デジモンストーリー オリジン   作:空閑アルト

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遥か昔、まだ秩序が存在しなかった原初のデジタルワールド『The ORIGIN』。

争いの絶えない世界に、一体の天使が降臨する。

その名は、ルーチェモン。

これは、原初の世界が辿った栄光と悲劇の歴史を、四人の管理者と一人の人間が見届ける物語。


オリジン・プロトコル 1章 原初の天使篇
第1話「光の降臨」


第一幕「秩序なき世界」

 

 

【挿絵表示】

 

(狭間劇場のVIPルーム。サイガと四人の管理者が、巨大なスクリーンを見つめていた。)

 

【サイガ】

「……いよいよ始まるんですね」

 

【イグドラシル】

(白銀の髪を揺らして微笑む)

「ふふっ。楽しみにしていたみたいだね」

 

【サイガ】

「はい。歴史を実際に見られるなんて、普通は考えられませんから」

 

【コンロン】

(黒髪を後ろで束ね、静かに腕を組む)

「ふっ。しかも、今回は原初の時代から観測するわけだ。なかなか興味深い選択だね」

 

【ホメロス】

(金髪を揺らしながら、優雅にカップを置く)

「うふふ。わたくしたちも楽しませていただきますわ」

 

【ホメオスタシス】

(淡い金色の瞳をスクリーンへ向ける)

「ありがとうございます。それでは、ここからは私が語り部を務めましょう」

 

(ホメオスタシスは四人の顔を順番に見渡した。)

 

【ホメオスタシス】

「ですが、私がすべてを説明してしまっては、観測する意味が薄れてしまいますね」

 

【サイガ】

「……というと?」

 

【ホメオスタシス】

「まずは、そこに生きていたデジモンたちの姿を、そのまま見届けていただきたいのです」

 

「歴史には、後世の評価だけでは分からないことが数多くあります。ある者にとっての正義が、別の者にとっては苦しみとなることもあるでしょう」

 

「ですから、私の言葉だけではなく、あなた自身の目で確かめてください」

 

【サイガ】

「……分かりました」

 

【イグドラシル】

「いいと思うよ。最初から結論を教えられるより、当時の出来事を見た方が理解しやすいからね」

 

【ホメロス】

「ええ。わたくしも、当時のデジモンたちが何を考えていたのか、興味がありますわ」

 

(ホメオスタシスがスクリーンへ手を向ける。)

 

【ホメオスタシス】

「それでは、ご覧ください」

 

【The ORIGIN/原初史・観測開始】

 

(暗闇の中に一つの光点が現れ、ゆっくりと広がっていった。)

 

⸻

 

第二幕「原初の大地」

 

【ホメオスタシス/語り】

「遥か昔。まだ原初のデジタルワールドに、世界全体を統べる秩序が存在していなかった時代」

 

「そこには、すでに多くのデジモンたちが暮らしていました」

 

「彼らは生まれ、成長し、進化し、それぞれの生き方を模索していたのです」

 

(暗闇が晴れる。)

 

(どこまでも続く青空。その下には広大な森林、険しい山脈、果てしない草原が広がっていた。)

 

(大地を走る河川は青白く輝き、山肌には巨大な結晶が突き出している。)

 

(遠くでは鳥型デジモンの群れが空を横切り、森の中では小さなデジモンたちが木々の間を駆け回っていた。)

 

(美しい世界だった。少なくとも、この景色だけを見れば、争いとは無縁の楽園にも思える。)

 

【ホメオスタシス/語り】

「ですが、この世界にはまだ、誰もが従う共通の規範がありませんでした」

 

「それぞれの集落には、それぞれの決まりがあります。互いに協力する者たちもいれば、力によって他者を従わせようとする者たちもいました」

 

(視界が地上へ降りていく。)

 

(森を抜けた先に、小さな集落が見えた。木々の間には、葉や枝を組み合わせた住居が並んでいる。)

 

【パタモン】

(大きな葉の籠を抱えながら)

「よいしょっ! 今日はたくさん集まったね!」

 

【ピヨモン】

(翼をぱたぱたと動かす)

「うん! これなら、みんなでお腹いっぱい食べられるよ!」

 

【テントモン】

(木の枝から降りてくる)

「いやあ、ほんま助かりますわ。最近は森の奥まで行かんと、なかなか見つかりまへんからなあ」

 

【パタモン】

「そうなの?」

 

【テントモン】

「ええ。ほかの集落のデジモンたちも、食べ物を探しに来とるみたいですわ」

 

【ピヨモン】

「……じゃあ、みんなで分けた方がいいのかな?」

 

【テントモン】

「それができたら一番ええんですけどなあ。向こうにも向こうの事情がありますさかい」

 

【パタモン】

「……そっか。でも、僕たちは仲良くできているよね!」

 

【ピヨモン】

「うん!」

 

(集落の奥では、幼年期デジモンたちが楽しそうに跳ね回っていた。)

 

【テントモン】

「……せやな。こういう暮らしが続けば、何よりですわ」

 

(だが、集落の外では、別の出来事が起ころうとしていた。)

 

⸻

 

第三幕「力による支配」

 

(集落から少し離れた岩山。乾いた大地の上を、巨大な棍棒を担いだオーガモンが歩いていた。)

 

(その後ろには、数体のゴブリモンが続いている。)

 

【ゴブリモン】

「親分! この辺り、食い物が少なくなってきましたぜ!」

 

【オーガモン】

「……ああ、分かってる! ったく、どいつもこいつも勝手に縄張りを広げやがって!」

 

【ゴブリモン】

「どうします? ほかの山へ移りますか?」

 

【オーガモン】

「馬鹿野郎! 何で俺様たちが逃げなきゃならねえんだ!」

 

(棍棒が地面を叩き、乾いた土が舞い上がる。)

 

【オーガモン】

「足りねえなら、持ってる奴から奪えばいいだろうが!」

 

【ゴブリモン】

「さ、さすが親分!」

 

(しかし、そのうちの一体は不安そうに周囲を見渡した。)

 

【ゴブリモン】

「……でも、親分。最近はあちこちで縄張り争いが起きてますぜ。強い奴らとぶつかったら、俺たちだって危ねえんじゃ……」

 

【オーガモン】

(立ち止まって振り返る)

「この世界じゃ、強い奴が生き残るんだよ。弱い奴は、強い奴に従う。それだけだ!」

 

(そのとき、先頭を歩いていたゴブリモンが声を上げた。)

 

【ゴブリモン】

「親分! 向こうに集落がありますぜ!」

 

(岩山の向こうに、緑豊かな森が見えていた。)

 

【オーガモン】

(口元を大きく歪める)

「……へえ。ちょうどいいじゃねえか」

 

(オーガモンたちは、森へ向かって歩き始めた。)

 

⸻

 

第四幕「奪う者と守る者」

 

(狭間劇場のVIPルーム。)

 

【サイガ】

「……あのオーガモンたち、集落を襲うつもりなんですかね」

 

【コンロン】

「ふっ。少なくとも、友好的な訪問には見えないね」

 

【イグドラシル】

「食料が不足しているのは本当なんだろうけれど、それを理由に他者から奪っていいわけではないよ」

 

【ホメロス】

「ええ。ただ、あのオーガモンにも、仲間を食べさせなければならない事情があるようですわね」

 

【サイガ】

「……そう言われると、単純に悪者とも言い切れないですね」

 

【ホメオスタシス】

「この時代には、集落同士の争いを仲裁する仕組みが、まだ十分に整っていませんでした」

 

「食料が足りなくなれば、別の土地へ移る者もいれば、他者の土地を奪おうとする者もいたのです」

 

【サイガ】

「……でも、みんながそうしていたわけじゃないんですよね?」

 

【ホメオスタシス】

「ええ。互いに助け合いながら暮らす者たちも、大勢いました」

 

「ただ、その平穏がいつまでも守られるとは限らなかったのです」

 

(スクリーンでは、オーガモンたちが森へ踏み込もうとしていた。)

 

(ほどなくして、彼らは集落へ姿を現した。)

 

【オーガモン】

「おい! ここにいる奴ら、全員出てこい!」

 

(突然の怒号に、幼年期デジモンたちが驚いて住居の陰へ隠れる。)

 

【ピヨモン】

「……誰?」

 

【テントモン】

「……あまり、ええ雰囲気やありまへんな」

 

(オーガモンは積み上げられた木の実の籠を見つけた。)

 

【オーガモン】

「へえ……食い物がたっぷりあるじゃねえか」

 

【ゴブリモン】

「親分! ここならしばらく食い物には困りませんぜ!」

 

【オーガモン】

「グハハハッ! 決まりだな! 今日からここは、俺様たちの縄張りだ!」

 

【パタモン】

「……え?」

 

【ピヨモン】

「ちょっと! 何を勝手なこと言ってるのよ!」

 

【オーガモン】

「文句があるなら、力ずくで追い出してみな!」

 

【テントモン】

(ピヨモンの前へ出る)

「待ちなはれ。わてらは、ここで静かに暮らしとるだけです」

 

「食べ物が足りんのやったら、少しくらい分けることもできます。せやけど、住む場所まで奪われるわけにはいきまへん」

 

【オーガモン】

「……少し、だと?」

 

【テントモン】

「ええ。わてらにも、食べていかなあかん仲間がおりますさかい」

 

【オーガモン】

「……気に入らねえな。俺様は、全部よこせと言ってんだ!」

 

(棍棒が振り下ろされた。)

 

(テントモンは咄嗟に飛び退いたが、背後に積まれていた籠が砕け散った。)

 

【パタモン】

「ああっ! みんなで集めた木の実が!」

 

(地面に散らばった木の実を、ゴブリモンたちが次々と拾い始める。)

 

【ゴブリモン】

「へへっ! いただきだ!」

 

【ピヨモン】

「やめてよ! マジカルファイアー!」

 

(火の玉がゴブリモンの足元で弾けた。)

 

【ゴブリモン】

「うわっ! 熱っ!」

 

【オーガモン】

「……てめえら! 俺様たちに逆らうってのか!」

 

【パタモン】

(震えながらも、ピヨモンの隣に立つ)

「……ここは、僕たちの家なんだ!」

 

【オーガモン】

「だったら、守ってみろよ!」

 

(棍棒が振り上げられる。)

 

(テントモンが二体の前へ飛び出した。)

 

【テントモン】

「プチサンダー!」

 

(触角から電撃が走る。しかし、オーガモンは棍棒を振り抜き、電撃を強引に弾き散らした。)

 

【オーガモン】

「そんなもん、効くかよ!」

 

(続く一撃が地面を砕く。)

 

【テントモン】

「うわああっ!」

 

(衝撃に吹き飛ばされ、テントモンが木の幹へ叩きつけられた。)

 

【ピヨモン】

「テントモン!」

 

【パタモン】

「大丈夫!?」

 

【テントモン】

(どうにか身体を起こす)

「……だ、大丈夫ですわ……」

 

(だが、その翼は震えていた。)

 

【オーガモン】

「……これで分かっただろ? 強い奴には逆らうな。それが、この世界の決まりなんだよ!」

 

(パタモンは幼年期デジモンたちを背にかばいながら、歯を食いしばった。)

 

【パタモン】

「……そんなの、おかしいよ。強いからって、何をしてもいいわけじゃない!」

 

【オーガモン】

「……まだ言うか!」

 

(オーガモンが棍棒を高く掲げた。)

 

(ピヨモンが目を閉じる。)

 

(パタモンは逃げなかった。ただ、背後の仲間たちを守ろうと、その場で翼を広げていた。)

 

(そして――。)

 

(棍棒が振り下ろされようとした、その瞬間。)

 

(空が、光った。)

 

⸻

 

第五幕「光の降臨」

 

(狭間劇場のVIPルーム。)

 

【サイガ】

(思わず身を乗り出す)

「……っ! 何だ、あれ……?」

 

(スクリーンの上空に、白い輝きが広がっていく。)

 

(それまで晴れ渡っていた空に、幾重もの光の輪が現れた。)

 

【イグドラシル】

「……空間そのものが、反応しているように見えるね」

 

【コンロン】

「ふっ。ずいぶん大きな変化だ」

 

【ホメロス】

(スクリーンを見つめたまま)

「……あら。何かが、現れますわね」

 

【サイガ】

「……ホメオスタシスさん?」

 

【ホメオスタシス】

「……ええ。ここから、原初の世界の歴史は大きく動き始めます」

 

(スクリーンに映るオーガモンの棍棒が、空中で止まっていた。)

 

【オーガモン】

「……あ?」

 

(誰かが受け止めたわけではない。何かにぶつかったわけでもない。)

 

(ただ、空から降り注ぐ光に気を取られ、振り下ろすことを忘れていた。)

 

【ゴブリモン】

「お、親分……! あ、あれ……!」

 

(森の上空に、眩い光の柱が立ち上っていた。)

 

(光の輪がゆっくりと回転し、周囲の雲を黄金色に染めていく。)

 

(木々の葉が、風もないのに揺れ始めた。)

 

(集落のデジモンたちは、誰一人として動けなかった。)

 

【ピヨモン】

「……きれい……」

 

【パタモン】

「……何が、起きてるの……?」

 

(光の柱の中心に、小さな影が現れる。)

 

(それは、巨大な怪物でも、恐ろしい戦士でもなかった。)

 

(幼い少年を思わせる、小さな姿。)

 

(背中からは白い翼が広がり、身体の周囲には神聖な光が満ちている。)

 

(光の粒子が、雪のように大地へ降り注いだ。)

 

【テントモン】

「……なんちゅう……」

 

(誰も、その存在の名を知らなかった。)

 

(どこから来たのかも、何のために現れたのかも。)

 

(ただ一つ、確かなことがあった。)

 

(その姿を目にした瞬間、争っていた者たちも、怯えていた者たちも、等しく空を見上げていたのだ。)

 

(光の中で、白い翼が静かに広がる。)

 

(そして――。)

 

(原初のデジタルワールドに、一体の天使が降臨した。)

 

【ホメオスタシス/語り】

「……こうして、原初の世界に一体の天使が姿を現しました」

 

「その名は――ルーチェモン」

 

「後に、世界へ秩序をもたらすことになる存在です」

 

(スクリーンには、黄金の光に包まれた幼い天使の姿が映っていた。)

 

(ルーチェモンは、まだ何も語っていない。)

 

(彼が何を望み、何を成そうとしているのか。)

 

(その場にいるデジモンたちは、誰も知らなかった。)

 

(ただ、世界は確かに、この瞬間を境に変わり始めたのだった。)

 

⸻

 

第六幕「降臨の余韻」

 

(狭間劇場のVIPルーム。)

 

(スクリーンが静止する。そこには、原初の大地へ降り立ったルーチェモンの姿が映し出されていた。)

 

【サイガ】

(小さく息を吐く)

「……あれが、ルーチェモン……」

 

【ホメオスタシス】

「ええ。原初の天使、ルーチェモン」

 

「彼の降臨こそが、この時代を語るうえで欠かすことのできない出来事なのです」

 

【サイガ】

「……なんだか、すごいものを見た気がします」

 

【イグドラシル】

「ふふっ。まだ、彼は姿を現しただけだけどね」

 

【コンロン】

「そうだね。彼がどんな存在なのかは、これから分かることだろう」

 

【ホメロス】

「うふふ。続きを観測するのが楽しみですわ」

 

(サイガはスクリーンを見つめた。)

 

(幼い天使は、光の中で静かに翼を広げている。)

 

(その表情は穏やかで、争いの気配など微塵も感じさせなかった。)

 

(けれど、彼の登場がどのような未来をもたらすのか。その答えは、まだ誰にも語られていない。)

 

(サイガはふと、四人の管理者へ顔を向けた。)

 

【サイガ】

「……皆さんは、今の光景をどう思いましたか?」

 

【イグドラシル】

(サイガへ振り返る)

「……そうだね。まず印象的だったのは、ルーチェモンが現れる前の世界かな」

 

【サイガ】

「……降臨の場面じゃなくて?」

 

【イグドラシル】

「ふふっ。もちろん、あの光景も興味深かったよ」

 

(イグドラシルはスクリーンの片隅に映る集落へ視線を向けた。)

 

【イグドラシル】

「でも、あの集落のデジモンたちは、互いに助け合って暮らしていたよね」

 

「一方で、オーガモンたちは食料が不足していて、ほかの集落から奪おうとしていた」

 

「同じ世界に暮らしていても、置かれている環境が違えば、行動も変わってくるんだ」

 

【サイガ】

「……確かに、オーガモンたちも食べ物に困っていましたね」

 

【イグドラシル】

「うん。もちろん、だからといって奪うことが正当化されるわけじゃないよ」

 

「ただ、あの争いを止めるだけでは、根本的な問題は残ってしまうだろうね」

 

【サイガ】

「……食料不足そのものは解決しないから、ですか?」

 

【イグドラシル】

「そのとおりだよ」

 

【コンロン】

(腕を組みながら、静かに笑う)

「ふっ。僕も似たようなことを考えていたね」

 

【サイガ】

「コンロンさんも?」

 

【コンロン】

「ただし、僕が気になったのは少し別の部分かな」

 

(コンロンはスクリーンのオーガモンへ視線を移す。)

 

【コンロン】

「彼は『強い者が生き残る』と言っていたね」

 

【サイガ】

「……はい」

 

【コンロン】

「それは、彼が勝手に作り上げた考えなのか。それとも、あの世界では実際にそうすることで生き延びてきたのか」

 

「そこには、大きな違いがあるだろう?」

 

【サイガ】

「……なるほど」

 

【コンロン】

「そして、もう一つ」

 

(コンロンがルーチェモンの姿を指し示す。)

 

【コンロン】

「圧倒的な力を持つ存在が現れたとき、それまで力を振るっていた者たちは、どうするだろうね?」

 

【サイガ】

「……逃げるか、従うか、ですかね」

 

【コンロン】

「ふっ。あるいは、逆らうかもしれない」

 

【サイガ】

「……ああ」

 

【コンロン】

「いずれにしても、あの天使が世界にどのような影響を与えるのか、まだ判断するには早いだろうね」

 

【ホメロス】

(紅茶のカップを静かに置く)

「うふふ。お二人とも、ずいぶん難しいところまで考えていらっしゃいますのね」

 

【サイガ】

「……ホメロスさんは?」

 

【ホメロス】

「わたくしが印象に残ったのは、あの小さなパタモンですわ」

 

【サイガ】

「……パタモン?」

 

【ホメロス】

「ええ。自分より遥かに強い相手を前にして、それでも仲間を守ろうとしていましたでしょう?」

 

(ホメロスは柔らかく微笑んだ。)

 

【ホメロス】

「恐ろしかったでしょうに、逃げずに立っていた。あれは、なかなかできることではありませんわ」

 

【サイガ】

「……確かに」

 

(サイガは、棍棒を振り上げるオーガモンの前に立ちはだかったパタモンを思い出した。)

 

【ホメロス】

「強さというのは、必ずしも力の大きさだけで決まるものではありませんもの」

 

【コンロン】

「ふっ。君らしい見方だね」

 

【ホメロス】

「あら、褒め言葉として受け取っておきますわ」

 

【イグドラシル】

(小さく笑う)

「ふふっ。私も、あのパタモンは勇敢だったと思うよ」

 

(サイガは三人の言葉を聞き、もう一度スクリーンへ向き直った。)

 

(同じ映像を見ていたはずなのに、三人が注目した部分はそれぞれ違っていた。)

 

【サイガ】

「……なんだか、面白いですね」

 

【コンロン】

「何がだい?」

 

【サイガ】

「同じ歴史を見ても、皆さんの感想が違うところです」

 

【イグドラシル】

「ふふっ。それが観測の面白いところかもしれないね」

 

【ホメロス】

「ええ。だからこそ、こうして感想を交わす時間にも意味があるのですわ」

 

(サイガは最後に、ホメオスタシスへ視線を向けた。)

 

【サイガ】

「……ホメオスタシスさんは、どう思いましたか?」

 

(ホメオスタシスは、しばらくスクリーンを見つめていた。)

 

【ホメオスタシス】

「……そうですね」

 

(銀白色の髪が、スクリーンの光を受けて淡く輝く。)

 

【ホメオスタシス】

「私が印象に残ったのは、あの場にいたデジモンたちが、誰一人として自分たちの未来を知らなかったことです」

 

【サイガ】

「……未来?」

 

【ホメオスタシス】

「はい」

 

(ホメオスタシスは、ルーチェモンの姿へ目を向けた。)

 

【ホメオスタシス】

「あの集落のデジモンたちは、ただ今日を無事に過ごしたかったのでしょう」

 

「オーガモンたちも、自分たちなりに生き延びようとしていたのだと思います」

 

「そして、降臨したルーチェモンもまた、これから自分がどのような歴史を歩むことになるのか、まだ知らなかったはずです」

 

【ホメオスタシス】

「私たちは、その後の歴史を知ることができます」

 

「ですが、あの時代を生きていた者たちは、未来を知らないまま、それぞれの選択を重ねていたのです」

 

【サイガ】

「……だから、先入観だけで判断しないでほしいって言ったんですね」

 

【ホメオスタシス】

(優しく微笑む)

「ふふ……覚えていてくださったのですね」

 

【サイガ】

「はい。上映前に言っていましたから」

 

【ホメオスタシス】

「ありがとうございます」

 

「ルーチェモンの降臨は、この世界にとって大きな転機でした」

 

「ですが、彼が何を考え、どのような行動を取ったのか。それは、これからの記録を通して見届けていただきたいのです」

 

【サイガ】

「……分かりました」

 

(サイガはスクリーンへ視線を戻した。)

 

(黄金色の光に包まれた、小さな天使。)

 

(彼が現れる前の世界には、確かに争いがあった。)

 

(けれど、同時に、仲間を思いやるデジモンたちの暮らしも存在していた。)

 

(この先、ルーチェモンが世界をどう変えていくのか。)

 

(そして、その変化をデジモンたちはどう受け止めるのか。)

 

(まだ、答えは分からない。)

 

【サイガ】

「……次の記録を見るのが、楽しみになってきました」

 

【コンロン】

「ふっ。僕もだね」

 

【イグドラシル】

「次は、ルーチェモン自身の言葉を聞けるかもしれないね」

 

【ホメロス】

「うふふ。どのような天使なのか、じっくり見届けましょう」

 

【ホメオスタシス】

(穏やかに微笑む)

「ええ。それでは、次の観測に進む準備をしましょうか」

 

(スクリーンには、変わらずルーチェモンの降臨した瞬間が映し出されていた。)

 

(原初の天使の物語は、まだ始まったばかりだった。)

 

⸻

 

――第一章「原初の天使篇」第1話「光の降臨」完。

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