デジモンストーリー オリジン   作:空閑アルト

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第2話『受け継がれる世界、記録される生命』

語り部:ホメオスタシス

 

――第一次ルーチェモン戦役。その終結は、原初の世界に平和をもたらしました。しかし、戦いが終わったからといって、世界を見守る者の役目が終わるわけではありません。これは、失われてはならない歴史を未来へ託し、生命の情報を新たな形で残そうとした、私たちの記録です。

 

(――狭間劇場・VIPルーム。)

 

(紺碧と金色に彩られた豪華な室内には、今日も穏やかな時間が流れていた。天井から吊り下げられた装飾灯が柔らかな光を落とし、大きな窓の向こうには、紫紺の宇宙と無数の星々が広がっている。)

 

(中央の円卓には、五人分の紅茶と焼き菓子が用意されていた。黒いパーカー姿のサイガは、いつもの席に腰掛けている。その左には長い黒髪を結んだ崑崙、さらに隣には銀白色の髪に淡い緑色が混じるイグドラシル。向かい側には金髪のホメロス、右側には金色の光輪を背負ったホメオスタシスが座っていた。)

 

(先日の再会から、まだそれほど時間は経っていない。)

 

(第一次ルーチェモン戦役の終結と、その後に訪れた復興の時代。サイガは前回、三大天使が世界を見守り、デジモンたちが少しずつ日常を取り戻していく様子を見届けた。)

 

(しかし、あの戦争が終わった後、管理者たちが何をしていたのかについては、まだ聞いていないことが多かった。)

 

【サイガ】

 

(紅茶を一口飲み、ホメオスタシスへ顔を向ける)

 

「ねえ、ホメオスタシス。今日は何を見せてくれるの?」

 

【ホメオスタシス】

 

(穏やかに微笑む)

 

「ふふ……今日は、第一次ルーチェモン戦役の後に私が行った、二つのことについてお話ししようと思っています」

 

【サイガ】

 

「二つ?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。一つは、The ORIGINのバックアップ。そしてもう一つは、SEEDというデータパッケージの作成です」

 

【イグドラシル】

 

(嬉しそうに身を乗り出す)

 

「今回は私も結構関係しているんだよ!」

 

【崑崙】

 

(紅茶のカップを置く)

 

「ふふ。戦いの歴史とは少し違うけれど、世界の成り立ちを知るうえでは重要な話だね」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。英雄たちの活躍ばかりが歴史ではありませんもの。戦いが終わった後、何を残し、何を未来へ託したのか。それもまた、立派な歴史ですわ」

 

【サイガ】

 

「バックアップとSEEDかぁ……。なんだか難しそうだけど、面白そう!」

 

【ホメオスタシス】

 

「大丈夫ですよ。順番にお話ししますから」

 

(ホメオスタシスが右手をかざすと、円卓の中央に青い光が集まり始めた。)

 

(光は次第に球体を形作り、やがて一つのデジタルワールドを映し出す。)

 

(そこには、戦争によって傷ついた大地と、復興を始めたデジモンたちの姿があった。)

 

【ホメオスタシス】

 

「まずは、第一次ルーチェモン戦役が終わった直後まで、記録を遡りましょう」

 

(映像の中では、壊れた橋を修復するデジモンたちがいた。倒木を運ぶ者、荒れた土地に草木を植える者、崩れた建物を建て直す者。かつて戦火に包まれた世界は、ゆっくりと日常を取り戻そうとしていた。)

 

【サイガ】

 

「……あっ、この景色、前にも見たね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。ルーチェモンの封印によって戦いは終わりました。しかし、世界に刻まれた傷が、すぐに消えたわけではありません」

 

【サイガ】

 

「うん……。みんなで頑張って、少しずつ元に戻していたんだよね」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。そして、私はその光景を見守りながら、一つの決断をしました」

 

(彼女が指を動かすと、復興する世界の映像が縮小され、その周囲に膨大な数のデータが浮かび上がった。)

 

【ホメオスタシス】

 

「The ORIGINの歴史と、その時点における世界の状態を、バックアップとして保存することにしたのです」

 

【サイガ】

 

「……世界のバックアップ?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。世界の歴史を記録し、保存した時点の状態を残すものです」

 

【サイガ】

 

「でも、どうしてバックアップを作ろうと思ったの?」

 

(サイガが尋ねると、ホメオスタシスはしばらく映像を見つめた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……あの戦争では、本当に多くのものが失われました」

 

(スクリーンに、第一次ルーチェモン戦役の光景が映し出される。)

 

(十闘士が立ち向かった強大な敵。戦場となった大地。逃げ惑うデジモンたち。そして、戦いの果てに訪れたルーチェモンの封印。)

 

【ホメオスタシス】

 

「戦いの結末を知っている今だからこそ、私たちは、あの出来事を一つの歴史として振り返ることができます」

 

「ですが、もしも、その歴史を記録したものがすべて失われてしまったら……どうなるでしょうか」

 

【サイガ】

 

「……後の時代のデジモンたちは、何があったのか分からなくなっちゃう?」

 

【ホメオスタシス】

 

「そうですね。少なくとも、正確に知ることは難しくなるでしょう」

 

【崑崙】

 

(静かに頷く)

 

「歴史は、出来事が起きただけで永遠に残るわけじゃない。誰かが語り継ぎ、記録し、保存することで、初めて後の時代へ届くものだからね」

 

【ホメロス】

 

「わたくしも同じように考えますわ。華々しい勝利だけを残しても、その時代のすべてを伝えたことにはなりませんもの」

 

【サイガ】

 

「……そっか」

 

【ホメオスタシス】

 

「それに、私が残したかったのは、戦いの記録だけではありません」

 

(ホログラムが切り替わる。)

 

(小さな集落で食事を分け合うデジモンたち。森の中で遊ぶ幼いデジモンたち。遠く離れた村へ物資を運ぶ一団。)

 

【ホメオスタシス】

 

「戦いの前に存在した日常も、戦いによって変わってしまった世界も、そして戦いの後に始まった復興も……すべてがThe ORIGINの歴史です」

 

「それらを、現在の世界だけに依存させておくべきではないと考えました」

 

【サイガ】

 

「……だから、別の場所にも保存しておこうと思ったんだね」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい」

 

【イグドラシル】

 

(優しく微笑む)

 

「そして、その保存先として選ばれたのが、私のデータセンターだったんだ」

 

【サイガ】

 

「あっ! キャメロットだね!」

 

【イグドラシル】

 

「正解!」

 

(イグドラシルが指先を動かすと、円卓の上に二つの光球が並んだ。)

 

(一方には『The ORIGIN』。もう一方には『キャメロット』と表示されている。)

 

【イグドラシル】

 

「ここで大事なのは、私のデータセンターは、もともと独立して存在していたってことだよ」

 

【サイガ】

 

「うん! The ORIGINから分かれて生まれたわけじゃないんだよね!」

 

【イグドラシル】

 

「そうそう! 私のデータセンターも、崑崙のデータセンターも、ホメロスのデータセンターも、それぞれ独立して存在しているんだ」

 

【崑崙】

 

「ふふ。僕たちは同じ場所を分担して管理しているわけじゃない。それぞれが別の管理領域を持っているんだよ」

 

【ホメロス】

 

「そして、その独立性があったからこそ、バックアップを別の場所へ預けることに意味が生まれたのですわ」

 

【サイガ】

 

「なるほど……。同じ場所に全部保存していたら、その場所に何かあったとき、全部一緒に失われるかもしれないもんね」

 

【イグドラシル】

 

「うん。だから、独立した管理領域に保存しておくことには意味があるんだよ」

 

(ホメオスタシスが手をかざすと、The ORIGINの光球から、キャメロットへ向けて膨大なデータの流れが伸びていった。)

 

(青白い光の粒が、まるで星の川のように二つの光球の間を流れていく。)

 

【サイガ】

 

「わあ……! これがバックアップ?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。The ORIGINの歴史と世界の状態を保存し、イグドラシルのデータセンターへ展開したときの記録です」

 

【サイガ】

 

「……すごい量だね」

 

【イグドラシル】

 

「ふふっ。何しろ、一つの世界が積み重ねてきた歴史だからね!」

 

【サイガ】

 

「でもさ、イグドラシル。バックアップを受け取るって、ただデータを保管するだけじゃなかったんだよね?」

 

【イグドラシル】

 

「うん。保存された状態を、私のデータセンターで展開したんだ」

 

(イグドラシルがキャメロットの光球に触れると、その内部に新たな景色が映し出された。)

 

(山々、森、海、集落。そこには、The ORIGINの保存記録をもとに展開された世界の姿があった。)

 

【サイガ】

 

「……本当に世界があるんだ」

 

【イグドラシル】

 

「そうだよ。ただし、元のThe ORIGINが移動してきたわけじゃないからね」

 

【ホメオスタシス】

 

「The ORIGINは、その後も私の管理する世界として存在し続けています」

 

【崑崙】

 

「そして、展開された側も、イグドラシルの管理領域で独立して存在することになる。二つは同じ場所ではないんだ」

 

【サイガ】

 

「……同じ歴史を保存した記録から始まっても、その後は別々に進んでいくんだね」

 

【イグドラシル】

 

「うん! それぞれの世界で起きる出来事が、必ず同じになるとは限らないからね」

 

【ホメロス】

 

「同じところまで書かれた二冊の書物が、そこから先は異なる物語を綴っていく……そんなふうに考えると、分かりやすいかもしれませんわね」

 

【サイガ】

 

「……なるほど!」

 

(サイガは二つの光球を見比べ、しばらく考え込んだ。)

 

(そして、ふと何かに気づいたように顔を上げる。)

 

【サイガ】

 

「……あれ? ちょっと待って」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。何でしょう?」

 

【サイガ】

 

「The ORIGINの世界の状態をバックアップしたってことは……ルーチェモンの封印も?」

 

(その問いに、四人の管理者が静かに頷いた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。封印されたルーチェモンの状態も、バックアップの対象に含まれていました」

 

【サイガ】

 

「……じゃあ、キャメロットにもルーチェモンがいるの?」

 

【イグドラシル】

 

「うん。ただし、元のルーチェモンが移動してきたわけじゃないよ」

 

(イグドラシルが指先を動かすと、二つの光球の内部に、それぞれダークエリアが映し出された。)

 

(その最奥には、封印されたルーチェモンの姿があった。)

 

【ホメオスタシス】

 

「The ORIGINのダークエリアには、オリジナルのルーチェモンが封印されたままです」

 

「そして、バックアップ先には、保存された状態をもとに複製された別個体のルーチェモンが存在しています」

 

【サイガ】

 

「……同じルーチェモンの情報から生まれた、別々の存在なんだね」

 

【崑崙】

 

「そういうことだよ。複製されたからといって、元の個体が消えるわけでも、二つの個体が一つの意識を共有するわけでもない」

 

【サイガ】

 

「……そっか」

 

(サイガは二つの封印を見つめた。)

 

(かつて十闘士が命を懸けて戦い、ようやく封印した存在。その封印状態までもが、別の世界へ受け継がれている。)

 

【サイガ】

 

「……ねえ、ホメオスタシス」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい」

 

【サイガ】

 

「それって、怖くなかった?」

 

【ホメオスタシス】

 

(少し驚いたように瞬きをする)

 

「……怖い、ですか?」

 

【サイガ】

 

「うん。だって、ルーチェモンはあれだけ大きな戦争を起こしたんでしょう? その状態までコピーするって、すごく大きな決断だったんじゃないかなって」

 

(ホメオスタシスは、すぐには答えなかった。)

 

(彼女は円卓の上に浮かぶ二つのダークエリアを見つめ、やがて静かに口を開いた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……確かに、簡単な決断ではありませんでした」

 

「ですが、私が保存しようとしたのは、都合のよい部分だけを選び出した歴史ではありません」

 

【サイガ】

 

「……うん」

 

【ホメオスタシス】

 

「ルーチェモンが存在したことも、あの戦争が起きたことも、十闘士が戦ったことも……すべて、The ORIGINが歩んできた歴史の一部です」

 

「危険な存在だったからといって、その存在した事実まで消してしまうことは、私が目指した保存とは異なるものでした」

 

【ホメロス】

 

(静かに頷く)

 

「歴史を残すということは、必ずしも美しい出来事だけを選び取ることではありませんものね」

 

【崑崙】

 

「ふふ。記録する側の都合で過去を切り取れば、それはもはや完全な記録とは言えなくなるだろう」

 

【イグドラシル】

 

「それに、バックアップを受け取った以上、展開した側をどう管理するかは私の責任になるんだ」

 

【サイガ】

 

「……イグドラシル」

 

【イグドラシル】

 

(いつもの明るい笑顔を浮かべる)

 

「もちろん、軽い気持ちで引き受けたわけじゃないよ。でも、ホメオスタシスが私を信頼して託してくれたんだから、ちゃんと向き合いたかったんだ」

 

【ホメオスタシス】

 

(優しく微笑む)

 

「……ありがとうございます、イグドラシル」

 

【イグドラシル】

 

「えへへ。どういたしまして!」

 

【崑崙】

 

(口元に笑みを浮かべる)

 

「ふふ。こうして聞くと、君たちらしい判断だね」

 

【ホメロス】

 

「ええ。お互いを信頼しているからこそ、できたことなのでしょうね」

 

(サイガは四人の顔を順番に見つめた。)

 

(彼らはそれぞれ異なる世界を管理している。それでも、互いの考えを理解し、信頼し合っている。)

 

(世界を見守るということは、一人ですべてを抱え込むことではないのかもしれない。)

 

【サイガ】

 

「……なんだか、いいね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ふふ……何がでしょう?」

 

【サイガ】

 

「みんな、別々の世界を管理しているのに、ちゃんと助け合っているところ!」

 

【イグドラシル】

 

「ふふっ! そう言ってもらえると嬉しいな!」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。わたくしたちも、いつも意見が同じというわけではありませんけれどね」

 

【崑崙】

 

「それでも、互いの考えを尊重することはできる。大切なのはそこだろうね」

 

(五人の間に、穏やかな笑い声が広がった。)

 

(やがてホメオスタシスが手を動かすと、バックアップの映像は静かに消えた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「さて……ここまでが、The ORIGINのバックアップについてのお話です」

 

【サイガ】

 

「うん! すごく分かりやすかった!」

 

【ホメオスタシス】

 

「では、次のお話に移りましょうか」

 

(円卓の中央に、新たなホログラムが現れた。)

 

(それは、青白く輝く小さなデータパッケージだった。周囲には細かな文字列が浮かび、内部では無数の光点がゆっくりと動いている。)

 

【サイガ】

 

「……これが、もう一つの話?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。こちらがSEEDです」

 

【サイガ】

 

「SEED……英語で『種』って意味だよね?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。ですが、このSEEDは植物の種ではありません」

 

(ホメオスタシスが指先を動かすと、データパッケージの内部が拡大された。)

 

「SEEDとは、デジモンの情報だけを収録したデータパッケージです」

 

【サイガ】

 

「デジモンの情報だけ?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。デジタルワールドの地形や建造物、文明の歴史などは収録されていません」

 

【イグドラシル】

 

「それに、SEEDそのものが世界を作り出す装置ってわけでもないんだよ」

 

【サイガ】

 

「……あっ! じゃあ、さっきのバックアップとは全然違うものなんだ!」

 

【崑崙】

 

「ふふ。その通りだね。バックアップは世界の歴史と状態を保存したもの。SEEDはデジモンの情報をまとめたデータパッケージだ」

 

【ホメロス】

 

「名前が『種』だからといって、そこから世界が生まれると考える必要はありませんわ」

 

【サイガ】

 

「なるほど……。でも、SEEDってバックアップのときにもあったの?」

 

【ホメオスタシス】

 

(ゆっくりと首を横に振る)

 

「いいえ。SEEDが作られたのは、バックアップが完了した後なのです」

 

【サイガ】

 

「えっ!? そうだったの!?」

 

【イグドラシル】

 

(笑いながら頷く)

 

「そうだよ! だから、バックアップと一緒にSEEDがコピーされた、なんてこともないんだ」

 

【サイガ】

 

「あっ、そっか! まだ存在していなかったんだもんね!」

 

【崑崙】

 

「ふふ。時系列を整理すると、分かりやすいだろう?」

 

【サイガ】

 

「うん! まずルーチェモンが封印されて、それからThe ORIGINのバックアップが作られて……その後にSEEDが作られたんだね!」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。その順序で間違いありません」

 

(ホメオスタシスが手をかざすと、SEEDのホログラムがゆっくりと開いた。)

 

(内部から無数の光点が現れ、それぞれが異なるデジモンの姿へと変わっていく。)

 

【サイガ】

 

「わあ……!」

 

(サイガが思わず身を乗り出す。)

 

(アグモン、ガブモン、ピヨモン、テントモン。小さなデジモンから巨大なデジモンまで、さまざまな姿が光の中に浮かび上がっていた。)

 

【サイガ】

 

「すごい! こんなにたくさんのデジモンの情報が入っているんだ!」

 

【ホメオスタシス】

 

「ふふ……ええ。今、表示しているのは、その情報の一部です」

 

【サイガ】

 

「これって、デジモン図鑑みたいなもの?」

 

【崑崙】

 

「分かりやすい例えだね。ただし、単なる説明文の集まりではなく、デジモンに関する情報をデータとして収録したものだと考えた方が正確だろう」

 

【サイガ】

 

「データとして……?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。例えば、デジモンの種族名、外見的特徴、属性、世代、能力、進化に関する情報などですね」

 

(ホメオスタシスが一つの光点を選ぶと、アグモンの立体映像が大きく表示された。)

 

【ホメオスタシス】

 

「こちらを例にしましょう」

 

【サイガ】

 

「アグモンだ!」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。アグモンというデジモンの種族情報には、成長期であることや、ワクチン種という属性、外見的特徴、技などに関する情報があります」

 

【サイガ】

 

「なるほど……。じゃあ、ガブモンならガブモンの情報があるんだね!」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい」

 

(アグモンの隣にガブモンの立体映像が現れた。)

 

(さらに、二体の周囲へ小さな情報欄が広がっていく。)

 

【サイガ】

 

「……あれ? でもさ」

 

【イグドラシル】

 

「ん? どうしたの?」

 

【サイガ】

 

「同じアグモンでも、性格が違う子っているよね?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。もちろんです」

 

【サイガ】

 

「じゃあ、SEEDには、その子がどんな性格なのかとか、誰と友達だったのかとかも入っているの?」

 

【ホメオスタシス】

 

「いいえ。少なくとも、今お話ししているデジモンの種族情報と、個々のデジモンが経験した出来事は区別する必要があります」

 

【サイガ】

 

「……そっか」

 

【ホメオスタシス】

 

「同じ種族のデジモンであっても、それぞれが歩む人生は異なります。どこで生まれ、誰と出会い、何を経験したのか。それらは、一体一体が積み重ねていくものです」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。同じ種族だからといって、同じ物語を生きるわけではありませんものね」

 

【崑崙】

 

「デジモンの情報と、個体が生きてきた歴史は別物だ。そこを混同すると、SEEDの意味を取り違えてしまうだろう」

 

【サイガ】

 

「……うん。分かった気がする!」

 

(サイガはアグモンの映像を見つめながら、小さく頷いた。)

 

「SEEDにはアグモンというデジモンの情報がある。でも、そのアグモンが誰と友達になって、どんな冒険をしたのかは、また別の話なんだね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。とてもよく理解できていますよ」

 

【イグドラシル】

 

「ふふっ! サイガ、今日は飲み込みが早いね!」

 

【サイガ】

 

「えへへ。みんなの説明が分かりやすいからだよ!」

 

【崑崙】

 

「ふふ。そう言われると、こちらも説明のしがいがあるね」

 

(ホメオスタシスが手を動かすと、アグモンとガブモンの映像が小さくなり、代わりに十闘士の姿が浮かび上がった。)

 

【サイガ】

 

「……あっ! 十闘士!」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。では、ここでもう一つ確認してみましょう」

 

(十闘士の姿の隣に、第一次ルーチェモン戦役の映像が現れた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「SEEDにデジモンの情報が収録されていたとしても、それだけで第一次ルーチェモン戦役の歴史を知ることができるわけではありません」

 

【サイガ】

 

「……あっ、なるほど!」

 

【ホメオスタシス】

 

「十闘士がどのように戦い、何を守ろうとし、どのような結末を迎えたのか。それは歴史の記録として扱うべきものです」

 

【サイガ】

 

「じゃあ、SEEDとバックアップは、保存しているものが違うんだね」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。だからこそ、二つを区別して考えることが大切なのです」

 

【ホメロス】

 

「歴史は、そこに生きた者たちの選択によって紡がれます。そして、デジモンの情報は、その存在について記述したもの。似ているようで、役割は異なりますわ」

 

【サイガ】

 

「……うん!」

 

(サイガはしばらく十闘士の姿を眺めていた。)

 

(彼らの戦いを初めて見たとき、自分はただ、その強さに圧倒されていた。)

 

(しかし、今は少し違う。)

 

(十闘士というデジモンの情報だけでは、あの戦いのすべてを知ることはできない。彼らが何を思い、何を選び、何を守ったのか。それを知るには、歴史そのものを見届ける必要がある。)

 

【サイガ】

 

「……なんだか、分かる気がするな」

 

【ホメオスタシス】

 

「ふふ……何がでしょう?」

 

【サイガ】

 

「デジモンの情報を知っていることと、そのデジモンのことを本当に知っていることは、違うんだなって」

 

(ホメオスタシスは少し目を見開いた後、柔らかく微笑んだ。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……ええ。その通りですね」

 

【イグドラシル】

 

(嬉しそうに頷く)

 

「ふふっ! いいこと言うね、サイガ!」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。今の言葉は、わたくしも気に入りましたわ」

 

【崑崙】

 

「情報だけでは、その存在のすべてを語れない。実に大切な視点だね」

 

(サイガは少し照れくさそうに笑い、紅茶のカップを手に取った。)

 

【サイガ】

 

「……でも、そうなると気になることがあるんだ」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。何でしょう?」

 

【サイガ】

 

「バックアップを作った後に、どうしてSEEDも作ろうと思ったの?」

 

(その問いに、ホメオスタシスは静かに頷いた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……そうですね。そこが、今回のお話で最も大切な部分かもしれません」

 

(彼女はSEEDのホログラムを見つめながら、ゆっくりと言葉を続けた。)

 

「バックアップによって、The ORIGINが積み重ねてきた歴史と、その時点の世界の状態を保存することはできました」

 

「ですが、それとは別に、デジモンという存在に関する情報を、独立したデータパッケージとして整理しておくことにも意味があると考えたのです」

 

【サイガ】

 

「……世界の記録とは分けて、デジモンの情報をまとめておきたかったんだね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。SEEDは、そのために作られたものです」

 

【サイガ】

 

「なるほど……」

 

(サイガは再びSEEDを見つめた。)

 

(先ほどまでは、ただ小さな光の塊にしか見えなかった。しかし、その内部には、さまざまなデジモンに関する情報が収められている。)

 

(その一つ一つが、いつか誰かの知るデジモンの姿へと結びついていくのだろう。)

 

【サイガ】

 

「……でも、これだけたくさんの情報をまとめるのって、大変そうだね」

 

【イグドラシル】

 

「ふふっ。確かに、簡単な作業ではなさそうだよね!」

 

【崑崙】

 

「情報を集めるだけでなく、どこまでを収録対象とするか、どう整理するかという問題もあるだろうね」

 

【ホメロス】

 

「それに、デジモンの情報を扱う以上、曖昧なまま記録してよいものばかりではありませんわ」

 

【サイガ】

 

「……そっか。適当にまとめちゃ駄目なんだ」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。だからこそ、SEEDは世界そのもののバックアップとは別に、デジモンの情報を扱うためのデータパッケージとして整理されたのです」

 

(ホメオスタシスが手をかざすと、SEEDのホログラムはゆっくりと閉じ、再び小さな青白い光となった。)

 

(円卓の上には、The ORIGINのバックアップを示す記録と、SEEDを示すデータパッケージが並んでいる。)

 

【サイガ】

 

「……こうして見ると、全然違うものなんだね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。バックアップは、The ORIGINの歴史と世界の状態を保存したもの。そしてSEEDは、その後に作られた、デジモンの情報だけを収録したデータパッケージです」

 

【サイガ】

 

「うん! もう混同しないよ!」

 

【イグドラシル】

 

「ふふっ! それなら、今日の説明は大成功かな!」

 

【崑崙】

 

「まだまだ掘り下げられることはあるけれど、基本を理解するには十分だろうね」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。何事も、最初に土台をしっかり作っておくことが大切ですもの」

 

(サイガは笑顔で頷いた後、ふと窓の外へ視線を向けた。)

 

(紫紺の宇宙には、数え切れないほどの星々が輝いている。)

 

(それぞれが遠く離れた場所に存在し、異なる光を放っている。)

 

(サイガには、その光景が、四人の管理者たちの世界と少し似ているように思えた。)

 

【サイガ】

 

「……ねえ、みんな」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい?」

 

【サイガ】

 

「今日の話を聞いて、ちょっと思ったんだけどさ」

 

(サイガは円卓の中央に浮かぶ二つの記録を見つめた。)

 

「バックアップもSEEDも、何かを残すために作ったものなんだよね」

 

【ホメオスタシス】

 

「……ええ」

 

【サイガ】

 

「でも、それって、ただ保存しておくだけじゃなくて……未来の誰かが、それを知ることができるようにするためでもあるのかなって」

 

(ホメオスタシスは静かにサイガを見つめた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……そうですね。少なくとも、私はそう願っています」

 

【サイガ】

 

「……そっか」

 

【ホメオスタシス】

 

「記録は、それを残した時点で役目を終えるものではありません。いつか、その記録に触れる誰かがいるかもしれない」

 

「そして、その誰かが過去を知り、何かを考え、未来へ進むきっかけになるかもしれません」

 

【サイガ】

 

「……うん」

 

【ホメオスタシス】

 

「だからこそ、私は残しておきたかったのです。The ORIGINが歩んできた歴史も、デジモンという存在に関する情報も」

 

(彼女の金色の瞳が、静かに輝いた。)

 

「たとえ時代が変わっても、それらが無意味になることはありませんから」

 

【イグドラシル】

 

(優しく微笑む)

 

「私も、そう思うよ。過去があるから、今がある。そして、今があるから、これから先の未来が生まれるんだ」

 

【崑崙】

 

「ふふ。過去を残すことは、未来を決めつけることではない。むしろ、未来を生きる者たちが、自分で考えるための材料を残すことなんだろうね」

 

【ホメロス】

 

「ええ。どれほど長い歴史であっても、その中に生きた者たちの営みが積み重なっていることを、忘れてはなりませんわ」

 

(サイガは四人の言葉を聞きながら、静かに頷いた。)

 

(第一次ルーチェモン戦役を見届けたとき、サイガの心に残ったのは、十闘士の勇姿と、ルーチェモンの圧倒的な力だった。)

 

(しかし、今日の話を聞いたことで、あの戦いの後にも、さまざまな出来事があったのだと知った。)

 

(世界の歴史を保存し、別の管理者へ託す決断。)

 

(そして、デジモンの情報を一つのデータパッケージとして残す試み。)

 

(どちらも、戦場で剣を振るうような華々しい出来事ではない。)

 

(それでも、世界を見守る者たちにとっては、確かな意味を持つ仕事だった。)

 

【サイガ】

 

「……僕、今日の話を聞けてよかったよ」

 

【ホメオスタシス】

 

(優しく微笑む)

 

「ふふ……そう言っていただけると嬉しいです」

 

【サイガ】

 

「だって、前は管理者って、世界を見守ったり、何か問題が起きたときに対処したりする存在だと思ってたんだ」

 

「でも、今日みたいに、歴史を残したり、情報を整理したりするのも大切な仕事なんだね」

 

【イグドラシル】

 

「そうそう! 派手じゃない仕事も、結構あるんだよ!」

 

【崑崙】

 

「ふふ。むしろ、そういう仕事の方が多いかもしれないね」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。管理者の仕事というのも、なかなか奥が深いでしょう?」

 

【サイガ】

 

「うん! 思っていたよりずっと!」

 

(五人の間に、穏やかな笑い声が広がった。)

 

(そのとき、イグドラシルが円卓の中央に置かれた菓子皿へ手を伸ばした。)

 

【イグドラシル】

 

「あっ、そうだ! 難しい話も終わったことだし、お菓子でも食べようよ!」

 

【崑崙】

 

(少し呆れたように笑う)

 

「ふふ。君は本当に切り替えが早いね」

 

【イグドラシル】

 

「だって、せっかく用意したんだもん! 食べないともったいないでしょ?」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。それには賛成ですわ。せっかくの紅茶も、冷めてしまいますもの」

 

【ホメオスタシス】

 

「ふふ……そうですね。少し休憩しましょうか」

 

【サイガ】

 

(笑いながら)

 

「みんな、こういうときは普通の友達みたいだよね!」

 

【イグドラシル】

 

「えー? 私たち、普通に友達でしょ?」

 

【サイガ】

 

「……あっ、そうだった!」

 

【崑崙】

 

「ふふ。今さら何を言っているんだい?」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。サイガは時々、面白いことをおっしゃいますわね」

 

【ホメオスタシス】

 

(柔らかく微笑む)

 

「ええ。私たちは、あなたの友人でもあるのですから」

 

(サイガは少し照れくさそうに笑い、焼き菓子を一つ手に取った。)

 

(円卓の中央では、バックアップとSEEDのホログラムが、並んで静かに輝いている。)

 

(片方は、世界が歩んできた歴史を残すもの。)

 

(もう片方は、デジモンという存在の情報を残すもの。)

 

(異なる役割を持つ二つの記録は、どちらも未来へ何かを伝えるために作られたものだった。)

 

【サイガ】

 

(焼き菓子を頬張りながら)

 

「……ねえ、ホメオスタシス」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。何でしょう?」

 

【サイガ】

 

「これからも、The ORIGINの歴史をたくさん見せてね」

 

【ホメオスタシス】

 

(穏やかに頷く)

 

「……もちろんです」

 

「あなたが望む限り、私はこの世界が歩んできた歴史を、お話ししていきましょう」

 

【サイガ】

 

「うん! 楽しみにしてる!」

 

【イグドラシル】

 

「ふふっ! 私のキャメロットの話も、いつか聞いてね!」

 

【崑崙】

 

「僕のシャンバラにも、興味深い歴史がたくさんあるよ」

 

【ホメロス】

 

「わたくしのイリアスも、お忘れにならないでくださいましね?」

 

【サイガ】

 

(四人を見回し、嬉しそうに笑う)

 

「もちろん! みんなの世界の話、全部聞いてみたいよ!」

 

(四人の管理者は、それぞれの表情で微笑んだ。)

 

(狭間劇場の窓の向こうでは、無数の星々が静かに瞬いている。)

 

(世界はそれぞれ異なる歴史を刻み、そこに生きるデジモンたちは、それぞれの未来へ歩み続けている。)

 

(そして、その歩みを見守り、記録し、未来へ伝えようとする者たちがいた。)

 

(サイガは今日、その営みの一端を知った。)

 

(歴史は、戦いによってのみ作られるものではない。)

 

(守られた日常も、誰かに託された記録も、未来のために残された情報も、すべてが世界の歩みを支えている。)

 

(五人の笑い声が、穏やかなVIPルームに響いていた。)

 

【ホメオスタシス】

 

(サイガたちを優しく見つめながら)

 

「……ふふ。こうして皆さんとお話しできる時間も、私にとっては大切な記録の一つなのですよ」

 

(彼女の言葉に、サイガは笑顔で頷いた。)

 

【サイガ】

 

「……うん! 僕にとっても、大切な思い出だよ!」

 

(その言葉に応えるように、円卓の中央で青白い光が静かに瞬いた。)

 

(――こうして、The ORIGINのバックアップとSEEDについての語らいは、穏やかな笑顔の中で幕を閉じた。)

 

――幕間・第2話『受け継がれる世界、記録される生命』 完――

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