【カオ転三次】×よう実 鬼になる一之瀬帆波   作:ねむのき

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第3.5話「黒札の修行」

 洞窟の入口から差し込む朝の光は、岩肌の凹凸を白く浮かび上がらせたところで途切れていた。外気に冷やされた石の近くでは、吐いた息が薄く曇る。十二月二十四日の山梨は、朝食を終えて移動してくる間にも、指先から熱を奪う冷たさだった。

 

 大きな箱を背負ったエースが入口へ近づくと、先に来ていた三人がこちらを向いた。それぞれの傍らには、パートナーの女性型シキガミが控えている。

 

 日本刀を携えた男に付き添っているのは、黒髪を高くまとめた長身の武者だった。二十代も後半に見える落ち着きと、凛と整った顔立ちを持ち、和風の軽装鎧をまとっている。大盾を身体の脇へ置き、主の少し後ろで静かに立っていた。

 

 その隣では、明るい銀髪の騎士型が、もう一人の男に侍っていた。外見は十代の終わりほどで、澄んだ瞳と端正な顔立ちが、薄暗い岩壁の前で際立っている。西洋の騎士を思わせる装いに盾を備え、主たちが話す間も、洞窟の奥へ目を向けていた。

 

 銃を持つ男の傍らには、栗色の長い髪を下ろした治癒術師型がいた。二十代前半ほどに見える穏やかな美貌に、淡色の術衣がよく似合っている。ほかの二体と同じく、男たちの会話へ加わることなく、その場に控えていた。

 

 刀の男がエースへ手を上げた。

 

「よう、エース。今日は長ドスは使わないのか?」

 

「使わねーよ」

 

 返すと、銃を持った男が、待っていたように口を挟んだ。

 

「光らない、鳴らない、デラックスな奴な」

 

「だから使わねぇって」

 

「怪獣好きの奴から、送られてきてなかったか?」

 

 もう一人まで話に加わり、エースは足を止めた。昨日、帰り際に翌日の誘いを受けたときには、こんな話までするつもりはなかった。

 

「六本腕でまともな剣術なんて、できるほどセンスねーよ。あと、あれ、わざと折れやすくしてやがったぞ」

 

 刀の男が声を上げて笑った。

 

「そこまで用意してあったのか」

 

「使う前に気づくわ」

 

「折った後のことも考えとけよ」

 

「お前らが使え」

 

 笑い声が岩壁に返った。男たちの傍らでは、三体のシキガミが変わらず控えている。主が半歩動けば、その分だけ立つ場所を空け、また静かに寄り添う。男たちも彼女たちへ特別な視線を向けず、互いの間に必要な幅を取っていた。

 

 エースにも見慣れた光景だった。三体の位置を目に入れ、その先の洞内へ視線を移す。四人とそれぞれのパートナーがいても、入口から続く空間には十分な余地があった。奥へ進めば天井はさらに高くなり、頭上も左右も大きく開けている。昨日も使った場所だったが、今日は一人で敵を探して回る必要はない。

 

 全員で数を倒す。そのために、朝から集まったのだった。

 

「そろそろ行くか」

 

 刀の男が言うと、その傍らの武者型が大盾を持ち上げた。銀髪の騎士型も主に合わせて歩き出し、治癒術師型は銃の男とともに続いた。前衛へ出る二体と、後方を受け持つ一体の配置が決まっていく。

 

 エースも、背負ってきた金属製の箱から、自分のシキガミを装着した。

 

 三人の傍らにいるような、独立した人の姿ではない。阿修羅をかたどった鎧型のシキガミだった。エース自身の身体を中へ収め、三面六臂の姿で覆う。外から見れば、一人の人間が鎧を着たというより、阿修羅そのものがそこへ立ったように見えるだろう。

 

 前と左右を向く三つの顔に、六つの目が備わっていた。自身の腕を含む六本の腕を開くと、異なる方向へ向いた手の先が、それぞれの視界に収まる。他の三体が主の前後を守るのに対し、こちらは自分がその鎧をまとい、戦場へ出る形になる。

 

 刀の男が、阿修羅の姿を見上げた。

 

「それで長ドス持ってりゃ、見た目はいいのにな」

 

「見た目で敵が倒れるかよ」

 

 エースが返すと、男は笑って前へ向き直った。

 

 身体を覆う鎧に意識を通す。正面だけを向いていた視界へ、左右の景色が加わった。三面の目が、同じ洞内を異なる角度から捉える。六本の腕を動かし、それぞれの射線を確かめた。

 

「じゃ、始めるか」

 

 エースが言うと、刀の男が頷いた。

 

 奥の暗がりに、五つの角を持つ影が浮いていた。星の形をしたデカラビアが地面から離れた高さを進み、その下では、水をまとった鬼が岩の間から姿を現す。スイキの足元を流れる水が窪みへ広がり、乾いていた石の色を濃くした。

 

「行くぞ!」

 

 刀の男の声と同時に、武者型が前へ出た。

 

 スイキが押し出した水が、大盾の正面へぶつかる。広い面へ叩きつけられた流れは左右へ分かれ、盾の縁から白く飛散した。武者型は足を開いて圧力を受け、背後へ抜ける道を塞ぐ。その横から刀の男が踏み込んだ。

 

 抜かれた刃が、近づいた敵の腕を狙う。打ち合いを長引かせずに位置を変え、男は奥へ向けて片手を伸ばした。

 

「マハブフダイン!」

 

 冷気が洞内へ広がった。空気に含まれていた水分が細かな氷となって光を返し、進んでいた悪魔の輪郭を白く覆う。氷結が届いた集団の動きが鈍る間に、別の方向から電光が走った。

 

 銀髪の騎士型が盾を傾け、横へ一歩ずれていた。その背後に生まれた射線を、鋭い電撃が抜ける。浮遊していたデカラビアが閃光の中で姿勢を崩し、岩壁へ影を大きく投げた。

 

 エースは右側の腕を振った。

 

 薄い風の刃が、斜めに落ちかけた星形の身体を横切る。切断された輪郭が黒い粒子へ変わるより早く、正面の二本の腕から別々の刃を放った。一つは水平に、一つは縦に走り、前衛の間を抜けようとした敵の進路を断つ。

 

 左の顔が、新たな動きを捉えていた。

 

 そちらへ上体を向ける必要はなかった。左側の腕を引き、円盤状に回転する刃を送り出す。岩の張り出しから現れた敵が攻撃へ移る前に、光を屈折させる薄い縁が、その身体を通過した。

 

 六本の腕を格闘に使おうとすれば、動きの組み立てに余計な手間がかかる。だが、それぞれを異なる方向へ向けて切断攻撃を放つなら、役目は明確だった。三面で捉えたものへ、空いている腕から刃を送る。正面の敵へ攻撃を重ねながら、左右から来る影も止められた。

 

 後方で銃声が響いた。

 

 銃の男が短く射撃し、すぐに狙いを変える。前へ出てきた敵を銃で抑え、その奥に重なる集団へ火炎を放った。炎は岩肌を赤く照らし、熱せられた空気の向こうで、悪魔の姿が歪んだ。

 

「右、空ける」

 

 電撃を使う男が言った。

 

 エースはそちらを見た。銀髪の騎士型が進路を開き、その先からスイキが迫っている。エースは右下の腕を持ち上げ、斜めの切断を放った。刃が身体を捉えると同時に、背後から走った電撃が、さらに奥の敵へ届いた。

 

 倒した一体を見届ける時間は短かった。黒い粒子が消えきる前に、その向こうへ次の影が現れる。四人は前へ出す攻撃を途切れさせず、二体の前衛シキガミが、その間を支えていた。

 

 洞窟の奥で、大きな蛇身が動いた。

 

 地面を覆う胴が岩の間から押し出され、複数の首が別々の高さへ持ち上がる。アナンタだった。広いはずの洞内が、その身体の曲線によって狭められていく。頭の一つが武者型の大盾へ向き、別の頭は銀髪の騎士型の上を越えるように伸びた。

 

 エースは円盤状の刃を放ち、続けて、上の二本の腕から交差する斬撃を送った。

 

 首の動きを三つの顔で追う。正面で持ち上がる頭と、横へ回り込む頭は、別々の視界に収まっていた。エースは射線の通る腕を選び、風の刃を連続して走らせた。

 

 蛇身が振られた。

 

 銀髪の騎士型が盾を正面へ向け、その後ろの男が一歩退いた。武者型は大盾を押し出して位置を保ち、刀の男が横から出る隙を作る。刀身が光を返し、エースの放った刃とは違う角度から、敵の身体へ切り込んだ。

 

「ブフダイン!」

 

 鋭い声に続き、氷結の光が走る。

 

 エースは頭の動きが止まったところへ、縦の刃を重ねた。さらに左へ回転する円盤を送り、空中に浮くデカラビアの進路を捉える。アナンタだけへ注意を集めれば、その周囲から小さな敵が抜けてくる。六つの目は、巨大な蛇身の外側も見ていた。

 

 前へ出た首の一つが、鎧へ迫った。

 

 エースは身体を横へ移した。阿修羅型をまとった身体は、意識した方向へ鋭く位置を変える。攻撃が鎧の外側をかすめ、衝撃が重く伝わったが、姿勢は崩れなかった。すぐに空いた位置から二本の腕を振り、もう一本を逆方向へ伸ばす。

 

 水平の刃が首を捉え、縦の刃がその動きへ重なる。反対側へ送った円盤は、前衛を抜けようとしていたスイキへ届いた。

 

 風の圧力が洞内を走り、砕けた氷と水滴が地面へ落ちた。

 

「奥、まとめるぞ」

 

 銃の男が短く言った。

 

 前衛二体がそれぞれの主の進路を開けた。エースは刃を送り続けながら、射線から外れる。広がった火炎が奥の集団を包み、続けて電光がその内側を照らした。焼けた空気が押し戻ってくる中、エースはなお動いていた輪郭へ、大きな弧を描く切断を放った。

 

 巨大な蛇身が崩れた。

 

 複数の首が高さを失い、地面へ届く前に黒い粒子へほどけていく。その下から新たな影が現れたが、刀の男がすでに腕を上げていた。

 

「マハブフダイン!」

 

 また冷気が広がった。

 

 エースは次の刃を放った。腕を引き戻す間にも、別の腕が動いている。正面の光が薄れれば左で敵を捉え、左へ攻撃を送る間に右の視界へ入ってきたものを処理する。三つの顔のどれかが捉えた動きを、六本の腕が順に切り分けていった。

 

 まとまった数を倒すと、四人は一度、攻撃の手を緩めた。

 

 前衛二体が敵との間を保つ中、後方の治癒術師型が静かに動いた。淡色の袖が持ち上がり、必要なところへ回復が届く。銃の男も自分の状態を確かめてから、仲間へ視線を回した。

 

「回復、要るか」

 

「こっちは大丈夫だ」

 

 刀の男が答えた。電撃を使う男は短く手を上げ、必要な処置を受ける。その間に、エースも消耗を戻した。

 

 息を整えながら、奥を見る。

 

 まだ続けられる。昨日は一人で回していた攻撃を、今日はそれぞれが受け持ち、間を埋めていた。誰かが敵を止める間に別の者が大きく削り、残ったものを次の攻撃で落とす。一人分の魔力を使い切るまで押し続けるより、まとまった討伐を何度も繰り返しやすかった。

 

 回復を終えると、刀の男が柄を握り直した。

 

「もう一回、行くか」

 

「ああ」

 

 エースは六本の腕を開いた。

 

 その後も、洞内では光の色が何度も変わった。

 

 氷結が水に濡れた岩を白く覆い、電撃が高い天井の凹凸を照らす。火炎が暗がりを押し戻した後を、薄い風の刃が横切った。前衛へ集まる敵には刀を交え、離れたところで重なる影には広い魔法を使う。通りの悪い攻撃へ固執せず、手応えを見た者が射線を譲り、別の攻撃がそこへ入った。

 

 エースも、すべてを同じ刃で片づけようとはしなかった。味方の攻撃がよく通っている相手は任せ、左右から回り込むものを落とす。切断が入る相手には短い間隔で重ね、倒すまでの時間を縮めた。

 

 デカラビアの星形が高い位置へ浮かぶと、上向きの腕から刃を放つ。スイキが前へ出れば、盾で止まった瞬間を捉える。アナンタが頭の位置を変えるたび、三面の視界の中でそれぞれの動きを追い、空いている方向へ攻撃を通した。

 

 前衛の武者型は、押された分だけ盾の角度を変え、足を置き直した。銀髪の騎士型は守る位置と射線を交互に確かめ、後ろの男が攻撃を放つ直前には、必要な幅だけ道を開いた。治癒術師型は後方から全体を見て、傷と消耗が積み重なる前に手を入れる。

 

 三体とも、言葉を挟むことはなかった。

 

 男たちの会話も、戦っている間は必要なものだけだった。冗談を言う余裕がなくなったのではない。数を倒すために来ているのだから、手が空けば次の攻撃を選ぶ。それぞれが同じつもりで動いていた。

 

 何度目かの回復を挟んだ後、奥から現れた集団へ、エースは六本の腕を異なる角度へ向けた。

 

 正面へ縦の刃を二つ、左右へ水平の刃を送り、残る腕から回転する円盤を放つ。それぞれの軌道が別の敵へ届き、崩れた輪郭の間へ、仲間の氷結と電撃が走った。

 

 最後まで形を保っていた蛇身へ、火炎が広がる。

 

 エースはその上へ切断を重ねた。大きな身体がほどけ、黒い粒子が岩の間を流れるように消えていく。次の敵が出てくるまでの短い間に、刀の男が声をかけた。

 

「この辺で切るか」

 

「そうだな」

 

 エースは腕を下ろした。

 

 十分に倒した。続けようと思えばまだ続けられたが、今日の分としてはよかった。四人は攻撃の届く位置から離れ、前衛二体を最後に、通路の広い方へ退いた。

 

 エースが阿修羅の鎧型シキガミの装着を解くと、左右から同時に見ていた洞内の景色が、一つの正面へ戻った。六本あった腕の感覚が収まり、自分の肩を一度動かす。ほかの三体も、それぞれの主の傍らへ戻っていた。黒髪の武者は大盾を下ろし、銀髪の騎士は隣へ静かに立つ。栗髪の治癒術師型が必要な回復を終えると、四人の間には帰る支度の落ち着きが戻った。

 

「今日は調子よかったな」

 

 刀の男が言った。

 

 電撃を使う男が、自分の状態を確かめてから顔を上げた。

 

「俺、二つ上がったわ」

 

「まじかよ」

 

 銃の男が振り向いた。刀の男も目を向け、エースはそのやり取りを聞きながら通路を歩き始めた。

 

「俺も稼げた」

 

「人数いると早いな」

 

「ああ。待つ時間が減るからな」

 

 入口から入る冷たい空気が近づいてきた。先を歩く武者型と騎士型は、主人たちの歩みに合わせ、通路の幅に応じて位置を変えている。治癒術師型も、銃の男の近くを静かについてきていた。

 

 その姿へ目をやり、阿修羅像を分解し、背負ってきた箱に収納しなおしたエースは何気なく言った。

 

「俺も、そうやって自分で動いてくれる相手の方がよかったな」

 

 刀の男が横を向いた。

 

「阿修羅じゃ不満か?」

 

「性能に文句はねーよ。ただ、こいつは俺が着て、俺が動くんだぞ。隣にもう一人いてくれるのとは違うだろ」

 

「あれだけ手があっても、一人は一人か」

 

「そういうことだ」

 

 エースが答えると、銃の男がこちらを見た。

 

「でも最近、巨乳美少女を弟子にしたんだろう」

 

「弟子じゃねーよ。支部の後輩」

 

 すぐに訂正したが、男は気にした様子もなかった。刀の男まで笑い、隣へ並んでくる。

 

「なんにしても、いいじゃないか。教えたことを覚えて、自分で動いてくれるんだろ?」

 

「そりゃ、仕事を覚えてもらってるからな」

 

「なら、よかったじゃないか」

 

 言葉を返そうとして、エースは一之瀬の顔を思い浮かべた。何かができれば嬉しそうに顔を上げ、教えたことを次の実戦で試してくる。つい仕事を詰め込もうとするところはあるが、分からないことを聞き、覚えたことを使おうとする意欲はある。

 

 今頃は、家族と旅行を楽しんでいるはずだった。

 

 洞窟を出ると、来たときより高くなった日が、山の斜面を照らしていた。三人はそれぞれのシキガミを傍らに、いつもの調子で歩いている。エースは冬の空気を吸い、先ほどの問いへ答えるように口を開いた。

 

「ま、シキガミと同じくらいには魅力があるな」

 




技術部は聖衣のつもりで阿修羅型シキガミを作成しました。専用収納BOX付。動かないし話さない。自意識はあるので主人がなかなか自分を使ってくれないのが悲しい。

シキガミを道具扱いしているN-N型の黒札たち。シェルターで全住民に土下座されても無視して帰ってこれるタイプ。
キャラ設定ははAIに作ってもらいました。公開予定なし。エースくんがザン系特化なので被らないように適当に。
しかし、スキル名叫ぶ奴がめっちゃ目立つな。
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