第一幕 夜明けを待つ者たち
【ホメオスタシス】
「十体のデジモンが、究極体という新たな境地へ到達してから、七日が経過しました」
(狭間劇場の巨大なスクリーンに、北方の岩角集落が映し出される。かつて交易によって栄えた集落は、長く続く戦争によって傷ついていた。崩れた家屋、補修された防壁、空になった食料庫。だが、その光景には以前とは異なるものがあった)
(住民たちが、再び自分たちの手で暮らしを取り戻そうとしているのだ)
(早朝の冷たい風が吹く中、オーガモンは木材を担ぎ、ゴブリモンたちは防壁の補修を進めていた。戦える者も、戦えない者も、それぞれができる仕事を引き受けている)
【ゴブリモン】
「こっちの柱、もう少し右だ!」
【オーガモン】
「分かってる! お前こそ足元に気をつけろ!」
(乱暴な言葉を交わしながらも、二体の動きには不思議なほどの息が合っていた)
(その様子を、集落の奥に設けられた療養所から一体の白い獅子が見守っている)
【パンジャモン】
「……随分と賑やかになったものだ」
(パンジャモンは寝台の上で、わずかに口元を緩めた。ルーチェモンの《パラダイスロスト》によって受けた傷は、まだ完全には癒えていない。立ち上がることはできても、長時間の戦闘に耐えられる状態ではなかった)
【エンジェウーモン】
「無理に起き上がらないでください。傷が開いてしまいます」
【パンジャモン】
「分かっている。だが、皆が働いているのに、私だけ寝ているというのも落ち着かなくてな」
【エンジェウーモン】
「あなたが生きていてくれることが、皆の支えになっているんです」
(そう言って、エンジェウーモンは包帯を取り替える)
(パンジャモンはしばらく黙っていたが、やがて窓の外へ視線を向けた)
【パンジャモン】
「……あの十体は?」
【エンジェウーモン】
「夜明け前から、北の高台に集まっています」
【パンジャモン】
「そうか」
(白獅子は静かに目を閉じた)
【パンジャモン】
「ならば、いよいよなのだろうな」
⸻
第二幕 十の力
(岩角集落の北側には、戦争が始まる以前から使われていた広い訓練場があった)
(かつては若いデジモンたちが互いの力を競い、集落の守り方を学んだ場所である。今、その中央に十体の究極体が集まっていた)
(炎のグレイモン。光のガルルモン。氷のメガテリウモン。風のイリスモン。雷のビートモン。闇のスフィンクモン。土のボルケーモン。木のトロイアモン。水のマーメイモン。そして鋼のワイズモン)
(彼らの姿は、第12話で究極体へ進化した時から変わっていない)
(しかし、その力の扱い方は、この七日間で大きく変化していた)
【グレイモン】
「準備はいいか?」
【ガルルモン】
「ああ。始めよう」
(グレイモンの身体を炎が包む。巨大な翼が広がり、足元の岩肌が熱によって赤く染まった)
(対するガルルモンは、光を帯びた刃を静かに構える)
【グレイモン】
「いくぞ!」
(炎の奔流が放たれる)
(直後、ガルルモンが地面を蹴った。巨大な身体が白い閃光となって駆け抜け、炎の側面へ斬撃を叩き込む)
(衝突した二つの力は、轟音とともに空へ舞い上がった)
【イリスモン】
「二体とも、少し強すぎるわ!」
(イリスモンが翼を広げ、暴れかけた熱風を上空へ逃がす)
【メガテリウモン】
「まったく。訓練場を壊すつもりか」
(メガテリウモンが冷気を放ち、熱を帯びた地面を冷却した)
【グレイモン】
「悪い。少し力を込めすぎた」
【ガルルモン】
「俺もだ。進化前と同じ感覚では、まだ扱いきれないな」
【ビートモン】
「それだけ強くなったってことだろう。だが、強さだけじゃ足りねえ」
(ビートモンの周囲で雷光が走る。彼は上空へ向けて電撃を放つと、その軌道を途中で変え、遠くに置かれた複数の岩標的だけを正確に打ち抜いた)
【ビートモン】
「守る相手を巻き込んだら、何の意味もねえからな」
【マーメイモン】
「その通りね。私たちの力は、もう以前のように扱ってはいけない」
(マーメイモンが水流を操り、砕けた岩の破片を集める)
(ボルケーモンは地面に手を当て、崩れた足場を持ち上げた。トロイアモンがその周囲を補強し、訓練場の傷んだ部分を元の形へ戻していく)
【ボルケーモン】
「壊すより直す方が難しいな」
【トロイアモン】
「だからこそ、覚える価値がある」
(少し離れた場所では、スフィンクモンが周囲の気配を読み取り、ワイズモンが各自の力の変化を観察していた)
【スフィンクモン】
「十体が同時に全力を出せば、敵だけでなく、この大地まで傷つけかねない」
【ワイズモン】
「だから連携が必要なのだ。一体の力を十倍にするのではない。十体の力を、必要な場所へ正確に届ける」
【グレイモン】
「……そうだな」
(グレイモンは自分の爪を見下ろした)
【グレイモン】
「俺たちは、あいつに勝つためだけに進化したんじゃない」
【ガルルモン】
「平和を守るためだ」
(十体の視線が交わる)
(彼らは、あの日の誓いを忘れていなかった)
⸻
第三幕 進軍の決断
(その日の正午、岩角集落の中央広場で抵抗軍の会議が開かれた)
(集まったのは、十戦士、三大天使、オーガモン、ゴブリモン、そして各防衛拠点の代表者たちである)
(広場の中央には、中央聖域へ続く街道と周辺地形を記した大きな地図が広げられていた)
【ホーリーエンジェモン】
「中央聖域軍は、我々の動きを警戒しているようです。南の街道では巡回部隊が増え、東の山道にも新しい監視所が設けられています」
【オーガモン】
「そりゃそうだろうな。こっちには究極体が十体もいるんだ。連中だって黙っちゃいねえ」
【アルケーエンジェモン】
「だが、まだ大規模な攻勢は確認されていない。こちらが防衛に徹している限り、中央軍も動きを決めかねているのだろう」
【ゴブリモン】
「だったら、今のうちに攻めた方がいいんじゃないか?」
(その言葉に、広場の空気が少しだけ緊張した)
【ホーリーエンジェモン】
「攻めること自体が目的になってはいけません」
【ゴブリモン】
「分かってるよ。でも、待ってるだけじゃ、また食料を止められるかもしれないだろ」
【マーメイモン】
「その心配はもっともよ。今の集落は、まだ十分な備蓄を持っていないもの」
【ワイズモン】
「だからこそ、目標を限定する必要がある。中央聖域の破壊でも、住民への報復でもない。交易路の解放と、ルーチェモンによる強制支配の終結だ」
【グレイモン】
「俺たちが行く」
(その一言で、周囲が静まり返った)
【グレイモン】
「中央聖域へ進む。あいつと話すために。そして、もう誰にも自由を奪わせないために」
【ガルルモン】
「交渉ができるなら、それが一番いい。だが、ルーチェモンがまた力で押さえつけようとするなら、俺たちが止める」
【ホーリーエンジェモン】
「……分かりました」
(ホーリーエンジェモンは地図へ目を落とした)
【ホーリーエンジェモン】
「我々三体も同行します」
【エンジェウーモン】
「負傷者の救護と住民の避難は、私が担当します。中央聖域には、戦争を望んでいない者たちも大勢いるはずです」
【アルケーエンジェモン】
「私が進軍部隊の防衛を受け持つ。退路の確保も必要だ」
【オーガモン】
「待てよ。お前らだけ行かせるつもりか?」
【グレイモン】
「オーガモン……」
【オーガモン】
「俺たちだって戦ってきたんだ。最後まで付き合うぜ」
【ゴブリモン】
「そうだ! 岩角の連中を置いていくなよ!」
【ガルルモン】
「……ありがとう」
(ガルルモンは一度頷き、それから真剣な声で続けた)
【ガルルモン】
「だが、全員が前へ出る必要はない。集落を守る者も必要だ。俺たちが勝って戻ってきた時、帰る場所がなくなっていたら困るからな」
(オーガモンは少しの間黙り、やがて大きく鼻を鳴らした)
【オーガモン】
「ちっ。言うようになったじゃねえか」
(そして、拳を握る)
【オーガモン】
「だったら、俺は進軍部隊の先導をやる。ゴブリモン、お前は集落に残れ」
【ゴブリモン】
「ええっ!? なんで俺だけ!」
【オーガモン】
「お前がいなきゃ、ここの連中が困るだろうが」
(ゴブリモンは口を開きかけたが、周囲の住民たちを見て、ゆっくりと閉じた)
【ゴブリモン】
「……分かったよ。絶対、帰ってこいよな」
【グレイモン】
「ああ。約束する」
(その約束が、どれほど重いものになるのか)
(この時、誰もまだ知らなかった)
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第四幕 白獅子の見送り
(進軍が決定した翌朝)
(集落の門前には、中央聖域へ向かう部隊が整列していた)
(先頭に十戦士。その後方に三大天使と抵抗軍の精鋭たちが続く)
(見送りに集まった住民の中から、ゆっくりと一体の白い獅子が姿を現した)
【エンジェウーモン】
「パンジャモン! まだ歩いてはいけません!」
【パンジャモン】
「見送りくらい、させてくれ」
(パンジャモンは杖代わりの長い木を支えに、十戦士の前まで歩いてきた)
【グレイモン】
「無理をするな。俺たちなら大丈夫だ」
【パンジャモン】
「……そうだな」
(白獅子は十体を順番に見つめた)
【パンジャモン】
「お前たちが究極体へ進化した時、私は嬉しかった。だが、同時に恐ろしくもなった」
【ガルルモン】
「恐ろしい?」
【パンジャモン】
「強い力は、使う者の心を変えることがある。ルーチェモンも、最初から今のような存在だったわけではない」
(その言葉に、三大天使が静かに目を伏せた)
【パンジャモン】
「お前たちは、あいつとは違う道を歩んでくれ」
【グレイモン】
「……ああ」
【パンジャモン】
「敵を倒した後に、誰が支配するかを決める戦いにしてはならん。誰もが自分の意志で生きられる世界を、取り戻すための戦いにするんだ」
【ガルルモン】
「忘れない」
【パンジャモン】
「それから……」
(パンジャモンは一度言葉を切った)
【パンジャモン】
「生きて帰ってこい」
(十体の間に、短い沈黙が落ちる)
【イリスモン】
「もちろんよ」
【ビートモン】
「帰ってきたら、またあの訓練場で勝負しようぜ」
【メガテリウモン】
「今度は地面を壊さないようにな」
(小さな笑い声が広がる)
(パンジャモンも笑った。しかし、その瞳には涙が浮かんでいた)
【パンジャモン】
「……行ってこい。十戦士よ」
(グレイモンが翼を広げる)
【グレイモン】
「行こう!」
(十戦士は、中央聖域へ向けて歩き始めた)
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第五幕 閉ざされた街道
【ホメオスタシス】
「中央聖域へ続く道は、かつて多くの集落を結ぶ交易路でした。食料や薬、道具だけでなく、異なる土地の文化や言葉が行き交う場所だったのです」
「ですが、今ではその道の各所に検問所が設けられ、中央の規則に従わない集落の通行は認められていませんでした」
(進軍開始から半日)
(十戦士たちは、南の街道に設けられた最初の検問所へ到着した)
(高い防壁の上には中央聖域軍の兵士たちが並び、その中央に一体の完全体指揮官が立っていた)
【中央軍指揮官】
「止まれ! ここから先は中央聖域の管理区域だ!」
(グレイモンが足を止める)
【グレイモン】
「俺たちは中央聖域へ向かう。ルーチェモンと話がしたい」
【中央軍指揮官】
「北方の反逆者が、何を勝手なことを!」
【ホーリーエンジェモン】
「我々は住民への攻撃を望んでいません。通行を認めてください」
(指揮官はホーリーエンジェモンの姿を認め、一瞬だけ動揺した)
【中央軍指揮官】
「……あなたは、かつての裁定官……!」
【ホーリーエンジェモン】
「今も、争いを終わらせたいという願いは変わりません」
【中央軍指揮官】
「ならば、ルーチェモン様の命令に従うべきです!」
【ホーリーエンジェモン】
「命令に従うことと、平和を守ることは、必ずしも同じではありません」
(指揮官は答えなかった)
(代わりに、右腕を振り上げる)
【中央軍指揮官】
「全軍、攻撃準備!」
(防壁の上で、無数の光弾が生まれた)
【アルケーエンジェモン】
「来るぞ!」
(光弾が一斉に放たれる)
(だが、十戦士は動じなかった)
【ボルケーモン】
「ここは俺が!」
(ボルケーモンが大地へ力を送り込む。街道の地面が盛り上がり、巨大な岩壁となって光弾を受け止めた)
(爆発音が響く)
【トロイアモン】
「防壁を維持する。前へ進め!」
(トロイアモンが周囲の地形を支え、崩落を防ぐ)
【メガテリウモン】
「次は私だ」
(冷気が街道を走った。検問所の門と、その周辺の武装設備が氷に覆われる)
【中央軍指揮官】
「なっ……!」
【グレイモン】
「門を開けろ! 俺たちは戦いに来たんじゃない!」
【中央軍指揮官】
「黙れ! 反逆者の言葉など聞くものか!」
(指揮官が自ら前へ飛び出す)
(その瞬間、白い閃光が横切った)
【ガルルモン】
「……遅い」
(ガルルモンの刃が指揮官の武器だけを弾き飛ばす)
(武器は地面に突き刺さり、指揮官は何が起きたのか理解できないまま立ち尽くした)
【ガルルモン】
「これ以上、戦う必要はない」
【中央軍指揮官】
「くっ……!」
(指揮官が再び攻撃しようとした時、スフィンクモンがその前へ立った)
【スフィンクモン】
「やめておけ。こちらは、お前を消滅させるつもりはない」
(その声には、揺るぎない重みがあった)
(指揮官は十戦士を見回す)
(炎、光、氷、風、雷、闇、土、木、水、鋼。これまで戦場で見たこともないほど強大な存在が、目の前に並んでいた)
(それでも、彼らは倒れた兵士に追撃を加えようとはしなかった)
【中央軍指揮官】
「……門を、開けろ」
(重い門が、ゆっくりと左右に開いていく)
⸻
第六幕 力を示す者たち
(検問所を突破した十戦士は、さらに中央聖域へ向けて進んだ)
(しかし、街道を進むにつれて、中央軍の抵抗は激しさを増していった)
(第二防衛線では、山道を利用した待ち伏せが行われた)
(第三防衛線では、上空からの一斉攻撃が仕掛けられた)
(それでも、十戦士の進軍は止まらなかった)
【イリスモン】
「上空は任せて!」
(イリスモンが風をまとって舞い上がる。迫り来る攻撃を気流で逸らし、敵兵たちの飛行経路を乱した)
【ビートモン】
「今だ!」
(ビートモンが放った雷撃は、敵の武装設備だけを次々と破壊していく)
【中央軍兵士】
「こんな……! 攻撃が当たらない!」
【マーメイモン】
「無理に戦わないで!」
(マーメイモンが水流を広げ、逃げ遅れた兵士たちを安全な場所へ押し流した)
(その間に、オーガモンたち抵抗軍が敵の武器を回収し、捕虜となった兵士を後方へ移送する)
【オーガモン】
「まったく、敵を助けながら進むなんて、面倒な戦い方をしやがる!」
【アルケーエンジェモン】
「不満か?」
【オーガモン】
「……いいや」
(オーガモンは肩に担いだ武器を持ち直した)
【オーガモン】
「悪くねえよ」
(さらに進んだ先では、中央軍が橋を落として進軍を妨害していた)
(橋の向こう側には、避難できずに取り残された住民たちの姿もあった)
【中央軍兵士】
「近づくな! 橋を渡ろうとすれば攻撃する!」
【グレイモン】
「住民がいるだろう!」
【中央軍兵士】
「中央の命令だ! 反逆軍を通すわけにはいかない!」
(グレイモンが一歩踏み出しかけた時、ワイズモンが制止した)
【ワイズモン】
「待て。橋を壊された以上、正面からの突破は危険だ」
【ボルケーモン】
「なら、新しい道を作ればいい」
(ボルケーモンが地面へ手をつく)
(谷底から巨大な岩柱が次々とせり上がった)
【トロイアモン】
「支えは任せろ」
(トロイアモンが岩柱を安定させる)
【マーメイモン】
「私も手伝うわ」
(水流が岩の隙間を流れ、崩れかけた足場を整えていく)
(やがて、落とされた橋の隣に、新たな岩の道が完成した)
【中央軍兵士】
「……そんな馬鹿な」
【グレイモン】
「これで渡れる!」
(十戦士は住民たちを安全な場所へ誘導した)
(彼らが橋を渡り終えた後、中央軍の兵士が小さな声で尋ねた)
【中央軍兵士】
「なぜ……我々まで助ける?」
【ガルルモン】
「お前たちも、この世界で生きているからだ」
(ガルルモンはそれだけ答え、仲間たちの後を追った)
(その背中を、兵士は長い間見つめていた)
⸻
第七幕 中央聖域の変化
(十戦士の進軍は、中央聖域の内部にも波紋を広げていた)
(各地の検問所が突破されたという報告が、次々と中央へ届く)
(しかし、その報告には奇妙な共通点があった)
(敗北した兵士の多くが生存していること。住民への被害がほとんど確認されていないこと。そして、十戦士が通過した地域では、中央軍による交易制限が事実上解除され始めていることだった)
(中央聖域の行政区画では、複数の担当者が報告書を前に困惑していた)
【中央聖域の担当者】
「北方軍は、なぜ捕虜を処刑しない?」
【別の担当者】
「分かりません。負傷兵を治療して解放したという報告まであります」
【中央聖域の担当者】
「それでは……我々が聞かされていた反逆軍の姿と、違うではないか」
(誰も答えられなかった)
(かつて、ルーチェモンが中央聖域を築いた時、この場所には多くの希望があった)
(争いを終わらせ、互いを助け合う世界を作る)
(その理想に惹かれ、集まった者たちは少なくなかった)
(だが、いつしか秩序を守ることが目的となり、秩序に従わない者を排除することが当然とされるようになっていた)
(十戦士の進軍は、その当然を揺さぶり始めていた)
⸻
第八幕 かつての聖域
(進軍三日目の夕刻)
(十戦士たちは、ついに中央聖域を望む高台へ到着した)
(眼下には、広大な都市が広がっている)
(整然とした街道。白く輝く建造物。中央にそびえる巨大な宮殿)
(それは、かつてルーチェモンが平和の象徴として築いた場所だった)
【エンジェウーモン】
「……変わっていませんね」
(エンジェウーモンが小さく呟く)
【ホーリーエンジェモン】
「建物は、な」
【アルケーエンジェモン】
「私たちがここを離れた時も、あの塔は輝いていた」
(アルケーエンジェモンは中央の宮殿を見上げた)
【アルケーエンジェモン】
「だが、あの時から何も変わらなかったわけではない」
【グレイモン】
「……三体とも、つらいか?」
(ホーリーエンジェモンは少し考えてから答えた)
【ホーリーエンジェモン】
「つらくないと言えば、嘘になります」
(彼は宮殿を見つめる)
【ホーリーエンジェモン】
「ルーチェモンは、私たちに平和の可能性を教えてくれた存在でした。争いを止めるために力を使い、弱い者の声に耳を傾けていた」
【エンジェウーモン】
「私たちは、あの頃の彼を知っています」
【アルケーエンジェモン】
「だからこそ、今の彼を止めねばならない」
(グレイモンは黙って頷いた)
【ガルルモン】
「……まだ、話せるかもしれない」
【ホーリーエンジェモン】
「ええ。その可能性を、最後まで捨てるつもりはありません」
(夕陽が中央聖域を照らしていた)
(かつて希望の象徴だった光は、今も美しい)
(だが、その光の中心にいる存在が、何を考えているのか)
(十戦士には、まだ分からなかった)
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第九幕 玉座の天使
(中央聖域、最奥の宮殿)
(巨大な扉の向こう、静かな玉座の間に、一体の天使が座していた)
(ルーチェモン:フォールダウンモード)
(白と黒、光と闇をその身に宿した堕天使は、届けられた報告を静かに聞いていた)
【中央軍の伝令】
「北方の反逆軍が、第三防衛線を突破しました」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……そう」
【中央軍の伝令】
「敵の主力は、これまで確認されていない十体のデジモンです。いずれも、完全体を大きく上回る力を持つものと思われます」
(ルーチェモンは、わずかに目を細めた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「十体?」
【中央軍の伝令】
「はい。報告によれば、炎、光、氷、風、雷、闇、土、木、水、鋼……それぞれ異なる力を操るとのことです」
(短い沈黙)
(やがて、ルーチェモンは静かに立ち上がった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……あの戦場で生き残った者たちか」
(彼の脳裏に、北方の戦場が浮かぶ)
(多数の完全体を消滅させ、白い獅子を地に伏せさせた、あの日の光景)
(あの時、ルーチェモンは抵抗軍を完全に打ち砕いたと思っていた)
(生き残った者たちに、再び立ち向かう力など残されていないはずだった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……面白いね」
(その声には、驚きよりも興味が含まれていた)
【中央軍の伝令】
「ルーチェモン様。いかがいたしましょう」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「兵を下がらせて」
【中央軍の伝令】
「……は?」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「これ以上、無駄な戦いをさせる必要はないよ」
(ルーチェモンは玉座の間の窓へ歩み寄った)
(遠く、中央聖域の外縁に十の強大な気配を感じる)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「僕が直接、話をしよう」
【中央軍の伝令】
「し、しかし……!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「大丈夫だよ」
(ルーチェモンは振り返り、穏やかに微笑んだ)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「僕が、すべて終わらせてあげるから」
(その言葉は、かつて三大天使が聞いたものと、少しも変わっていなかった)
⸻
第十幕 再会
(中央聖域の外門)
(十戦士と三大天使は、ついに都市の入口へ到着した)
(門前には多数の兵士が並んでいたが、誰も攻撃を仕掛けようとはしなかった)
(代わりに、門がゆっくりと開かれる)
【オーガモン】
「……妙だな」
【アルケーエンジェモン】
「警戒を解くな」
(門の向こうから、一体の影が歩いてくる)
(小柄な身体)
(白と黒の翼)
(そして、かつて多くのデジモンを救った天使の面影)
【エンジェウーモン】
「……ルーチェモン」
(その名が呼ばれた瞬間、空気が張り詰めた)
(ルーチェモン:フォールダウンモードは、門の前で足を止める)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「久しぶりだね」
(彼は三大天使を見つめた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「ホーリーエンジェモン。エンジェウーモン。アルケーエンジェモン」
【ホーリーエンジェモン】
「……ルーチェモン」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「君たちが戻ってきてくれて、嬉しいよ」
(その声は、あまりにも自然だった)
(まるで、何も起きていなかったかのように)
【エンジェウーモン】
「私たちは、あなたを止めに来ました」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「止める?」
【アルケーエンジェモン】
「もう十分だ。これ以上、中央の秩序を理由に誰かの自由を奪うな」
(ルーチェモンは、少し悲しそうに首を傾げた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……まだ、分かってくれないんだね」
(彼の視線が、十戦士へ移る)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「それで、君たちが新しい力を手に入れたデジモンたち?」
【グレイモン】
「そうだ」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「すごいね。あの時は、みんな完全体だったのに」
(グレイモンは、その言葉に拳を握った)
【グレイモン】
「……覚えているのか」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「もちろん。僕が戦場へ行った時、君たちはそこにいたからね」
【ガルルモン】
「お前は、俺たちの仲間を大勢消した」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「彼らが戦いをやめなかったからだよ」
(あまりにも淡々とした答えだった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「僕は、無駄な争いを終わらせたかっただけなんだ」
【スフィンクモン】
「……それで、命を奪ったのか」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「争いを続ければ、もっと多くの命が失われる。だから僕が止めた。それだけだよ」
【ホーリーエンジェモン】
「あなたは、平和のために戦っていると言う」
(ホーリーエンジェモンが一歩前へ出た)
【ホーリーエンジェモン】
「ですが、その平和を守るために、あなた自身が多くの命を奪っている。その矛盾に、なぜ気づかないのですか」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「矛盾なんてないよ」
(ルーチェモンは静かに答えた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「僕が世界を管理すれば、もう誰も争わなくて済む。みんなが僕の決めた秩序に従えば、誰も苦しまない」
【ガルルモン】
「それは平和じゃない」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……どうして?」
【ガルルモン】
「自分で選ぶことも、間違えることも許されない世界なんて、生きている意味がない」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「間違えなければ、傷つかないよ」
【グレイモン】
「傷つかないために、何も選べなくなるのか!」
(グレイモンの声が、外門の広場に響いた)
【グレイモン】
「俺たちは弱かった! 仲間を守れなかった! 何度も負けて、何度も間違えた!」
(その背後で、残る九体が静かに立っている)
【グレイモン】
「でも、だからこそ分かったんだ! 誰かに全部決めてもらうんじゃない! 自分たちで考えて、自分たちで選んで、それでも助け合って生きていくんだ!」
(ルーチェモンは黙って聞いていた)
(やがて、微笑みが消える)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……残念だよ」
(白と黒の翼が、ゆっくりと広がった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「君たちなら、僕の言葉を理解してくれると思ったのに」
(空気が震えた)
(周囲の兵士たちが、思わず後ずさる)
【アルケーエンジェモン】
「全員、下がれ!」
(アルケーエンジェモンが防御の構えを取る)
【エンジェウーモン】
「街の住民を避難させてください!」
【オーガモン】
「分かった! お前らも気をつけろよ!」
(抵抗軍の兵士たちが、中央聖域の住民を安全な場所へ誘導し始める)
(その間、十戦士は一歩も退かなかった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……また、僕と戦うつもり?」
【グレイモン】
「違う」
(グレイモンが炎をまとい、前へ進む)
【グレイモン】
「俺たちは、この戦争を終わらせに来た!」
(ガルルモンが隣へ並ぶ)
【ガルルモン】
「そして、お前を止める」
(十体の究極体が、それぞれの力を解き放った)
(炎が燃え上がり、光が輝く。氷の冷気が地面を走り、風が渦を巻く。雷鳴が轟き、闇が深まり、大地が震える。木々の生命力と水の流れが広がり、鋼の力が戦場を満たしていく)
(ルーチェモンは、その光景を静かに見つめた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……いいよ」
(彼の背後で、白と黒の力が渦を巻く)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「そこまで言うなら、君たちにも教えてあげる」
(そして、かつて世界へ平和をもたらした天使は、冷たい笑みを浮かべた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「本当の秩序が、どれほど強いものなのかをね」
⸻
終幕 決戦前夜の終わり
(狭間劇場)
(スクリーンに映る十戦士とルーチェモンを、サイガは息を呑んで見つめていた)
【サイガ】
「……ついに、直接戦うことになるんだね」
【ホメオスタシス】
「ええ。第一次ルーチェモン戦役は、ここから最終局面へ入ります」
【サイガ】
「でも……十体とも究極体になったんだよね。それなら、今度こそ勝てるんじゃ……」
【イグドラシル】
「そう思いたいところだね。十体が究極体へ進化したことで、戦力差は以前とは比べものにならないほど縮まっているよ」
【崑崙】
「ただし、相手はルーチェモンだ。進化段階だけで勝敗を決められる存在じゃないね」
【ホメロス】
「それに、十戦士は敵を倒すことだけを考えているわけではありませんわ。中央聖域の住民も、敵兵も、できる限り守ろうとしているのですもの」
【サイガ】
「……そうか。強くなったからって、何でも壊していいわけじゃないんだ」
【ホメオスタシス】
「その通りです」
(ホメオスタシスは静かに微笑んだ)
【ホメオスタシス】
「彼らが手に入れた究極の力は、支配するためのものではありません。誰もが自らの意志で生きられる世界を守るためのものなのです」
(スクリーンの中で、十戦士が一斉に構える)
(その正面には、白と黒の翼を広げた堕天使が立っていた)
【ホメオスタシス】
「次に観測するのは、原初の世界を揺るがす戦い」
「十の究極の力と、堕天した天使の力が、初めて真正面から激突します」
(光が、ゆっくりと暗転していく)
第13話「十戦士、進軍」――完。
次回 第14話「光と闇の激突」