デジモンストーリー オリジン   作:空閑アルト

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原初の世界に降り立った小さな天使、ルーチェモン。争いの渦中に現れた彼は、圧倒的な力を持ちながらも、対話による解決を望んでいた。その優しさと強さを目の当たりにしたサイガは、デジモンの進化と力について学ぶ。これは、世界に平和を願った天使の最初の一歩。


第2話「天使の言葉」

【狭間劇場・VIPルーム】

 

(スクリーンには、原初の大地へ降臨したルーチェモンの姿が映し出されている。)

 

(黄金色の光に包まれた小さな天使は、まだ地上のデジモンたちへ一言も語りかけていなかった。)

 

(サイガは四人の管理者との会話を終え、改めてスクリーンへ向き直る。)

 

【サイガ】

 

「……それじゃあ、続きを見ましょうか」

 

【イグドラシル】

 

(穏やかに頷く)

 

「うん。彼が最初に何をするのか、気になるところだね」

 

【ホメロス】

 

(紅茶のカップを置く)

 

「うふふ。あのオーガモンたちも、さぞ驚いているでしょうね」

 

【コンロン】

 

「ふっ。何しろ、目の前に突然あれだけの存在が現れたんだ。警戒しない方が不思議だろう」

 

【サイガ】

 

「……でも、見た目は普通の子供みたいですよね」

 

【コンロン】

 

「外見と実力が一致するとは限らない。それはデジモンの世界では珍しくないことだよ」

 

【ホメオスタシス】

 

(静かにスクリーンを見つめる)

 

「では、観測を再開しましょう」

 

(ホメオスタシスが指先を動かす。)

 

(静止していた光の粒子が、再び動き始めた。)

 

【原初史・観測再開】

 

⸻

 

【The ORIGIN・森の集落】

 

【挿絵表示】

 

 

(空から降り注ぐ黄金の光。)

 

(白い翼を広げた小さな天使が、ゆっくりと大地へ降り立つ。)

 

(その足が地面に触れた瞬間、周囲を包んでいた光の柱は静かに消えていった。)

 

(森には再び風が吹き、木々の葉が揺れ始める。)

 

(しかし、集落のデジモンたちは誰一人として動こうとしなかった。)

 

【パタモン】

 

(目を丸くして)

 

「……あ、あれが……?」

 

【ピヨモン】

 

「……天使……?」

 

【テントモン】

 

(呆然と見つめる)

 

「……なんちゅう、神々しい姿……」

 

(目の前に立つ存在は、彼らよりもずっと小柄だった。)

 

(幼い少年を思わせる顔立ち。純白の翼。全身から漂う、穏やかで不思議な気配。)

 

(それなのに、誰もが本能的に理解していた。)

 

(このデジモンは、自分たちとは何かが違う。)

 

【オーガモン】

 

(棍棒を握り直す)

 

「……おい」

 

(オーガモンが一歩踏み出した。)

 

【オーガモン】

 

「てめえ……何者だ?」

 

(小さな天使が顔を上げる。)

 

(その瞳が、初めてオーガモンを捉えた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……私ですか?」

 

(透き通るような声だった。)

 

【ルーチェモン】

 

「私は、ルーチェモンと申します」

 

【オーガモン】

 

「ルーチェモン……?」

 

(聞き慣れない名前に、オーガモンは眉をひそめた。)

 

【オーガモン】

 

「……聞いたこともねえな」

 

【ルーチェモン】

 

(穏やかに微笑む)

 

「そうでしょうね。こうして皆さんとお会いするのは、初めてですから」

 

【ゴブリモン】

 

(オーガモンの背後から顔を出す)

 

「お、親分……こいつ、どっから来たんですかね……?」

 

【オーガモン】

 

「知るか!」

 

(怒鳴り返しながらも、オーガモンはルーチェモンから目を離せなかった。)

 

(彼には分かっていた。)

 

(目の前の小さなデジモンから、ただならぬ力を感じる。)

 

(だが、その事実を認めることは、彼の誇りが許さなかった。)

 

【オーガモン】

 

「……で、そのルーチェモン様が何の用だ?」

 

【ルーチェモン】

 

(少しだけ首を傾げる)

 

「……用、ですか?」

 

【オーガモン】

 

「とぼけるんじゃねえ!」

 

(オーガモンは棍棒を地面へ叩きつけた。)

 

【オーガモン】

 

「俺様たちの邪魔をしに来たんだろうが!」

 

(ルーチェモンは棍棒へ目を向け、それから怯えるパタモンたちを見つめた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……皆さんは、争っていたのですね」

 

【パタモン】

 

「……う、うん」

 

【ピヨモン】

 

(勇気を振り絞って)

 

「あのオーガモンたちが、私たちの食べ物と住む場所を奪おうとしているの!」

 

【オーガモン】

 

「何だと、てめえ!」

 

(オーガモンが怒鳴る。)

 

(しかし、ルーチェモンは慌てることなく、オーガモンへ視線を戻した。)

 

【ルーチェモン】

 

「……そうなのですか?」

 

【オーガモン】

 

「……ああ、そうだよ!」

 

(開き直ったように胸を張る。)

 

【オーガモン】

 

「俺様たちは食い物が足りねえんだ! だから、こいつらの食い物をもらっていく!」

 

【ルーチェモン】

 

「……お腹が空いているのですね」

 

【オーガモン】

 

「……は?」

 

【ルーチェモン】

 

「あなた方も、生きるために食べ物を必要としている」

 

「それは、とても大切なことです」

 

(予想外の返答だった。)

 

(オーガモンは一瞬、言葉を失った。)

 

【オーガモン】

 

「……何だよ。分かってるじゃねえか」

 

【ルーチェモン】

 

「ですが」

 

(ルーチェモンの視線が、散らばった木の実へ向けられる。)

 

【ルーチェモン】

 

「こちらの方々も、同じなのではありませんか?」

 

【オーガモン】

 

「……あ?」

 

【ルーチェモン】

 

「皆さん、生きるために食べ物を必要としています」

 

「あなた方だけが苦しいわけではありません」

 

(ルーチェモンはゆっくりと周囲を見渡した。)

 

【ルーチェモン】

 

「……それなのに、なぜ争わなければならないのでしょう?」

 

(オーガモンは答えなかった。)

 

(その問いに、すぐ答えられなかったのだ。)

 

⸻

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

【サイガ】

 

「……なんだか、普通に話し合おうとしていますね」

 

【イグドラシル】

 

「うん。相手の事情を聞いてから、考えようとしているみたいだね」

 

【ホメロス】

 

(嬉しそうに微笑む)

 

「うふふ。なかなか優しい子ですわね」

 

【コンロン】

 

「……ただ、相手がその言葉を受け入れるかは別問題だろうね」

 

【サイガ】

 

「……ですよね」

 

(スクリーンの中では、オーガモンが不機嫌そうに棍棒を握り直していた。)

 

【ホメオスタシス/語り】

 

「ルーチェモンは、初めから他者を傷つけることを望んでいたわけではありません」

 

「彼が最初に求めたのは、争いを終わらせるための対話だったのです」

 

(ホメオスタシスは静かに言葉を続ける。)

 

【ホメオスタシス/語り】

 

「ですが、長く続いてきた争いの中で生きる者たちにとって、対話だけで問題を解決することは、決して容易ではありませんでした」

 

⸻

 

【The ORIGIN・森の集落】

 

【オーガモン】

 

「……おい、ルーチェモン」

 

【ルーチェモン】

 

「はい」

 

【オーガモン】

 

「てめえは、俺様たちに食い物を諦めろって言いてえのか?」

 

【ルーチェモン】

 

「いいえ」

 

(ルーチェモンは首を横に振った。)

 

【ルーチェモン】

 

「私は、誰かが飢えることを望んではいません」

 

【オーガモン】

 

「だったら、どうしろってんだ!」

 

【ルーチェモン】

 

「……皆さんで、話し合ってみませんか?」

 

【オーガモン】

 

「……話し合い?」

 

【ルーチェモン】

 

「はい」

 

(ルーチェモンはパタモンたちへ向き直る。)

 

【ルーチェモン】

 

「こちらの皆さんは、食べ物を少し分けることならできると、おっしゃっていましたね」

 

【テントモン】

 

「え、ええ……。まあ、それくらいなら……」

 

【ルーチェモン】

 

「ありがとうございます」

 

(今度はオーガモンへ向き直った。)

 

【ルーチェモン】

 

「それなら、皆さんが必要とする食べ物を、どうすれば確保できるのか、一緒に考えてみませんか?」

 

【オーガモン】

 

「……はあ?」

 

【ルーチェモン】

 

「この森には、まだ食べ物があるかもしれません」

 

「もし足りないのであれば、ほかの土地を探すこともできるでしょう」

 

「互いに協力できれば、今より多くの食べ物を集められるかもしれません」

 

(ルーチェモンは優しく微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「争わずに済む方法は、きっとあるはずです」

 

(その言葉に、パタモンの表情が明るくなった。)

 

【パタモン】

 

「……そうだよ!」

 

(パタモンが前へ出る。)

 

【パタモン】

 

「僕たちだって、最初から争いたかったわけじゃないんだ!」

 

【ピヨモン】

 

「うん! 食べ物を全部奪われたら困るけど、少しなら分けられるよ!」

 

【テントモン】

 

「せやな。お互いに無理のないようにできるなら、それが一番ですわ」

 

(ゴブリモンたちが顔を見合わせる。)

 

【ゴブリモン】

 

「……親分、どうします?」

 

【オーガモン】

 

「…………」

 

(オーガモンは黙り込んでいた。)

 

(しばらくして、低い声で呟く。)

 

【オーガモン】

 

「……てめえら、何か勘違いしてねえか?」

 

【パタモン】

 

「……え?」

 

【オーガモン】

 

「俺様は、分けてもらいに来たんじゃねえ」

 

(棍棒を肩へ担ぎ直す。)

 

【オーガモン】

 

「……奪いに来たんだよ!」

 

(パタモンたちの表情が凍りつく。)

 

【ピヨモン】

 

「……そんな……!」

 

【ルーチェモン】

 

(静かにオーガモンを見つめる)

 

「……どうしてですか?」

 

【オーガモン】

 

「……ああ?」

 

【ルーチェモン】

 

「皆さんが協力すれば、争わずに済むかもしれません」

 

「それでも、奪うことを選ぶのですか?」

 

【オーガモン】

 

「……うるせえ!」

 

(オーガモンが怒鳴った。)

 

【オーガモン】

 

「この世界じゃ、力がすべてなんだよ!」

 

(棍棒を持ち上げる。)

 

【オーガモン】

 

「強い奴が欲しいもんを手に入れる! 弱い奴は黙って従う!」

 

「それが、俺様の生き方だ!」

 

(ルーチェモンは黙って聞いていた。)

 

(その表情には、怒りではなく、悲しみに似たものが浮かんでいた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……それでは、誰も安心して暮らせません」

 

【オーガモン】

 

「……知ったことか!」

 

(オーガモンが地面を蹴った。)

 

【オーガモン】

 

「だったら、てめえも力で黙らせてやる!」

 

⸻

 

【小さな天使の力】

 

(オーガモンが棍棒を振り上げた。)

 

【パタモン】

 

「危ないっ!」

 

(パタモンが叫ぶ。)

 

(しかし、ルーチェモンは動かなかった。)

 

(ただ、静かにオーガモンを見つめている。)

 

【オーガモン】

 

「うおおおおっ!!」

 

(棍棒が振り下ろされた。)

 

(轟音が響く――はずだった。)

 

(だが。)

 

【オーガモン】

 

「……なっ!?」

 

(棍棒は、ルーチェモンの頭上で止まっていた。)

 

(透明な壁に阻まれたかのように、それ以上進まない。)

 

(オーガモンが両腕に力を込める。)

 

【オーガモン】

 

「……くそっ! 何だ、こりゃあ!?」

 

(棍棒はびくともしなかった。)

 

【ゴブリモン】

 

「お、親分!?」

 

【ピヨモン】

 

「……え?」

 

【テントモン】

 

「……なんとまあ……」

 

(ルーチェモンは、ゆっくりと顔を上げた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……やはり、争わなければならないのですか?」

 

【オーガモン】

 

「……てめえ!」

 

(オーガモンは棍棒を引き戻し、再び振り下ろそうとする。)

 

(その瞬間、ルーチェモンの周囲に小さな光球が現れた。)

 

(黄金色の光が、静かに回転する。)

 

【ルーチェモン】

 

「……残念です」

 

(光球が一斉に輝いた。)

 

(次の瞬間。)

 

【オーガモン】

 

「ぐあああああっ!!」

 

(凄まじい衝撃がオーガモンを襲った。)

 

(巨体が宙を舞い、集落の外へ吹き飛ばされる。)

 

(地面を何度も転がり、最後には大きな岩へ叩きつけられた。)

 

【ゴブリモン】

 

「お、親分!!」

 

(ゴブリモンたちが慌てて駆け寄る。)

 

【パタモン】

 

「……す、すごい……」

 

【ピヨモン】

 

「……あんなに簡単に……?」

 

(ルーチェモンは、光球を消した。)

 

(そして、倒れたオーガモンへゆっくりと歩み寄る。)

 

【ルーチェモン】

 

「……もう、やめましょう」

 

【オーガモン】

 

(苦しそうに身体を起こす)

 

「……くそっ……!」

 

【ルーチェモン】

 

「私は、あなたを傷つけたいわけではありません」

 

(ルーチェモンは、オーガモンへ手を差し伸べた。)

 

【ルーチェモン】

 

「ただ、誰も傷つかずに済む方法を、一緒に探したいのです」

 

(オーガモンは差し出された手を睨みつけた。)

 

(しばらくして、顔を背ける。)

 

【オーガモン】

 

「……チッ」

 

(ゆっくりと立ち上がる。)

 

【オーガモン】

 

「……行くぞ、お前ら」

 

【ゴブリモン】

 

「へ、へい!」

 

(オーガモンたちは、集落から立ち去っていった。)

 

(ルーチェモンは、その背中を静かに見送っていた。)

 

⸻

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

【サイガ】

 

「……すごい」

 

(サイガは思わず呟いた。)

 

【サイガ】

 

「あんなに簡単にオーガモンを倒すなんて……」

 

【コンロン】

 

「ふっ。しかも、かなり力を抑えていたように見えるね」

 

【サイガ】

 

「……あれで、ですか?」

 

【コンロン】

 

「少なくとも、全力を出したようには見えなかったかな」

 

【イグドラシル】

 

「それより、相手を倒した後も、話し合おうとしていたことが印象的だったね」

 

【ホメロス】

 

「ええ。勝ったからといって、相手を見下すようなこともしませんでしたわ」

 

【サイガ】

 

「……本当に、優しいデジモンなんですね」

 

(ホメオスタシスは静かに頷いた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……そうですね」

 

(その声には、どこか遠い記憶を懐かしむような響きがあった。)

 

【ホメオスタシス】

 

「少なくとも、あの頃のルーチェモンは、争いのない世界を心から望んでいました」

 

(サイガは、スクリーンへ視線を戻した。)

 

(そこには、集落のデジモンたちに囲まれるルーチェモンの姿が映っている。)

 

⸻

 

【The ORIGIN・森の集落】

 

【パタモン】

 

(ルーチェモンへ駆け寄る)

 

「あ、あの!」

 

【ルーチェモン】

 

(振り返る)

 

「はい?」

 

【パタモン】

 

「助けてくれて、ありがとう!」

 

【ピヨモン】

 

「本当にありがとう! あなたが来てくれなかったら、どうなっていたか……!」

 

【テントモン】

 

「いやあ、ほんま助かりましたわ!」

 

(ルーチェモンは三体の顔を見渡した。)

 

(そして、穏やかに微笑む。)

 

【ルーチェモン】

 

「……皆さんが無事で、何よりです」

 

【パタモン】

 

「……ねえ、ルーチェモン」

 

【ルーチェモン】

 

「何でしょう?」

 

【パタモン】

 

「どうして、僕たちを助けてくれたの?」

 

(ルーチェモンは少しだけ首を傾げた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……助けてはいけませんでしたか?」

 

【パタモン】

 

「ち、違うよ! そうじゃなくて!」

 

(パタモンは慌てて翼を動かす。)

 

【パタモン】

 

「僕たち、初めて会ったばかりなのに……」

 

【ルーチェモン】

 

(少し考えてから微笑む)

 

「……初めて会うことと、助けることに、関係があるのでしょうか?」

 

【パタモン】

 

「……え?」

 

【ルーチェモン】

 

「誰かが困っているのなら、手を差し伸べたい」

 

(ルーチェモンは、集落に暮らすデジモンたちを見渡した。)

 

【ルーチェモン】

 

「私は、誰もが安心して暮らせる世界を望んでいます」

 

【ピヨモン】

 

「……誰もが?」

 

【ルーチェモン】

 

「はい」

 

(ルーチェモンは、オーガモンたちが去っていった道へ視線を向けた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……先ほどの方々も、含めてです」

 

【パタモン】

 

「……あのオーガモンも?」

 

【ルーチェモン】

 

「ええ」

 

(迷いのない返答だった。)

 

【ルーチェモン】

 

「争う必要のない世界になれば、きっと皆が笑顔で暮らせるはずです」

 

(パタモンは、しばらくルーチェモンを見つめていた。)

 

(そして、小さく笑った。)

 

【パタモン】

 

「……そんな世界になったら、すごくいいね!」

 

【ピヨモン】

 

「うん! 私も、そんな世界がいい!」

 

【テントモン】

 

「ほんまですなあ。毎日びくびくせんでもええ世界になったら、どれだけありがたいことか」

 

(ルーチェモンは三体の言葉を聞き、嬉しそうに微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「……ありがとうございます」

 

(その笑顔には、まだ何の曇りもなかった。)

 

⸻

 

【小さな願い】

 

(しばらくして、集落のデジモンたちは散らばった木の実を拾い集め始めた。)

 

(ルーチェモンも、その手伝いをしていた。)

 

【ピヨモン】

 

「……あの、ルーチェモン?」

 

【ルーチェモン】

 

「はい?」

 

【ピヨモン】

 

「そんなこと、しなくてもいいんだよ?」

 

【ルーチェモン】

 

「……どうしてですか?」

 

【ピヨモン】

 

「だって、あなたは私たちを助けてくれたんだもの!」

 

(ルーチェモンは少し考え込んだ。)

 

(そして、地面に落ちた木の実を一つ拾い上げる。)

 

【ルーチェモン】

 

「……ですが、皆さんだけでは大変でしょう?」

 

【ピヨモン】

 

「……え?」

 

【ルーチェモン】

 

「それなら、私もお手伝いしたいのです」

 

(ピヨモンは、思わず笑ってしまった。)

 

【ピヨモン】

 

「……ふふっ。変わってるね、あなた」

 

【ルーチェモン】

 

「……そうでしょうか?」

 

【パタモン】

 

(嬉しそうに笑う)

 

「でも、僕はそういうところ、好きだよ!」

 

(ルーチェモンは少し驚いたように目を瞬かせた。)

 

(そして、静かに微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「……ありがとうございます」

 

(集落には、再び穏やかな時間が戻りつつあった。)

 

(だが、ルーチェモンは、ふと遠くの山々へ視線を向けた。)

 

(その向こうには、まだ見ぬ大地が広がっている。)

 

(そして、そのどこかでは、今この瞬間にも争いが起きているのかもしれない。)

 

【ルーチェモン】

 

(小さく呟く)

 

「……この世界には、まだ争いがあるのですね」

 

【パタモン】

 

「……え?」

 

【ルーチェモン】

 

「……いえ」

 

(ルーチェモンは、パタモンへ微笑みかけた。)

 

【ルーチェモン】

 

「何でもありません」

 

(しかし、その瞳は再び遠くの空へ向けられていた。)

 

【ルーチェモン】

 

(胸の内で)

 

「……いつか、すべてのデジモンが安心して暮らせる世界を……」

 

(それは、まだ小さな願いだった。)

 

(だが、その願いが、やがて原初の世界全体を揺るがすことになる。)

 

⸻

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

(スクリーンの映像が、ゆっくりと暗くなっていく。)

 

(最後に映し出されていたのは、遠くの空を見上げるルーチェモンの横顔だった。)

 

【サイガ】

 

「……なんだか、思っていたよりずっと優しいデジモンでした」

 

【イグドラシル】

 

「うん。少なくとも、今の彼は本当に平和を望んでいるように見えたね」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。小さな身体に、大きな願いを抱いているのですわね」

 

【コンロン】

 

(静かに目を細める)

 

「……ふっ。ただ、その願いをどう実現するかが問題になるだろうね」

 

【サイガ】

 

「……どういうことですか?」

 

【コンロン】

 

「争いのない世界を望むことは、誰にでもできる」

 

「けれど、世界全体から争いをなくそうとすれば、それだけ多くの者たちと向き合わなければならないだろう?」

 

【サイガ】

 

「……確かに」

 

【コンロン】

 

「しかも、すべてのデジモンが同じ考えを持っているわけではない」

 

(コンロンはスクリーンへ視線を戻した。)

 

【コンロン】

 

「……彼がその違いと、どう向き合っていくのか。そこが気になるね」

 

【ホメオスタシス】

 

(静かに頷く)

 

「……そうですね」

 

(ホメオスタシスは、ルーチェモンが映っていた場所を見つめた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「ルーチェモンは、世界を変えたいと願いました」

 

「そして、その願いは、やがて多くのデジモンたちへ届いていくことになります」

 

【サイガ】

 

「……次は、ほかの地域にも行くんですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。彼の行動は、あの小さな集落だけでは終わりません」

 

(ホメオスタシスは穏やかに微笑んだ。)

 

【ホメオスタシス】

 

「次の記録では、ルーチェモンの存在が、少しずつ世界へ知られていく様子をご覧いただきましょう」

 

(サイガは、もう一度スクリーンへ目を向けた。)

 

(そこには、次の観測記録を示す文字が浮かび上がっていた。)

 

【次回観測:広がる天使の噂】

 

(原初の天使の物語は、まだ始まったばかりだった。)

 

⸻

 

【上映後の幕間・ルーチェモンの力】

 

(巨大なスクリーンには、森の集落で木の実を拾うルーチェモンの姿が映し出されたままだった。)

 

(白い翼を持つ、小さな天使。)

 

(先ほどまでオーガモンと戦っていたとは思えないほど、その表情は穏やかだった。)

 

(サイガは、ルーチェモンが光の球を放った場面を思い返していた。)

 

【サイガ】

 

「……あの、ホメオスタシスさん」

 

【ホメオスタシス】

 

(銀白色の髪を揺らし、サイガへ顔を向ける)

 

「はい。何でしょう?」

 

【サイガ】

 

「ルーチェモンって、いったいどれくらい強いんですか?」

 

「さっきのオーガモン、ものすごく大きかったのに、一瞬で吹き飛ばされてましたよね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ふふ……確かに、驚くような光景でしたね」

 

(ホメオスタシスはスクリーンへ視線を向けた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「ルーチェモンは、デジモンの中でも非常に特異な存在なのです」

 

【サイガ】

 

「特異……?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。まず、デジモンには成長の段階があることをご存じでしょうか?」

 

【サイガ】

 

(首を横に振る)

 

「いえ……。デジモンって、成長すると大きくなるんですか?」

 

【イグドラシル】

 

(柔らかく微笑む)

 

「大きくなる場合もあるけれど、それだけじゃないんだよ」

 

【サイガ】

 

「……そうなんですか?」

 

【イグドラシル】

 

「うん。デジモンは成長していく中で、姿や能力が大きく変わることがあるんだ。それを『進化』と呼ぶよ」

 

【サイガ】

 

「進化……」

 

(サイガは、スクリーンのルーチェモンを見つめた。)

 

【サイガ】

 

「じゃあ、あの小さな姿から、もっと大きな姿になることもあるんですか?」

 

【イグドラシル】

 

「そういう可能性もあるね。ただ、進化したからといって、必ず身体が大きくなるとは限らないよ」

 

【ホメオスタシス】

 

「一般的なデジモンの成長段階には、幼年期、成長期、成熟期、完全体、究極体などがあります」

 

(ホメオスタシスが指先を動かす。)

 

(スクリーンの横に、小さな説明画面が浮かび上がった。)

 

【デジモンの一般的な成長段階】

 

幼年期:誕生して間もない段階

 

↓

 

成長期:成長し、基本的な能力を備えた段階

 

↓

 

成熟期:さらに能力が発達した段階

 

↓

 

完全体:高度に発達した段階

 

↓

 

究極体:一般的な進化段階の最上位

 

(進化の経路や段階には例外も存在する。)

 

【サイガ】

 

「へえ……そんなふうに分かれてるんですね」

 

(説明画面を上から下まで眺める。)

 

【サイガ】

 

「それで、ルーチェモンはどの段階なんですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「成長期です」

 

【サイガ】

 

「……え?」

 

(サイガは思わず聞き返した。)

 

【サイガ】

 

「成長期って……上から二番目の?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい」

 

【サイガ】

 

「……あの強さで!?」

 

(思わずスクリーンと説明画面を交互に見比べる。)

 

【サイガ】

 

「じゃあ、もっと上の段階のデジモンは、みんなあれより強いってことですか?」

 

【コンロン】

 

(腕を組み、静かに微笑む)

 

「ふっ。そう単純な話でもないんだよ」

 

【サイガ】

 

「……違うんですか?」

 

【コンロン】

 

「成長段階は強さを考えるうえで一つの目安になる。けれど、絶対的な順位ではないんだ」

 

「同じ成長段階でも能力には大きな差があるし、特別な力を持つデジモンも存在する」

 

【イグドラシル】

 

「そして、ルーチェモンはその代表的な例だね」

 

【サイガ】

 

「……なるほど」

 

【ホメオスタシス】

 

「ルーチェモンは成長期でありながら、完全体をも凌ぐほどの力を持つとされる存在です」

 

【サイガ】

 

「……完全体って、さっきの説明だとかなり上の段階ですよね?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ」

 

【サイガ】

 

「……それを成長期で超えるって、すごいですね」

 

【ホメロス】

 

(金髪を揺らしながら、楽しそうに微笑む)

 

「うふふ。見た目だけで判断してはいけない、ということですわね」

 

【サイガ】

 

「本当にそうですね……」

 

(サイガは小さく笑った。)

 

【サイガ】

 

「正直、最初は小さくて可愛いデジモンだなって思ってました」

 

【ホメロス】

 

「あら。それも間違いではありませんわよ?」

 

【コンロン】

 

「ふっ。可愛らしい姿と強大な力は、両立するものだからね」

 

(ホメロスが楽しそうに笑う。)

 

【ホメロス】

 

「うふふ。コンロン、随分と物分かりがよろしいですのね」

 

【コンロン】

 

「僕は事実を述べただけだよ」

 

【イグドラシル】

 

(微笑みながら)

 

「ふふっ。二人とも、そのくらいにしておこうか」

 

(サイガもつられて笑った。)

 

(少し和やかになったVIPルームで、サイガは再びスクリーンへ目を向ける。)

 

【サイガ】

 

「……でも、あのオーガモンを吹き飛ばした光って、何だったんですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ルーチェモンが操る、神聖な光の力ですね」

 

【サイガ】

 

「……光を使って攻撃できるんですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。彼には、光球を用いる強力な必殺技があります」

 

【サイガ】

 

「必殺技……?」

 

【イグドラシル】

 

「デジモンが持つ、特別な攻撃や能力のことだよ。名前が付いているものも多いんだ」

 

【サイガ】

 

「へえ! じゃあ、ルーチェモンの技にも名前があるんですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。《グランドクロス》という技があります」

 

【サイガ】

 

「グランドクロス……!」

 

(サイガは、その名前を確かめるように繰り返した。)

 

【ホメオスタシス】

 

「十個の超熱光球を十字状に配置し、放つ技です」

 

【サイガ】

 

「十個も……」

 

(サイガは、オーガモンが吹き飛ばされた瞬間を思い出した。)

 

【サイガ】

 

「……じゃあ、さっきの攻撃がそれだったんですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「いえ。先ほどの映像だけでは、《グランドクロス》を使用したとは断定できません」

 

「確認できたのは、ルーチェモンが光球を操って攻撃したということです」

 

【サイガ】

 

「……なるほど。技の名前が分かってても、使ったかどうかは別なんですね」

 

【ホメオスタシス】

 

「そのとおりです」

 

【コンロン】

 

「ふっ。観測では、実際に起きたことと、僕たちが知っている情報を区別するのも大切だからね」

 

【サイガ】

 

「……分かりました」

 

(サイガは説明画面をもう一度見つめた。)

 

【サイガ】

 

「……それにしても、成長期であの強さかあ」

 

【イグドラシル】

 

「まだ驚いているみたいだね」

 

【サイガ】

 

「そりゃ驚きますよ。だって、あんなに簡単に戦いを終わらせたんですから」

 

【ホメオスタシス】

 

(穏やかな表情で頷く)

 

「……ですが、サイガ。もう一つ、覚えておいていただきたいことがあります」

 

【サイガ】

 

「……何ですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「ルーチェモンが特別なのは、強さだけではありません」

 

(スクリーンの映像が、戦いの後の場面へ切り替わる。)

 

(そこには、倒れたオーガモンへ手を差し伸べるルーチェモンの姿が映し出された。)

 

【ホメオスタシス】

 

「彼は、圧倒的な力を持ちながらも、相手を消滅させようとはしませんでした」

 

「そして、争いを終わらせた後も、相手と理解し合おうとしていました」

 

【サイガ】

 

「……そういえば、そうでしたね」

 

【ホメオスタシス】

 

「力を持つことと、その力を何のために使うかは、別のことなのです」

 

(ホメオスタシスは静かに微笑んだ。)

 

【ホメオスタシス】

 

「彼がその力を、これからどのように使っていくのか。それも、見届けていただきたいと思います」

 

【サイガ】

 

「……はい」

 

【コンロン】

 

「ふっ。強い者が世界を変えることはある。だが、変わった世界がどんなものになるかは、その者の選択次第だろうね」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。だからこそ、これからの歴史が気になりますわ」

 

【イグドラシル】

 

「次の記録では、ルーチェモンのことを知るデジモンも増えていくのかな」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。あの小さな集落での出来事は、やがて周囲へ伝わっていきます」

 

【サイガ】

 

「……天使の噂、ですね」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい」

 

(ホメオスタシスが指先を動かすと、説明画面が消えた。)

 

(スクリーンには再び、森の集落で微笑むルーチェモンが映し出される。)

 

【サイガ】

 

「……最初は、ただの小さな天使だと思ってたんですけどね」

 

(サイガは椅子に深く腰掛けた。)

 

【サイガ】

 

「知れば知るほど、不思議なデジモンですね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ふふ……そうですね」

 

(ホメオスタシスは静かに頷いた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「ですが、彼の物語はまだ始まったばかりなのです」

 

(スクリーンの隅に、次の観測記録が浮かび上がる。)

 

【次回観測:広がる天使の噂】

 

⸻

 

――第一章「原初の天使篇」第2話「天使の言葉」完。

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