そして、狭間劇場で最初に観測する世界を選ぶことに。
果たして、彼らが最初に選ぶ世界とは――?
【狭間劇場・VIPルーム】
(円卓の中央に置かれた水晶が、淡い青色の光を放っている。)
(先ほどまで浮かび上がっていた奇妙な円環模様は、すでに消えていた。)
(結局、あの水晶が何なのかは分からないまま。僕がここへ迷い込んだ理由についても、手掛かりは見つかっていない。)
(もっとも、目の前にいる四人も、すべてを把握しているわけではないらしい。)
(……それはそれで、少し驚きだった。)
(なにしろ、この部屋にいるのはデジタルワールドの管理者たちなのだから。)
(銀白色の長い髪に、淡い金色の瞳。白と薄青の衣装をまとったホメオスタシス。)
(その隣には、冷静で知的な雰囲気を持つイグドラシル。)
(向かいには、どこか余裕を感じさせる少年、コンロン。)
(そして、優雅な微笑みを浮かべているホメロス。)
(……改めて考えると、とんでもない状況だ。)
【サイガ】
(四人を順番に見渡しながら)
「……あの、ちょっといいですか?」
【ホメオスタシス】
(こちらへ顔を向ける)
「はい。何でしょう?」
【サイガ】
「さっき、皆さんはそれぞれ違うデジタルワールドを管理しているって言っていましたよね?」
【イグドラシル】
「うん。正確には、それぞれ独立した管理領域を持っているんだよ」
【サイガ】
「……それって、どんな世界なんですか?」
【コンロン】
(興味深そうに目を細める)
「ふっ。僕たちの世界に興味が湧いてきたのかい?」
【サイガ】
「そりゃあ、気になりますよ。世界の管理者が四人も目の前にいるんですから」
【ホメロス】
(楽しそうに微笑む)
「うふふっ。確かに、普通の人間にはなかなか経験できないことでしょうね」
【サイガ】
「……なかなかどころか、普通は一度も経験しないと思いますけど」
【コンロン】
「ははっ! それもそうだね」
(コンロンが愉快そうに笑う。)
(どうやら、この四人は随分と気安い関係らしい。)
(少なくとも、世界の管理者同士が集まる会議というよりは、昔からの知り合いがお茶を楽しんでいるように見える。)
【ホメオスタシス】
「それでしたら、実際に見ていただくのはいかがでしょう?」
【サイガ】
「……見る?」
【ホメオスタシス】
「ええ。この狭間劇場には、私たちの管理する世界で起きた出来事を観測する機能があるようなのです」
【サイガ】
「……えっ?」
(思わず聞き返してしまった。)
「それって、どういうことですか?」
【イグドラシル】
「言葉どおりだよ。世界の記録を映像として観測できる、ということだね」
【サイガ】
「……記録ってことは、過去の出来事も?」
【ホメオスタシス】
「はい」
【サイガ】
「じゃあ……未来も?」
(その質問に、ホメオスタシスは少しだけ考え込んだ。)
【ホメオスタシス】
「未来については、少し事情が異なりますね」
【サイガ】
「事情?」
【ホメオスタシス】
「過去に起きた出来事は、すでに確定した歴史です。ですが、未来はまだ確定していません」
【イグドラシル】
「未来の可能性を観測できたとしても、それが必ず実現するとは限らないんだ」
【コンロン】
「そもそも、未来を知った者が行動を変えれば、その未来自体が変わるかもしれないだろう?」
【サイガ】
「……ああ、なるほど」
(確かに、それはそうだ。)
(未来に起こることを知って、それを避けようとしたらどうなるのか。)
(逆に、未来を実現させようとして行動したら?)
(考え始めると、頭が痛くなりそうだった。)
【ホメロス】
「うふふ。難しく考えすぎなくても大丈夫ですわ。まずは過去の記録から楽しんでみてはいかがかしら?」
【サイガ】
「……そうですね。その方が分かりやすそうです」
(そこで、ふと別の疑問が浮かんだ。)
【サイガ】
「……あれ? でも、皆さんはこの劇場について、まだ分からないことがあるって言っていましたよね?」
【ホメオスタシス】
「ええ」
【サイガ】
「それなのに、どうして世界の記録を見られるって分かるんですか?」
【イグドラシル】
(少し感心したように微笑む)
「ふふっ。いい質問だね」
【コンロン】
「機能の一部が確認できていることと、施設のすべてを理解していることは別だからね」
【ホメロス】
「例えば、あなたも初めて使う機械で、電源の入れ方だけは分かることがあるでしょう?」
【サイガ】
「……なるほど。そういうことですか」
【ホメオスタシス】
「はい。ただし、観測できる範囲や、この劇場が記録を保持している仕組みについては、まだ調べる必要があります」
(ホメオスタシスは円卓の水晶へ目を向けた。)
【ホメオスタシス】
「それに、この水晶が示した模様との関係も、現時点では不明です」
【サイガ】
「……そうでしたね」
(僕も水晶を見る。)
(今は何の変化もない。)
(ただ、透明な内部で淡い光がゆっくりと揺らめいているだけだった。)
(どうして僕が現れた後に反応したのか。)
(そもそも、本当に僕と関係があるのか。)
(まだ、何も分かっていない。)
【コンロン】
「まあ、分からないことを考え続けても仕方ないだろう。今は確認できる機能を試してみるのも悪くないんじゃないかな?」
【サイガ】
「……そうですね」
【ホメオスタシス】
(穏やかに頷く)
「では、少しだけ劇場の観測機能を使ってみましょう」
⸻
【四つの管理領域】
(ホメオスタシスがスクリーンへ向けて指を動かす。)
(すると、VIPルームの照明がわずかに落ちた。)
(正面の巨大なスクリーンが、静かに青い光を帯び始める。)
【サイガ】
「……おおっ」
(思わず声が漏れた。)
(スクリーンの中央に、小さな光点が現れる。)
(その光点は四つに分かれ、ゆっくりと距離を取りながら、それぞれ異なる輝きを放ち始めた。)
(そして、光の下に文字が表示される。)
【狭間劇場・観測対象一覧】
・The ORIGIN――守護者:ホメオスタシス
・イグドラシルDC――管理者:イグドラシル
・コンロンDC――管理者:コンロン
・ホメロスDC――管理者:ホメロス
【サイガ】
「……データセンター?」
【イグドラシル】
「DCはデータセンターの略称だよ」
【サイガ】
「それは分かるんですけど……」
(スクリーンを指さす。)
「デジタルワールドって、一つの大きな世界じゃないんですか?」
【コンロン】
「ふっ。そう考えるのも無理はないね」
【ホメロス】
「ですが、実際にはもう少し複雑ですの」
【イグドラシル】
「私たち三人のデータセンターは、それぞれ独立した基盤を持っているんだ」
【サイガ】
「独立した基盤……」
【イグドラシル】
「つまり、一つの世界を三人で分担しているわけではない、ということだよ」
【サイガ】
「……じゃあ、もともと一つだったデジタルワールドが、三つに分かれたとか?」
【コンロン】
(静かに首を横に振る)
「いいや。そういうわけでもないんだ」
【ホメロス】
「わたくしたちのデータセンターは、最初から別々に存在しているのですわ」
【サイガ】
「……なるほど」
(もう一度、スクリーンを見上げる。)
(四つの光は、それぞれ独立して浮かんでいる。)
(互いに繋がっているようにも見えるが、どれか一つから残りが枝分かれしているわけではない。)
【サイガ】
「……あれ?」
(そこで、あることに気づいた。)
【サイガ】
「でも、ホメオスタシスさんのところだけ、DCって付いていませんよね?」
【ホメオスタシス】
(少し嬉しそうに微笑む)
「よく気づきましたね」
【サイガ】
「……ということは、ホメオスタシスさんだけ立場が違うんですか?」
【ホメオスタシス】
「はい。私は原初のデジタルワールド『The ORIGIN』を守護しています。そして、それとは別に、複数の世界を見守る管理領域も持っているのです」
【サイガ】
「……原初?」
【ホメオスタシス】
「ええ。ですが、三人のデータセンターがThe ORIGINから分裂して生まれたわけではありません」
【イグドラシル】
「世界の起源と、その後の歴史の中で生まれた関係は、分けて考える必要があるんだ」
【サイガ】
「……後から関係ができた、ということですか?」
【コンロン】
「そういう理解でいいだろうね。独立した世界同士でも、互いに影響を及ぼす出来事は起こり得るから」
【ホメロス】
「うふふ。世界の歴史を観測するなら、覚えておいて損はありませんわ」
【サイガ】
「……なんだか、思っていた以上に規模が大きいですね」
【ホメオスタシス】
「ふふ……まだ入口ですよ」
【サイガ】
「……まだ入口!?」
(思わず声が裏返った。)
(そんな僕を見て、ホメロスが口元に手を添えて笑う。)
【ホメロス】
「うふふっ。これから先、何度驚くことになるのかしら?」
【コンロン】
「全部を一度に説明したら、君も混乱してしまうだろうね」
【サイガ】
「……すでにちょっと混乱していますけど」
【イグドラシル】
(優しく微笑む)
「大丈夫だよ。分からないことは、その都度聞いてくれればいいからね」
(四人は、どうやら本気で僕に付き合ってくれるらしい。)
(それはありがたい。)
(ありがたいのだが……。)
(世界の管理者四人を相手に、デジタルワールドの勉強会を始めることになるとは、少し前の僕には想像もできなかっただろう。)
【ホメオスタシス】
「さて。四つの管理領域があることは、お分かりいただけましたね?」
【サイガ】
「はい。まだ大まかにですけど」
【ホメオスタシス】
「それで十分です。では、次は実際に観測する世界を選んでみましょうか」
【サイガ】
「……選ぶ?」
【ホメロス】
(優雅に紅茶のカップを置く)
「うふふ。せっかくですもの。どの世界からご覧になるか、皆さんで相談しましょう?」
【コンロン】
「それなら、僕にも推薦したい世界があるね」
【イグドラシル】
「ふふっ。私も一つ候補を挙げたいな」
【サイガ】
「……えっ、ちょっと待ってください」
(四人の表情を見比べる。)
「もしかして、皆さんそれぞれ自分の世界をおすすめするつもりですか?」
【ホメロス】
「もちろんですわ」
【コンロン】
「ふっ。せっかくの機会だからね」
【イグドラシル】
「観測対象を比較するのも、悪くないと思うよ」
【サイガ】
「……なんだか、上映作品の選考会みたいになってきましたね」
【ホメオスタシス】
(静かに微笑む)
「ふふ……それでは、上映作品選考会を始めましょうか」
(スクリーンに浮かぶ四つの光が、ゆっくりと回転を始めた。)
(どうやら、この奇妙な劇場での最初の上映作品を決めることになったらしい。)
(そして僕は、まだ知らなかった。)
(四人がこれから紹介しようとしている世界が、想像していたよりも遥かに広大であることを。)
⸻
【上映作品選考会】
(スクリーンに浮かぶ四つの光が、ゆっくりと回転している。)
(ホメオスタシスが上映作品選考会の開始を宣言してから、四人の管理者たちは、それぞれ自分の管理領域を映す光へ視線を向けていた。)
(……さて。)
(誰が一番、自分の世界を紹介したがっているんだろう?)
(僕は紅茶を一口飲みながら、四人の様子を観察してみることにした。)
【サイガ】
(心の中で)
「……まずは、コンロンさんかな」
(コンロンは椅子の背もたれに身体を預け、余裕のある笑みを浮かべている。)
(しかし、先ほどからスクリーンに映るコンロンDCの表示へ、何度か視線を送っていた。)
【コンロン】
(サイガの視線に気づき、片眉を上げる)
「……ふっ。どうしたんだい? そんなに僕の顔を見て」
【サイガ】
「いえ。誰が一番、自分の世界を紹介したがっているのかなと思いまして」
【コンロン】
「ほう?」
(コンロンは一瞬だけ目を丸くし、それから楽しそうに笑った。)
「ははっ! 面白いことを考えるね、君は」
【サイガ】
「……もしかして、コンロンさんですか?」
【コンロン】
「さて、どうだろうね。僕としては、君が何に興味を示すのか見てみたいところだけど」
【サイガ】
「……それ、否定していませんよね?」
【コンロン】
「ふふっ。否定する必要もないだろう?」
(……なるほど。)
(少なくとも、紹介する気は十分にあるらしい。)
【ホメロス】
(口元に手を添えて微笑む)
「うふふっ。コンロンは昔から、こういう場面になると楽しそうですものね」
【コンロン】
「おや、ホメロス。君だって随分と乗り気に見えるけど?」
【ホメロス】
「あら。わたくしは、お客様に楽しんでいただきたいだけですわ」
【コンロン】
「それなら、最初にイリアスを推薦したそうにしているのは気のせいかな?」
【ホメロス】
(少しだけ目を細める)
「……うふふ。よく見ていらっしゃいますのね」
【サイガ】
「……あ、やっぱりホメロスさんも紹介したいんですね」
【ホメロス】
「もちろんですわ。せっかくサイガさんが興味を持ってくださったのですもの」
(ホメロスは優雅に紅茶のカップを持ち上げる。)
「わたくしの世界にも、ぜひご覧いただきたいものがたくさんありますのよ」
【サイガ】
「……なるほど」
(次に、イグドラシルへ視線を向ける。)
(彼女は三人の会話を聞きながら、穏やかに微笑んでいた。)
(どうやら、自分から積極的に推薦するつもりはなさそうだ。)
【サイガ】
「……イグドラシルさんは、あまり興味がないんですか?」
【イグドラシル】
(少し不思議そうに首を傾げる)
「何がかな?」
【サイガ】
「自分の世界を紹介することです」
【イグドラシル】
「ああ、そういうことか」
(イグドラシルは小さく笑った。)
「ふふっ。興味がないわけじゃないよ。ただ、サイガが何を知りたいのか、先に聞いた方がいいと思ってね」
【サイガ】
「……僕が知りたいこと、ですか?」
【イグドラシル】
「うん。戦いの歴史が見たいのか、デジモンたちの暮らしが見たいのか。それによって、おすすめする世界も変わるだろう?」
【サイガ】
「……確かに」
【コンロン】
「ふっ。相変わらず合理的だね」
【イグドラシル】
「君たちが少し張り切りすぎているだけじゃないかな?」
【ホメロス】
「あら、心外ですわ」
【コンロン】
「ははっ! 否定はしないけどね」
(……うん。)
(どうやら、三人ともそれなりに紹介したいらしい。)
(最後に、ホメオスタシスを見る。)
(彼女は四人のやり取りを、楽しそうに眺めていた。)
【サイガ】
「……ホメオスタシスさんは?」
【ホメオスタシス】
「はい?」
【サイガ】
「自分の世界を紹介したいとは思わないんですか?」
【ホメオスタシス】
(少しだけ目を瞬かせる)
「……私ですか?」
【サイガ】
「はい。皆さん、それぞれ自分の世界を紹介したそうなので」
【ホメオスタシス】
(柔らかく微笑む)
「ふふ……もちろん、私にもご覧いただきたい世界はありますよ」
【サイガ】
「やっぱり」
【ホメオスタシス】
「ですが、私は皆さんのお話を聞いてからでも構いません」
【サイガ】
「……ずいぶん控えめなんですね」
【ホメオスタシス】
「そうでしょうか?」
(ホメオスタシスは三人を見渡す。)
「皆さんが大切にしている世界についてお話しする姿を見ているのも、私は好きですから」
【ホメロス】
「……まあ」
(ホメロスが嬉しそうに微笑む。)
「うふふ。そういうところが、あなたらしいですわね」
【コンロン】
「ふっ。昔から変わらないね」
【イグドラシル】
「そうだね。私もそう思うよ」
(四人の間に、穏やかな空気が流れる。)
(……なんというか。)
(世界の管理者という肩書きから想像していたより、ずっと仲がいい。)
【サイガ】
「……皆さん、本当に長い付き合いなんですね」
【コンロン】
「君が想像しているより、ずっと長いと思うよ」
【サイガ】
「……それ、何年くらいなんですか?」
【ホメロス】
(楽しそうに笑う)
「うふふっ。女性に年齢を尋ねるのは、あまりおすすめいたしませんわよ?」
【サイガ】
「……いや、年齢じゃなくて付き合いの長さを聞いたんですけど」
【イグドラシル】
(くすくすと笑う)
「ふふっ。ホメロス、からかいすぎだよ」
【ホメロス】
「あら。少し冗談を言っただけですわ」
【コンロン】
「ははっ! サイガも大変だね」
【サイガ】
「……他人事みたいに言わないでくださいよ」
(思わずため息をつく。)
(けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。)
(ここへ来たばかりの頃は、何が起こるのか分からず、警戒していた。)
(今も状況そのものは謎だらけだ。)
(それでも、こうして四人と話しているうちに、少しずつ緊張が解けてきた気がする。)
【ホメオスタシス】
(サイガの様子を見て、穏やかに微笑む)
「……少しは、この場所に慣れていただけましたか?」
【サイガ】
「……そうですね」
(改めて部屋を見渡す。)
「まだ分からないことだらけですけど、最初ほど緊張はしていません」
【ホメオスタシス】
「それなら、よかったです」
【サイガ】
「……まあ、世界の管理者四人とお茶を飲んでいる状況には、まだ慣れませんけど」
【コンロン】
「ふっ。そこは慣れてもらうしかないね」
【ホメロス】
「うふふ。時間はたっぷりありますもの」
【サイガ】
「……そうだといいんですけどね」
(自分がいつ、どうやってここから帰れるのか。)
(その問題は、まだ解決していない。)
(ただ、今すぐ答えが出るとも思えなかった。)
(ならば、せっかくの機会を無駄にする必要もないだろう。)
【サイガ】
「……それじゃあ、皆さんのおすすめを聞かせてもらってもいいですか?」
【ホメロス】
(嬉しそうに目を細める)
「もちろんですわ」
【コンロン】
「ふっ。ようやく本題だね」
【イグドラシル】
「まずは、それぞれの世界を簡単に紹介するところから始めようか」
【ホメオスタシス】
「ええ。では、皆さんに順番にお願いしましょう」
(ホメオスタシスが指を動かす。)
(スクリーンの四つの光のうち、三つがゆっくりと前方へ移動した。)
(イグドラシルDC。)
(コンロンDC。)
(ホメロスDC。)
(それぞれの光の内部に、異なる世界の風景が浮かび上がり始める。)
【サイガ】
(期待を込めてスクリーンを見上げる)
「……さて、どんな世界なんだろう」
(こうして、三人の管理者による上映作品の推薦が始まろうとしていた。)
⸻
【原初のデジタルワールド】
(スクリーンには、三つのデータセンターを象徴する光が並んでいた。)
(イリアス、シャンバラ、キャメロット。)
(どの世界も興味深そうだ。けれど、僕にはもう一つ気になっているものがあった。)
【サイガ】
「あの……皆さん、ちょっといいですか?」
【ホメロス】
(優雅に微笑む)
「はい。どうなさいましたの?」
【サイガ】
「三人の世界も気になるんですけど、その前にホメオスタシスさんの世界について聞いてもいいですか?」
【ホメオスタシス】
(少し驚いたように瞬きをする)
「……私の世界、ですか?」
【サイガ】
「はい。さっきから気になっていたんですよ。The ORIGINっていう名前が」
【コンロン】
(興味深そうに笑う)
「ふっ。三つの候補を前にして、あえて四つ目を選ぶとはね」
【サイガ】
「……すみません。せっかく紹介してくれようとしていたのに」
【ホメロス】
「うふふっ。謝る必要はありませんわ。サイガさんが興味を持った世界から聞くのが一番ですもの」
【イグドラシル】
「私も賛成だよ。The ORIGINを知っておけば、後でほかの世界の話を聞くときにも理解しやすくなるだろうね」
【ホメオスタシス】
(穏やかに微笑む)
「それでは、私からご紹介しましょう」
(ホメオスタシスが指を動かす。)
(スクリーンに並んでいた三つの光が左右へ退き、中央に白い光が浮かび上がった。)
(その下に、文字が表示される。)
【管理領域紹介】
The ORIGIN
守護者:ホメオスタシス
原初のデジタルワールド
【サイガ】
「……原初のデジタルワールド」
(改めてその文字を眺める。)
「これって、最初に生まれたデジタルワールドって意味なんですか?」
【ホメオスタシス】
「原初の世界として位置づけられている、非常に古いデジタルワールドです。ただし、先ほどもお話ししたように、三人のデータセンターがここから分かれて生まれたわけではありません」
【サイガ】
「……そこは大事なんですね」
【イグドラシル】
「うん。世界の成立と、その後の交流や干渉は別の話だからね」
【コンロン】
「一つの世界が古いからといって、ほかのすべての世界の親だとは限らないということさ」
【サイガ】
「なるほど……。じゃあ、The ORIGINはほかの三つとは独立した、古い世界なんですね」
【ホメオスタシス】
「ええ。そして、私が守護している大切な世界でもあります」
(ホメオスタシスはスクリーンを見つめ、どこか懐かしそうに目を細めた。)
【サイガ】
「……ホメオスタシスさんは、ずっとその世界を見守ってきたんですか?」
【ホメオスタシス】
「はい。長い時間を、共に歩んできました」
【サイガ】
「……どれくらい長いんですか?」
【ホメオスタシス】
(小さく笑う)
「ふふ……人間の時間の感覚では、少し想像しにくいかもしれませんね」
【サイガ】
「……やっぱりそうですよね」
【コンロン】
「ふっ。数字で聞いても、かえって実感が湧かないかもしれないね」
【ホメロス】
「うふふ。わたくしたちにとっても、長い歴史を振り返るのは特別なことですわ」
(スクリーンの白い光が、ゆっくりと広がっていく。)
(そこにはまだ、具体的な歴史の映像は流れていない。)
(ただ、観測可能な世界の輪郭だけが、淡く浮かび上がっていた。)
【サイガ】
「……ところで、The ORIGINも、ほかのデータセンターみたいに二十一のサーバーがあるんですか?」
【ホメオスタシス】
「いいえ。The ORIGINそのものと、私の管理するホメオスタシスサーバーは区別する必要があります」
【サイガ】
「……別なんですか?」
【ホメオスタシス】
「はい。ホメオスタシスサーバーには、八つの管理スロットがあります。それぞれが独立した世界を持っているのです」
【サイガ】
「……八つ」
(思わず指を折って数えようとして、途中でやめた。)
「ということは、ホメオスタシスさんも複数の世界を管理しているんですね」
【ホメオスタシス】
「ええ。ただし、The ORIGINを八つのうちの一つとして数えるわけではありません」
【サイガ】
「……なるほど。原初の世界と、八つの管理スロットは別に考えるんですね」
【ホメオスタシス】
「そのとおりです」
【イグドラシル】
「ふふっ。だいぶ整理できてきたみたいだね」
【サイガ】
「……いや、まだ頭の中で図を描いているところです」
【コンロン】
「ははっ! それくらい慎重な方がいいだろうね」
【ホメロス】
「最初から全部覚えようとしなくても大丈夫ですわ。何度でも聞いてくださって構いませんもの」
【サイガ】
「……ありがとうございます」
(僕は改めてスクリーンを見つめた。)
(The ORIGIN。)
(ホメオスタシスサーバー。)
(八つの管理スロット。)
(そして、独立して存在する三つのデータセンター。)
(たった数分話を聞いただけなのに、デジタルワールドという言葉が、さっきまでとはまったく違って感じられる。)
【サイガ】
「……そういえば、The ORIGINには、どんなデジモンがいるんですか?」
【ホメオスタシス】
「さまざまなデジモンが暮らしています。もちろん、時代によって世界の様子も変わってきました」
【サイガ】
「時代によって……」
【ホメオスタシス】
「はい。The ORIGINにも、長い歴史がありますから」
【サイガ】
「……その歴史って、ここで見られるんですよね?」
【ホメオスタシス】
「ええ。観測機能が正常に働くのであれば、過去の記録を辿ることができるはずです」
【サイガ】
「……なるほど」
(僕は少し考えた。)
(最初は、四人の管理する世界について簡単に聞くつもりだった。)
(でも、話を聞けば聞くほど、別のことが気になってくる。)
(世界の管理者が存在する理由。)
(それぞれの世界に独自の歴史があるということ。)
(そして、原初のデジタルワールドという名前。)
【サイガ】
「……あの、ホメオスタシスさん」
【ホメオスタシス】
「はい?」
【サイガ】
「せっかくなら、The ORIGINの歴史を最初から見てみたいんですけど……できますか?」
(その言葉に、四人が静かにこちらを見た。)
【コンロン】
「……ほう」
(コンロンが楽しそうに口元を緩める。)
「君はずいぶん古い時代に興味があるんだね」
【サイガ】
「はい。いきなり今の世界を見ても、どうしてそうなったのか分からない気がするので」
【イグドラシル】
「……なるほど。結果よりも、そこに至る過程を知りたいということだね」
【サイガ】
「そういうことです」
【ホメロス】
(嬉しそうに微笑む)
「うふふ。なかなか素敵な考え方ですわ」
【ホメオスタシス】
(しばらくサイガを見つめてから、静かに頷く)
「……分かりました。それでは、最初の上映はThe ORIGINの原初史にしましょう」
【サイガ】
「……いいんですか?」
【ホメオスタシス】
「もちろんです。あなたが望んでくださるのなら」
【コンロン】
「僕も異論はないよ」
【イグドラシル】
「歴史を順序立てて理解するという目的にも合っているね」
【ホメロス】
「わたくしも賛成ですわ。ほかの世界のお話は、また後でゆっくりいたしましょう」
【サイガ】
「……ありがとうございます、皆さん」
(ホメオスタシスが微笑み、スクリーンへ手を向ける。)
(すると、白い光の下に新しい文字が浮かび上がった。)
【観測対象:The ORIGIN】
【観測区分:原初史】
(その下に、まだ空欄の項目が一つ残っている。)
【観測開始地点:未設定】
【サイガ】
「……あれ? まだ何か決めるんですか?」
【ホメオスタシス】
「ええ。どの時代から観測を始めるか、ということですね」
【サイガ】
「……一番最初からお願いします」
【ホメオスタシス】
「ふふ……そうおっしゃると思っていました」
(ホメオスタシスの指先が、最後の項目へ向けられる。)
(けれど、彼女はまだ決定を押さなかった。)
【ホメオスタシス】
「その前に、一つだけお伝えしておきたいことがあります」
【サイガ】
「……何ですか?」
【ホメオスタシス】
「The ORIGINの歴史は、決して平穏な出来事ばかりではありません」
(その声は、先ほどより少し真剣だった。)
【ホメオスタシス】
「ですが、そこで生きてきた者たちには、それぞれの想いがあります。どうか、先入観だけで判断せずに見届けてください」
【サイガ】
(少しだけ姿勢を正す)
「……はい。分かりました」
【ホメオスタシス】
(柔らかく微笑む)
「ありがとうございます」
(スクリーンの白い光が、ゆっくりと強まっていく。)
(いよいよ、原初のデジタルワールドの歴史が選ばれようとしていた。)
(……けれど、上映はまだ始まっていない。)
(まずは、この長い物語をどう観測していくのか、決める必要がありそうだった。)
⸻
【長い上映の楽しみ方】
(巨大なスクリーンには、白い光とともに『The ORIGIN』の文字が浮かんでいた。)
(観測対象は決まった。あとは、原初の歴史を映し出すだけ。)
(けれど、僕には一つ気になることがあった。)
【サイガ】
「……あの、ホメオスタシスさん」
【ホメオスタシス】
(スクリーンからこちらへ振り返る)
「はい。何でしょう?」
【サイガ】
「上映を始める前に、ちょっと相談してもいいですか?」
【ホメオスタシス】
「もちろんです。どのようなことでしょう?」
【サイガ】
「さっきから、皆さんの話を聞いていて思ったんですけど……」
(スクリーンに浮かぶ『原初史』という文字を見上げる。)
「デジタルワールドの歴史って、ものすごく長いんですよね?」
【コンロン】
(腕を組みながら、小さく笑う)
「ふっ。ものすごく、という表現でも足りないかもしれないね」
【イグドラシル】
「人間の一生と比較するなら、途方もない長さだろうね」
【ホメロス】
「うふふ。最初から最後まで一度に観測するのは、さすがに大変ですわ」
【サイガ】
「……ですよね」
(僕は少し考えてから、四人へ向き直った。)
【サイガ】
「だったら、途中で休憩を挟みながら見たいんですけど、できますか?」
【ホメオスタシス】
(少し目を瞬かせる)
「……休憩、ですか?」
【サイガ】
「はい。せっかく最初から見るなら、途中を飛ばしたくないですし」
(手元の紅茶を持ち上げる。)
「ずっと座って見ていたら、さすがに疲れちゃいそうなので」
【コンロン】
「ははっ! なるほど。確かに君は人間だからね」
【サイガ】
「……皆さんは疲れないんですか?」
【コンロン】
「僕たちと君とでは、時間の感じ方も身体の仕組みも違うからね」
【ホメロス】
「ですが、休憩を取るのはよいことですわ。わたくしも、お茶を楽しみながら観測する方が好きですもの」
【イグドラシル】
「それに、情報を整理する時間も必要だろうね。歴史の出来事を続けて観測するだけでは、理解が追いつかなくなる可能性もあるから」
【サイガ】
「……ああ、それもありますね」
(そうだ。)
(単に映像を見るだけなら、長時間でも何とかなるかもしれない。)
(けれど、これから観測するのは、僕がほとんど知らない世界の歴史だ。)
(知らないデジモンの名前も、場所の名前も、次々と出てくるだろう。)
(それを全部覚えながら見続けるのは、さすがに無理がある。)
【サイガ】
「……途中で分からないことが出てきたら、質問してもいいんですよね?」
【ホメオスタシス】
「ええ。もちろんです」
【サイガ】
「上映を止めてもらうことも?」
【ホメオスタシス】
「観測機能が想定どおりに動くなら、一時停止も可能なはずです」
【イグドラシル】
「少なくとも、現在表示されている操作項目には一時停止と再開があるね」
【サイガ】
「……よかった」
【コンロン】
「ふっ。君はずいぶん慎重だね」
【サイガ】
「だって、歴史の途中で分からなくなったら困るじゃないですか」
【コンロン】
「いや、悪い意味で言ったわけじゃないよ」
(コンロンは楽しそうに笑う。)
「むしろ、観測する側としてはいい心構えだと思うね」
【ホメロス】
「うふふ。分からないまま先へ進むより、その場で確認した方が楽しめますもの」
【サイガ】
「……それなら、遠慮なく質問させてもらいますね」
【ホメオスタシス】
(優しく微笑む)
「はい。私たちも、できる限りお答えしましょう」
⸻
【観測方法の確認】
(ホメオスタシスがスクリーンへ指を向ける。)
(すると、『The ORIGIN』の文字が少し上へ移動し、その下に新しい表示が現れた。)
【狭間劇場・観測設定】
観測対象:The ORIGIN
観測区分:原初史
観測方式:時系列順
一時停止・再開:操作項目あり
解説:管理者四名
休憩:区切りごとに相談
観測開始前の設定確認中
【サイガ】
「……おおっ。ちゃんと設定画面があるんですね」
【イグドラシル】
「これなら、少なくとも観測の進行をある程度調整できそうだね」
【コンロン】
「ふっ。劇場という名前だけあって、観客への配慮はあるようだ」
【ホメロス】
「うふふ。お菓子まで用意されているのですもの。なかなか気の利いた場所ですわね」
【サイガ】
「……でも、誰が用意しているんでしょうね、これ」
(僕は隣の小さなテーブルを見る。)
(そこには、最初に出されたものとは別の焼き菓子が並んでいた。)
(しかも、紅茶のポットからはまだ湯気が立っている。)
【サイガ】
「……本当に、いつの間に増えたんだろう」
【コンロン】
「ふふっ。この劇場には、まだ調べるべきことが多そうだね」
【ホメオスタシス】
「ええ。ですから、観測中も何か異変があれば、すぐに知らせてください」
【サイガ】
「……異変?」
【ホメオスタシス】
「先ほどの水晶のように、私たちが予想していない反応が起こる可能性もありますから」
(僕は反射的に、円卓の中央へ視線を向けた。)
(水晶は相変わらず静かだった。)
(あの青い円環模様も、今は見えない。)
【サイガ】
「……分かりました」
【イグドラシル】
「ただ、今のところ危険な反応は確認されていないよ。必要以上に警戒しなくても大丈夫だと思う」
【サイガ】
「……そうですね」
(僕は小さく息を吐いた。)
(ここに来た理由は、まだ分からない。)
(けれど、四人が一緒に調べてくれている。)
(少なくとも、今はそれを信じよう。)
【サイガ】
「……そういえば、もう一つ気になることがあるんですけど」
【ホメロス】
「あら。何でしょう?」
【サイガ】
「皆さんは、上映される歴史を全部知っているんですよね?」
【コンロン】
「全部、というと少し語弊があるかな」
【サイガ】
「……え?」
【コンロン】
「僕たちはそれぞれ、自分の管理領域については詳しい。けれど、ほかの管理者の世界で起きた出来事まで、すべて把握しているわけじゃないんだ」
【イグドラシル】
「そうだね。管理領域が独立している以上、観測していない出来事もあるから」
【サイガ】
「……なるほど」
【ホメロス】
「わたくしたちにとっても、ほかの世界の歴史を改めて観測するのは興味深いことですわ」
【サイガ】
「……じゃあ、皆さんも一緒に楽しめるんですね」
【ホメロス】
「うふふ。ええ、もちろん」
【ホメオスタシス】
「私も、記録を見返すことで新たに気づくことがあるかもしれません」
【サイガ】
「……それはちょっと意外でした」
【ホメオスタシス】
「そうですか?」
【サイガ】
「はい。管理者っていうくらいだから、全部知っているのかと思っていました」
【ホメオスタシス】
(静かに首を横に振る)
「いいえ。私たちにも、知らないことはあります」
【イグドラシル】
「だからこそ、観測する意味があるんだろうね」
【コンロン】
「ふっ。知っているつもりの歴史にも、見落としているものはあるかもしれないから」
【サイガ】
「……なんだか、ますます楽しみになってきました」
(僕は自然と笑みを浮かべた。)
(最初は、ただ四人に説明してもらうだけのつもりだった。)
(でも、こうして話していると、少し違う気がしてくる。)
(四人の管理者と一緒に、世界の歴史を見届ける。)
(それは、単なる勉強会というよりも……。)
【サイガ】
「……みんなで映画を見るみたいですね」
【ホメロス】
(嬉しそうに微笑む)
「うふふっ。素敵な表現ですわ」
【コンロン】
「確かに、劇場という場所にはふさわしいね」
【イグドラシル】
「ただし、映し出されるのは実際の歴史だけどね」
【サイガ】
「……そこは忘れないようにします」
【ホメオスタシス】
(穏やかに頷く)
「ええ。それだけ覚えていてくだされば、十分です」
⸻
【上映前の小休憩】
(観測設定の確認が終わると、スクリーンの光が少し落ち着いた。)
(どうやら、開始操作を行うまでは待機状態になるらしい。)
【ホメオスタシス】
「それでは、上映前に少し休憩しましょうか」
【サイガ】
「……えっ、もう休憩ですか?」
【ホメオスタシス】
「ふふ……これから長い時間を過ごすことになりますから。準備を整えておくのもよいでしょう」
【コンロン】
「君自身が休憩を挟みたいと言ったばかりじゃないか」
【サイガ】
「……それはそうですけど」
【ホメロス】
「うふふっ。では、紅茶を新しく淹れ直しましょうか」
【イグドラシル】
「私は観測設定をもう少し確認しておくよ」
【コンロン】
「それなら僕も手伝おうかな。どうせなら、操作方法を把握しておきたいからね」
(コンロンとイグドラシルが、スクリーンの表示について話し始める。)
(ホメロスは新しい紅茶を用意し、ホメオスタシスは円卓の水晶を静かに見つめていた。)
(僕はその様子を眺めながら、焼き菓子を一つ手に取った。)
【サイガ】
(小さく呟く)
「……なんだか、本当に不思議な場所だな」
【ホメオスタシス】
(こちらへ顔を向ける)
「……そうですね」
【サイガ】
「あ、聞こえてました?」
【ホメオスタシス】
「ふふ……はい」
(ホメオスタシスは少しだけ微笑む。)
【ホメオスタシス】
「私たちにとっても、この劇場はまだ謎の多い場所です」
【サイガ】
「……ですよね」
【ホメオスタシス】
「ですが、こうして皆さんと一緒に過ごす時間は、決して悪いものではありません」
【サイガ】
「……それは、僕もそう思います」
(ホメオスタシスは嬉しそうに目を細めた。)
(その向こうでは、コンロンとイグドラシルが何やら議論を続けている。)
【コンロン】
「……なるほど。つまり、観測対象を変更しても、現在の記録位置は保持される可能性があるわけだね」
【イグドラシル】
「表示上はそう見えるけれど、実際に動作するかは確認が必要だよ」
【コンロン】
「ふっ。慎重だね」
【イグドラシル】
「君が楽観的すぎるんじゃないかな?」
【コンロン】
「ははっ! そうかもしれないね」
【ホメロス】
(紅茶を注ぎながら)
「お二人とも、上映が始まる前から研究会を始めないでくださいまし」
【コンロン】
「おっと。これは失礼」
【イグドラシル】
「ふふっ。つい気になってしまってね」
【サイガ】
(思わず笑う)
「……本当に仲がいいんですね、皆さん」
【ホメロス】
「うふふ。長い付き合いですもの」
(ホメロスが新しい紅茶を差し出す。)
【ホメロス】
「さあ、サイガさん。どうぞ」
【サイガ】
「ありがとうございます」
(温かなカップを受け取る。)
(紅茶の香りが、ふわりと広がった。)
(スクリーンには、まだ『The ORIGIN』の文字が浮かんでいる。)
(原初のデジタルワールド。)
(その歴史がどのようなものなのか、僕はまだ知らない。)
(ただ一つ分かっているのは、これからとても長い物語を観測することになる、ということだけだった。)
【ホメオスタシス】
(四人を見渡してから、サイガへ微笑む)
「……さて。準備は整いましたか?」
【サイガ】
(紅茶を一口飲んでから、カップを置く)
「……はい。いつでも大丈夫です」
【ホメオスタシス】
「それでは、観測開始地点を設定しましょう」
(スクリーンの中央に、最後の選択項目が浮かび上がる。)
【観測開始地点:未設定】
(ホメオスタシスが指を動かすと、その下に一つの名称が現れた。)
【第一時代:ルーチェモンの時代】
【サイガ】
「……ルーチェモン?」
(初めて聞く名前だった。)
【コンロン】
(静かにスクリーンを見つめる)
「……ふっ。いよいよ、そこから始まるわけだね」
【イグドラシル】
「原初史を観測するなら、避けて通れない時代だよ」
【ホメロス】
「……長い物語の始まりですわね」
【サイガ】
(四人の表情を見比べる)
「……そんなに重要な時代なんですか?」
【ホメオスタシス】
(穏やかに微笑む)
「ええ。ですが、その理由は実際に観測しながらお話ししましょう」
【サイガ】
「……分かりました」
(僕は改めて椅子に深く腰掛けた。)
(四人の管理者も、それぞれの席へ戻っていく。)
(スクリーンには、原初の歴史を示す文字が静かに輝いていた。)
(いよいよ、上映が始まろうとしている。)
――第2話「原初への扉」完。