【ホメオスタシス】
(狭間劇場の巨大なスクリーンに、三週間前の南部峡谷が映し出される。中央聖域軍が撤退していく中、白い鬣をなびかせたパンジャモンが仲間たちに囲まれていた)
「第一次ルーチェモン戦役が始まって半年。北方のレジスタンスは、ついに中央聖域軍の大規模攻勢を退けました。あの勝利は、長く劣勢に立たされていた者たちに希望を与えたのです」
(映像の中で、勝利を喜ぶデジモンたちの姿が次第に遠ざかる)
「ですが、戦争の行方を変えたあの出来事は、同時に……それまで戦場へ姿を見せなかった者を動かすことにもなりました」
【サイガ】
(スクリーンを見つめながら)
「……ルーチェモン、だね」
【ホメオスタシス】
「はい。けれど、そこに至るまでには、まだ三週間の時間がありました」
⸻
第一幕 三週間の希望
(南部峡谷での勝利から一週間。北方の山岳地帯では、レジスタンスの兵士たちが奪われた交易路の一部を取り戻していた)
【オーガモン】
(高台から街道を見下ろし、豪快に笑う)
「がははは! 見ろよ、あの中央の連中を! 今まで散々こっちを追い詰めてきたくせに、すっかり勢いがなくなっちまった!」
【ゴブリモン】
「親分! 南の街道も取り返したって連絡が来たぜ! これで食料を運ぶ道が増えるぞ!」
【オーガモン】
「おう! だが浮かれるんじゃねえぞ。まだ中央の連中が押さえてる場所は山ほどあるんだからな!」
(その背後では、白い鬣を持つパンジャモンが、広げられた地図を静かに見つめていた)
【パンジャモン】
「……中央軍の後退は確かだ。だが、敵の戦力が尽きたわけではない。こちらも無理な追撃は避けるべきだろう」
【アルケーエンジェモン】
(地図上の街道を指差す)
「同感だ。特に東側の山道には、まだ中央軍の部隊が残っている。ここを無視して南へ進めば、背後を突かれる可能性がある」
【ホーリーエンジェモン】
「我々の目的は中央聖域の破壊ではない。奪われた自治を取り戻し、これ以上の犠牲を防ぐことだ。必要以上に戦線を広げるべきではないだろう」
【エンジェウーモン】
「それに、負傷者もまだ大勢いるわ。南部峡谷での勝利は大きかったけれど、私たちの傷がすべて癒えたわけではないもの」
【パンジャモン】
(静かに頷く)
「分かっている。だからこそ、今は確実に守れる場所を増やす。住民が安心して暮らせる土地を、一つずつ取り戻していこう」
(その方針に異を唱える者はいなかった。戦争が始まって以来、レジスタンスは常に中央聖域軍の圧倒的な兵力を前に後退を強いられてきた。しかし、パンジャモンの進化によって初めて大規模攻勢を撃退した今、彼らには確かな希望が生まれていた)
(さらに一週間が経過すると、北方の複数の集落がレジスタンスへの支援を再開した。かつて中央軍の報復を恐れていた者たちも、少しずつ物資や情報を提供するようになっていた)
【ゴブリモン】
(補給物資を積んだ荷車を押しながら)
「親分! また食料が届いたぜ! 今度は山向こうの集落からだ!」
【オーガモン】
「ありがてえ話だな。あいつらだって余裕があるわけじゃねえだろうに」
【パンジャモン】
「だからこそ、我々は彼らを守らねばならない。この信頼を裏切ることだけは、決してあってはならないのだ」
(白獅子の言葉に、周囲の戦士たちは力強く頷いた)
(そして三週間目。レジスタンスは、中央聖域軍が占拠していた北方の重要拠点へ向けて進軍を開始する)
(そこにはパンジャモンと三体の天使をはじめ、多数の成熟期デジモン、そして各地から集まった完全体デジモンたちがいた。彼らは、これまでの戦いで得た経験をもとに、中央軍の防衛線を少しずつ崩していった)
【アルケーエンジェモン】
「敵の前衛が後退した! このままなら拠点を奪還できる!」
【オーガモン】
「よっしゃあ! もうひと押しだ!」
【パンジャモン】
「深追いはするな! 負傷者の救護と周辺の安全確保を優先する!」
(その指示が各部隊へ伝えられようとした、まさにその時だった)
(空気が変わった)
(風が止まり、戦場を覆っていた雲が奇妙な形に割れていく。上空から降り注ぐ光は暖かさを失い、まるで世界そのものが息を潜めたかのような静寂が広がった)
【ゴブリモン】
「……な、なんだ?」
【オーガモン】
(空を見上げ、表情を険しくする)
「おい……冗談だろ……」
【ホーリーエンジェモン】
(その気配を感じ取った瞬間、動きを止める)
「……まさか」
【エンジェウーモン】
「そんな……どうして……」
【アルケーエンジェモン】
(武器を握り直し、低い声で呟く)
「……来たのか」
⸻
第二幕 堕天使の降臨
(裂けた雲の間から、一つの影がゆっくりと降下してきた)
(白と黒、相反する色の翼を広げた天使。その姿は、かつて原初のデジタルワールドに平和をもたらした少年の面影を残しながらも、今や異質な威圧感を放っていた)
(ルーチェモン:フォールダウンモード)
(第一次ルーチェモン戦役の開戦以来、一度として戦場へ姿を現さなかった中央聖域の支配者が、ついに自ら前線へ降り立ったのである)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
(ゆっくりと地面に足をつけ、周囲を見渡す)
「……随分と長く続いてしまったね」
(その声は穏やかだった。戦場にいる誰かを怒鳴りつけることも、威圧することもない。ただ、目の前に広がる光景を残念そうに見つめていた)
「僕は、こんなことを望んでいたわけじゃないんだ」
【パンジャモン】
(仲間たちの前へ進み出る)
「……ルーチェモン」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
(白獅子に視線を向ける)
「……レオモン。いや、今はパンジャモンだったね」
(わずかに微笑む)
「強くなったんだね。君がそこまで成長したことは、素直に嬉しいよ」
【パンジャモン】
「……お前が戦場へ来るとはな」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「本当は来るつもりなんてなかったんだ。僕が直接動かなくても、みんなが理解してくれると思っていたから」
(周囲に集まったレジスタンスの戦士たちを見渡す)
「でも、もう十分だろう? これ以上争いを続けたって、傷つくデジモンが増えるだけだよ」
【ホーリーエンジェモン】
(前へ進み出る)
「ルーチェモン! まだ遅くはない! 我々は、お前と話し合うためなら――」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「話し合い?」
(静かに首を傾げる)
「……それは、もう何度もしたよね」
【エンジェウーモン】
「違うわ! 私たちが望んでいるのは、あなたの決定を一方的に受け入れることじゃない!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……そう」
(少し寂しそうに目を伏せる)
「やっぱり、君たちにも分かってもらえないんだね」
(その瞬間、周囲の空気が震えた)
【アルケーエンジェモン】
「全員、防御態勢!」
(だが、その警告が終わるより早く、ルーチェモンの周囲に膨大なエネルギーが収束し始めた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「だったら……僕が終わらせるしかないね」
⸻
第三幕 完全体たちの消滅
(最初に動いたのは、レジスタンスに所属する数体の完全体デジモンだった)
(彼らは中央軍との戦いを幾度も生き延びてきた歴戦の戦士たちであり、ルーチェモンの力が尋常ではないことも理解していた。だからこそ、仲間たちが退避する時間を稼ぐため、一斉に攻撃を仕掛けた)
(しかし、その攻撃が届くことはなかった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……無駄だよ」
(片手を軽く掲げる)
「デッド・オア・アライブ」
(光と闇のエネルギーが交錯し、前方へ放たれる)
(次の瞬間、完全体たちが展開した防御は砕け散った。逃げる間もなく光と闇の奔流に呑み込まれた彼らの身体が、無数のデータ片へと崩れていく)
【ゴブリモン】
「……え?」
(目の前で起きた出来事を理解できず、呆然と立ち尽くす)
「い、今……何が……」
【オーガモン】
「馬鹿野郎! 突っ立ってんじゃねえ! 下がれ!」
(ゴブリモンの身体を引き寄せ、後方へ飛び退く)
(ほんの一瞬だった)
(数週間前まで中央軍の完全体と互角に戦っていた仲間たちが、抵抗する間もなく消滅したのである)
【パンジャモン】
(拳を握り締める)
「……ルーチェモン!!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
(静かにパンジャモンを見る)
「どうして怒るんだい?」
「僕は、これ以上戦う必要はないって言ったはずだよ」
【パンジャモン】
「だからといって……仲間を消していい理由にはならない!!」
(白獅子が地面を蹴り、一直線にルーチェモンへ突進する)
「獣王拳!!」
(拳から放たれた獅子の闘気が、凄まじい勢いでルーチェモンへ迫る)
(だが、ルーチェモンは避けなかった)
(片手を差し出すと、獣王拳はその掌の前で弾け、霧散した)
【パンジャモン】
「……なっ!?」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「強くなったのは確かだよ。でも……」
(白獅子の懐へ、一瞬で踏み込む)
「まだ、僕には届かない」
(放たれた一撃がパンジャモンの腹部を捉えた)
【パンジャモン】
「ぐああああっ!!」
(巨大な身体が吹き飛び、岩壁へ激突する。衝撃によって周囲の岩が崩れ落ち、白い鬣が土煙の中へ消えた)
【エンジェウーモン】
「パンジャモン!!」
【ホーリーエンジェモン】
「全軍、後退しろ! まともに戦える相手ではない!」
(だが、レジスタンスの完全体たちは退かなかった)
(仲間を守るため。倒れた白獅子を救うため。そして、自分たちが信じた自由を奪われないため)
(彼らは次々とルーチェモンへ挑んでいった)
(しかし、その勇気が力の差を埋めることはなかった)
(ある者は一撃で防御を砕かれ、ある者は反撃する間もなく地面へ叩きつけられた。別の完全体が仲間を庇って前に出た瞬間、その身体を光と闇の奔流が貫いた)
(次々とデータ片が空へ舞い上がる)
(その一つ一つが、かつて確かに存在していた命だった)
【アルケーエンジェモン】
(必死に防御を展開しながら)
「くそっ……! これ以上は持たない!」
【エンジェウーモン】
(負傷者を抱えながら)
「お願い……もうやめて! これ以上、誰も消さないで!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
(その声に、わずかに目を細める)
「……だったら、どうして戦うの?」
(静かな問いかけだった)
「僕は最初から言っているよ。争いをやめればいいって」
【ホーリーエンジェモン】
「お前が奪おうとしているものを守るためだ!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……自由、か」
(小さく息を吐く)
「その自由のために、こんなにも多くの命が失われる。それでも君たちは、自分たちが正しいと言うんだね」
⸻
第四幕 白獅子の抵抗
(崩れた岩壁の中から、パンジャモンがゆっくりと姿を現した)
(全身の装甲には亀裂が走り、白い鬣は土埃にまみれていた。それでも、白獅子は倒れた仲間たちを見渡すと、震える足で再び立ち上がった)
【パンジャモン】
「……まだだ」
【オーガモン】
「おい、パンジャモン! 無茶すんじゃねえ! その傷じゃ……!」
【パンジャモン】
「……私が、退くわけにはいかない」
(息を荒げながら、ルーチェモンを睨みつける)
「彼らは……私を信じて、ここまで戦ってくれたのだ……!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……もう立たない方がいいよ」
【パンジャモン】
「黙れ……!」
(白獅子が再び駆け出す)
(だが、先ほどまでの速度はない。負傷によって身体の動きは鈍り、呼吸も乱れていた)
(それでもパンジャモンは拳を振り上げた)
「獣王拳!!」
(残された力を振り絞り、獅子の闘気を放つ)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……残念だよ」
(光と闇が収束する)
「パラダイスロスト」
(次の瞬間、ルーチェモンの姿が消えた)
(パンジャモンが反応するよりも早く、凄まじい連撃がその身体を打ち据える。空中へ跳ね上げられた白獅子は、さらに追撃を受け、最後には地面へ叩きつけられた)
(轟音とともに大地が陥没する)
【パンジャモン】
「が……はっ……!」
(立ち上がろうとした腕が崩れ、白獅子の身体が地面へ沈む)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
(倒れたパンジャモンの前へ静かに降り立つ)
「……もう終わりだよ」
【パンジャモン】
(かすかに顔を上げる)
「……まだ……終わって……いない……」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「終わっているんだ」
(周囲を見渡す)
「君たちの仲間は、もうほとんど残っていない。これ以上戦っても、結果は変わらないよ」
(戦場には、かつてのレジスタンスの姿はなかった)
(多くの成熟期デジモンが倒れ、戦いに参加した完全体の大半がデリートされていた。残された完全体は、わずか十体。そして三体の天使だけだった)
(パンジャモン自身も深い傷を負い、もはや立ち上がることすらできなかった)
【エンジェウーモン】
(パンジャモンのもとへ駆け寄り、その身体を支える)
「もう喋らないで! お願いだから……!」
【ホーリーエンジェモン】
(ルーチェモンの前に立つ)
「……これが、お前の望んだ平和なのか」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……違うよ」
(静かに答える)
「僕が望んでいるのは、誰も傷つかずに暮らせる世界だ」
【ホーリーエンジェモン】
「ならば、なぜ……!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「だからこそ、争いを終わらせなければならないんだ」
(その表情には、迷いがなかった)
「誰もが好き勝手に行動すれば、また争いが起きる。意見がぶつかり、力を持つ者が弱い者を傷つける。そんな世界を、僕はもう見たくない」
(かつて原初の世界に降り立った少年は、確かに争いを止めようとしていた)
(だが今、その少年が平和を守るために選んだ方法は、かつて自らが止めたはずの暴力そのものだった)
⸻
第五幕 勝者の慈悲
(ルーチェモンが、倒れたパンジャモンへ手を伸ばす)
(その掌に、再び光と闇が集まり始めた)
【エンジェウーモン】
「やめて……!」
【アルケーエンジェモン】
(ホーリーエンジェモンと並び、身構える)
「これ以上やるつもりなら、俺たちが相手だ!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
(静かに三体の天使を見つめる)
「……君たちまで、僕と戦うの?」
【ホーリーエンジェモン】
「……必要ならば」
(その言葉に、ルーチェモンはしばらく沈黙した)
(かつて自らに忠誠を誓い、共に平和を築こうとした三体の天使。その彼らが今、自分の前に立ちはだかっている)
(ルーチェモンはゆっくりと視線を落とし、倒れたパンジャモンを見つめた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……もう、いいよ」
(掌に集まっていたエネルギーが、静かに消えていく)
【アルケーエンジェモン】
「……何?」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「これ以上戦っても、意味がないからね」
(背を向ける)
「君たちはもう、僕に抵抗できるだけの力を失った。これで十分だよ」
【パンジャモン】
(苦しげに息をしながら)
「……待て……ルーチェモン……!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
(足を止める)
【パンジャモン】
「……お前は……本当に……これで……平和が……訪れると……思っているのか……?」
(ルーチェモンは振り返らなかった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……もちろんだよ」
(その声には、疑いがなかった)
「僕が、すべてを決めてあげるから」
(白と黒の翼が大きく広がる)
「もう、君たちが苦しむ必要はないんだ」
(ルーチェモンの身体がゆっくりと浮かび上がる)
(戦場に残されたデジモンたちは、誰一人として追撃しようとはしなかった。いや、できなかった)
(彼らには、もはや戦う力すら残されていなかったのである)
(やがて、堕天使の姿は雲の向こうへと消えていった)
⸻
終幕 失われた希望
(ルーチェモンが去った後も、戦場には長い沈黙が続いていた)
(崩れた大地。砕け散った武具。かつて仲間たちが立っていた場所には、今や何も残されていなかった)
【ゴブリモン】
(震える手で地面を掴む)
「……嘘だろ……」
(周囲を見渡す)
「あいつら……さっきまで……一緒に戦ってたんだぞ……」
【オーガモン】
(何も言えず、拳を握り締める)
【エンジェウーモン】
(パンジャモンの傷を確認しながら)
「……命は助かるわ。でも、この傷は……すぐには治せない……」
【ホーリーエンジェモン】
「……生きている。それだけでも、今は救いだ」
【アルケーエンジェモン】
(周囲に残った完全体たちを見渡す)
「……十体か」
(苦々しく呟く)
「これだけの戦力が……たった一度の戦いで……」
【オーガモン】
「……くそっ!!」
(拳を地面へ叩きつける)
「何が平和だ……! 何が争いを終わらせるだ……!」
(その声は、怒りよりも深い悲しみに満ちていた)
【パンジャモン】
(かすかに目を開ける)
「……オーガモン……」
【オーガモン】
「……おう。ここにいるぜ」
【パンジャモン】
「……すまない……」
【オーガモン】
「……謝るんじゃねえよ」
(白獅子の肩に手を置く)
「お前は、最後まで戦ってくれたじゃねえか……」
(パンジャモンは、それ以上何も言えなかった)
(白い鬣が風に揺れる。かつて仲間たちに希望を与えたその姿は、今や深い傷に覆われていた)
(レジスタンスは壊滅したわけではない。まだ生き残った者たちはいる。守るべき住民も、帰るべき集落も残っている)
(しかし、ルーチェモンの圧倒的な力を前に、彼らは初めて理解した)
(自分たちが戦っている相手は、単なる中央聖域の支配者ではない)
(かつて世界に平和をもたらした、あの天使そのものなのだと)
⸻
狭間劇場
(スクリーンの映像がゆっくりと暗くなる)
【サイガ】
(長い沈黙の後、ようやく口を開く)
「……あれだけ強かったパンジャモンが……」
(握り締めた拳を見つめる)
「……何もできなかった……」
【イグドラシル】
(静かに頷く)
「そうだね。完全体へ進化したことで、彼は確かに大きな力を手に入れた。でも……ルーチェモンとの間には、それでも埋められないほどの差があったんだ」
【崑崙】
(腕を組み、スクリーンを見つめる)
「ふっ……恐ろしいものだね。たった一体の介入で、それまで積み重ねてきた戦局がすべて覆されてしまうとは」
(表情を険しくする)
「しかも、彼は自分が間違っているとは少しも思っていない。むしろ、これで平和に近づいたと本気で信じているんだろう」
【ホメロス】
(悲しげに目を伏せる)
「……うふふ、皮肉なものですわね。誰よりも平和を願っていた天使が、今では誰よりも多くの悲しみを生み出しているのですもの」
【サイガ】
「……でも、最後には攻撃を止めた」
(顔を上げる)
「ルーチェモンは、パンジャモンたちを全滅させることもできたはずだよね?」
【ホメオスタシス】
(静かに頷く)
「はい。あの時、ルーチェモンにはそれができたでしょう」
「ですが、彼はそうしませんでした。なぜなら、彼自身は今もなお、世界を救おうとしているつもりだからです」
【サイガ】
「……世界を、救う……」
【ホメオスタシス】
「ええ。けれど、誰かを救いたいという願いが、必ずしも正しい行いにつながるとは限りません」
(再びスクリーンへ視線を向ける)
「ルーチェモンは、自らの力によって戦争を終わらせられると信じています。そして、レジスタンスは、その圧倒的な力を前に壊滅的な敗北を喫しました」
(スクリーンには、仲間たちに支えられながら運ばれていくパンジャモンの姿が映し出される)
「ですが……彼らの物語は、まだ終わってはいないのです」
(狭間劇場に静寂が戻る)
第11話「絶望の降臨」――完