love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
「おっはよ~!神波先生!!」
「はい、おはよう。」
高坂が後ろから走りざまに声を掛ける。どうやらこの間の誤解は無事解けたようだ。それは「彼女は編入試験を受け、他の学校に行かなければならない。」というものに対してであって、「いたいけな女生徒を心無い言葉で泣かせてしまった」という僕に対するそれではない。未だに後ろでヒソヒソされるし。ふぇぇぇぇ、やっぱりJK怖いよぉぉぉぉ。
タタッ、と軽快なステップで僕を追い越し、クルッとその場でターンをする高坂。ヒラッとスカートが翻り、サラッと髪が風に流れる。ふぇぇぇぇ、やっぱりJK可愛いよぉぉぉぉ。
「先生、スクールアイドルって知ってる??」
「スクールアイドル??ごめん、分かんないや。」
名前からするとアイドルだけど学生って感じ?セーラー服を着て機関銃でもぶっぱなしてるのかな??
「あのね、同じ高校の生徒でアイドルグループを作って皆で歌って踊るの!UTX学院のA-RISEみたいな!それで人気が出たら入学者も増えて、学校が無くならなくて済むかもしれないの!それで、穂乃果はスクールアイドルやってみよう、と思ったの!先生も応援してよ!」
「へぇー、そんな文化もあるんだなぁー。知らなかった。」
言うなれば部活でアイドルやるみたいなもんか。日本はアイドル文化栄えてるからなー。765プロの竜宮小町とか有名だもんなぁ。
「ねぇねぇ、先生、穂乃果のこと、応援してくれるよね??」
「おう、もちろん応援するよ。何か手伝える事があったら言ってね。」
「本当に!!ありがとう!!」
ニコニコお願いされたら断れないっしょ!いや、ほんとに可愛いなぁ」
高坂は指を絡ませて恥ずかしそうに下を向くと
「樹お兄ちゃん、声に出てるよ………」
とか細い声を出した。
「え゛っ?!出てた!?ごめん、嫌だったか??土下座したらいいか??」
思わずジャケットを脱ぎ答える。
「いや、いいよ!いいよ!脱がなくて!気にしてないから……」
ってめっちゃ気にしてはるやないですか、おねぇさん。
思わずエセ関西弁が出る。スピリチュアルやね?
「神波先生?また穂乃果を泣かせているんですか?」
背後から極寒の如きオーラ。この気配は、園田か!?くっ、やられるわけには……
「誤解だ……ぶっ!!」
後ろを振り向くと同時にカバンの裏が視界いっぱいに広がり衝撃。KO。だから誤解だって言ってんだろうが……捨てゼリフを吐きながら、僕は後ろに倒れた。
#4 真姫コンサントレ
今日も今日とてパンが上手い!音ノ木の購買のパンは美味いなぁ……
イチオシは焼きそばパンだ。炭水化物オン炭水化物!手軽にエネルギーを摂取出来る方法としては最適だな。確かに他の惣菜パンにも、見るべきところはたくさんある。しかし、この焼きそばパンは完全食と言っても良い。タンパク質(薄い豚肉)!ビタミン(シナシナのキャベツ、ベタベタの紅しょうが)!そして、炭水化物(90%)!
どうだ!
はぁ、悲しい……給料日まで後2週間……待ち遠しいぜ……
それもこれもアイツのせいだ!あいつがあそこで「倍プッシュだ……」とか言い出さなかったら……
「いやー、神波先生、随分豪華なお昼ご飯ですわねー♪」
音符飛ばしてんじゃねーよ。このアカギが……いや、深山か……。
「ええ、何処かの誰かさんのお陰で随分豪勢な食生活を送らなきゃ行けくなったんで……」
一応公務員のクセに麻雀で金を巻き上げるとかこいつはとんだ売女だぜ……
昼休み。職員室は閑散としている。元から教員の数が少ないのもあるが、学院は人口密度は低い。教職員は自然と外で弁当を食べたり学食でご飯を食べたりすることが多いようだ。僕は清貧に甘んじているので、わざわざ外でご飯を食べよう、という気になれない。
「いやー、昨日はだいぶ勝っちゃったからねー。有難う。」
「うるせーよ……」
そう、御察しの通り昨日軽くフリー雀荘で遊んで行こう、という流れになってこいつとサシウマをしたのである。緑一色とか久々見たわ……絶対こいつ音ノ木より清澄に行った方が良かったんじゃないか?
「ふふーん、そんな態度でいいんだー。せーっかく恵まれない神波に恵みをあげようと思ったのに。」
可愛い手提げ袋を振りながら深山はニヤリ、と笑った。
「すいませんでした、深山先生。ぜひお恵み下さい。」
プライドなんか腹の足しにならねーよ!勢いよく頭を下げる。
「ふふーん、仕方ないなぁ、じゃあ優しい優しい聡子さんが恵んであげよう。きちんと『綺麗で可愛い聡子さん、有り難くいただきます、って言うのよ?」
「綺麗で可愛い聡子さん、有り難く頂きます。愛してるよ。」
顔を赤くしてハイ、と袋を差し出す。
「そういうのは良いから……」
意外とウブなんだよな。普段はイケイケの癖に。男慣れしてない所とか大丈夫か、と思わせるよね。そいうところが男ウケするのだろうが。
受け取って中身をみると照り焼きチキンが挟んであるサンドウィッチであった。
頂きます、とラップを取り、一口食べる。照り焼きのタレが程よくパンに染み込み、絶妙な味を醸し出していた。
「ほんとうにうまいな、これ。何時でも嫁に来ていいぞ。」
「うっさいわね!!早く食べなさいよ!!」
さらに顔を赤くする。これ以上突っつくと蛇が出てきそう。
二つあったサンドウィッチを食べ終わると、手提げ袋を返す。
「本当にうまかった。ありがとう!!」
「また明日も……作ってきてあげようか?」
「明日はおにぎりで頼む」
キョトン、とした顔をすると彼女はいつも通りの人の悪い笑顔を見せ、
「給料日来たらなんかおごんなさいよ!」
と意地悪く言った。
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特別教室棟の二階、生徒会との新入生歓迎式典の打合せで生徒会室に向かう途中、高坂が音楽室の前で食い入るように中を見ている。
どうしたのだろう、と近づくと綺麗なピアノの音が聞こえてきた。
「どうした、高坂。中で誰かピアノを弾いているのか?」
と声をかけると、シィーとジェスチャーをする高坂。つられて中を見ていると一年生の西木野真姫がピアノを弾いていた。
ピアノを弾き終わると高坂がパチパチパチパチと手を叩いた。
ガラッと戸を開け中に入ると、
「凄い凄い!歌上手だね〜!ピアノも上手だね〜!それにアイドルみたいに可愛い!」
はぁ?
「はぁ?」
思わず西木野とハモってしまった。俺は心の中だけどね!強引すぎるぞ!穂乃果ちゃん!思わず地で呼びかけちゃったよ!心の中だけど!
「いきなりなんだけど……あなた、アイドルやってみない?」
これまたいきなりだな!
「何それ、意味わかんない!」
だよね…と落ち込んだ声で高坂の横を通り過ぎる西木野。
僕の横を通り過ぎる時に意思の強い瞳で見つめてくる。
「それに、先生も盗み聞きですか?イヤらしいんですね。」
とチクリと刺してくる。少し気に食わなかった僕は言い返すことにした。
「音楽なんか人に聞かせてなんぼだよ、西木野。それにオリジナル曲かい?さっきのは。綺麗なコード進行だったじゃないか。でも演奏には迷いがあったね。迷いがあるうちはピアノを弾いても楽しくないだろう?」
僕は演奏が終わった後の憂いを秘めた顔、そして溜息を見逃さなかった。
少し怒ったようにキッとこちらをにらみ、西木野は退出する。その背中に追い打ちをかけるように、
「でも、アイドルみたいに可愛い、というのは当てはまってたよ、西木野。頑張れよ。」
と伝える。クルリと振り向くと真っ赤な顔をして。
「意味わかんない!!!!」
と大声を出して彼女は去っていった。
迷いがあるうちには楽しくない、か。一時期自分の音を見失ってた、いや、正確に言うと今も自分の音を見つけられていない僕が言うのもお門違いというものかも知れないな。少し自嘲してしまう。ただ、棚に上げる、という行為を僕は否定しない。何故なら相手を通して自分の欠点に気付く、という事もまた、人生の中には往々としてあるからだ。ピアノを弾こう、と志したあの日から僕は彼女の幻影を追っていた。それが間違いだと気付いた時にはピアノが弾けなくなった。その時期に音楽で生きていくことも諦めてしまったが、今ではまた弾けるようになった。トライアンドエラーの繰り返し、それが生きていくことなのだ、と僕はこの25年で気付いた。幼い頃、友達と砂場で山を作り、トンネルを掘って、手を繋げて喜んで、その山を潰し、もう一度作り直していたあの頃の僕と、今の僕は何ら変わりないのだ。人が大人になる瞬間は何時なのか、未だそれは見えていない。その点では、西木野真姫、彼女もまた、鍵盤の蓋を降ろした時の僕だ。と思った。
「樹お兄ちゃん、あの子、名前なんて言うの?」
彼女の去っていった方を、名残惜しそうに、眩しいものがあるように、見つめる高坂。その横顔が意外と大人じみていたので、こういう顔が出来るようになる事が大人の条件なのかも、とどうしようもない考えを廻らせつつーーー
「西木野真姫さん。一年生で今年の首席だよ。新入生代表の挨拶も彼女だった筈だね。所で高坂ーーー」
ふみゅ?と首をかしげる彼女に通告する。
「単語テスト二倍ね」
えぇぇぇぇぇぇ!!!とこの世の終わりかのような顔をする彼女はやはり、まだ子どもなのだな、という当たり前の感想を持って、少し微笑んだ。
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