love live!! そして彼女達の青春が始まる   作:二階堂吉四六

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出来ました!投稿します!


#28 樹ディール

母が死んだ日も、雨の日だった。

 

その日、僕と母は買い物に出かけていた。家の近くの十字路を渡ろうとした時、いきなり飛び出して来た車に母だけが撥ねられた。近くの総合病院に運んだのだが、打ち所が悪かったのか、そこで息を引き取った。

 

何のことはない、これが母の死に際の顛末。

 

ただ、僕が母と過ごした時間は到底こんな字数で済ませられるはずはないし、父にとっては言わずもがなだろう。

 

葬式の時、棺の中にいるお母さんとあいさつしなさい、と祖母が僕に、母との対面を促した。

 

母の顔は、顔色が悪いだけで、生前と何も変わらないように見えた。

 

僕の頬に一筋、涙がこぼれた。

 

 

 

 

 

#28 樹ディール

 

 

 

 

 

「先生は、高坂さんが無理していることに気付かなかったの?」

 

外は雨が降り続いている。穂乃果ちゃんが倒れたあと、μ'sはライブを中止。アイドル研究部の催事は緊急的に中止された。その翌日、呼び出された学院長室にて、学院長から厳しいお言葉をいただいた。

 

「はい、申し訳ありません…」

 

と意気消沈する。色々なことがありすぎて周りが見えなくなっていた。

 

「まぁ、高坂さんは別状なし、とのことだったから、よかったんだけど、次はこういうことがないようにしてね。」

 

と悩み顔の学院長。

 

「はい、承知しました…」

 

と頭を下げる。それを見て、少し申し訳なくなったのか、優しい声色で学院長はこう続けた。

 

「では、話はここまで。あ、そうそう、ことりのことなんだけれども、アメリカに行くことを決めたわ。」

 

ぱっと顔を上げる。こんなことになるとは思ってもいなかった。ことりはしっかりみんなに相談できる子だとばかり思っていた。僕はどんな顔をしているのだろう。学院長はにこやかに、

 

「神波先生の後押しできちんと自分で決められたみたい。本当にありがとう。」

 

と言うのだった。空調が効いた学院長室の空気がどことなく冷え冷えとして、外から鳴り響く蝉の鳴き声が、まるで僕を苛んでいるようだった。

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

「穂乃果ちゃん大丈夫かな…」

 

と部室でつぶやくのは小泉。あのライブの後、みんなはしょんぼりしている。

 

「穂乃果、無理してましたから…」

 

と園田。今代表で絢瀬が学院長室に呼び出されているので、部員は穂乃果ちゃんを除いて集合している。

 

「あのバカ、本当に加減ってものを知らないんだから!」

 

と怒りながらも心配そうにしているのは矢澤。それに続いて西木野が

 

「でも、それを止められなかった私たちも悪いわよ。」

 

と言った。その言葉に誰しもがうつむく。

 

「穂乃果ちゃん、ラブライブ出られるようにって一生懸命頑張ってたのに…」

 

涙ぐむ星空。

 

「まぁ。でも真姫ちゃんの言う通りやね。皆が皆、『穂乃果ちゃんなら大丈夫』って心のどこかで思ってたのが原因なんやし。」

 

東條のその言葉が大きく胸に刺さった。そんな中、一際暗い表情をしているのがことりだ。

 

「なぁ、ことり。」

 

僕は問いかける。

 

「皆には、穂乃果ちゃんには、言ったのか?」

 

何を、という言葉は言わなかった。それだけでことりは分かったのだろう。スカートの裾をぎゅっ、とつかんだ。

 

「何よ、なんかあんの?」

 

と矢澤が突っ込む。

 

「先生、その話は…」

 

園田が止めようとするも、

 

「海未ちゃん!…いいの、いつかは言わないといけないし。皆、隠し事しててごめん。穂乃果ちゃんが学校に来れるようになったら、言うね…」

 

と答えた。

 

これは完全に僕のミスだ。ことりなら自分でちゃんと言える、と思っていた僕の。自分の将来の夢をはっきり語れる彼女でも、本質はたった16歳の少女なのだ。取り巻く環境を大きく変える選択の相談を軽くできるわけはないのに。特に彼女は自分に対して過小評価気味なところがある。他の人から否定されるのを怖がる傾向にある。なんでこんな簡単なことに気付けなかったのか、自分が嫌になる。

 

ドアが開いて、絢瀬が入ってきた。

 

「どうだった?」

 

と星空が聞く。すると、

 

「結構きついこと言われたわ。『こんなことになるためにアイドル活動してたのか』って…」

 

「…」

 

沈黙。さらに絢瀬は続けて、

 

「学院長からは、『この調子だとラブライブ出場は見送った方がいいかもしれない。』とも言われたわ。どうしましょう?」

 

と言った。そこは僕が引き継ぐ。

 

「僕も今朝学院長室に行ったときに言われたよ。本来なら部員が一人倒れたくらいで出場停止にはならないが、それでも君たちは曲がりなりにもメディアに露出がある。それに加えてセンターポジションである高坂にこれ以上の負担をかけるわけにはいかない。僕は出場を見送った方がいいと思う。」

 

内心はこんなことになって欲しくなかった。しかし、こういう処置を取らねばならない自分の物わかりの良さが嫌いだ。苦虫を噛み潰したように言い放つと、ガタン、と大きく立ち上がり、

 

「はぁ!意味が分からないわ!折角ここまで来たのに、出場やめるですって!?アンタ、いい加減に…」

 

と矢澤が言う。その言葉を遮るように、東條が声をはさむ。

 

「にこっち!!」

 

めったに声を荒げない東條の大きい声が響いた。皆が何事か、と東條を見る。その視線に答えるように、東條はこう切り出したのだった。

 

「私は賛成や。」

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

東條の意見の後、皆、その意見に賛成をした。やはり穂乃果ちゃんへの配慮、学院の都合を考えての結果だろう。矢澤はしぶしぶながらに賛成した。この場で一番悔しいのは彼女だったはずだ。部室を出るとき、矢澤の頭を無言でポンポンしてあげた。彼女は悔し涙をこらえながらも、何よ、気安く頭触るんじゃないわよ、とされるがままであった。

 

皆はこの後穂乃果ちゃんの家に行ってお見舞いをするらしい。僕は学院長にラブライブ出場を見送る旨の報告をした後、仕事を片付けるために職員室へ戻った。今日は久しぶりに残業をしなければならないようだ。

 

職員室に戻ると他の先生は帰宅、あるいは部活に出ているらしく、珍しく教頭先生だけが残っていた。それでも、もう仕事が終わりかけだったらしく、2,3言葉を交わすと帰ってしまった。僕の机の上には文化祭実行委員が書いた報告書があった。それに目を通す。

 

『なくなるかもしれない私たちの学校。私たち3年生にとっての最後の文化祭は雨だったけど、それでもお客さんも、私たちも楽しめてよかったです。できれば来年も、再来年も、その次の年も、こんな文化祭をしてほしいと、切に願います。みんな、ありがとう!』

 

と編集後記に書かれてあった。思わず歯をかみしめる。どんなに言葉を弄しても、よい文化祭だった、なんて言えない。彼女たちの、絢瀬と、東條と、矢澤の最後の夏がこんな形で終わってしまった。その事実に申し訳なさと、自分の至らなさに苛立ちが募った。思わず報告書を机の上にたたきつける。すると背後から、

 

「樹さん…?どうしたんですか?」

 

と京子さんが声をかけてきた。教頭先生がドアを閉めていなかったのか、そのまま帰ってきたようだ。

 

「いえ、なんでもないです。」

 

と答える。すると、強い瞳でこちらを見つめながら、

 

「嘘。」

 

と短く言い放った。続けて、

 

「どうして怒っているんですか?もしかして、アイドル研究部のことで何かあったんですか?高坂さん、倒れたって聞きました。」

 

と言葉をかけてくる。その言い方が僕を聞こえた。聞こえてしまった。唇をかみしめる。

 

「そんなに思いつめること、無いですよ。部活中に生徒が倒れてしまう、なんてことはよくありますから。」

 

仕方ないです、と宥めるように言う京子さん。その一言にカチン、と来てしまった。なら、あなたは、もうすぐ全国大会に出れたかもしれない生徒がいたとして、自分と関わりないところでそのチャンスがついえたとしても、その子に同じような言葉をかけるのか、と。自分に譲れないものがあったとき、それが自分の意思とは無関係に、まるでなんでもないことかのように路傍に捨てられたとき、仕方ない、の一言で済ませることができるのか、と。喉元まで出かかった。

 

彼女たちの願いは強かったはずだ。アイドル活動を通して、学校を守りたい。友達を応援したい。友達と居たい。楽しい音楽を作りたい。憧れていた自分になりたい。友達の夢をそばで支えたい。無くしたものを取り戻したい。ありのままの自分でいたい。自分の居場所を作りたい。

 

そのほとんどの願いが潰えようとしている。それが何でもないことのように言われたことに、言い様もない感情を抱いてしまった。

 

これ以上彼女の顔を見ていられなくて、一言、あなたには関係ないですよ、と吐き捨てて、カバンを掴み、職員室を出ていった。扉を閉める前、京子さんを見ると、まるで時間が止まったかのように、その場に立ち尽くしていた。

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

自転車を走らせて、家の近くのバーで飲んだくれた後、意識が混濁しながらも家に帰ってきた。携帯を確認すると、聡子から鬼のようにlineと、着信履歴が残っていた。この状態のまま電話に出たらひどいことを言ってしまいそうだ、という確信があったので、これを無視する。幸いにも、明日は文化祭の代休で休みだ。明日、彼女に会うことはない。

 

そのままベッドに倒れこむ。すると、聡子から以外のメールが来ていることに気が付いた。絢瀬からだった。

 

 

『件名:ラブライブ!サイトについて

 本文:今日、穂乃果の家に行って、ラブライブへの出場をしないことを話しました。少しショックがっていましたが、本人も無理をしてしまってごめんなさい、と言っていました。

それで、実はサイトへのエントリーの消去をお願いします。自分でやろうにもなかなか踏ん切りがつかなくて…

先生ならパスワードもご存知と思いますので、よろしくお願いします。』

 

絢瀬もなかなか酷なことをする。了解、と一言短く返信をする。酒に酔っている今なら高々サイトを

消すくらいなんでもない、と思い、パソコンを立ち上げて、ラブライブのμ’sのページに飛ぶ。画面右

上の設定ボタンをクリックし、エントリーの取り消しボタンを押す。規約がいくつかあり、それに同

意する、にチェックを入れ、ボタンを押した。

 

『本当に取り消しますか?』

 

というメッセージが表示され、はい、の所をクリックした。

 

『エントリーを取り消しました』

 

という一言を見た瞬間。僕は歯を食いしばり、握り拳を作り、思いっきり壁を殴った。その手の痛さで心が軽くなるわけでもないのに。

 

それでも、僕の頬に一筋、涙がこぼれた。

 




何か最近μ'sって打ったらµ’sになるんですよね。何でだろ?
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