love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
すいません!先生の名前を笠原だと思ってました。笹原、ですね。訂正します!
そうして、やってきました!土曜日!いやー、連休って素晴らしい!!しっかり1週間働いた後の休みは格別だねぇ……
基本的に社畜適性が高い方だと思うが、それでも休みは心が躍る。特にアメリカにいるときは食うにも困ってた時期があったから暇な時間を楽しめなかったが、今は違う。どれだけ麻雀で負けようが何とかなる!実家近いし!
浮ついた気分で昼過ぎに起床、服を着替え、簡単に髪をセットすると外に出る。一人暮らしのアパートは築40年4.5畳ロフト付き、6万円/月と狭いがお手頃感満載。住めば都というが、この1ヶ月のうちに快適な住環境を整えることが出来た。金属製の少し重たい扉を閉め、ガチャン、と鍵をかけ、4階建てのアパートの階段を降りる。そうすれば外は見知った町の雰囲気。懐かしさとともに道行く人達の喧噪。この雑多な雰囲気のするこの町が好きだ、と改めて思う。
こころなしか軽い足取りで僕は真っ直ぐ北上。今日は秋葉原の家電量販店で人と待ち合わせをしている。その後は実家を手伝いに行き、同僚の3人と待ち合わせ、休みの一日目を満喫する事になっている。
皇居の外堀にかかる橋を越えれば、そこは日本で一番活気のある電気街。サブカルチャーの町でもある秋葉原だ。ふと時計を見ると12:30、待ち合わせが15:00であることを考えると少し浮き足立っていたようだ。そのまま大手家電量販店を過ぎ、外神田----神田明神まで向かう。なんだかんだで帰ってきてからお参りをしていない事に気付いたのだ。後に、普段信心深くない僕がなぜ、そういう風に感じたのか、それを不思議に思ったことをふと漏らした時に彼女はニッコリ笑いながら、
「やっぱりうちら9人といっ君は運命的な何かで繋がってるんやって。あの時はカードもそういう風に告げとったしなぁ。」
と、その運命に感謝するように、穏やかに微笑んだ。
この時は、運命の欠片、その予兆でさえも、姿を現していなかったのだが。
#6 希ミステリュー
段数の多い階段をゆっくりと登る。男坂を登り、神社を右手に見ながら境内に入る。神田明神ーーーー東京を代表する神社の一つである。大黒様、恵比寿様、そして平将門公を祀り、日本三大祭の一つ、神田祭を行う神社でもある。手水舎で手を清め、拝殿へ。二礼二拍一礼。特に願い事は無いが、作法は守る。なぜかこういう作法は守らないと落ち着かない性質なのだ。拝礼を済ませると真っ直ぐに屋上庭園へ向かう。神田神社の中でこの屋上庭園は見事、と言わざるを得ない。音ノ木の校庭の桜も見事だが、コンクリートの建物がひしめく中に、ぽつんとある自然。一見すると不調和なのに、実際入園してみると不自然に自然がある、そのことに感動する。ほら、冬に半裸でコタツに入るのって気持ちいじゃん。あの感覚ね。
しばらく桜を楽しんで境内に向かうと途中で怪しからんおっぱいの巫女さんがいた。
じっと見つめていると心が和む。これが1/fの揺らぎか……雑念に捉われているとその巫女さんがグルっとコッチを向いた。
「こんにちは、先生。あんましいやらしい目で見んといて欲しいんやけど。」
果たしてそのFシリーズは東條希であった。やべぇ、いやらしい目で見てたら生徒とかシャレになんねぇ。mk5(マジでクビになる5日前)。
出るとこ出たら負けるな、こりゃ。知り合いの弁護士に言わせたら、「負け筋だな、これは。」何て言われるに違いない。こうなったら……
「まじスンマセンしたぁぁぁ!!」
勢いよく頭を下げる。90度。人生勢いが大事ってばっちゃが言ってた。
東條はクスクス笑いながら、
「ええよ、ええよ。人にジロジロ見られるのは慣れてるし、そんなに嫌な気分でも無いしなぁ。よー知らんおじさんじゃないし、減るもんでも無いから構わんよ?」
これが持てる者の余裕、というやつなのか。72があっても動じないその胆力、羨ましい。クッ……とたわいもない事を考えていると、東條が笑顔で言う。
「そういえば、先生。この間はエリチの面倒ありがとうね。助かったわー。あの後エリチも落ち着いて話が出来たわ。でも逆に考え込むことが多なってしもうてるみたいやけど。なんか先生いうたん?」
「なに、簡単な質問さ。悩める子どもを導くのは大人の役目。疑問を投げかけるのは教師の責務。人生は答えのはっきりした問題の方が少ないだろう?特に綾瀬みたいな優等生は正解のない問題を解く経験は少ないだろうから、いい機会だよ。」
実際世の中に割り切れる問題は少ない。僕らは幾つもの問題を、互除法を繰り返して最大公約数的な解を導き出すのが精一杯なのだ。それが果たして正解なのかもわからぬままに、また、次の問題に取り掛かる。割り切れない気持ちは余りと共に横に置いておく方がいいのだ。割る数を変えたら綺麗に割り切れるかも知れないが。
「ちなみに何て言うたん?」
「廃校を阻止するにはどうしたらいい?って遠回しに言われたから、やりたいようにやれと言ったよ。その上で『どんなリーダーの下で働きたいか、そこを考えれば自分が何をしたら良いかが分かる。』と伝えたよ。」
「難しい問題やないの?それ。」
東條は首を傾げる。こんな何気ない動作でも優美に見えてしまうあたりが彼女のなせる業だろう。一つ一つの動作がゆったり、はっきりしているせいだな。所作が美しい。
「そうか?そんなに難しい問題じゃないさ。東條は綾瀬に、もちろん会長として、友達として、どうあってほしい?それが答えだよ。」
どうあってもこの子は綾瀬の味方のような気もするが。
「私はエリチに……」
「それを彼女自身が気付いたら、その時が一歩進める時なんだろう。こればかりは自分で気付くしか無いのかもしれないけど。」
「……」
彼女は自分の中で納得のいく言葉を探しているようだ。
「綾瀬にも言ったが、『ゆっくりと』考えるといいさ。まだ時間はあるのだし。それにしても巫女衣装似合っているな。バイトか?」
「そうやねん。これでも苦学生なんよ?一人暮らしやしね。特に此処はいいパワーが満ちとるし。」
流石東京随一のパワースポット。スピリチュアルやね!
「それにしても、先生がほんまに来るとはねぇ。」
「ん?どう言う意味だ?」
どう言う意味?とDo you mean?って似ているよね。似てないか。いや、似てるよね!?
「朝カードで占ったら、期待している出会い、ってでたんよ。私が今何かをお願い出来るのは神波先生しかおらへんし、会えるかなぁって思ってたんや。」
「信頼していただいて非常に光栄だけど、お願いってなんだ?深山先生に麻雀で負けたから今はお金あんまり無いよ?」
「お金ちゃうよ。失礼な。実は高坂さん達のことでの事で少し相談があって。」
「高坂達?何か問題でも。」
数日前に高坂がスクールアイドル始めました、と宣言したのは記憶に新しい。その時は応援してね、と言われて快く了承したのだ。頑張っている女の子はかわいいね。応援したくなっちゃう!!
「ちゃうよ。あの子達はいい子やよ?実はこれまた占いで来週あたり、先生が彼女らからお願い事をされると思うんやけど、出来るだけそのお願い事を叶えて欲しいんよ。」
少し懇願する様な東條。それでなくても応援する、と言った手前やらざるを得ない。
「どんな内容かにもよるよ。出来る限り希望に添えたい、とは思うけど。」
彼女はふふ、とミステリアスに笑い、
「ありがとう、お願いします。」
とゆっくり頭を下げる。落ち着いた礼だった。
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そうして待ち合わせ。秋葉原駅の大型家電量販店の前にきた。ふと時計を見ると14:50。もうすぐ待ち人が来るはずだ。街ゆく人達を見ると、その足並みは軽い。アメリカの人たちに比べ、この足取りの軽さが日本人の特徴だと思う。どんなに心にモヤモヤを抱えていても外を歩く時は早足になる。そうしないと世間に置いていかれるから、そう思っているかの様に。実際、社会はものすごい速さで僕らを置いていってしまう。十年一昔、とは言うものの、実情はもっと周期は狭いはずだ。一年経つと新しい店が。二年経つと新しい建物が。この街を離れていた間に自分の知らない人達が増え、知らない人達が去っていく。この流動性も僕にとっては愛おしいものだった。ーーーーそれだけ今の環境がかけがえのないものに思えるから。
「樹くん。」
「おにーちゃーんー!!」
声をかけられる。セミロングの髪で春らしいピンクのセーターと、黒色のロングスカート、非常に可愛らしい出で立ちの女性と、彼女にそっくりな女の子に声をかけられる。
「梓さん、久しぶり!奏!大きくなったな!」
その人物は
「今日はありがとう。買い物に付き合ってくれて。まさかオーブンが壊れちゃうなんて思ってなかったわ。」
そう朗らかに笑う梓さん。今年で確か35歳だったはず。いつまでも少女みたいな人だなぁ……。彼女はもともと、この街で就職してからグランツリーの常連だった。僕が小学生の時だったかな。店の隅っこで宿題をしていたらすごく可愛い人が声をかけてきて、「そこの計算間違ってるよ?」なんて声をかけてきたのが始まりだ。僕が12歳、梓さんが22歳、父が32歳の時だった。その後は父と恋に落ちて梓さんが口説き落としたらしい。僕が18歳の時に父と結婚。今では親子三人で暮らしている。今回は僕の実家が経営している店、昼は喫茶店、夜はバーのグランツリーのオーブンが壊れた、ということで僕が荷物持ちをする事になったのだ。歩いて15分くらいの距離だ。多少の重い荷物位なら持っていけるしな。
「この後どうせ店を手伝いに行くつもりだったし、いいよ。それにしても店は良かったの?」
「今はどうせお客さんも多くないし大丈夫よ。それに奏もお兄ちゃんに会いたかったみたいだし。」
僕の脚にぎゅーっと抱きついている奏をヒョイと持ち上げる。本当に大きくなったなぁ。先月2年ぶりにあったときは人見知りを炸裂させていたのだが、いつの間にか僕に慣れたのか、ピアノを弾いてーとおねだりしてくるようになった。そこからは一気に仲良くなりましたよ、ハイ。
「おおー重たくなったなーー、ちゃんと食ってるな、奏。」
クシャッと笑って奏が答える。
「ふふーん。カナはもう年長さんのおねぇさんだから好き嫌いしないんだよ!えらいでしょー。」
と高い高いをすると喜ぶ。この時期の子どもは可愛いな。母親である梓さんには苦労がありそうだけど。
それでも微笑ましくこちらを見ている梓さんは、本当に楽しそうに
「本当に奏ちゃんはお兄ちゃんが好きねー。パパが妬いちゃうよ?それじゃあ、行きましょうか。お願いね、お兄ちゃん。」
と言うのだった。僕らも彼女にとってかけがえのないものであるに違いない。そう思った。
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荷台を借りてオーブンを運ぶ。途中奏が荷台に乗りたがり、実際に乗せてやるときゃっきゃと喜んだ。こういう猿っぽい所も可愛い。
暫く歩くと神田の駅が見えてくる。学生とサラリーマンが行き交う。各々が食事を済ませ、家に帰る、あるいは晩餐を何処で取ろうか考えている途中なのか。時間は丁度夕餉時。我らがグランツリーももうそろそろ晩の営業を開始する時間か。西口商店街の一画にあるビル、その地下一階にある隠れ家的な雰囲気を出しているのがそのグランツリーである。
奏が荷台からひょい、と降りてその階段をダダッと降りた。重たそうなドアをよいしょ、と開けると大きな声で
「パパ!おにいちゃん来たよ!」
と声を出す。中にいるお客さんから笑い声が上がり、外に出てきたのは僕の父親、ダンディズムを感じさせるヒゲがトレードマークの
「おお、樹、ご苦労様。ありがとうな。オーブンがないとローストビーフ作れないんだよ。」
と低めの声で言う。今年で45歳。この人が作るローストビーフは絶品でリピーターも多い。僕もファンのうちの一人だ。
「いいよ、気にすんなって。それよりこれ重たいから二人で運ぼうぜ。」
二人がかりでオーブンを運び込む。ドアをくぐると意外に広い店内。右手にカウンター。左手には四人掛けのテーブルが並ぶ。暗い色の木目で統一されており、店の明るい照明とのコントラストがいかにもな雰囲気を出している。カウンターとテーブル席の間を縫うように進むと正面にはステージ。舞台の左手には見慣れたグランドピアノが置いてある。昼間は絶品のローストビーフと丁寧に入れたコーヒーを出す軽食喫茶。平日の夜は音楽で身を立ててやろう、という若手が中心に、土日の晩はその中でも実力のある者が音を奏でる大人な雰囲気の漂うバー。それがこの店だった。
二人でえっちらおっちらオーブンを運び、所定の位置に置く。カウンター正面に座ったおじさんが声をかけてきた。
「久しぶりだなー樹くん。また、男前になって。今日は弾くのかい?」
「はい、少しだけ、多分22:00くらいにお邪魔します。良かったら晩もどうですか?」
とショットグラスをあおる仕草で笑いかける。おじさんは、かかぁに怒られるけど、かかぁは樹くんのファンだからな、声をかけてみるよ。と言ってくれた。よろしくお願いしますね、と返す。
「助かった、樹。荷台は梓に返しに行ってもらうからバイトが来るまでホール頼む。」
「了解。」
梓さんと奏は荷台を返しに行った。奏が、また後でねぇ〜と手を振った。えっ?夜営業来るの?どうやら僕の演奏を聞きたいがために父親と母親を説得したようだ。
勝手知ったる自分の店。従業員スペースに向かうと手早くギャルソン服に着替え、ホールに出る。机拭き、テーブルの上の諸々を補充。お客さんの注文を聞き、暫く忙しなく働いているとバイトの子が来たようだ。初めて見る僕に少し驚いたようだが、父の、息子だよ。の一言に納得したのか僕と業務をチェンジ。一息ついた僕は服を着替え一人の客としてテーブルに座る。コーヒーを注文したその頃には店は夜の営業を開始した。舞台にはベース、ドラム、トランペットのトリオ。何れも見知った顔だ。今日は途中で僕も入りカルテットでやる事になる。周りにはデートでご利用いただいているカップルや、音楽を聴くのを楽しみにしている常連さんが集まってくる。そんな中、一際目を引く美人3人ーーーー僕の同僚の深山聡子、笹原京子、山田博子の3人が店に入ってきた。手を上げてこちらの存在をアピールする。
「落ち着いた雰囲気の店ですね。こんな所があるなんて知らなかったわ。」
と笹原先生。今日も美しいです。
「そうだねぇ、ちょっとオシャレで緊張するかな。」
と山田先生。いや、あんまりそんな事気にする必要無いですよ。
「博子、そんなに緊張しなくていいわよ。ここのローストビーフ絶品だから食べてみなさい。虜になるわよー。」
と深山。ご紹介ありがとうございまーす。
「いらっしゃい、お三方。ようこそグランツリーへ。ここ実は僕の父がやってる店なんです。深山のいうようにローストビーフはうまいんで、是非食べていって下さい。」
びっくりしたようにこちらを見る笹原先生と山田先生。びっくりするのはこれからよ、という顔をする深山。楽しいお酒になる予感を感じながら、注文をするために手を上げた。
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「それにしてもピアノ、良かったですね。私こういうの初めてです。」
笹原先生がポツリともらす。他の2人は環状線で自分の家に帰り、メトロを使う彼女を送る役目を仰せつかった。久々にあのピアノを弾いたが、やはり込み上げてくるものがあった。Someday my prince will come.を弾いて、気持ちよくセッションスタート。途中でリクエストも聞き、ラストオーダーになるまでの4時間があっという間だった。途中で眠たくなった奏が帰るというハプニングも起こったが、楽しく演奏が終了。皆で音楽を聴きながら、楽しく飲む。日本でもアメリカでもそれは変わらない。
「楽しんで頂いて良かったです。父にも言っておきますね。」
「それに、タバコ吸われるんですね。意外でした。」
「こういう時だけですね。普段は服に臭いがつくから吸いませんが。」
彼女の痛みの少ないストレートヘアに僕のタバコの臭いがついたら、と考えたら申し訳なく思う。そういえば深山にも以前言われた。それ以来タバコを彼女の前で控えていたら、
『吸ってる姿、似合ってるから、吸ってよ。』
と言われたことを思い出した。丁度、僕が彼女を意識し出した時分の事だった。この発言の真意は聞けずじまいだったけど。
「……誰のこと考えてるんですか?」
とイタズラっぽい言い方でこちらを向く笹原先生。こういう時の女の勘は鋭い、と思いながら、
「貴女の事ですよ。半分は。」
そのセリフを聞いてコロコロ、と笑う笹原先生。
「正直なんですね。でも、半分でも悪い気はしませんね。」
こちらを伺うような視線。こういうところは少女っぽいのだな、と思う。音楽室で見た穂乃果ちゃんの大人びた横顔。今の笹原先生の幼い表情。どちらも魅力的に思える。
そして、意を決したように、言う。
「神波先生、私の事は京子、で良いですよ。神波先生の事も樹さん、と呼んでも良いですか?」
視線が交差する。糸を張った様な空気。この一瞬で互いの関係性が決まる。逡巡の後、
「良いですよ。京子さん。」
と伝える。ほっと安心したように微笑み、
「良かったです、樹さん。もう駅なんで、ここまでで良いですよ。お休みなさい。映画のような夢を。」
手を振り、彼女は地下の階段を降りていった。僕はその背中に手を振りながら思う。彼女が主演の映画は、果たしてハッピーエンドになるのか。僕には銀幕の向こうに行く資格があるのか。
その問いは、少しだけ肌寒い春の風に流された。
感想お待ちしています!