第一幕 十の意志
【ホメオスタシス】
「第一次ルーチェモン戦役。その終焉を決定づける戦いは、中央聖域の大広場で続いていました」
(かつて白く美しい建造物が立ち並んでいた広場は、見る影もなく荒れ果てていた。石畳は砕け、地面には幾重もの亀裂が走り、空にはルーチェモンが放った白と黒の力が残滓となって漂っている)
(その中心で、十体の究極体が再び立ち上がっていた)
(炎のグレイモン。光のガルルモン。氷のメガテリウモン。風のイリスモン。雷のビートモン。闇のスフィンクモン。土のボルケーモン。木のトロイアモン。水のマーメイモン。そして鋼のワイズモン)
(いずれも満身創痍だった。《デッド・オア・アライブ》によって防御を破壊され、《パラダイスロスト》によって幾度となく地面へ叩きつけられた。究極体へと進化した彼らでさえ、ルーチェモンの力を前にして消耗を隠せずにいた)
(それでも、誰一体として退こうとはしなかった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……本当に、しつこいね」
(白と黒の翼を広げたルーチェモンが、空中から十戦士を見下ろしている)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「もう十分でしょう? 君たちはよく戦った。究極体になったことも、僕に傷をつけたことも認めてあげるよ。でも、ここまでだ」
【グレイモン】
「……勝手に決めるな」
(グレイモンが大地に爪を立てる)
【グレイモン】
「俺たちは、まだ終わっちゃいない!」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「君たちが終わりを認めなくても、結果は変わらないよ」
【ガルルモン】
「そうやって、すべてをお前一体で決めるつもりか」
(ガルルモンがグレイモンの隣へ進み出る)
【ガルルモン】
「誰が何を望み、どう生きるべきか。誰が食料を受け取り、誰が土地を治めるのか。お前は、そのすべてを自分の判断で決めようとした」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「それが一番確実だからだよ」
【ガルルモン】
「……その考えこそ、俺たちが止めなければならないものだ」
(ルーチェモンは、静かに目を細めた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「だったら、また力で示してみなよ」
(その掌に、黒い光が集まり始める)
(十戦士は互いに視線を交わした)
(もはや、一体の力で立ち向かえる相手ではない。それは全員が理解していた。しかし、十体で同時に攻撃するだけでも、ルーチェモンの圧倒的な力を突破することは難しい)
(必要なのは、力の量ではなかった)
(それぞれが持つ力を、何のために、どの瞬間に使うのか)
(十戦士は、その答えを探していた)
⸻
第二幕 天使たちの決意
(戦場の外縁では、三大天使が最後の避難誘導を終えようとしていた)
【エンジェウーモン】
「こちらの通路へ! 負傷した方を先に通してください!」
(エンジェウーモンが中央聖域の住民たちを誘導する。その列には、北方抵抗軍だけでなく、ルーチェモンに仕えていた中央軍の兵士たちも混じっていた)
【中央軍兵士】
「……我々も助けるのか?」
【エンジェウーモン】
「もちろんです。あなたたちも、この世界で生きる命ですから」
(兵士は驚いた表情を浮かべたが、やがて小さく頭を下げ、負傷した仲間を支えて歩き始めた)
(その頭上では、アルケーエンジェモンが防御結界を展開していた)
【アルケーエンジェモン】
「……長くは持たんぞ!」
(ルーチェモンと十戦士の衝突によって生まれる衝撃波が、結界を絶えず揺さぶっている)
【ホーリーエンジェモン】
「避難は、あとどれほどですか?」
【エンジェウーモン】
「もう少しです。最後の一団が通れば、戦場周辺からの退避は完了します」
(ホーリーエンジェモンは頷き、中央広場へ視線を向けた)
(そこには、かつて自分たちが忠誠を誓った天使の姿があった)
【ホーリーエンジェモン】
「……ルーチェモン」
(その名を呼ぶ声には、深い悲しみが滲んでいた)
【アルケーエンジェモン】
「まだ、迷っているのか?」
【ホーリーエンジェモン】
「……いいえ」
(ホーリーエンジェモンは静かに首を振る)
【ホーリーエンジェモン】
「彼を止めると決めたことに、迷いはありません。ただ……かつての彼を知っているからこそ、消滅させる以外の道を探したいのです」
【エンジェウーモン】
「……私も、同じ気持ちです」
(エンジェウーモンが二体の隣へ戻ってきた)
【エンジェウーモン】
「最初に彼と出会った時、ルーチェモンは争うデジモンたちの間に立っていました。誰かを傷つけるためではなく、争いを終わらせるために」
【アルケーエンジェモン】
「だが、今はその力を支配のために使っている」
【ホーリーエンジェモン】
「ええ。だからこそ、封じなければなりません」
(ホーリーエンジェモンは二体へ向き直った)
【ホーリーエンジェモン】
「私には、考えがあります」
(彼は自身の聖なる力を掌へ集め、銀色の小さな術式を形成した)
【ホーリーエンジェモン】
「ルーチェモンの力そのものを打ち消すことはできなくとも、封印によって隔離することは可能かもしれません」
【アルケーエンジェモン】
「……ダークエリアか」
【ホーリーエンジェモン】
「はい。The ORIGINの深部に存在する、光の届きにくい領域。そこへ封印を固定します」
【エンジェウーモン】
「でも、あれほどの力を持つルーチェモンを、どうやって……?」
【ホーリーエンジェモン】
「三体の力を合わせるのです」
(ホーリーエンジェモンは術式を三つに分けた)
【ホーリーエンジェモン】
「私が封印の構造を作り、エンジェウーモンが聖なる光で対象の力を抑制する。そして、アルケーエンジェモンが結界を固定する」
【アルケーエンジェモン】
「……理屈は通る。だが、発動には時間が必要だ」
【ホーリーエンジェモン】
「ええ。その時間を、十戦士たちに作っていただかなければなりません」
(三体は中央広場を見つめた)
(十戦士は、すでに限界に近い)
(それでも彼らは戦っていた)
【エンジェウーモン】
「……お願いしましょう。私たちも、最後まで彼らと一緒に戦います」
【アルケーエンジェモン】
「ああ。今度こそ、我々自身の意志でな」
⸻
第三幕 十戦士、再び
(ルーチェモンが黒い光弾を放った)
(それを迎え撃ったのは、メガテリウモンだった)
【メガテリウモン】
「通さん!」
(氷の障壁が立ち上がり、光弾を受け止める。しかし、衝撃によって氷は砕け、メガテリウモンの巨体が後方へ押し戻された)
【ビートモン】
「今だ!」
(雷撃が空を走る)
(ルーチェモンは翼を翻して回避したが、その進路にイリスモンが回り込んだ)
【イリスモン】
「こっちよ!」
(突風がルーチェモンの姿勢を崩す)
(その瞬間、ボルケーモンが大地を隆起させた)
【ボルケーモン】
「逃がすか!」
(巨大な岩柱がルーチェモンの足元から突き上がる)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……また、その程度の連携?」
(ルーチェモンは片手を振り、岩柱を砕いた)
(だが、砕けた岩の向こうから、トロイアモンの力によって生み出された巨大な樹木が伸びる)
【トロイアモン】
「まだ終わらん!」
(枝がルーチェモンの腕へ絡みついた)
【マーメイモン】
「お願い、もう少しだけ!」
(水流が枝を包み込み、動きを封じる)
(ルーチェモンの眉がわずかに動いた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……しつこいな」
(白い光が爆発し、拘束が弾け飛ぶ)
(しかし、そこにはスフィンクモンが待ち構えていた)
【スフィンクモン】
「お前が闇を支配できると思うな」
(スフィンクモンの闇がルーチェモンの足元に広がり、動きを一瞬だけ鈍らせる)
【ワイズモン】
「グレイモン! ガルルモン!」
(ワイズモンの合図とともに、二体が飛び出した)
【グレイモン】
「うおおおおっ!」
【ガルルモン】
「はあああっ!」
(炎をまとった巨体と、光を宿した刃が、同時にルーチェモンへ迫る)
(ルーチェモンは腕を交差させ、二体の攻撃を受け止めた)
(衝撃によって大地が砕ける)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……っ!」
(初めて、ルーチェモンの身体がわずかに後退した)
(だが、次の瞬間には白と黒の力が爆発し、二体を吹き飛ばした)
【グレイモン】
「ぐあっ!」
【ガルルモン】
「くっ……!」
(グレイモンとガルルモンは地面を滑りながら体勢を立て直す)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……なるほど」
(ルーチェモンは十戦士を見回した)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「君たちは、まだ僕を倒せると思っているんだね」
【ワイズモン】
「倒すことだけが、我々の目的ではない」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……何?」
(その時、三大天使が戦場へ降り立った)
⸻
第四幕 封印への道
【ホーリーエンジェモン】
「十戦士の皆さん!」
(ホーリーエンジェモンがグレイモンたちの前へ進み出る)
【グレイモン】
「ホーリーエンジェモン! 避難は!?」
【エンジェウーモン】
「完了しました。住民たちは安全な場所へ退いています」
【ガルルモン】
「……そうか」
(ガルルモンが安堵の息を吐く)
【ホーリーエンジェモン】
「そして、我々には一つの方法があります」
(ホーリーエンジェモンは、ルーチェモンを見据えた)
【ホーリーエンジェモン】
「彼を、ダークエリアへ封印します」
(十戦士の間に緊張が走った)
【グレイモン】
「……封印?」
【アルケーエンジェモン】
「三体の力を合わせれば、可能性はある。ただし、術式の完成までルーチェモンの動きを止める必要がある」
【ワイズモン】
「……なるほど」
(ワイズモンはしばらく考え込み、やがて頷いた)
【ワイズモン】
「我々が、その時間を作ればよいのだな」
【ホーリーエンジェモン】
「……はい」
【グレイモン】
「分かった!」
(グレイモンは迷わず答えた)
【グレイモン】
「俺たちがルーチェモンを止める。だから、封印は頼んだ!」
【エンジェウーモン】
「……ありがとうございます」
(エンジェウーモンが深く頭を下げる)
【ガルルモン】
「礼を言うのは、すべてが終わってからだ」
(ガルルモンは、ルーチェモンへ視線を向けた)
【ガルルモン】
「……行くぞ、みんな」
(十戦士が一斉に構えた)
(ルーチェモンは、その様子を静かに見つめていた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……封印、か」
(その声には、冷たい響きがあった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「君たちは、本当に僕を止めるつもりなんだね」
【ホーリーエンジェモン】
「……はい」
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……残念だよ」
(ルーチェモンの周囲に、白と黒の力が集まり始めた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「だったら、今度こそ容赦しない」
(空が震えた)
⸻
第五幕 八つの戦場
(ルーチェモンが動いた)
(白と黒の翼が大きく広がり、無数の光弾が十戦士へ襲いかかる)
【ワイズモン】
「散開!」
(十戦士は一斉に動いた)
(メガテリウモンが氷の障壁を展開し、マーメイモンが水流で衝撃を逸らす。イリスモンは風で光弾の軌道を乱し、ビートモンが雷撃で迎撃した)
(その隙に、ボルケーモンが地面を持ち上げ、トロイアモンが樹木の壁を形成する)
(スフィンクモンは闇の力を広げ、ルーチェモンの視界を遮った)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……小細工を!」
(ルーチェモンが闇を吹き飛ばす)
(だが、そこにはワイズモンが待ち構えていた)
【ワイズモン】
「……今だ」
(ワイズモンの鋼の力が、ルーチェモンの周囲に一瞬の拘束を生み出す)
(それは、ほんのわずかな時間だった)
(しかし、その一瞬が、グレイモンとガルルモンにとっては十分だった)
【グレイモン】
「……行くぞ!」
【ガルルモン】
「ああ!」
(二体が同時に飛び出した)
(炎と光が、ルーチェモンへ迫る)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……っ!」
(ルーチェモンは拘束を破り、両腕を広げた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「《デッド・オア・アライブ》!」
(白と黒の力が爆発する)
(十戦士は防御へ移った)
(メガテリウモンの氷、ボルケーモンの岩、トロイアモンの樹木、マーメイモンの水流が重なり、巨大な防御壁を形成する)
(だが、ルーチェモンの力は、そのすべてを削り取っていった)
【ボルケーモン】
「ぐっ……!」
【メガテリウモン】
「……まだだ!」
(防御壁が砕ける)
(爆発が広場を包み込み、十戦士の身体を吹き飛ばした)
(それでも、彼らは倒れなかった)
(グレイモンとガルルモンは、仲間たちの作ったわずかな隙間を抜け、ルーチェモンへ迫る)
【グレイモン】
「うおおおおっ!」
【ガルルモン】
「はあああっ!」
(ルーチェモンが二体を迎え撃つ)
(激しい衝突が続いた)
(十戦士は、それぞれの力を失ってはいなかった)
(誰一体として、他の者へ力を譲り渡してはいない)
(八体は八体のまま、戦場を支え続けていた)
(そして、グレイモンとガルルモンは、自分自身の力で限界を超えようとしていた)
⸻
第六幕 咆哮の限界突破
(グレイモンは、荒い息を吐きながらルーチェモンを見据えた)
(身体は限界に近かった)
(それでも、彼の内側には、まだ消えていない炎があった)
(北方の集落)
(傷ついたパンジャモン)
(戦場で消えていった仲間たち)
(そして、あの日交わした誓い)
【グレイモン】
「……俺たちは、もう誰も失いたくない!」
(グレイモンの身体から、激しい炎が噴き上がる)
(その炎は、これまでとは異なる輝きを放っていた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……何?」
(ルーチェモンが、初めて警戒するように身構えた)
【グレイモン】
「この世界を……俺たちの未来を……!」
(グレイモンは、全身の力を込めて咆哮する)
【グレイモン】
「《ガイアブレイブ》!!」
(天地を震わせる咆哮が放たれた)
(それは、炎をまとった巨大な衝撃波となり、ルーチェモンへ一直線に迫る)
(大地が震え、空気が燃え上がる)
(ルーチェモンは両腕を交差させ、防御の構えを取った)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「ぐっ……!」
(咆哮の衝撃が、ルーチェモンの身体を押し戻す)
(その足元の地面が、深く抉れた)
(だが、攻撃はまだ終わっていなかった)
⸻
第七幕 光の限界突破
(ガルルモンが、静かに前へ進む)
(その身体を包む光は、グレイモンの炎とは対照的に、澄み切った輝きを放っていた)
(ガルルモンの内側で、何かが静かに目覚めようとしていた)
(それは、仲間から受け取った力ではない)
(彼自身が積み重ねてきた戦いと、守りたい未来への意志が生み出した力だった)
【ガルルモン】
「……グレイモン」
【グレイモン】
「……ああ!」
(ガルルモンは、ルーチェモンへ視線を向けた)
【ガルルモン】
「お前は、誰も傷つかない世界を望んだ」
(その声は、静かだった)
【ガルルモン】
「だが、そのために誰かの自由を奪えば、いつか必ず争いが生まれる」
(光の刃が、さらに輝きを増す)
【ガルルモン】
「俺たちは、傷つくことを恐れない。間違えることもあるだろう。それでも、互いを信じて進んでいく!」
(ガルルモンが、地面を蹴った)
【ガルルモン】
「《アブソリュート・クロス》!!」
(白銀の閃光が、戦場を駆け抜ける)
(交差する二つの斬撃が、ルーチェモンへ襲いかかった)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……っ!」
(ルーチェモンは咆哮を受け止めながら、斬撃を回避しようとした)
(しかし、ガルルモンの動きは、その予想を上回っていた)
(光の刃が交差し、ルーチェモンの防御を切り裂く)
(轟音とともに、白と黒の翼が大きく揺れた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「ぐああああっ!」
(ルーチェモンの身体が、後方へ吹き飛ばされる)
(グレイモンの咆哮と、ガルルモンの斬撃)
(二つの限界突破奥義が、同時にルーチェモンへ迫っていた)
⸻
第八幕 未来からの欠片
(その瞬間だった)
(グレイモンとガルルモンのデジコアが、同時に強く輝いた)
(それは、二体自身の力とは異なる、微かな光だった)
(遠い未来から届いた、あの咆哮)
(かつて二体だけが聞いた、正体不明の声)
(その残響が、今、二体の内側で静かに響いた)
【グレイモン】
「……っ!?」
【ガルルモン】
「……この感覚は……!」
(二体の限界突破奥義が、空中で重なり始めた)
(炎の咆哮が、光の斬撃を包み込む)
(交差する刃が、咆哮の力を一つの方向へ導いていく)
(そして、二つの力は、まったく新しい輝きへと変化した)
【ワイズモン】
「……何だ、これは!?」
【イリスモン】
「二つの技が……一つになっている!?」
(グレイモンとガルルモンも、驚きを隠せなかった)
【グレイモン】
「……分からない! でも……!」
【ガルルモン】
「……今なら、届く!」
(二体の声が重なった)
【グレイモン&ガルルモン】
「《ホーリーブレイブ》!!」
(巨大な光の奔流が、ルーチェモンへ襲いかかった)
(それは、炎の咆哮と光の斬撃が融合した、未知の限界突破奥義だった)
(ルーチェモンは、咄嗟に白と黒の力を集中させる)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……こんな力が……!」
(衝突)
(中央聖域の空が、真っ白に染まった)
(凄まじい衝撃が広がり、ルーチェモンの身体が大地へ叩きつけられる)
(地面に巨大な亀裂が走り、広場の中央に深い穴が生まれた)
(そして、爆煙の中から、ルーチェモンの苦しげな声が響く)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「ぐっ……ああああっ!」
(初めて、ルーチェモンが明確に追い詰められた)
⸻
第九幕 三位一体の審判
(ホーリーエンジェモンが、戦場中央へ降り立った)
【ホーリーエンジェモン】
「……今です!」
(エンジェウーモンとアルケーエンジェモンが、その左右へ並ぶ)
(三体の天使が、同時に力を解き放った)
(ホーリーエンジェモンの周囲に、巨大な銀色の術式が浮かび上がる)
(エンジェウーモンの聖なる光が、その術式へ流れ込む)
(アルケーエンジェモンが、封印を維持するための結界を展開する)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……君たち……!」
(ルーチェモンは、傷ついた身体を起こそうとした)
(しかし、十戦士が一斉に前へ出る)
【グレイモン】
「……行かせない!」
【ガルルモン】
「今度こそ、終わらせる!」
(十戦士が、それぞれの力を解き放ち、ルーチェモンの動きを封じる)
(炎、光、氷、風、雷、闇、土、木、水、鋼)
(十の力が、ルーチェモンの周囲に重なり合った)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……こんな……!」
(ルーチェモンは、初めて明確な焦りを見せた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「僕が……僕が、間違っているはずがない!」
【ホーリーエンジェモン】
「……ルーチェモン」
(ホーリーエンジェモンの声が、静かに響いた)
【ホーリーエンジェモン】
「あなたが最初に望んだ平和を、私は忘れていません」
【エンジェウーモン】
「あなたが救った命も、あなたを信じた者たちも……私たちは、忘れません」
【アルケーエンジェモン】
「だが、今のお前を、このままにしておくことはできない」
(三体の天使が、同時に両腕を掲げた)
(銀色の光が、空へ広がっていく)
【ホーリーエンジェモン】
「秩序を、正しき形へ」
【エンジェウーモン】
「命を、未来へ」
【アルケーエンジェモン】
「そして、争いに終止符を」
(三体の声が、重なった)
【三大天使】
「《シルバー・トリニティ・ジャッジメント》!!」
(巨大な銀色の光柱が、ルーチェモンを包み込んだ)
(その周囲に、幾重もの封印術式が展開される)
(光柱の内部では、The ORIGINのダークエリアへ通じる封印経路が開かれていた)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……やめろ……!」
(ルーチェモンが叫ぶ)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「僕は……僕は、世界を救おうとしただけなのに……!」
(銀色の光が、さらに強まる)
【ルーチェモン:フォールダウンモード】
「……どうして……誰も、分かってくれないんだ……!」
(その声は、かつて世界へ平和をもたらした天使のものだった)
(そして、次の瞬間)
(ルーチェモンの身体は、銀色の光の中へ完全に飲み込まれた)
(封印術式が閉じる)
(白と黒の翼が、視界から消えた)
(静寂)
(中央聖域を支配していた、あの圧倒的な気配が消えていた)
⸻
第十幕 戦争の終わり
(しばらくの間、誰も動かなかった)
(十戦士は、ルーチェモンが消えた場所を見つめていた)
(三大天使も、封印術式が完全に閉じたことを確認するまで、言葉を発しなかった)
【アルケーエンジェモン】
「……封印は、成功した」
(その声が、静かな広場へ響いた)
【エンジェウーモン】
「……終わったんですね」
(エンジェウーモンの頬を、一筋の涙が伝った)
【ホーリーエンジェモン】
「……ええ」
(ホーリーエンジェモンは、ゆっくりと目を閉じた)
【ホーリーエンジェモン】
「第一次ルーチェモン戦役は……終結しました」
(その言葉を聞いた瞬間、遠くの避難区域から歓声が上がった)
(抵抗軍の兵士たちが、互いに抱き合う)
(中央聖域の住民たちも、戦いが終わったことを知り、安堵の表情を浮かべた)
【オーガモン】
「……勝った……のか?」
(オーガモンは、信じられないように呟いた)
【アルケーエンジェモン】
「ああ。終わった」
【オーガモン】
「……そうか」
(オーガモンは、空を見上げた)
【オーガモン】
「……やっと、終わったんだな」
(その目には、涙が浮かんでいた)
⸻
第十一幕 十の光
(戦場中央)
(グレイモンは、静かに空を見上げていた)
【グレイモン】
「……綺麗だな」
(中央聖域の空には、戦闘の煙が晴れ、穏やかな光が差し込んでいた)
【ガルルモン】
「……ああ」
(二体は、しばらく黙ってその光景を見つめていた)
(やがて、グレイモンの身体から、淡い光の粒子が零れ始めた)
【グレイモン】
「……あれ?」
(ガルルモンも、自分の身体を見下ろす)
(その身体からも、同じように光が溢れ始めていた)
【ガルルモン】
「……そうか」
(ガルルモンは、静かに微笑んだ)
【ガルルモン】
「俺たちの役割は……ここまでなんだな」
(その言葉に、残る八体が互いを見つめた)
(メガテリウモン、イリスモン、ビートモン、スフィンクモン、ボルケーモン、トロイアモン、マーメイモン、ワイズモン)
(八体の身体からも、同じように光の粒子が零れ始めていた)
【イリスモン】
「……不思議ね。怖くないわ」
【メガテリウモン】
「……ああ。やるべきことを、やり遂げたからだろう」
【ビートモン】
「……へっ。もっと暴れたかった気もするけどな」
【マーメイモン】
「……もう、戦わなくていいのよ」
(マーメイモンが、優しく微笑んだ)
【ボルケーモン】
「……そうだな」
【トロイアモン】
「……大地は、これからも続いていく」
【スフィンクモン】
「……我々の意志も、消えるわけではない」
【ワイズモン】
「……未来へ、託そう」
(十戦士の身体が、さらに強く輝き始めた)
⸻
第十二幕 二十のスピリット
(十戦士の身体から、光が分かれていく)
(グレイモンの炎から、二つの輝きが生まれた)
(ガルルモンの光からも、二つの輝きが現れる)
(氷、風、雷、闇、土、木、水、鋼)
(それぞれの属性から、二つずつの光が生まれていく)
(合計二十個)
(それは、十戦士が残した力の結晶だった)
【ワイズモン】
「……これが、我々の残すものか」
(ワイズモンは、静かに光を見つめた)
【ワイズモン】
「一つは、人の姿を象る力。もう一つは、獣の姿を象る力……」
【ガルルモン】
「……ヒューマンスピリットと、ビーストスピリット」
(その言葉が、自然と二体の口から零れた)
(十戦士は、自分たちの力が未来へ残されることを理解した)
【グレイモン】
「……俺たちがいなくなっても、誰かがこの力を使ってくれるんだな」
【ガルルモン】
「……ああ。きっと」
(その時、三大天使が十戦士のもとへ駆け寄ってきた)
【エンジェウーモン】
「……待ってください!」
(エンジェウーモンの声が震える)
【エンジェウーモン】
「どうして……どうして、消えようとしているんですか!?」
【ホーリーエンジェモン】
「……十戦士の皆さん……!」
(ホーリーエンジェモンは、言葉を失っていた)
(アルケーエンジェモンも、静かに立ち尽くしている)
【グレイモン】
「……そんな顔するなよ」
(グレイモンは、穏やかに笑った)
【グレイモン】
「俺たちは、やるべきことをやったんだ」
【エンジェウーモン】
「でも……!」
【ガルルモン】
「……大丈夫だ」
(ガルルモンが、静かに答えた)
【ガルルモン】
「俺たちの力は、ここに残る。そして、俺たちが守りたかった世界も」
【ホーリーエンジェモン】
「……あなたたちの意志は、必ず受け継ぎます」
(ホーリーエンジェモンが、深く頭を下げた)
【ホーリーエンジェモン】
「……約束します」
(十戦士は、静かに頷いた)
⸻
第十三幕 別れ
(十戦士の身体が、光の粒子へ変わっていく)
(その光は、ゆっくりと空へ昇り始めた)
【グレイモン】
「……みんな」
(グレイモンが、仲間たちを見回した)
【グレイモン】
「……ありがとう」
【ガルルモン】
「……こちらこそ」
(ガルルモンが微笑む)
【メガテリウモン】
「……悪くない旅だった」
【イリスモン】
「……ええ。最高の仲間たちだったわ」
【ビートモン】
「……また、どこかで会おうぜ」
【スフィンクモン】
「……意志は、形を変えて続いていく」
【ボルケーモン】
「……この大地を、頼んだぞ」
【トロイアモン】
「……未来の命たちへ」
【マーメイモン】
「……どうか、幸せに」
【ワイズモン】
「……これが、我々の答えだ」
(十体の身体が、さらに強く輝いた)
(そして、グレイモンが最後に空を見上げる)
【グレイモン】
「……絶対平和を、未来へ!」
(その言葉とともに、十戦士の身体が光の粒子となって消えていった)
(十の光が、空へ昇る)
(その光は、やがて一つの大きな輝きとなり、中央聖域の空を照らした)
(そして、静かに消えていった)
(残されたのは、二十個のスピリットだけだった)
⸻
第十四幕 受け継がれる意志
(中央聖域の広場に、静寂が戻った)
(三大天使は、十戦士が消えた場所を見つめていた)
【エンジェウーモン】
「……本当に、行ってしまったんですね」
(エンジェウーモンの頬を、涙が伝う)
【アルケーエンジェモン】
「……ああ」
(アルケーエンジェモンは、静かに目を閉じた)
【ホーリーエンジェモン】
「……彼らは、我々に未来を託してくれました」
(ホーリーエンジェモンは、二十個のスピリットへ視線を向けた)
【ホーリーエンジェモン】
「この力を、決して支配のために使わせてはなりません」
【エンジェウーモン】
「……ええ」
【アルケーエンジェモン】
「……守り抜こう」
(三大天使は、静かに頷き合った)
(その時、遠くからオーガモンが駆け寄ってきた)
【オーガモン】
「おい! 十戦士たちはどこだ!?」
(オーガモンは、広場を見回した)
(だが、そこに十戦士の姿はなかった)
【オーガモン】
「……おい……」
(その声が、震える)
【オーガモン】
「……冗談だろ……?」
(エンジェウーモンは、何も答えられなかった)
(ホーリーエンジェモンが、静かに首を振る)
【オーガモン】
「……くそっ……!」
(オーガモンは、地面へ拳を叩きつけた)
【オーガモン】
「……帰ってくるって、言ったじゃねえか……!」
(その声は、誰にも届かなかった)
(ただ、穏やかな風だけが、広場を吹き抜けていった)
⸻
第十五幕 原初の天使
【ホメオスタシス】
「こうして、第一次ルーチェモン戦役は終結しました」
(狭間劇場のスクリーンには、戦いを終えた中央聖域が映し出されていた)
(白い建造物は傷つき、大地には深い亀裂が残されている)
(だが、そこに暮らすデジモンたちの表情には、久しく失われていた安堵が戻り始めていた)
【ホメオスタシス】
「ルーチェモンは、三大天使の合同封印術《シルバー・トリニティ・ジャッジメント》によって、The ORIGINのダークエリアへ封じられました」
「そして、十戦士は自らの役割を終え、二十のスピリットを残して光へと還ったのです」
(スクリーンに、十戦士の姿が一体ずつ映し出される)
(炎のグレイモン)
(光のガルルモン)
(氷のメガテリウモン)
(風のイリスモン)
(雷のビートモン)
(闇のスフィンクモン)
(土のボルケーモン)
(木のトロイアモン)
(水のマーメイモン)
(鋼のワイズモン)
【ホメオスタシス】
「彼らは、後の時代に伝説として語り継がれることになります」
(その声は、どこか寂しげだった)
【ホメオスタシス】
「ですが、この時代の彼らにとって大切だったのは、伝説になることではありません」
「ただ、誰もが自由に生きられる世界を守りたかった。それだけだったのです」
⸻
終幕 狭間劇場
(スクリーンが静かに暗転した)
(狭間劇場には、しばらく沈黙が続いた)
【サイガ】
「……十戦士、全員……消えちゃったんだね」
(サイガは、まだスクリーンから目を離せずにいた)
【イグドラシル】
「……そうだね」
(イグドラシルが、静かに頷く)
【イグドラシル】
「でも、彼らが残したものは消えていないよ。二十のスピリットも、彼らが守った世界も、これから先の時代へ続いていく」
【崑崙】
「……興味深いのは、彼らが最後まで支配を選ばなかったことだね」
(崑崙は、腕を組みながら続けた)
【崑崙】
「究極体という圧倒的な力を手に入れても、自分たちが新しい支配者になろうとはしなかった。彼らは、ただ役割を果たして去っていったんだ」
【ホメロス】
「……それこそが、十戦士の美しさなのでしょうね」
(ホメロスが、静かに微笑んだ)
【ホメロス】
「彼らは、世界を自分たちのものにしようとはしませんでした。未来を、未来に生きる者たちへ託したのですわ」
【サイガ】
「……でも、ルーチェモンも、最初は平和を願っていたんだよね」
【ホメオスタシス】
「ええ」
(ホメオスタシスは、静かに頷いた)
【ホメオスタシス】
「ルーチェモンもまた、争いのない世界を望んでいました」
「ですが、彼は平和を守るために、すべてを自分の管理下へ置こうとしたのです」
【サイガ】
「……同じ平和を望んでいたのに、こんなに違うんだね」
【ホメオスタシス】
「そうですね」
(ホメオスタシスは、スクリーンへ視線を向けた)
【ホメオスタシス】
「平和とは、誰か一体の意志によって完成するものではありません。多くの命が互いを認め合い、支え合うことで、初めて築かれていくものなのでしょう」
(スクリーンには、十戦士が最後に残した二十のスピリットが映し出されていた)
(その光は、今も静かに輝いている)
【ホメオスタシス】
「……そして、物語はここで終わりではありません」
(サイガが顔を上げる)
【サイガ】
「……え?」
【ホメオスタシス】
「十戦士が守った平和も、永遠に続くとは限りません」
(スクリーンに、広大なデジタルワールドが映し出される)
【ホメオスタシス】
「世界は変化し、命は増え、新たな文明が生まれていきます」
「そして、かつて封じられた存在もまた、歴史の中から完全に消え去ったわけではないのです」
(サイガは、静かにスクリーンを見つめた)
【サイガ】
「……まだ、続くんだね」
【ホメオスタシス】
「ええ」
(ホメオスタシスは、優しく微笑んだ)
【ホメオスタシス】
「ですが、今は彼らの勝利を記憶しておきましょう」
(スクリーンに、十戦士の姿が最後にもう一度映し出される)
【ホメオスタシス】
「原初の世界に生き、平和のために戦い、未来へ力を託した十の戦士たち」
「彼らの物語は、ここに一つの結末を迎えたのです」
(十の光が、ゆっくりと消えていく)
第15話「原初の天使」――完。
原初の天使篇・第一次ルーチェモン戦役 終結。