【カオ転三次】×よう実 鬼になる一之瀬帆波   作:ねむのき

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第4話 「ガイア業務再開・調査任務」

 十一月の夕日は、臨海支部の窓へ低い角度で差し込んでいた。夏には頭上から港を照らしていた光が、今は向かいの建物の影を長く引き延ばし、机の縁だけを細く染めている。窓ガラスを隔てた外では風が吹いているらしく、帆波が歩いてきた道沿いの旗が、同じ方向へ引かれていた。

 

 文化祭を終えてからも、学校へ通い、支部で身体を動かす日々は続いていた。母と美帆には、執事服を着て接客したことを話した。店だけなら一番売れたのだと伝えると、美帆は売上より先に、どんな声で喋ったのかを聞きたがった。予想していたとおりの質問に笑ってしまい、きちんと席へ案内するところまで再現する話は、まだ実現していない。

 

 エースにも話せた。客の前で何をしたのか説明するうちに、カップの持ち方まで手で示していたことを思い出す。彼が最後まで聞いてくれたので、帆波は、注文をする前からこちらを見つけてくれた客のことも付け足した。

 

 その楽しかった時間とは別に、待っていた知らせも届いた。依頼の仲介が再開されたのだった。

 

 他の拠点から来ていた黒札たちは、それぞれの持ち場へ戻っていた。食堂を通っても、あの日のような大きな輪は見かけない。エースが仲間たちへ見せていた、目元まで緩む笑顔を思い出すと、もう少しあの輪の近くにいたかった気もした。それでも、今日は彼と向かい合って仕事の話ができる。そのことが、放課後からずっと楽しみだった。

 

「待たせたな。一之瀬」

 

 机の向こうに腰を下ろしたエースへ、帆波は顔を上げた。

 

「いえ。今日は、どんな仕事ですか?」

 

「調査案件だ。断ってもいいから、まずは内容を聞いてくれ。ただ、その前に話しておきたいことがある」

 

 差し出しかけた資料を、エースは机の上へ置いた。

 

「本来、この仕事をお前に割り振るつもりはなかった。もっと段階を踏んで、任せる内容を変えていくつもりだったんだが、情勢の悪化が早い。以前の警戒態勢の影響も残っていて、人手が足りていない」

 

 帆波は資料へ伸ばしかけた手を止めた。彼がそう言ってから仕事を渡してくるのは、これまでとは少し違っていた。

 

「私に、できそうな仕事なんですか?」

 

「ああ。ただし、お前一人で全部をする仕事じゃない。調査の主力は、現地で動いている霊能者だ。ここまでかなり調べてくれている。ただ、これ以上踏み込んで調べるには、ある程度の危険が予想される。だから、万一のときに対処できるだけの武力を持った人間を求めている」

 

「調べる人はいるけど、危なくなったときに戦える人が足りないんですね」

 

「そうだ。現時点では、そこが一番足りていないと思われる。お前には、その部分を担ってもらいたい」

 

「その人の調査を、私が手伝う形ですか?」

 

「そう考えてくれ。事情を聞いて、情報を受け取り、その人と協力して進める。受けるかどうかは、説明を全部聞いてから決めればいい」

 

 帆波は頷き、資料を受け取った。地方の教会と、そこにいる神父についての記述がある。少し下まで読み進めたところで、指が止まった。

 

 霊的な素養を持つ少女たちが、行方不明になっている。

 

「……この神父さんが、関わっているんですか」

 

「その疑いが強い。現地の調査で、容疑者はほぼ絞り込めている。ただ、決定的な証拠が足りない」

 

「メシア教の、過激派……」

 

「ああ。表向きは、日本で受け入れられている穏健派の側にいる。穏健派を装って入り込んだか、もともとそちらにいた人間が裏切って過激派についたか。今は、そのどちらかだと考えられている」

 

 帆波は顔を上げた。

 

「最初から隠していたのか、途中で変わったのかは、まだ分からないんですね」

 

「そうだ。それから、日本にいるメシア教徒が全員こちらの敵というわけでもない。穏健派は、今の日本の治安維持にかなり貢献している。あちらが支えているものまで失えば、その分だけ危険に晒される人間が増える」

 

「でも、警戒はされているんですか?」

 

「歴史上の経緯もあって、嫌っている人間は多い。好意を持てと言われて持てるものでもない。ただ、嫌いだから排除する、では済まない。現在の働きまでなくしていい状況じゃないんだ」

 

 帆波は開いた資料へ手を添えた。疑わしい相手が見つかったから、そのまま踏み込んで終わらせればいいという話ではなかった。

 

「だから、強行突入はしないんですね」

 

「ああ。穏健派の教会という看板のままの場所へ、証拠も固めずに踏み込めば、穏健派を刺激する。過激派への対応なのか、自分たちへの攻撃なのか、あちらからは区別がつかなくなる」

 

「相手が、その看板に隠れているかもしれないのに」

 

「だから厄介なんだ。隠れている本人と、その看板を信用している人間を分ける必要がある。疑いがあるからと全部まとめて扱えば、無関係な人間まで巻き込む」

 

 エースは言葉を急がなかった。帆波が頷いたのを見て、先を続けた。

 

「調べるのは、この神父と、この教会を拠点にしている集団が何をしているかだ。メシア教徒を見つけて敵だと決める仕事じゃない。教会へ来ている人間の中には、何も知らない者も、助けを求めている者もいるだろう」

 

「その人たちまで、仲間だと思わないように……」

 

「そうだ。穏健派の看板を掲げていることは、疑いを消す理由にはならない。だが、それだけで中にいる全員を敵にする理由にもならない」

 

 帆波は小さく息を吐いた。誰が何をしているのかを分けるために、確かめなければならない。相手の居場所まで分かっていても、その一歩が簡単ではないのだと分かった。

 

「それから、過激派そのものを軽く見ないことだ」

 

 声が少し低くなった。帆波が顔を上げると、エースは変わらず落ち着いた表情でこちらを見ていた。

 

「以前、家族の移住先を相談したときの話は覚えているか。あのとき話したシェルターだ」

 

 紙の上で、指が止まった。

 

「……覚えてます」

 

 帆波の力があれば歓迎される場所だと言われた。けれど、そこで暮らすために何を受け入れなければならないのかを聞いて、候補にはできなかった。自分一人の話ではない。母も、美帆も、ただでは済まないだろうと教えられていた。

 

「私だけじゃなくて、お母さんと美帆も、嫌なことをされるかもしれないって」

 

「ああ。守る側が、立場を使って、相手の意思を踏みにじる。その話をした」

 

 今、母と美帆は木更津で暮らしている。帰れば自分の部屋があり、母と普通に食卓を囲める。あの候補を選ばずに済んだことは、もう終わった話のはずだった。それでも、エースが何を思い出させようとしているのかは分かった。

 

「メシア教過激派の本拠地は、アメリカだ。あちらでは、あのシェルターの話を何倍もひどくしたようなことが行われている」

 

「……何倍も?」

 

「ああ」

 

 短い返事のあとに、帆波が軽く受け止め直せるような言葉は続かなかった。

 

 シェルターへ入れてもらえなければ生きていけない。守ってくれる相手には逆らえない。その立場を使われるだけでも、十分にひどいと思ったのに、それより悪い状況がある。帆波は一度、唇を結んだ。

 

「助けてもらいに行っても、助けてくれるとは限らないんですね」

 

「親切な顔で迎えることと、その人間の意思を尊重することは別だからな。救うためだ、本人のためだと言いながら、拒否する自由を奪うことはできる。相手が力を持っていれば、逃げることも難しくなる」

 

 エースはそこで一度言葉を切った。帆波が頷きかけると、その先が続いた。

 

「ただ、実際に厳しく統制しなければ、生き残れないほど危険な場所も多い。好きなときに外へ出ていい、何でも各自で決めていい、では集団を維持できないところもある」

 

「……全部が、嘘ってわけでもないんですか」

 

「ああ。必要な制限があること自体は、嘘じゃない。それがあるから、話もややこしくなる。生き残るために必要なことと、相手の立場につけ込んで要求していることが、一緒にされる場合もある」

 

 帆波は膝の上の手を重ねた。安全な場所にいれば、嫌なら出ていけばいいと言えるのかもしれない。けれど、外へ出れば死ぬと分かっている人にとって、その選択は、言葉だけで聞くほど自由ではないのだろう。

 

「間違ってるって言っても、聞いてもらえなかったら……」

 

「そこで話せば通じるはずだと期待するな。今回の神父が、あちらと同じことをどこまでやっているかは、まだ分からない。だから調べる。ただ、関わっている疑いのある相手が、どういう連中なのかは知っておいてくれ」

 

「はい」

 

「絶対に油断するな。一之瀬。穏健派を刺激しないよう慎重に動くことと、過激派への警戒を緩めることは、別の話だ」

 

 帆波は背筋を伸ばした。彼は声を荒らげなかった。それがかえって、今の言葉を重くした。

 

「最悪、襲ってくる連中は全部殴り倒せばいい。無理なら俺を呼べ。穏便に調べるために、お前が抵抗せず捕まる必要はない」

 

 思っていたよりも直接的な言い方に、帆波は一度、目を瞬かせた。慎重に、と繰り返されていた言葉の隣へ、殴り倒せばいいという判断が置かれる。エースの表情は変わっていなかった。

 

「……調査を続けるために、我慢しなくてもいいんですね」

 

「危なくなったら、そちらへの対処が先だ。仕事を続けるかどうかは、そのあとで考える」

 

「はい。分かりました」

 

 自分の力でできる仕事は増えた。けれど、知らないことまで同じだけ減ったわけではない。向かいに座る彼の説明を聞いているだけでも、それが分かった。同時に、どこまで自分で判断してよいのかも、少しずつ見えてきた。

 

「優しくしてくれても、それで安心しちゃいけないんですね」

 

「ああ。今回必要なのは、相手の人柄を見極めることより、事件の証拠を掴むことだ。それさえできれば、あとは強引に対処できる。過激派の活動だと示すものがあれば、穏健派の看板の陰へ逃がさずに済む」

 

 帆波は資料へ目を落とした。感じがいいか、悪いかでは決まらない。相手が何をしているのかを示すものを得る。そのために、ここまで調べてきた人がいて、今、自分の力が求められている。

 

「少女たちがどこにいるか確かめられたら、それも証拠になりますか?」

 

「監禁されている状況を確認できれば、重要な材料になる。本人たちの安全を確保することも必要だ。ただ、具体的に何を押さえればいいかは、現地の調査内容を聞いてから詰めよう」

 

「はい」

 

「それに、狙われているのは霊的な素養を持つ少女だ。力の扱いを知らず、自分に何が起きているか分からない者にとって、説明してくれる相手は貴重になる。向こうを妄信している可能性もある」

 

 その気持ちは、帆波にも分かった。異界で目覚めたとき、自分の身体に何が起きたのかも知らなかった。エースが教えてくれる言葉の一つ一つが、頼りだった。

 

 あの日、来てくれたのが彼でよかった。そう思うと、その顔から少し目を離しにくくなった。

 

「理解してくれる人だと思ったら、いろいろ話しちゃいますよね」

 

「ああ。だから、保護対象と、味方であることも分ける必要がある。それから、力で直接、自由を奪う可能性にも備える。洗脳、麻痺、束縛だ」

 

 帆波は頷いた。敵の動きを見て、避け、踏み込むときとは、気をつける場所が違う。

 

「殴り合えば勝てるかどうかだけで、安全を決める仕事じゃない」

 

「はい」

 

 返事をしてから、帆波は続きを読んだ。

 

 現地の霊能者は、独自に調査を重ねていた。容疑者をほぼ特定するところまで辿り着いているが、少女たちの所在と決定的な証拠を掴めずにいる。今回渡される情報は、その人が積み上げてきたものだった。

 

「この人は、戦うのは得意じゃないんですか?」

 

「ああ。能力の規模はお前の半分ほどだが、そもそも戦闘向きではない。調べる力があることと、相手に気づかれたときに対処できることは別だ。現地では、その人の話をよく聞いてくれ」

 

「分かりました」

 

「俺も顔合わせまでは一緒に行く。その先は同行できない」

 

 帆波は、頁をめくろうとしていた手を止めた。

 

「……エースさんは、別のお仕事ですか?」

 

「ああ。近くの別の場所で任務が入っている。今回は、そちらにも対応しなければならない」

 

 いつも、彼が見ていてくれる場所で戦っていた。自分だけでやらせてほしいと願ったことさえある。それでも、見えないところへ行ってしまうと聞くと、胸の内側にわずかな心細さが生まれた。

 

 それを、資料へ目を戻すことで隠そうとしたところで、エースの声が続いた。

 

「万一の場合は俺が駆けつける。何かあったら、すぐに救援を要請しろ。自分で何とかできるところまで粘ってから、とは考えるな」

 

 帆波は顔を上げた。

 

「途中でも、呼んでいいんですね」

 

「ああ。救援が必要だと分かったら、その時点で呼べ。現地の霊能者とも、よく協力するように。お前が調査まで一人で抱える必要はない」

 

「……はい」

 

 今度の返事は、少し深い息と一緒になった。彼に任せてもらえるのは嬉しい。できることを増やしたいし、成長したところも見てほしかった。それでも、彼に頼れなくなるのは嫌だった。

 

 すぐに呼べと言ってくれた。その言葉を確かめるように、帆波はもう一度頷いた。

 

「報酬は、証拠を取るところまででも出る。対象の過激派集団を撲滅する条件まで達成すれば、その二倍の実物マッカだ」

 

「証拠だけでも、仕事としては達成になるんですか」

 

「なる。調査が進めば、その先の対応も決められる。最初から全部を片づける前提で受ける必要はない」

 

 エースはそこで、帆波の顔を見た。

 

「内容が合わなければ断っていい。別の案件に替えられる。断ったことで罰則がつくこともない。人手が足りていないという話もしたが、それを理由に引き受ける必要はないからな」

 

 帆波は手元の紙を見つめた。初めに予定していたより難しい仕事を渡すことになったと、彼は隠さず話してくれた。そのうえで、足りていないものも、自分に求められていることも教えてくれた。

 

「私が、弱い霊能者に見えたらどうでしょう」

 

 エースは口を挟まず、続きを待った。

 

「狙われているのが、霊的な素養のある女の子なんですよね。こちらから中を探そうとするより、相手の方から近づいてくるようにできないかなって」

 

「囮になるつもりか?」

 

「はい。力のことをよく知らない女の子だと思ってもらえれば、話してくれることもありそうです。どこへ連れていこうとするかも、分かるかもしれません」

 

「そこまでする必要はない。少なくとも、今ここで決めることじゃないな」

 

 帆波は少し口を閉じた。エースは机の上の資料へ目を向けてから、こちらへ視線を戻した。

 

「現地の霊能者は、これまで自分で調べてきた。何が分かっていて、どこから先に危険があるのかも、その人間が一番よく知っている。まずは話を聞いて、方針を詰めてからだ」

 

「……そうですね。もう、調べ方も考えてくれているかもしれませんし」

 

「ああ。お前に求められているのは、まず万一の際の戦闘力だ。自分から標的になるところまで引き受ける必要はない。調査に何が足りないのか、どう補うのかを一緒に考えればいい」

 

 帆波は資料へ添えていた手を戻した。任せてもらえるのが嬉しくて、自分にできそうなことを先に探していた。けれど、それが今、必要なことかどうかは、まだ聞いていない。

 

「分かりました。まず、その人にお話を聞きます」

 

「そうしてくれ。案を出すのは構わないが、実際にどう動くかは、現地で相談して決めよう」

 

 帆波は頷いた。彼と顔合わせに行き、調べてきた人の話を聞く。今は、その順番をきちんと守ればよかった。

 

「今日の放課後と、土日が使えます。まずはお話を聞いて、様子を見て……」

 

「ただ、日曜までに何としても終わらせる、とは考えるな。使える時間と、任務を終えられるかどうかは別だ」

 

「はい。休みが終わるからって、無理には進めません」

 

 エースは頷き、机の脇に用意してあった支給品へ手を伸ばした。

 

「次は装備だ。調査に出るために、これを用意した」

 

 畳まれた制服が、机の上へ置かれた。高度育成高等学校のものとは違う。袖の端を持ち上げると、布は普通の衣服と同じように指へ沿った。

 

「偽装用の制服だ。これは銃撃を無効にする」

 

「……見ただけじゃ、全然分からないですね」

 

「見て分かるようでは、偽装にならないからな」

 

 帆波は少し笑い、指の間に挟んでいた布を戻した。エースは次に、防御符を示した。

 

「これは服の下へ貼る。洗脳、麻痺、束縛を完全に無効にするためのものだ」

 

 先ほど聞いた三つの言葉が、薄い符へ結びついた。頑丈な服を着るだけでは防げないものに、別の備えが用意されている。

 

「相手の力を受けてから、頑張って振りほどくんじゃないんですね」

 

「ああ。そもそも通さない。力比べで勝つのと、影響を受けないのは別だ」

 

 帆波は慎重に符を受け取った。自分の身体を思ったとおりに動かせることは、今では当たり前に近くなっていた。走ろうと思えば走れたし、止めたいところで止まれた。その自由を、相手の都合で奪われるのは嫌だった。

 

「こっちは、安全を確保するための結界符だ。室内に設置すれば、外から中へ入れなくなる。中から外へは出られる」

 

 エースは別の符を机へ置いた。

 

「使う前に、誰が内側にいるかを確認する必要がある」

 

「守りたい人と一緒に、相手まで入れないように、ですね」

 

「そうだ。敵を捕まえておく使い方はしない。中からは出られるからな」

 

 帆波は二種類の符を取り違えないよう、置かれた位置と説明を頭の中で結びつけた。防御符は自分へ、結界符は安全を確保したい室内へ。後者を使っても、守られる人たちが閉じ込められるわけではない。

 

 最後に渡された通信機は小さく、掌へ収まった。

 

「俺との緊急連絡には、これを使う」

 

 使い方を聞き、帆波は教わったとおりに操作した。

 

「聞こえますか?」

 

「ああ。聞こえている」

 

 目の前の彼と、通信機から届く声が重なった。現地でも、こちらへ話しかければ彼に届く。そのことを確かめられて、帆波は自然に口元を緩めた。

 

「大丈夫です」

 

「普段の連絡は今まで通りスマホでいい。緊急時にはためらうな」

 

「はい。すぐに呼びます」

 

 そう答えると、エースは短く頷いた。

 

 制服、防御符、結界符、通信機。机の上に必要なものが揃っていた。自分が強いからと、省いていいものはなかった。彼が近くで別の任務に当たる間、自分は現地の霊能者と協力して動く。何かあれば、助けを求める。

 

 帆波は制服へ視線を戻した。文化祭では、黒い執事服を着て、教わった動きを繰り返した。今度はこの服で、調査に協力する。具体的にどう動くのかは、現地で話を聞いてから決めるのだ。

 

 あのシェルターの話を聞いたとき、自分たちの行き先には選べないと思った。その何倍もひどいことをしている連中の側に、今度の容疑者がついているかもしれない。知らないまま会いに行くのとは、もう違っていた。

 

「受けます。この仕事」

 

 顔を上げて言うと、エースは頷いた。

 

「分かった。まずは現地で顔を合わせる。調査内容を引き継いで、それから動き方を詰めよう」

 

「はい。ちゃんと相談して進めます」

 

 返事をしながら、帆波は通信機を掌へ載せ直した。仕事の全部を一人でするわけではない。それに、エースへ声を届けるものが、今は自分の手の中にあった。

 

「お仕事が終わったら、また話を聞いてもらってもいいですか」

 

「報告は聞くぞ」

 

「それもですけど、そのあとも、少し」

 

 エースがこちらを見たので、帆波は明るく笑った。

 

「自分でやってみたら、また、聞きたいことができると思うので」

 

「ああ。戻ってから聞こう」

 

 彼にも別の仕事がある。それでも、終わったあとには、また向かい合って話せる。その返事をもらえただけで、今は十分に嬉しかった。

 

 帆波は支給品を一つずつ確かめた。制服の柔らかな布のそばへ、用途の違う符を揃える。通信機は最後まで手元に残し、教わった操作を、指でもう一度なぞった。

 




半終末の世界に踏み出すほなみちゃん。

エースはここまで、超過保護にほなみちゃんを育ててきたのですが、さすがにLv30オーバーで意欲のある人間を遊ばせておけなくなりました。

現地能力者はLv16 地元最強だけど占術系で呪殺が通らないとちょっと同レベル帯での戦闘が厳しいくらいの想定。
メシア教会の結界で占術をはじかれても、地道な調査で状況証拠を集める有能地元名家の当主としてます。
ハニトラとかしないので仕事先に選ばれた。
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