【カオ転三次】×よう実 鬼になる一之瀬帆波   作:ねむのき

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原作との差異まとめ
一之瀬クラス(B)
・白波千尋の退学
・クラスポイント542→762
・プライベートポイント1600万消費無し
・神崎がリーダー

Dクラス
龍園クラス(C)
・龍園翔の退学
・クラスポイント540→320
・金田がクラスをまとめようとしている。


第3話 「パートナー選択試験」

 四月の朝、人工島を包む空は、薄い雲を透かして淡い青色に澄んでいた。海上から運ばれてくる風にはまだ春先の冷たさが残っていたが、校舎の窓を通して差し込む陽光は、机の表面を穏やかに暖めている。日射角の変化とともに教室の影は短くなり、窓際の床には、冬には見られなかった明るい光の帯が伸びていた。

 

 高度育成高等学校の二年生にとって、新学期最初の特別試験は、例年とは異なる意味を持っていた。

 

 学年を越えた協力関係。入学したばかりの一年生との交渉。そして、学校が新たに導入した生徒評価システムによって、これまでなら知り得なかった相手の能力が、誰の目にも見えるようになっている。

 

 学力という個人の資質が数値化され、交渉の材料となり、プライベートポイントという対価によって取引される。学校が掲げる実力主義は、学年の境界を越えたところでも、その輪郭を鮮明にし始めていた。

 

 もっとも、一之瀬帆波にとって、それは自分が退学しないために対応しなければならない、数ある学校行事の一つでしかなかった。

 

 教室へ入ると、いつもより早く登校している生徒が目についた。机の間では、試験についての会話が交わされている。学校指定のタブレットを開いている者もいれば、友人と顔を寄せ、何かを確かめ合っている者もいた。

 

 帆波は自分の席へ向かい、鞄を置いた。

 

「帆波ちゃん、おはよう!」

 

 声をかけてきたのは網倉麻子だった。柔らかな髪を揺らして近づいてきた彼女は、普段どおりの親しみやすい笑顔を浮かべていたが、その目にはわずかな緊張があった。

 

「おはよう、網倉さん。今日は早いんだね」

 

「うん。何となく落ち着かなくて。昨日も試験のことを考えてたら、なかなか寝つけなかったんだ」

 

「そっか。今日は大事な試験だもんね」

 

「帆波ちゃんは平気そうだね。緊張してないの?」

 

「うーん、そうだね。やることは決まってるし、あとは普通に解くだけかな」

 

 帆波が答えると、網倉は少し羨ましそうに息をついた。

 

「いいなあ。私もそういうふうに考えられたらいいんだけど」

 

「ふふっ。始まっちゃえば、案外集中できるかもしれないよ」

 

「そうだといいなあ。私も頑張らないと。せっかく神崎くんたちが、いい一年生を見つけてくれたんだもん」

 

「そうだね。私も自分の分はちゃんと頑張るよ」

 

「うん! 帆波ちゃんの相手も、前に決めた子なんだよね?」

 

「そうだよ。変更もないし、あとは試験を受けるだけかな」

 

「そっか。じゃあ、お互い頑張ろうね!」

 

「うん、頑張ろう!」

 

 網倉は安心したように笑った。帆波も笑顔を返しながら、鞄からタブレットを取り出した。

 

 ペアの相手は、すでに確保してある。神崎から指定された資金の上限を守り、必要な条件を確認したうえで交渉を終えていた。相手も合意している以上、今になって改めて何かを頼む必要はない。

 

 帆波が確認しておきたいのは、自分の受験に関わる規則だけだった。

 

 今回の試験では、二年生と一年生が二人一組のペアを作り、それぞれの筆記試験に臨む。ペアの合計得点が五百点以下になれば、二年生は退学となり、一年生には三か月間のプライベートポイント支給停止という処分が下される。

 

 さらに、意図的に得点を下げる行為や、それを第三者が強要することも禁止されていた。

 

 自分の分は、きちんと解く。それでよかった。

 

 帆波が試験の説明を閉じたところで、教室の前方から神崎隆二の声が聞こえてきた。

 

「少し、いいか」

 

 顔を上げると、神崎が大型モニターの前に立っていた。端末を片手に持ち、教室全体へ視線を向けている。以前から慎重で落ち着いた物腰の男子だったが、最近は皆の前で話す姿もすっかり見慣れたものになっていた。

 

「今日が試験本番だ。ペアは全員決まっているし、必要な手続きも終わっている。今から組み合わせを考え直す必要はない。各自、自分の試験に集中してほしい」

 

「分かってるって。ここまで来たら、俺たちが頑張るしかないもんな」

 

 柴田颯が明るく応じた。周囲からも同意する声が上がる。

 

「俺、昨日は結構勉強したんだぜ。相手にばっかり頼るわけにもいかないしさ」

 

「それなら、今日はちゃんと成果を出さないとね」

 

 網倉が言うと、柴田は少し大げさに胸を張った。

 

「任せとけって。……まあ、難しい問題が出なければだけど」

 

「そこは任せてって言い切れないんだ」

 

 近くにいた渡辺紀仁が笑った。

 

「いや、だって難しいのが出たら難しいだろ?」

 

「それはそうだけどさ」

 

 教室のあちこちから笑いが漏れた。張り詰めていた空気が少し和らぎ、柴田も笑いながら自分の席へ戻っていく。

 

 神崎はその様子を見届けてから、改めて口を開いた。

 

「今回、俺たちは一年生の学力を重視してペアを組んだ。交渉に使った資金も、全員が安全に試験を終えることと、クラスの平均点を上げることを考えて配分している。ただ、相手の成績がよくても、俺たち自身が点を取らなければ意味がない」

 

 そこで一度言葉を切り、教室を見渡した。

 

「無理に満点を狙えとは言わない。自分の力を出し切ってくれ」

 

 帆波も顔を上げ、神崎の言葉を聞いていた。

 

 交渉が始まってから今日まで、神崎はクラス全体の準備を進めてきた。ほかの生徒たちも、それぞれに役割を引き受けていた。彼らがどれだけの時間を使ったのか、帆波は詳しく知らない。それでも、必要な組み合わせが整い、こうして試験当日を迎えられたことは分かる。

 

 神崎が指揮を執ってくれるのは、ありがたかった。

 

 自分がクラスのために費やす時間を、最小限に抑えられるからだ。

 

「一之瀬」

 

 神崎がこちらへ顔を向けた。

 

「ペアの件で、何か問題はないか?」

 

「うん。大丈夫だよ。ちゃんと決まってるし、私の方で確認することも済んでるから」

 

「分かった。なら、予定どおり頼む」

 

「うん。神崎くんも頑張ってね」

 

「ああ」

 

 短いやり取りを終えると、神崎はほかの生徒からの質問に応じ始めた。

 

 帆波は再びタブレットへ目を落とす。自分に関係する部分を確認し終えたので、画面を閉じた。

 

 あとは試験を受けるだけだった。

 

 

 

 試験が始まると、教室の空気は一変した。

 

 それまで絶え間なく聞こえていた話し声が消え、生徒たちはそれぞれの問題へ向き合った。窓の外では風に揺れる木々の影が動いていたが、教室の中でその変化に目を向ける者はほとんどいなかった。

 

 帆波も、目の前の問題へ集中していた。

 

 設問を読み、求められている内容を確認する。解答できるものから順に取り組み、判断に迷う問題は一度考え直した。必要な知識を思い出し、条件を整理して、答えを導いていく。

 

 特別なことは何もしていない。

 

 今回の試験のために、普段以上の勉強時間を設けたわけではなかった。授業には出席し、課題も提出している。学力を維持するために必要なことは続けてきたが、クラスの順位を一つでも上げようと、自分の時間を削って準備するつもりはなかった。

 

 だからといって、解ける問題をわざと間違える理由もない。

 

 問題文を読み、理解できれば答える。分からないものがあれば、持っている知識の範囲で考える。

 

 それだけだった。

 

 国語や英語、理科や社会の試験時には、これまでの授業や学習で身につけた知識を使って取り組めた。難易度には幅があったものの、基本的には高校で学ぶ内容を踏まえた出題である。帆波は落ち着いて解答を進め、確信の持てない箇所にはあとで見直せるよう印をつけ、あとから見返して回答した。

 

 ところが、数学の試験の際に帆波は、ある設問で手を止めることになった。

 

 最初は、見慣れない形式の応用問題かと思った。ところが、問題文を読み返し、与えられた条件を整理しても、解答に必要な知識が見つからない。高校で習う範囲の考え方を当てはめてみたものの、途中からどうしても先へ進めなくなった。

 

 帆波は眉を寄せた。

 

 これ、大学で勉強するような数学じゃないかな?

 

 単に計算が複雑というだけではない。問題を解くために必要な数学的な概念そのものが、これまでの授業で扱ったものとは違っている。高校で学んだ公式を組み合わせれば解けるという種類の問題ではなさそうだった。

 

 もう一度考えてみる。

 

 与えられた条件から何が分かるのか。どこまでなら自分の知識で説明できるのか。解答へ至る道筋を探してみたが、必要な部分を埋めることはできなかった。

 

 帆波は小さく息をついた。

 

 うん、これは分からないや。

 

 知らないことを、知っていることにはできない。どれほど考えても、必要な知識そのものがなければ正しい答えにはたどり着けない。

 

 少し惜しい気はしたが、そこで時間を使い続けるより、ほかの問題を確実に解いた方がいい。

 

 帆波はその設問を後回しにし、次の問題へ進んだ。

 

 数学の試験には、ほかにも大学で扱うような知識を要求する難問が含まれていた。帆波はそれぞれに目を通し、自分の知識で対応できるかを考えたものの、解答できないものは残った。

 

 ただ、数学の問題すべてがそのような難問というわけではない。高校の授業で学んだ範囲の問題もあり、そうした設問については普段どおりに解答を進められた。

 

 帆波は分からない問題に気を取られず、解けるものを順に処理していった。

 

 やがて、一通りの解答を終える。

 

 残った時間で、帆波は最初から答案を見直した。問題文の読み違いや計算の誤りがないかを確かめ、気になった箇所をもう一度考える。途中で判断を変えた設問もあったが、最終的には自分が納得できる答えを残した。

 

 それでも、数学に含まれていた大学レベルの難問については、最後まで答えを導き出せなかった。見直しを終えた帆波は、残り時間を示す表示を眺めながら、ふと疑問を覚えた。

 

 どうして、高校の数学の試験にこんな問題が出るんだろう?

 

 今回の特別試験では、二年生と一年生の学力を組み合わせ、その合計によって退学の危険が生じる。学力の高い生徒を確保するために、クラス同士がプライベートポイントを使って競い合うことも、学校側は当然予想していたはずだ。

 

 難問を混ぜること自体には意味がある。一般的な問題だけでは、学力の高い生徒同士に十分な差がつかないこともあるだろう。しかし、数学だけに高校の教育課程を大きく越えた問題が含まれているとなれば、単なる学力評価としては少し不自然に思えた。

 

 そこで、帆波は以前の特別試験を思い出した。

 

 三月のクラス内投票と、その後の選抜種目試験。どちらも、学校の外から綾小路清隆を排除しようとする思惑が関係していると、帆波は考えていた。

 

 月城理事長代理。

 

 あの人が、また何か考えているのかな?

 

 綾小路がどの程度の学力を持っているのか、帆波は知らない。今回の数学の難問が彼を対象にしたものだという証拠もない。ただ、これまでの経緯を考えれば、学校の通常の教育課程から外れた問題が出題されたことにも、何か別の意図があるのではないかと疑いたくなる。

 

 もし、あの人が関わっているのなら、今回も綾小路くんに何か仕掛けているのかもしれない。

 

 そこまで考えて、帆波は思考を止めた。

 

 ……まあ、私には関係ないか。

 

 仮に月城が何かを企んでいたとしても、それを調べる理由はなかった。綾小路がどのような事情を抱えているのかも、帆波には分からない。今のところ、自分がその問題に巻き込まれているわけでもない。

 

 以前のように、誰かが困っているかもしれないというだけで、自分から事情を調べ、解決のために動くつもりはなかった。もちろん、直接何かを頼まれれば、そのときに必要性を考えることはあるだろう。けれど、今は何も頼まれていないし、自分から関わる必要も感じない。

 

 それに、数学の問題が難しかったというだけで、月城の関与を断定することもできなかった。

 

 自分の答案は、もう見直し終えている。

 

 ならば、これ以上考える必要もないだろう。

 

 帆波は残り時間を静かに過ごし、試験終了の合図を待った。

 

 

 

 全ての試験が終わったあとの教室には、解放感と緊張が入り交じっていた。長時間の集中から解放された生徒たちが、それぞれに椅子へ深く腰を下ろし、近くの友人と感想を交わし始める。大型モニターには試験終了を知らせる表示が残り、窓から差し込む午後の陽光が、机の列を斜めに照らしていた。

 

「終わったー! いやあ、思ってたより疲れたな」

 

 柴田が椅子の背にもたれ、腕を伸ばした。

 

「お疲れさま、柴田くん」

 

 帆波が声をかけると、柴田は顔を向けた。

 

「おう、一之瀬。そっちはどうだった?」

 

「うん。分かるところはちゃんと答えられたと思うよ。でも、数学はすっごく難しい問題があったね」

 

「ああ、あれな! 俺、途中から何をどう計算すればいいのか分からなかったぞ」

 

「ふふっ。私も解けなかった問題があるよ」

 

「一之瀬でも解けなかったのか? じゃあ、俺が分からなくても仕方ないな」

 

「いや、それで納得するのはどうなんだよ」

 

 近くにいた渡辺紀仁が笑いながら口を挟む。

 

「いいだろ、もう終わったんだから。今から勉強したって答案は変わらないしさ」

 

「まあ、それはそうだけどな。俺は昨日見直したところも出たんだよ。でも、覚えてるつもりだったのが意外と曖昧でさ」

 

「そうだったんだ」

 

「あと少しで思い出せそうだったんだけどなあ。ああいうのが一番悔しい」

 

 柴田は苦笑しながら頭をかいた。試験から解放された安堵と、十分に答えられなかった悔しさが、その表情に同居していた。

 

「でも、あの数学の問題はちょっと変じゃなかった?」

 

 網倉が会話に加わった。

 

「私も全然分からなかったんだけど、ああいうのって授業で習ったっけ?」

 

「いや、習ってないと思うぞ。少なくとも俺は見た覚えがない」

 

 柴田が即答すると、渡辺も頷いた。

 

「俺も知らないな。ほかの教科は普通に難しい問題もあったって感じだけど、数学のあれは別物だったよな」

 

「だよねえ。帆波ちゃんはどう思う?」

 

「うーん、大学で習うような内容だったんじゃないかな。私も解き方が分からなかったし」

 

「大学レベルかあ。そりゃ難しいわけだ」

 

 柴田は納得したように腕を組んだ。

 

「でも、そんな問題を出されても困るよな。学校で習ってないんだから」

 

「そうだね。でも、解ける人もいるのかもしれないよ」

 

「いるんだろうなあ。そういうのを普通に解いちゃうやつが」

 

 柴田は感心したように言ったあと、何かを思いついたらしく神崎へ顔を向けた。

 

「なあ、神崎。あの数学の問題って、今回の順位にも結構影響するのか?」

 

 少し離れた席で端末を確認していた神崎隆二が、顔を上げる。

 

「可能性はあるな。ほかの問題で高得点を取る生徒同士なら、ああいう難問を解けるかどうかで差がつくこともあるだろう」

 

「やっぱりそうか」

 

「ただ、俺たちが確保した一年生の学力も考えれば、必要以上に悲観することはない。今回の試験は、二年生だけの得点で決まるわけじゃないからな」

 

「そうだよな。相手の一年生にも頑張ってもらわないと」

 

「そのために事前の交渉をしたんだ。あとは結果を待つしかない」

 

 神崎の答えは落ち着いていた。試験前に比べれば多少の疲れは見えるものの、声に焦りはない。

 

 帆波はそのやり取りを聞きながら、机の上を片づけていった。

 

 自分にも解けなかった問題はある。それでも、今さら気にしても結果は変わらない。そもそも、すべての問題に正解しなければならない試験ではなかった。

 

 ペアの合計得点が退学基準を上回っていれば、少なくとも自分にとって最も重要な条件は満たされる。

 

「帆波ちゃん、もう帰るの?」

 

 鞄を持ち上げたところで、網倉が尋ねてきた。

 

「うん。試験も終わったし、今日はもう用事がないから」

 

「そっか。お疲れさま!」

 

「網倉さんもお疲れさま。柴田くん、渡辺くんもね」

 

「おう、お疲れ!」

 

 柴田が片手を上げる。

 

 帆波は神崎の方へも顔を向けた。

 

「神崎くんも、お疲れさま。準備、大変だったでしょ?」

 

「まあ、多少はな。だが、ほかの連中も協力してくれたから、何とか形になった」

 

「そっか。よかったね」

 

「ああ。結果が分かったら、また共有する」

 

「うん、ありがとう」

 

 帆波は明るく答え、教室をあとにした。

 

 廊下には、試験を終えた生徒たちの声が満ちていた。難しかった問題を話し合う者、ほかのクラスの様子を気にする者、結果が出るまで落ち着かないと嘆く者。それぞれが今回の試験に何を求めていたのか、交わされる言葉から伝わってくる。

 

 帆波はその間を歩きながら、今日の予定を考えていた。

 

 学校の試験が終わったからといって、すぐに家族のための仕事が進むわけではない。それでも、少なくとも今日は、これ以上学校のために時間を使う必要がなくなった。

 

 あとは結果を確認して、退学にならないことが分かればいい。

 

 そう考えると、足取りは自然に軽くなった。

 

 

 

 数日後、パートナー選択試験の結果が発表された。

 

 教室前方の大型モニターには、各クラスの順位が表示されている。神崎が全員に結果を共有すると、教室のあちこちから声が上がった。

 

「二位!」

 

 網倉が思わず声を弾ませた。

 

「やったじゃん、神崎くん!」

 

「おお、二位か! 結構いい結果じゃないか!」

 

 柴田も嬉しそうに身を乗り出す。

 

 今回の試験では、一位が坂柳の率いるAクラス、二位が神崎たちのBクラス、三位が堀北のいるCクラス、四位が金田のまとめるDクラスとなった。

 

 それぞれの報酬は、一位が五十クラスポイント、二位が三十クラスポイント、三位が十クラスポイント、四位は獲得なし。

 

 Bクラスには、二位の報酬として三十クラスポイントが加算される。

 

 試験前のクラスポイントは、Aクラスが一一一九、Bクラスが七六二、Dクラスが三二〇、Cクラスが二七五だった。今回の報酬を加えると、Aクラスが一一六九、Bクラスが七九二、Dクラスが三二〇、Cクラスが二八五となる。

 

 試験の順位ではCクラスがDクラスを上回ったものの、累計クラスポイントによる学年内の序列は変わらない。Aクラスが首位、Bクラスが二位、Dクラスが三位、Cクラスが四位のままだった。

 

 Aクラスとの差は三五七ポイントから三七七ポイントへと広がったが、Bクラスにとっても、事前に一年生の学力を調べ、資金を使って相手を確保した神崎たちの方針が、一定の成果を上げたことになる。

 

「神崎、やったな!」

 

 柴田が神崎の肩へ手を伸ばした。

 

「まだ一位じゃない。喜ぶのはいいが、ここで満足するわけにはいかないな」

 

「分かってるって。でも、今回くらいは喜んでもいいだろ?」

 

「……そうだな」

 

 神崎は小さく頷いた。

 

 その横では、浜口哲也が穏やかな声で話していた。

 

「事前に準備したことが、ちゃんと結果につながったのはよかったね。交渉を担当した人たちも、安心したんじゃないかな」

 

「ああ。全員の協力がなければ、ここまでできなかったと思う」

 

「それに、今回は一位を取れなかったけど、使った資金と得られた結果を考えれば、悪くない判断だったと思うよ」

 

「そうだな。最上位の一年生だけにこだわっていたら、もっと資金を使っていた可能性もある」

 

 神崎はモニターへ視線を戻した。

 

「ただ、Aクラスとの差は少し広がった。今回の結果を喜ぶことと、その事実を認めることは別だ」

 

「でもさ、二位って十分すごいと思うぜ。最初はどうなるか分からなかったんだし」

 

 柴田が言うと、渡辺も頷いた。

 

「そうだな。相手の一年生を探すところから始めたんだろ? よくここまでまとめたと思うよ」

 

 教室には、神崎たちの準備を評価する声が広がっていた。

 

 ただ、全員が同じように喜んでいるわけではなかった。モニターを見つめたまま黙っている生徒もいる。近くの友人と短く言葉を交わし、すぐに口を閉じる者もいた。

 

 帆波はそれらの様子を視界に収めながら、自分の結果を確認していた。

 

 ペアの合計得点は、退学となる基準を上回っている。

 

 それを確かめると、帆波は画面から目を離した。

 

 よかった。これで大丈夫だね。

 

 特に強い安堵が込み上げてくるわけではない。事前の評価から、退学の危険は十分に低いと考えていた。結果がその予想どおりだったというだけのことだった。

 

 クラスが二位になったことについても、嬉しいとは思わなかった。

 

 一位を逃した悔しさもない。

 

 ただ、神崎たちが時間をかけて準備し、その成果を得られたことは理解できる。彼らが喜ぶのも自然なことだろう。

 

「一之瀬」

 

 神崎が声をかけてきた。

 

「結果は確認したか?」

 

「うん。私の方は問題なかったよ」

 

「そうか。それならよかった」

 

「それより、神崎くん。二位だったんだね。お疲れさま」

 

「ああ。ありがとう」

 

 神崎は短く答えたあと、モニターへ目を向けた。

 

「一位には届かなかったが、今回は準備したことが結果につながった。資金を使った以上、何も得られなかったでは済まなかったからな」

 

「うん。みんなで考えて決めたことだもんね」

 

「次の試験でも同じ方法が使えるとは限らないが、今回の経験は無駄にならないと思う」

 

「そうだね」

 

 帆波は微笑んだ。

 

 神崎の言うことは理解できる。今回の交渉を通じて、一年生の学力や、ほかのクラスとの競争について知ることができたのだろう。資金を使う判断にも、今後の試験へ生かせる部分があるのかもしれない。

 

 けれど、それを詳しく聞きたいとは思わなかった。

 

 今後の戦略を一緒に考えるつもりもない。

 

「神崎くんたちが頑張ってくれたおかげだね。本当にお疲れさま」

 

 帆波がそう告げると、神崎はわずかに目を細めた。

 

「一之瀬も、試験を受けてくれたからな」

 

「それは私の試験でもあるからね。ちゃんと受けるよ」

 

「ああ」

 

 神崎はそれ以上何も言わず、ほかの生徒に呼ばれて振り返った。

 

 帆波も自分の席へ戻り、タブレットを閉じた。

 

 今回の試験は終わった。

 

 ペアを組んだ一年生との交渉も、筆記試験も、結果の確認も、必要なことはすべて済ませている。これ以上、自分が引き受ける仕事はなかった。

 

 窓の外では、午後の陽光が校舎の壁を明るく照らしていた。海から吹く風に揺れる木々の緑は、四月の初めよりも少し濃くなっている。

 

 帆波は鞄を手に取り、教室の出口へ向かった。

 

 次に考えるべきことは、もう決まっていた。

 

 ガイア連合木更津支部の家族用シェルター居住権。

 

 母と美帆が、これからも安心して暮らせる場所。そのために必要な実物マッカと貢献実績は、まだ十分ではない。

 

 学校の試験に費やした時間を取り戻すことはできないが、これから使える時間はある。

 

 早く、またお仕事がしたいな。

 

 そう思うと、帆波の口元には自然と笑みが浮かんだ。

 

 学校で得た二位という順位は、彼女の心を動かさなかった。

 

 けれど、家族のために手に入れたいものと、自分が望んで続けている仕事のことを考えるだけで、胸の奥には明るい期待が広がっていく。

 

 帆波は教室を出ると、春の光が差し込む廊下を、軽やかな足取りで歩いていった。

 




パートナー試験結果原作との差分:
1位:Aクラス
原作と差異無し。龍園とのマネーゲームが神崎相手に変わっただけ。
原作では資金力、ブランド力で相手を確保していたので、変更点無しと想定。
坂柳は神崎の設定した上限ラインを見破り、必要な生徒を的確に確保。

2位:Bクラス
龍園に代わって神崎がマネーゲーム。
龍園と違って普通に成績のよい生徒狙いだったが、マネーゲームの過熱を危険視。
Aと候補が被った際には、一定のラインで降りていたので、Aには勝てなかった。
無理せずそこそこの生徒を確保して2位。

3位:Dクラス(堀北)
原作と変更なし。

4位:Cクラス(元龍園)
リーダー不在。金田が頑張っていたが、まとめられずと想定。
龍園の残した資金があるが、クラスがまとめられない状態で使用ができるか?勝ち目の薄い学力テストに資金投入するか?クラスメイトは資金を惜しみ、クラスポイントがマイナスにならないならいいと考えるのでは?
諸々を考えて退学しないことを目標として試験に挑んだと設定しました。
本来ならBクラスが受け入れていたはずの、学力の低い生徒がこちらへ。実は退学の危険が結構あった。
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