love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
そして月曜日。1週間の始まりは先週のような穏やかなものでなく、季節違いの強風に見舞われたような騒がしさからスタートした。放課後、ホームルームが終わり、誰もが足早に部活や遊びに出掛けるために教室を後にする時間――――高坂穂乃果から声をかけられた。
「先生、お願いがあります!」
「どうしたの??」
出席簿をトントンと揃え、声が飛んできた方に目を遣るとそこには園田と南もいた。皆が横を通り過ぎて教室を後にする。飛び交うまたね、とバイバイの中で、はっきりとした高坂の大きな声が響いた。
「実は編曲をお願いしたいんです!」
と目を輝かせながら言う。他の生徒は一瞬びっくりしながらも、また穂乃果か、と物知り顔で素通りしていく。成程、先週の東條の予言はこれだったのか、と思いながら、まぁ編曲位なら大丈夫だろう、と高を括った。
「いいよ、誰の何て曲を編曲したらいいんだ?」
彼女らはスクールアイドルを始めた、と先週言っていた。なら既存の曲に手を加えてアレンジすればいいのだろう。そういうのはジャズをやっている立場からすればまぁ、難しいことではない。多分、人気絶頂の765プロか、新進気鋭のデレプロの楽曲かな、と思う。ところが、彼女の口から飛び出たのはこちらの予想をはるかに超えたものだった。
「はい!私達のオリジナルの曲です!」
「え?何だって?」
思わず聞き返す。オリジナル、と聞こえたが……
「はい、私達、スクールアイドルグループ、『μ's』のオリジナル曲です!」
一瞬の後、
「はぁぁぁぁぁぁ!??」
今度は僕が大声をあげる。動いていた生徒達が一斉に立ち止まりこちらを見る。秒針が18度ほど回転し、改めて高坂がいい笑顔で言う。
「私達のオリジナル曲、その編曲をお願いします!」
頭を下げる。お願いします!と園田、南も頭を下げる。あまりのスケールの大きさに目眩がした。
#8 花陽ヴァシラン
どうやら、彼女達のグループ名は『μ's』と言う名前に決まったようだ。成程、古代ギリシャで、歌唱、記憶、実践を司る三柱の女神、その名前にあやかった、ということか。なかなかいいグループ名じゃないか…………でも、オリジナル曲とかまじか。そんなのただの女子高生に作れるはずが無いと思うんだけど…………
とにかく曲を聞かせてくれ、と言うことでパソコン室へ。四人が一つのパソコンの画面に向かっている。手早くパソコンを立ち上げてCDをプレイヤーにかける。すると、2分半ほどの曲が開始された。
ピアノの前奏が入った瞬間に、伸びのある美声。聞き覚えがある。これは西木野だ。晴れやかに、それでいて楽しそうに歌っている。鳥肌がたった。これを若干15歳の女の子が一人で書き上げた、というのか。彼女の才能に戦慄しながらも、メロディアスな旋律が終わりを告げる。良い曲だと思った。これをカタチにする、ということを考えるだけで背筋に震えが走った。
「どうですか?先生。西木野さんが作ってくれたんです。これをアイドルの曲っぽく編曲してくれませんか?」
南が不安そうに言う。それに返さず、自分USBを取り出し、その中にリッピングした音楽データを放り込む。
「先生、お願いします。先生しか頼れる人が居ないんです。」
園田も重ねて頭を下げる。しかし、一方の高坂は、当然やるよね?と言わんばかりの挑発的な顔でこちらを見ていた。
昔から素直で、良く人の事を見ているこの子の事だ。この曲を聞いた時の僕の気持ちも分かっているだろう。
「どう?樹お兄ちゃん。いい歌でしょ?」
どやぁ、と彼女は胸を張る。可愛くてイラつくからヤメロ。
もちろん、僕の答えは、決まっていた。
「明日の朝までに作ってくる。ただ、君らの練習風景とかも見て、イメージを膨らませたい。細かい調整はそこからだ。君達はいつもどこで練習してるんだ?」
と言うと、3人は顔を見合わせ、花のように微笑み、手を叩きあった。
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放課後は生徒会との新入生歓迎式典の打合せをする事になっていたので、業務もそこそこに生徒会室へ向かう。高坂達は屋上で練習をしているらしいが、流石に今日は見に行けない。クッ……美少女JK達のダンスパフォーマンス見たかった……今頃は青春の汗を流している事だろう……ムフッ
思わず半角になるくらいの気持ち悪い言葉が出た。そう言えば以前、男の友人に「キモイ」と言われた時に、「キモイはやめろ」と主張した事があった。すると「ごめんごめん、お前は気持ちいいよ。」と言われてすかさず殴った。ケツの穴がキュってなったわ。
彼女達は彼女達で華やかだろうが、こちらも負けてはいない。学校一の美女と名高い綾瀬、学校一の怪しからんバストの持ち主の東條がいるのだ。圧倒的ではないか!我が軍は!(カップ数的な意味で)
さめざめと心で泣きながら、生徒会室に向かう。あー、先週の一件以来綾瀬がこっちを見て固まるんだよなー。東條が何かアクションを取っていたら変わってるんだろうけど、昨日の今日だしなー。と思いながら生徒会室のドアをくくる。果たしてそこにいたのは、会長の綾瀬と副会長の東條だった。
「せやから、エリチ、許可を取ったのはあの子らが先、吹奏楽部には他の場所を使ってもらうのが筋と違う?」
「でも、スクールアイドルなんていうお遊びのために部活に入っている人たちが割りを食うのはおかしい、って言ってるの。希はそうは思わないの?」
揉めている。僕は揉みたいのだが。あかん、心の声がでてもーた。どうやら何かを言い合っているようだ。
「まぁまぁ、落ち着け。どうしたんだ?」
割って入る。東條は、待ってました!と言わんばかりの目で、綾瀬は、げっ、来た!と言わんばかりの目でこちらを見る。綾瀬さん、意外と僕ナイーブなんでやめてください。
「「先生、どう思いますか!!」」
うん、息はぴったりですね。仲良きことは良きことかな。だからもう少しボリューム落とそうね。
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「成程、新入生歓迎式典の後の講堂の使用許可について揉めている、という事だね。」
2人から事情を聞くとそういう事らしかった。先週のタイムスケジュール、音楽室の使用時間でバッティングしていた吹奏楽部と合唱部。そのどちらかが開演時間か開演場所の何れかを変更しなければならない。場所を変えるなら講堂を使ってもらうように交渉をしに行ったはずだが、両部の部長との交渉は決裂したようだ。一旦返事を保留している間に許可証を提出したのがーーーー
「2年2組、高坂穂乃果、園田海未、南ことり、スクールアイドル『μ's』ーーーーか。」
十中八九ライブをするつもりだろう。曲も衣装もある。振り付けは分からないが曲があるので用意は出来るだろう。ただ、問題は箱だ。
「講堂を彼女らがライブに使いたいのは分かったが、たった3人で講堂に沢山の人を呼べるのかな?」
予想はつく。その時間は新入生は自分の入ろうと思っている部活に見学に行くだろうし、上級生はそもそも自分の部活の紹介に精一杯である。浮動票で帰宅部の生徒がいるが、そもそも帰宅部を選択するような生徒だ。他人がスクールアイドルをやるからと言って見に来るとは限らない。広い会場であるにも関わらず、集客は見込めない。はっきり言って悪手だ。
「私もそう思います。ですから講堂は吹奏楽部に使ってもらった方がいいと思うんです。」
綾瀬が言う。僕もその件には賛成だ。但し、編曲を依頼された手前、早々簡単に「諦めろ」とは言い辛い。
「東條、吹奏楽部と合唱部は何と言っている?」
「『講堂は広すぎるからイヤだ。』って言うてるわ。どないせーゆうねん。」
お嬢さん、口が悪くなってますよ。椅子にもたれかかり、うーんと天井を見上げる。音楽室のバッティング、講堂の広さ、代替場所。どれが正解なのか分からないな。こういう時はじっくり考えても答えが出ないことが多い。
「そもそも、使いたい、っていう子と使いたくない、っいう子がいる時点で前者に使ってもらう方が筋と違うん?」
「だからって環境が整っている場所を一般の生徒に使ってもらうっていうのはどうなの?少しでも頑張っている部活に優先して割り振ればいいじゃない!」
かといって、即効性のある代替案を思いつく訳でも無い。手詰まりだ。
「希はカードのせいにしてあの子達の肩を持ちすぎよ!」
「エリチは何でも効率を重視し過ぎや!ほんなら音楽室の折衝、エリチが入ったらええやん!」
気持ち的には穂乃果ちゃん達にはやって欲しくない。しかし、彼女らの意思も尊重したい。
「希の分からず屋!」
「エリチのあんぽんたん!」
決断できない理由を考える。要はライブで観客が入れば良いのだ。そうすれば穂乃果ちゃん達が講堂を使う意味が出てくる。
「あんぽんたんが何かは分からないけど、侮辱されてるのは分かるわ!こういう時は『お前のかぁちゃん出ベソ』って返すんでしょ!?」
「エリチ、それ言うたら出るとこまで行くで!訂正しぃ!」
「おい、お前ら、うるさい。」
ビシッと空気に亀裂が入る。ちなみにイスラム圏での相手に対する最大の侮辱の言葉は『お前の親父のヒゲは何だ!』らしい。2人は震えながらキッとこちらを睨み、
「「先生には関係ないでしょ!!」」
と、またしてもユニゾン。瞬間、心重ねて。うん、仲がいいのは分かったからボリューム落とそうね。あと、関係あるから。僕一応生徒会の副顧問だから。
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その後、僕という共通の敵を見つけて、2人は事実上の同盟を組んだ。プリプリ、と怒る2人は最終的には落ち着いたのか、すみません、と謝ってきた。別に構わないよ、と伝え、一応の和解を見たが、問題は解決していない。取り敢えずこの件は先送りにして他のものを処理し、後日にしようということで解散した。
西陽が眩しい構内を歩く、すると廊下で人を気にするように一年生の小泉花陽がチラシを取り、それをぼうっと眺めていた。少しイタズラ心が働いてしまった僕は後ろからそっと近づく。後ろから覗き見るとどうやらμ'sのチラシを見ているようだ。ポン、と肩を叩く。
「小泉、アイド……」
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
まるで海老のように勢いよく後退、足が絡まり後ろ向き倒れる。危ない!と思った瞬間には体が動いた。緩やかに倒れようとする小泉は何かをつかむように空中に右手を伸ばす。その手を左手で掴み、ぐっとこちらに引き寄せる。倒れる勢いの慣性に従い、小泉のスクールバックは廊下に落下する。小泉はこちらに向かってくる。速度を殺すように右腕全体で小泉を受け止めようとする。ドサッとバックが落ちる重たい音とポスッという軽い音が廊下に響く。
「ふぅ、小泉、大丈夫か?」
取り敢えず倒れるのは防いだようだ。腕の中の小泉は微動だにしない。あ、シャンプーのいい香り。それにしても同じシャンプーを使っていても、女の子の方はなんであんなにいい匂いがするんだろうか。とたわいもないことを思って、小泉を改めて見ると顔を真っ赤にして硬直している。その顔があまりにも可愛らしかったので、もう一つイタズラをする。
手を離し、きちんと立たせる。小泉のメガネをひょいと取り上げ、
「小泉、君メガネ無い方が可愛いな。」
ボン、と顔から火が出るようにさらに顔を赤くさせる小泉、
「え、あ、あの……」
と困ったような発言。人見知り炸裂だな。メガネを彼女の手に返しつつ、問いかける。
「アイドルに興味がある?」
「はい……」
蚊の鳴くような声。一縷の望みをかけて続ける。
「もし、彼女たちがライブをする、って言ったら見に来てくれるかい?」
ライブ、というところで目をキラリと光らせてこちらを見る。そして、
「ライブするんですか!!絶対行きます!!!」
と力強く答えた。自分の声の大きさにドキッとしたのか、またうつむく小泉。ただ、僕にとってはその反応で十分だった。
「一応、ライブの件には僕も一枚噛んでる。見に来てくれよ。」
覚悟は決まった。観客が、聞いてくれる人が1人でも居るなら、音楽は奏でる価値がある。彼女達はそれを理解してくれるだろうか、いや、きっと大丈夫だろう。穂乃果ちゃんはそのあたりを分かっている子だ。
ぼうっとする小泉の横を、気をつけて帰れよ、と言いながら通り過ぎる。ためらいながらも意思を見せた小泉に答えるように、頭の中では西木野が作った曲が確かな色をもって、響き渡っていた。
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