1位 2年堀北クラス
2位 2年龍園クラス
3位 3年桐山クラス
4位 2年坂柳クラス
7位 2年一之瀬クラス
企画ごとの個別売り上げが確認できるかどうかは不明。独自設定です。
結果が届いたころには、窓の外から昼の明るさが失われていた。ガラスに映る教室の中では、机へ伏せる生徒も、椅子の背に腕を掛けて話す生徒もいる。店に使った黒い布も、白い食器もここにはなかったが、帆波には、座っている顔ぶれを見るだけで、それぞれが働いていた場所を思い出せた。
神崎は端末に届いた結果を確かめていた。傍らの浜口が画面を覗き、短く言葉を交わす。その様子に気づいた柴田が身体を起こすと、近くの会話も少しずつ止まった。
「結果が出た」
神崎が顔を上げた。帆波も鞄から離しかけていた手を戻し、彼を見る。
「一位は2年Aクラス。二位が2年Cクラス、三位が俺たちBクラス、四位が2年Dクラスだ」
教室のあちこちで声が上がった。喜ぶ声に混じり、意外そうに聞き返す者もいる。渡辺は椅子の背から腕を外し、神崎へ向き直った。
「四位まで、全部うちの学年?」
「ああ。四クラスとも、100クラスポイントを獲得する」
「よかった……」
網倉が息を吐いた。隣にいた女子と顔を見合わせ、ようやく肩の力を抜く。柴田も笑ったが、順位をもう一度頭の中へ並べているように、少し遅れて口を開いた。
「三位か。店だけなら、もっと上に行けた気がしたんだけどな」
「執事カフェの売上は、単独の店舗としては最も高かった」
神崎が答えると、今度ははっきりとした歓声が上がった。帆波の近くでも、誰かが机へ置いていた手を持ち上げる。網倉は嬉しそうに笑い、調理を担当していた生徒へ顔を向けた。
「ちゃんと、選んでもらえたんだね」
「単独なら一番ってことだよな。それで、クラスでは三位?」
渡辺の問いに、神崎が頷いた。
「評価されるのは、クラス全体の売上だ。Cクラスは、メイドカフェに加えて屋台も運営していた。その合計で、俺たちを上回っている」
渡辺は少し考え、机の上へ両手を置いた。
「そうか。隣の店とだけ比べてた」
「接客中なら、見えるのはそっちだよね」
浜口が言った。彼も日中はフロアに立ち、客を案内していた。料理を運ぶ相手や空いた席に目を配りながら、校内の別の場所まで確かめることはできなかった。
「でも、店として一番だったなら、やったことは間違ってなかったんじゃない?」
「そこは、そう思う」
神崎はすぐに頷いた。
「高い価格でも頼んでもらえた。料理も接客も好評で、評判を聞いて来る客も増えた。今日の店が売上を出せたことは、そのまま受け取っていい」
帆波は、入口で自分に案内を頼んだ客を思い出した。待つための椅子へ腰を下ろし、メニューを見ながら連れと相談していた姿も浮かぶ。あの人たちが選んでくれたものが、こうして結果になったのだと思えば、自然に口元が緩んだ。
けれど、その嬉しさに、二位や一位へ届かなかった悔しさはついてこなかった。客の前へカップを置いたときから、今日を楽しんだ気持ちはもう自分の中にあった。
「それなら、もう一つ何かできてればな」
柴田が言った。残念そうではあったが、誰かを責める口調ではなかった。渡辺も頷きかけ、途中で自分の脚へ目を落とす。
「俺、あれ以上やってたら、最後まで姿勢を保てなかったと思う」
「いや、俺たちが掛け持ちするって話じゃなくてさ」
「分かってる。でも、別のところにも人を回すんだろ?」
声が重なりかけたところで、浜口が二人を見た。
「店をもう一つ出せば、その分だけ増えるとは限らないよ。何をするか決めて、準備して、そっちにも人が必要になるから」
「うん。それはそうだけど」
柴田は答え、少し考えてから神崎へ目を向けた。神崎も、すぐに結論を押しつけるようには話さなかった。
「今日の体制で、どこまで余裕があったかは確認したい。ただ、今から別の企画を足せるわけではない。もし来年も文化祭があれば、そのときに参考にしよう」
「また、あの店をやるかも分からないしね」
姫野の低い声に、神崎が頷く。
「ああ。だから、次も喫茶店という前提で話を進めるつもりはない」
教室には、まだ何か言いたそうな顔もあった。三位で十分だと笑う者と、一番売れた店なのにと首を傾げる者が、同じ列に座っている。100クラスポイントを得たことを喜んでも、何に満足し、何を惜しむかまでは同じにならなかった。
神崎はその両方を見ながら話していた。声の大きい方へすぐに合わせず、出た疑問へ一つずつ答える。その傍らで浜口が、離れた席からの発言にも目を向けていた。
「Aクラスは、やっぱり三つの店から受け取った分が大きいのかな」
網倉の言葉に、渡辺が顔を上げた。
「売上の15%ずつだよな。うちの店が一番なら、その分も向こうに入ってる」
「ああ。だが、それだけで一位になったとは考えにくい」
神崎の返事に、柴田が首を傾げた。浜口も少し考え、机の上へ指を置く。
「仮に、三つの喫茶店の売上が、全部同じ100だったとするよ。Aクラスへ渡すのが、それぞれ15。三店舗分を合わせても45だね」
「一店舗の売上の、半分にもならないのか」
渡辺が呟いた。浜口は頷き、続ける。
「渡した側には、それぞれ85が残る。だから、その45だけでは、三つの店のどこにも届かない」
「実際には、うちの店が一番売れている」
神崎が言った。
「CとDの店の売上を、どちらもうちと同じ100として見積もっても、その比較だ。実際の移譲分は、それより少なくなる」
「じゃあ、残りはパンフレット?」
柴田の問いに、すぐ答える声はなかった。帆波も、十月の会談で坂柳がパンフレットの販売に触れていたことを思い出す。三つの店への案内にも活用できるという話だったが、それが執事カフェを上回る売上につながるところまでは、想像していなかった。
「パンフレットで足りない分を埋めたってことなら、かなり売ってないとおかしくない?」
渡辺が身体を起こした。
「しかも、Cはメイドカフェと屋台の合計なんだろ。そのCより上ってことは、うちの85を超えればいいだけでもない」
「ああ」
「ただのパンフレットが、そこまで売れるものかな。案内があると便利なのは分かるけどさ」
声には、単に他クラスの成功を惜しむのとは違う響きがあった。帆波の近くでも、会話を聞いていた生徒が神崎へ顔を向ける。
「値段を高くしたら、売れにくくなるよね」
網倉が言った。
「安くしてたくさん買ってもらうにしても、一人で何冊も欲しくなるものじゃないだろうし」
「店を何軒か回れば、それぞれでお金を使うけど、案内の本を何度も買う必要はないからね」
浜口はそこで言葉を切り、神崎を見た。
「僕たちが知らない売り方をしていたのか、ほかに売上を得る仕組みがあったのか。今聞いている内容だけだと、そこが埋まらない」
「……何か、からくりがあるってこと?」
柴田の声が少し低くなった。姫野は椅子へ座り直し、腕を卓の上へ置く。
「ありそうではあるよね。三つの店から15%もらって、パンフレットを普通に売っただけです、で一位になれるなら、ほかの学年の店も、もう少し下に来そうだし」
「ただ、分からないところを、都合よく決めつけるのは避けたい」
神崎は落ち着いた声で返した。
「パンフレットの販売数や、詳しい売り方まで確認したわけではない。それに、俺たちが知らない売上があったとしても、それだけで不正という話にはならない」
「そりゃ、そうだけど。何をしたのかは、気になるだろ」
「俺も気になっている」
神崎がはっきり答えると、渡辺は少し驚いた顔をした。浜口の口元にも、かすかな笑みが浮かぶ。
「協力していたからこそ、全部見えているような気になってたかもしれないね」
「共同事業と、各クラスの独立した企画は別だ。そこは、最初からそういう条件だった」
神崎の言葉に、帆波は頷いた。坂柳は会談でも、対象になるのは三つのカフェで、それ以外の企画は別だと説明していた。けれど、何を別に進めていたのかまで、帆波は聞いていない。
「一之瀬、坂柳から何か聞いてる?」
渡辺に尋ねられ、帆波は首を横に振った。
「ううん。パンフレットを売るって話は聞いたけど、ほかの売上のことは分からないよ」
「そっか」
「会議のときから楽しそうだったけどね」
そう付け加えると、渡辺が小さく息を吐いた。
「何か考えてたって言われたら、納得しちゃうな」
「考えていることは、あっただろうな。ただ、その中身はまだ分からない」
神崎はそこで話を区切った。帆波も、坂柳が何をしたのかを思い描こうとはしなかった。知らないところを想像で埋めるより、今度会ったときに聞いてみたい。教えてくれるかどうかも含めて、彼女の返事が少し楽しみになった。
「帆波ちゃんは、どうだった?」
網倉に呼ばれ、帆波は顔を上げた。
「接客? 楽しかったよ。教えてもらえて、よかったと思う」
「うん。帆波ちゃん、すごく人気だったって」
「私も、作った人たちにおいしかったって伝えてほしいって言われたよ」
帆波が返すと、網倉の顔が明るくなった。けれど、その隣からは別の声が上がる。
「一之瀬に頼みたいって人、結構いたんだろ? それなら、もっと接客の時間を増やしてもよかったのかな」
「それは、今日決めた交代の話になる」
神崎が引き取った。帆波が答えるより先に、話す相手を自分へ戻している。
「誰か一人が長く立てばいいという組み方にはしなかった。結果を見てから変えるなら、ほかの持ち場まで含めて考えなければならない」
「別に、一之瀬だけにやらせるって言ってるわけじゃないよ」
「ああ。それは分かっている」
言い争いにはならなかったが、教室の声は一度に一つへ揃わなかった。フロアで見たことを話す者と、調理側で足りなかった人手を挙げる者がいる。浜口が片方の話を聞き終えてから、もう片方へ顔を向けた。
帆波も尋ねられたところには答えた。待っている客に案内を頼まれたこと、注文を聞いてから提供側へ回ることがあったこと。自分が見ていない持ち場については、分からないと伝えた。
そこから全員の話をまとめ直そうとは思わなかった。神崎が聞き、必要なところを確かめている。帆波は自分の話を終えると、近くの生徒が口を開くのを待った。
「でもさ。同じ学年の順位ばっかり気にしてたけど、これ、三学年十二クラスでの勝負だったんだよな」
柴田が顔を上げて言った。神崎が頷き、その先を待つ。
「ああ」
「その一位から四位まで、全部俺たちの学年なんだろ。ほかの学年には、完全に勝ったってことじゃないか」
明るい声に、近くの生徒たちが顔を見合わせた。網倉も、今さら気づいたように目を開く。
「そうだよね。私たちより上なの、2年のAとCだけなんだから」
「三年生も、一年生も、全部うちより下か」
渡辺が順位を確かめるように呟き、それから笑った。
「そう聞くと、三位って、かなりよくない?」
「かなりいいと思う。店だけなら一番だったんだし」
柴田が答えると、教室の後ろからも賛同する声が上がった。浜口はその様子を見て、神崎へ顔を向けた。
「四クラスで協力して、他学年より上を取る。最初に話していたことは、できたんだね」
「ああ。そこは、はっきり結果が出た」
神崎の口元にも笑みが浮かんだ。
「三学年十二クラスの中で三位だ。俺たちの店も、共同事業も成功した。分からないところや、もっとできたかもしれないことはあるが、今日はまず、それを喜ぼう」
返事が重なり、誰かが拍手を始めた。網倉が隣の女子と笑い合い、渡辺も机から手を離して加わる。つい先ほどまで惜しんでいた順位が変わったわけではない。それでも、教室を満たす声は、ずっと明るくなった。
帆波も笑って手を合わせた。三位だったからというより、料理を仕上げていた網倉も、交代のたびに姿勢を直していた渡辺も、今は嬉しそうにしている。その顔を見ると、今日の店で交わした声や、客を迎えた時間まで、改めて思い出せた。
「手伝ってくれたAクラスの人たちにも、ちゃんとお礼を言わないとね」
網倉の言葉に、神崎が頷く。
「ああ。結果と一緒に、改めて伝えておく。みんな、お疲れさま。よくやってくれた」
今度の労いには、笑顔と、先ほどより大きな声が返った。
帆波は鞄を膝へ引き寄せた。端末を手に取ると、画面の光が指先を照らす。坂柳へ送る文を考え、少し迷ってから、短く打ち込んだ。
『一位、おめでとう。有栖ちゃん』
続けて、今日の接客が楽しかったことを書いた。自分たちの三位について長く説明するより、そちらの方が先に言葉になった。
送信してから顔を上げると、網倉がこちらを見ていた。
「もう帰る?」
「うん。今日は帰ろうかな」
「帆波ちゃんも、ちゃんと休んでね。ずっと動いてたんだから」
「ありがとう。網倉さんもね」
笑って返し、立ち上がる。身体にはまだ、トレーを水平に保って歩いたときの感覚が残っていた。けれど、もう低い声を作る必要も、相手が顔を上げるのを待って立つ必要もなかった。
教室を出る前に、端末が返事を知らせた。帆波は廊下の端へ寄り、画面を開く。
『ありがとうございます。一之瀬さんも、楽しんでいただけたようで何よりです』
その下に、もう一文あった。
『次のお茶では、給仕なさらず、向かいに座ってくださいね』
帆波は思わず笑った。今日のように彼女の椅子を引いてみたら、どんな顔をするだろうと思っていたところだった。
『うん。今度は私も、ゆっくり飲みたいな』
そう返して、端末をしまった。日時を決める話は、またあとでいい。今日を終えて、次に会うときに話したいことが増えている。それが嬉しかった。
廊下の先では、片付けを終えた生徒たちが連れ立って歩いていた。賑わっていた店へ客を導く声はもう聞こえず、運ばれていく荷物も、校舎を普段の姿へ戻すものばかりだった。
母と美帆には、店が一番売れたことも話せる。三位だったと言えば母は十分だと笑うかもしれないし、美帆はそれより、どんな格好をしたのか聞きたがるかもしれない。二人の質問を思い浮かべながら、帆波は歩いた。
エースにも、今日の話を持っていける。教わった動作を正確に続けられたことも、客が喜んでくれたことも、彼の前なら自分の嬉しかった順番で話せた。そのあとには、また訓練を見てもらいたかった。できるようになったところを確かめてもらい、まだ届かないところを教わる時間が欲しい。
文化祭の準備と当日は楽しかった。だからといって、仕事へ戻りたい気持ちが薄れたわけでもなかった。任務の仲介が再開される日を、帆波は変わらず待っていた。
鞄を持ち直すと、手袋を外した指へ、布の持ち手が触れた。今日はカップを差し出していた手で、次には何をできるだろう。エースに会ったら聞いてみたいと思いながら、帆波は校舎の出口へ向かった。
今回の文化祭における2年大同盟は、ぶっちゃけ体育祭とか書いてて楽しくないな、ってのが始まりでした。しかし、家族問題解決しちゃったので、一之瀬がサボるとも思えない。わたしはサボりたいが、ほなみちゃんは我慢できるでしょう。
体育祭はCD同盟だったんだ、龍園いなくてもやるかな?綾小路君がいくらでもやってくれそう。
じゃあAB同盟組んで対抗だ。→CD同盟は文化祭も込みだったんだ、じゃあABも文化祭込み同盟だ!
坂柳ならAB同盟を学年同盟までもっていける!
そして自分だけ1年と裏取引してごぼう抜きだ!
坂柳っぽくていいんじゃね!
という感じで連鎖して、プロットから本文起こす際には苦労しました。
結局、体育祭を素直に書いておいた方が楽でしたね…