デジモンストーリー オリジン   作:空閑アルト

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第一次ルーチェモン戦役が終結し、平穏を取り戻しつつあったThe ORIGIN。復興が進み、デジモンたちが新たな日常を築く一方、世界の奥深くでは不可解な異変が生じ始めていた。ホメオスタシスが語る、三魔バグ事件の幕が上がる。


オリジン・プロトコル 2章 三魔バグ事件篇
第1話『世界に走る亀裂』


(――狭間劇場・VIPルーム。)

 

(紺碧と金色に彩られた室内。円卓の中央では、青いホログラムが静かに回転していた。)

 

(黒いパーカー姿のサイガは、いつもの席に座っていた。左側には長い黒髪を結んだ崑崙と、銀白色の髪に淡い緑色が混じるイグドラシル。向かい側には金髪のホメロス。そして右側には、黄金の光輪を背負ったホメオスタシスが座っている。)

 

(前回、サイガはThe ORIGINのバックアップとSEEDについて学んだ。第一次ルーチェモン戦役が終結した後、ホメオスタシスが世界の歴史を保存し、イグドラシルのデータセンターへ展開したこと。そして、その後にデジモンの情報だけを収録したSEEDが作られたこと。)

 

(それらは、世界の歴史を未来へ残すための営みだった。)

 

(しかし、今日のホメオスタシスは、いつもより少しだけ真剣な表情を浮かべていた。)

 

【サイガ】

 

(紅茶のカップを置き、彼女を見つめる)

 

「……ねえ、ホメオスタシス。今日は何の話を聞かせてくれるの?」

 

【ホメオスタシス】

 

(静かに微笑む)

 

「……今日は、第一次ルーチェモン戦役の後に起きた、ある事件についてお話ししましょう」

 

【サイガ】

 

「事件?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。後に、三魔バグ事件と呼ばれることになる出来事です」

 

【イグドラシル】

 

(普段の明るい笑顔を少し引き締める)

 

「……今回は、私たちも深く関わる事件なんだよ」

 

【崑崙】

 

(腕を組み、ホログラムを見つめる)

 

「ふふ……あの出来事は、僕たちにとっても忘れられないものになったね」

 

【ホメロス】

 

(紅茶のカップを静かに置く)

 

「ええ。あのときは、まさかあのような事態に発展するとは、思ってもおりませんでしたわ」

 

【サイガ】

 

(四人を見回す)

 

「……そんなに大きな事件だったの?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。ですが、最初から大きな異変として現れたわけではありません」

 

(ホメオスタシスが指先を動かすと、円卓の中央にThe ORIGINの映像が浮かび上がった。)

 

「すべての始まりは、ほんの小さな異常だったのです」

 

―――

 

(――遥か過去。The ORIGIN。)

 

(第一次ルーチェモン戦役の終結から時が流れ、デジタルワールドには穏やかな日常が戻りつつあった。)

 

(かつて戦場となった平原には新しい草木が芽吹き、崩壊した集落には再び家々が建ち並んでいた。)

 

(森では幼いデジモンたちが遊び、街道では商人たちが荷物を運び、空には鳥型デジモンたちが自由に飛び交っている。)

 

(戦争の傷跡は、まだ完全には消えていない。)

 

(それでも、世界は確かに前へ進んでいた。)

 

【サイガ】

 

(映像を眺めながら)

 

「……わあ。前に見たときより、ずいぶん復興が進んでるね!」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。デジモンたちは互いに助け合いながら、新しい時代を築いていました」

 

【サイガ】

 

「三大天使も、みんなを見守っていたんだよね?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。セラフィモン、オファニモン、ケルビモン。三大天使はそれぞれの役割を果たしながら、世界の平穏を支えていました」

 

(映像には、復興する街を見守る天使型デジモンたちの姿が映し出された。)

 

(彼らが守ろうとしていたのは、戦いのない日常だった。)

 

(しかし、その平穏な世界の奥深くで、誰にも気づかれない変化が起こり始めていた。)

 

(――The ORIGIN・データ管理領域。)

 

(無数の光の線が交差する、広大な情報空間。)

 

(そこでは、世界を構成するデータが絶えず流れ続けていた。生命の情報、進化に関する情報、大地や空間を形作る情報。それらは互いに関係しながら、デジタルワールドを支えている。)

 

(その一角で、一つの警告表示が点灯した。)

 

【監視記録】

 

「The ORIGIN・異常データ検出」

 

「生命・進化関連領域に、通常の変動とは異なる書き換えを確認」

 

「原因:未特定」

 

「影響範囲:調査中」

 

(警告は一度消えた。)

 

(だが、間もなく別の領域でも異常が検出された。)

 

(今度は、大地と空間を構成する情報の一部に、説明のつかない変質が生じていた。)

 

(その二つは、離れた場所で発生していた。)

 

(まだ誰も、それらの関係を知らなかった。)

 

―――

 

(――狭間劇場・VIPルーム。)

 

【サイガ】

 

(身を乗り出す)

 

「……あれ? 今、二つの異常が出てきたよね?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。最初に確認されたのは、性質の異なる二つの異常でした」

 

【サイガ】

 

「生命と進化の情報がおかしくなるものと、大地や空間の情報がおかしくなるもの……?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。ただし、この時点では、どちらも原因を特定できていませんでした」

 

【崑崙】

 

「普通のデータ破損なら、壊れた箇所を調べて修復するという方法が考えられる。けれど、今回の異常は少し様子が違ったんだ」

 

【サイガ】

 

「……どう違ったの?」

 

【ホメオスタシス】

 

「本来の状態へ戻そうとしても、異常な変化が再び発生したのです」

 

(ホメオスタシスが映像を拡大する。)

 

(複雑なデータの列が、正常な状態へ修復されていく。)

 

(しかし、修復が完了した直後、その一部が再び書き換わった。)

 

【サイガ】

 

「えっ!? 直したばっかりなのに!?」

 

【ホメオスタシス】

 

「……ええ」

 

【イグドラシル】

 

(真剣な表情で映像を見つめる)

 

「これじゃあ、ただ壊れたデータを修復するだけでは解決できないね」

 

【ホメロス】

 

「何が異常を発生させているのか。その原因を調べる必要がありますわ」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。そこで私は、二つの異常について詳しい調査を始めました」

 

―――

 

(――The ORIGIN・辺境の森林地帯。)

 

(緑豊かな森の中を、一体の成長期デジモンが歩いていた。)

 

(木々の間から差し込む日差しは暖かく、遠くでは小鳥の鳴き声が響いている。)

 

(そのデジモンは、いつも通り森の小道を進んでいた。)

 

(だが、不意に足を止めた。)

 

(身体の輪郭が、一瞬だけ揺らいだのだ。)

 

(まるで、映像の一部が乱れたかのように。)

 

(デジモンは驚いて自分の腕を見下ろした。)

 

(異常はすぐに収まった。)

 

(しかし、その直後、身体を構成するデータの一部に、通常とは異なる変化が生じ始める。)

 

(進化したわけではない。)

 

(攻撃を受けたわけでもない。)

 

(それにもかかわらず、その存在を形作る情報が、外側から書き換えられようとしていた。)

 

(デジモンは怯え、森の奥へ駆け出した。)

 

(その異変を捉えた観測記録が、ホメオスタシスの管理領域へ送られる。)

 

【ホメオスタシス】

 

(記録を見つめ、表情を曇らせる)

 

「……生命情報への干渉が、実際のデジモンにも現れ始めていますね」

 

(彼女はすぐに異常が発生した領域を調べた。)

 

(進化に関する情報の一部が、通常の規則とは異なる形へ変化している。)

 

(それは自然な進化ではなかった。)

 

(デジモンが経験を積み、自らの可能性を広げる過程とも異なっていた。)

 

(存在の構造そのものに、何者かが干渉したような痕跡だった。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……このままでは、影響が広がる可能性があります」

 

(彼女は異常領域の拡大を抑えながら、原因の解析を続けた。)

 

(しかし、そのときだった。)

 

(新たな警告が表示された。)

 

(――The ORIGIN・別の辺境地域。)

 

(そこでは、先ほどとはまったく異なる現象が起きていた。)

 

(大地の一角が、不自然な光沢を帯び始めていたのだ。)

 

(最初は、小さな岩の表面だけだった。)

 

(だが、その変化は少しずつ周囲へ広がっていった。)

 

(土の質感が失われ、岩肌が異質な物質へ変わる。)

 

(地面に生えていた草木の根元にも、その変化が及び始めた。)

 

(やがて、周囲の空間そのものがわずかに歪み、遠くの景色が不自然に引き伸ばされて見えた。)

 

(そこを通りかかったデジモンたちは、異様な光景に足を止めた。)

 

(誰も、その現象が何なのか理解できなかった。)

 

(ただ一つ確かなことは、目の前の大地が、本来の姿ではなくなり始めているということだった。)

 

―――

 

(――狭間劇場・VIPルーム。)

 

【サイガ】

 

(驚いた表情で映像を見つめる)

 

「……何これ!? 地面が変わっちゃってる!」

 

【崑崙】

 

(静かに頷く)

 

「生命と進化の情報に干渉する異常とは、明らかに性質が違うね」

 

【サイガ】

 

「……じゃあ、こっちは大地や空間そのものを変えちゃうの?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。この異常は、周囲の物質や空間を、本来とは異なる構造へ置き換えようとしていました」

 

【イグドラシル】

 

「しかも、ただ形が変わっているだけじゃないんだよね?」

 

【ホメオスタシス】

 

「……ええ。調査を進めた結果、変質した領域が、異常な質量構造へ置換されていることが分かりました」

 

【サイガ】

 

「質量……?」

 

【崑崙】

 

「簡単に言えば、大地や空間が、本来そこにあるべきものとは別の構造へ変わっていくということだね」

 

【サイガ】

 

「……それって、すごく危険なんじゃ……」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。放置すれば、世界を構成する領域そのものに影響が及ぶ可能性がありました」

 

(サイガは二つの異常を映したホログラムを見比べた。)

 

(片方では、デジモンの生命と進化の情報が書き換えられている。)

 

(もう片方では、大地と空間の構造が異質なものへ置き換わっている。)

 

(どちらも、これまで見てきた戦争とはまったく違う脅威だった。)

 

【サイガ】

 

「……ルーチェモンみたいに、誰かが攻撃しているわけじゃないんだね」

 

【ホメオスタシス】

 

「少なくとも、この時点では、明確な意思を持った存在による攻撃とは確認できませんでした」

 

【ホメロス】

 

「敵が姿を現しているのであれば、その目的を探ることもできます。ですが、原因も意図も分からない異常となると、対応は難しくなりますわね」

 

【サイガ】

 

「……うん」

 

(サイガは小さく頷いた。)

 

「でも、ホメオスタシスなら何とかできるんじゃないの?」

 

(ホメオスタシスは少しだけ目を伏せた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……私も、そう願っていました」

 

(その言葉に、サイガは思わず顔を上げる。)

 

【サイガ】

 

「……え?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ですが、異常の解析を続けていた私は、さらに不可解な現象を確認することになったのです」

 

(彼女が指先を動かすと、二つの異常を示す光が円卓の中央に浮かび上がった。)

 

(片方は赤紫色。もう片方は青白い光。)

 

(それぞれ離れた位置に存在していた二つの光が、細い線で結ばれ始める。)

 

【サイガ】

 

「……何が起きてるの?」

 

【ホメオスタシス】

 

「二つの異常が、互いに干渉し始めたのです」

 

(光の線が複雑に絡み合う。)

 

(その交点に、今まで存在しなかった小さな黒い点が現れた。)

 

(黒い点は、周囲の光を吸い込むように、ゆっくりと脈動していた。)

 

【サイガ】

 

「……これって……」

 

【ホメオスタシス】

 

(静かに頷く)

 

「……はい」

 

「後に三つ目の異常として確認されることになる、最初の兆候でした」

 

(円卓の中央で、黒い点が一瞬だけ大きく揺らいだ。)

 

(その瞬間、映像の一部が途切れた。)

 

(途切れたはずの映像は、直後に何事もなかったかのように再開する。)

 

(しかし、サイガは確かに見ていた。)

 

(ほんの一瞬、そこにあったはずの時間が、抜け落ちたように見えたのだ。)

 

【サイガ】

 

(息を呑む)

 

「……今の……何?」

 

【ホメオスタシス】

 

「……このときの私は、まだ正体を特定できていませんでした」

 

(彼女は静かにホログラムを見つめる。)

 

「ですが、一つだけはっきりしていました」

 

【サイガ】

 

「……何が?」

 

【ホメオスタシス】

 

「これらの異常は、もはや単なるデータの破損として扱えるものではなかったのです」

 

(VIPルームに、短い沈黙が訪れた。)

 

(第一次ルーチェモン戦役の後、ようやく平穏を取り戻し始めたThe ORIGIN。)

 

(その世界の奥深くで、三つの異常が静かに動き始めていた。)

 

(そして、この時点ではまだ、誰もその全貌を知らなかった。)

 

―――

 

(――狭間劇場・VIPルーム。)

 

(円卓の中央には、三つの異常を示すホログラムが浮かんでいた。赤紫色の光、青白い光。そして、その二つの干渉によって現れた、黒い点。)

 

【サイガ】

 

(黒い点を指さし、真剣な表情で尋ねる)

 

「三つ目の異常をもっと詳しく調べたら、何が分かったの?」

 

【ホメオスタシス】

 

(静かに頷く)

 

「……調査によって、三つ目の異常が、最初の二つとは異なる性質を持っていることが分かりました」

 

(ホメオスタシスが指先を動かすと、ホログラムの中に一つの記録映像が現れる。)

 

「まず、こちらをご覧ください」

 

(映し出されたのは、The ORIGINの観測領域だった。)

 

(無数のデータが規則正しく流れる中、一部分だけが不自然に途切れている。)

 

【サイガ】

 

「……あれ? データが消えてる?」

 

【ホメオスタシス】

 

「正確には、データの欠損だけでは説明できない現象が起きていました」

 

【サイガ】

 

「どういうこと?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ある出来事が発生した記録と、その結果として残された状態は存在しているのに、その間にあるはずの経過が確認できなかったのです」

 

【サイガ】

 

(首を傾げる)

 

「……えっと?」

 

【崑崙】

 

(指先で円卓を軽く叩く)

 

「例えば、君がこの紅茶のカップを持ち上げたとしよう」

 

【サイガ】

 

「うん」

 

【崑崙】

 

「次の瞬間、カップはテーブルの反対側に置かれている。けれど、君がそこへ運んだ時間も、運んだという出来事も、どこにも存在しない」

 

【サイガ】

 

「……えっ!?」

 

【崑崙】

 

「それなのに、カップが移動したという結果だけは残っているんだ」

 

【サイガ】

 

「それって……途中の時間が消えちゃったってこと?」

 

【ホメオスタシス】

 

「……はい。そのように考えられる現象が確認されていました」

 

(映像が切り替わる。)

 

(今度は、一定の間隔で光を放つ観測装置が映し出された。)

 

(装置は規則正しく明滅していたが、ある瞬間、光の点滅が一度だけ飛ばされた。)

 

(そして次の瞬間には、何事もなかったように動き続けている。)

 

【サイガ】

 

「……本当だ。今、一回飛んだ!」

 

【イグドラシル】

 

(眉を寄せる)

 

「単純に装置が故障しただけなら、まだ説明はつくんだけどね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。ですが、複数の観測記録を照合しても、同様の不整合が確認されたのです」

 

【ホメロス】

 

「つまり、観測する側だけに問題があったとは考えにくかったのですわね」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。そして、さらに不可解なことがありました」

 

(ホログラムに、一本の光の線が現れる。)

 

(線は左から右へ、滑らかに伸びていた。)

 

(ホメオスタシスがその中央を拡大すると、線の一部が突然途切れた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「三つ目の異常は、時間の流れだけではなく、出来事の因果関係にも干渉していたのです」

 

【サイガ】

 

「因果関係……?」

 

【ホメロス】

 

(優しく説明する)

 

「ある出来事が起こり、その結果として別の出来事が起こる。そうした原因と結果のつながりのことですわ」

 

【サイガ】

 

「……じゃあ、原因がなくなっちゃうこともあるの?」

 

【ホメオスタシス】

 

「観測された現象には、原因と結果の対応が成立しなくなるものも含まれていました」

 

【サイガ】

 

「……そんなことが起きるんだ」

 

(サイガは黒い点を見つめた。)

 

(生命と進化の情報を書き換える異常。)

 

(大地や空間を異質な構造へ置き換える異常。)

 

(そして、時間と因果関係に干渉する異常。)

 

(最初の二つだけでも十分に恐ろしい。それなのに、三つ目は、出来事そのもののつながりを壊そうとしている。)

 

【サイガ】

 

「……ねえ、ホメオスタシス。三つ目は、最初の二つがぶつかったから生まれたの?」

 

【ホメオスタシス】

 

「……ええ。解析の結果、最初の二つの異常が互いに干渉した領域から、三つ目の異常が発生していることが確認されました」

 

(ホメオスタシスが手を動かす。)

 

(赤紫色と青白い光が接近し、その交点に黒い点が生まれる。)

 

【ホメオスタシス】

 

「ただし、この時点では、その異常が最終的にどのような存在へ変化するのかまでは分かっていませんでした」

 

【サイガ】

 

「……そっか。まだ始まったばかりだったんだね」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。そして、私が何より懸念したのは、三つの異常が同時に存在していることでした」

 

【崑崙】

 

「一つの異常を調べている間に、別の異常が広がる。さらに、それらが干渉すれば新しい問題まで発生する……厄介な状況だね」

 

【イグドラシル】

 

「しかも、三つ目が生まれたことで、最初の二つを個別に抑えるだけでは済まなくなってしまったんだ」

 

【サイガ】

 

「……じゃあ、どうしたの?」

 

【ホメオスタシス】

 

「まず、異常が確認された領域の監視を強化し、影響が広がらないように対処しました」

 

(映像の中で、異常領域の周囲に青い光の境界が形成されていく。)

 

(生命情報に異常が発生した地域では、周辺への拡大を防ぐための制御が行われた。)

 

(大地が変質した地域でも、異常な構造の広がりを抑えるための処置が続けられていた。)

 

(そして、三つ目の異常が発生した領域では、時間と因果の不整合を検出するため、観測が繰り返されていた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「ですが、どれも根本的な解決には至りませんでした」

 

【サイガ】

 

「……止められなかったの?」

 

【ホメオスタシス】

 

「局所的に進行を抑えることはできました。しかし、異常そのものを消去する方法は、まだ見つかっていなかったのです」

 

(彼女は静かに目を伏せた。)

 

「そして、異常が発生する範囲は、少しずつ広がっていきました」

 

(ホログラムにThe ORIGINの全体図が表示される。)

 

(複数の地点に、小さな警告表示が灯っていた。)

 

(最初は互いに離れた地域で起きていた異変が、やがて周囲の領域にも影響を及ぼし始めている。)

 

【サイガ】

 

「……これ、全部……?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。確認された異常の分布です」

 

【サイガ】

 

「こんなに……」

 

【ホメオスタシス】

 

「このままでは、The ORIGINの安定を維持することが難しくなるおそれがありました」

 

【ホメロス】

 

(真剣な表情で頷く)

 

「世界の構造に関わる異常ですもの。放置することはできませんわね」

 

【崑崙】

 

「しかも、三つの性質が異なる以上、一つの方法ですべてを解決できるとも限らない」

 

【イグドラシル】

 

(ホメオスタシスへ顔を向ける)

 

「……だから、私たちに連絡をくれたんだね」

 

【ホメオスタシス】

 

「……はい」

 

(映像が切り替わる。)

 

(The ORIGINの管理領域から、三つの通信が発信される様子が映し出された。)

 

(その宛先は、イグドラシル、崑崙、ホメロス。)

 

(それぞれ独立したデータセンターを管理する三人だった。)

 

【サイガ】

 

「……みんなに助けを求めたんだ」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。私一人で対応を続けるよりも、異なる管理領域を持つ三人の知見を借りるべきだと判断しました」

 

【イグドラシル】

 

(穏やかに微笑む)

 

「もちろん、連絡をもらってすぐに応じたよ」

 

【崑崙】

 

「ふふ。あれほど不可解な異常なら、僕としても調べる必要があると考えたからね」

 

【ホメロス】

 

「わたくしも同じですわ。原因が分からない以上、まずは状況を正確に把握することが重要でしたもの」

 

(サイガは三人を見回した。)

 

(普段はそれぞれの世界を管理している三人が、ホメオスタシスの呼びかけに応じて集まる。)

 

(それは、世界の歴史を保存するためにバックアップを託したときとは、また異なる協力の形だった。)

 

【サイガ】

 

「……そっか。じゃあ、ここから四人で調査することになったんだね!」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。そして、その調査によって、三つの異常の性質が、さらに詳しく明らかになっていくことになります」

 

(円卓の中央に、三つの光が並ぶ。)

 

(赤紫色、青白い光、そして黒い点。)

 

(サイガはその光を見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。)

 

【サイガ】

 

「……ルーチェモンとの戦いとは、全然違うんだね」

 

【ホメオスタシス】

 

「……そうですね」

 

「ルーチェモン戦役では、強大な敵と、それに立ち向かう者たちがいました」

 

「ですが、この事件では、そもそも何が起きているのかを明らかにするところから始めなければならなかったのです」

 

【サイガ】

 

「……うん」

 

【ホメオスタシス】

 

「そして、その答えを探すために、私たち四人は協力することになりました」

 

(ホログラムの中で、三つの異常を示す光が静かに明滅した。)

 

(それらはまだ、後に知られることになる名前を持っていない。)

 

(しかし、世界の奥深くでは、確かに何かが変わり始めていた。)

 

(――三魔バグ事件。)

 

(その全貌が明らかになるのは、まだ先のことである。)

 

――第1話『世界に走る亀裂』 完――

 

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