やら深刻そうな表情。
「ことり?」
と目の前で手を振る。はっ、と気づいたことりは、
「あっ、そうだね、大丈夫だよ。もうすぐ来ると思うよ?」
と力なさげに答えた。僕は、ことりのその様子に嫌な予感がした。
「ことり、もしかして…」
と口に出したところで、またしてもチャイムが鳴る。
『神波先生、神波先生、至急職員室までお越しください。』
小さくため息をついて、
「呼ばれているみたいだから、行かなきゃ。それじゃあ、みんな、頑張って。ライブ始まるまでには屋上にいるから。ビデオはフミコさんたちに任せてるんだよね?」
とみんなに伝える。教室を去ろうとすると園田と目が合った。軽くウィンクをする。彼女ならことりから何か聞き出せるのではないのか、と期待しながら。
職員室に向かう最中にその原因に思い当たった。まさか、みんなに、留学の件を伝えていないんじゃ――――
その予想が外れていることを願いながら、職員室に早足で向かった。
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そしてライブがもうすぐ始まる。急いで屋上に向かって、ことりに確認をしなければ。あの手紙の内容からすると、留学を決めるデットラインは、今日のはずだ。
階段を二段飛ばしで走る。屋上のドアを開けると、今まさにライブが始まったようだ。穂乃果ちゃんは間にあったのか、センターで踊っている。雨をはじくその笑顔に一瞬痛みが走った、ような気がした。ほかのみんなと合わせているようだが、こうして見ていると分かる。穂乃果ちゃんとことりだけが異常に浮いている。マズイ、と思った瞬間に曲が終わった。最後のポーズを決めたところで中央の穂乃果ちゃんの体が大きく傾く。まるでスローモーションのように、雨粒と一緒に体が舞台へと落ちる。
「穂乃果!」
「穂乃果ちゃん!」
園田とことりが穂乃果ちゃんに駆け寄る。続いてほかのメンバーも駆け寄っていった。
「お姉ちゃん!」
雪穂ちゃんが傘を放り投げて舞台に駆け寄っていく。
僕も近くにいこう、と思ったが、足が動かない。穂乃果ちゃんが何事か呟いた。それが何だったのか、遠くにいる僕には分からなかった。
あの日、母が僕の目の前で死んでしまった時と同じように、雨は僕を冷たく打ち付けていた。
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