デジモンストーリー オリジン   作:空閑アルト

5 / 12
原初の世界に降り立ったルーチェモン。その優しさと圧倒的な力は、多くの争いを終わらせ、世界に秩序をもたらしていく。やがてデジモンたちの信頼を集め、世界の導き手となった小さな天使。しかし、積み重なる成功と称賛は、彼の心に少しずつ慢心を芽生えさせていた。


第3話「光が築いた秩序」

【狭間劇場・VIPルーム】

 

(スクリーンには、森の集落でデジモンたちと笑い合うルーチェモンの姿が映し出されている。)

 

(サイガは、その小さな天使をじっと見つめていた。)

 

【サイガ】

 

「……あれから、ルーチェモンはどうなったんですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

(銀白色の髪を揺らし、穏やかに答える)

 

「彼は、あの集落に長く留まることはありませんでした」

 

【サイガ】

 

「……どこかへ行ったんですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。争いに苦しむデジモンたちが、ほかにもいると知ったからです」

 

【イグドラシル】

 

「一つの集落を救って終わり、というわけではなかったんだね」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。あの子らしい行動ですわ」

 

【コンロン】

 

「……ただ、世界は広い。すべての争いに一人で関わるのは、容易なことではないだろうね」

 

【サイガ】

 

「でも、ルーチェモンなら……」

 

(サイガは言いかけて、口を閉じた。)

 

【サイガ】

 

「……いや、まだ分からないですよね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ふふ……ええ。続きをご覧になれば、分かるでしょう」

 

(ホメオスタシスが指先を動かす。)

 

(スクリーンに、新たな風景が広がった。)

 

【観測記録:ルーチェモンの時代・秩序の拡大】

 

⸻

 

【The ORIGIN・北方の渓谷】

 

(切り立った岩壁の間を、冷たい風が吹き抜けていた。)

 

(谷底には細い川が流れ、その両岸に小さな集落が築かれている。)

 

(しかし、川に架かっていた木の橋は半ば壊れ、両岸のデジモンたちは互いに睨み合っていた。)

 

【ガブモン】

 

「だから、こっちの水路を塞がないでって言ってるんだ!」

 

【ゴツモン】

 

「塞いでなんかいない! 上流の岩が崩れたんだ!」

 

【ガブモン】

 

「だったら、どうして直さないのさ!」

 

【ゴツモン】

 

「俺たちだけじゃ、動かせないんだよ!」

 

(両者の間に、険悪な空気が漂う。)

 

(その背後では、幼いデジモンたちが空になった水桶を抱えていた。)

 

(そこへ、空から白い羽根が一枚舞い降りた。)

 

【ガブモン】

 

「……ん?」

 

(見上げると、青空を背に小さな天使が降りてくる。)

 

【ルーチェモン】

 

「……何か、お困りですか?」

 

【ゴツモン】

 

「……誰だ、お前?」

 

【ルーチェモン】

 

「私はルーチェモンと申します」

 

(ルーチェモンは壊れた橋と、水の流れを見渡した。)

 

【ルーチェモン】

 

「皆さん、水が必要なのですね」

 

【ガブモン】

 

「そうだよ! でも、あっちの連中が……!」

 

【ゴツモン】

 

「だから違うって言ってるだろ!」

 

【ルーチェモン】

 

(静かに片手を上げる)

 

「……まず、何が起きたのかを一緒に確かめましょう」

 

(ルーチェモンは上流へ飛んだ。)

 

(しばらくして戻ってきた彼は、川を塞いでいた巨大な岩について説明した。)

 

【ルーチェモン】

 

「岩が水の流れを変えてしまったようです。誰かが意図的に水を奪ったわけではありません」

 

【ガブモン】

 

「……本当に?」

 

【ルーチェモン】

 

「はい。ご自身の目でも確かめてみますか?」

 

(ガブモンとゴツモンは顔を見合わせた。)

 

(やがて、二体はルーチェモンと共に上流へ向かった。)

 

(そこで目にしたのは、崩れた岩壁と、その下に積み重なった巨大な岩だった。)

 

【ガブモン】

 

「……本当だ」

 

【ゴツモン】

 

「だから言っただろ……」

 

【ガブモン】

 

「……ごめん。ちゃんと確かめもしないで」

 

【ゴツモン】

 

「……俺も、もっと説明すればよかった」

 

(ルーチェモンは二体を見て微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「それでは、皆さんで川を元に戻しましょう」

 

【ゴツモン】

 

「でも、この岩は……」

 

(言い終わる前に、ルーチェモンが手をかざした。)

 

(黄金の光が巨大な岩を包み込み、ゆっくりと持ち上げる。)

 

【ガブモン】

 

「う、浮いた!?」

 

(岩が川岸へ移されると、水は元の流れを取り戻した。)

 

(しかし、ルーチェモンはそこで手を止めなかった。)

 

【ルーチェモン】

 

「また同じことが起きないように、川岸を補強した方がよさそうですね」

 

【ゴツモン】

 

「……それなら、俺たちに任せてくれ!」

 

【ガブモン】

 

「僕たちも手伝うよ!」

 

(それから数日間、両岸のデジモンたちは協力して川岸を補強し、壊れた橋を架け直した。)

 

(完成した橋の上で、ガブモンとゴツモンが笑い合う。)

 

【ガブモン】

 

「これなら、もう水のことで喧嘩しなくて済むね!」

 

【ゴツモン】

 

「ああ! 何かあったら、今度はちゃんと話し合おうぜ!」

 

(その様子を、ルーチェモンは嬉しそうに見つめていた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……ええ。それが、何より大切なことです」

 

⸻

 

【広がる天使の噂】

 

【ホメオスタシス/語り】

 

「ルーチェモンは各地を巡り、争いの原因を一つずつ取り除いていきました」

 

「時には力を使い、時には言葉を尽くし、時にはデジモンたち自身に解決の方法を考えさせたのです」

 

(スクリーンに、いくつもの風景が映し出される。)

 

(荒れ果てた平原。)

 

(食料を奪い合う二つの群れの間に立つルーチェモン。)

 

【ルーチェモン】

 

「……奪い合う前に、分け合う方法を考えてみませんか?」

 

(深い森。)

 

(縄張りを巡って争うデジモンたちの前で、ルーチェモンが地図を広げる。)

 

【ルーチェモン】

 

「この森には、皆さんが暮らせるだけの場所があります。境界を決め、互いの領域を尊重しましょう」

 

(乾いた荒野。)

 

(倒れたデジモンへ、ルーチェモンが水を差し出す。)

 

【ルーチェモン】

 

「……もう大丈夫ですよ」

 

(やがて、その噂は集落から集落へと伝わり始めた。)

 

【パタモン】

 

(旅人へ語りかける)

 

「本当なんだよ! 白い翼の天使が、僕たちを助けてくれたんだ!」

 

【ガブモン】

 

「ルーチェモンっていうんだ! あの子が来てから、僕たちはもう争ってないよ!」

 

【ゴツモン】

 

「力もすげえけど、それだけじゃないんだ。ちゃんと話を聞いてくれるんだよ!」

 

(旅人たちはその話を別の土地へ持ち帰った。)

 

(そこからさらに、噂は広がっていく。)

 

(ある者は彼を救世主と呼んだ。)

 

(ある者は平和をもたらす天使と呼んだ。)

 

(またある者は、その力を恐れながらも、争いを止めてくれる存在として期待を寄せた。)

 

⸻

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

【サイガ】

 

「……すごいですね。あの集落から、こんなに広がったんだ」

 

【イグドラシル】

 

「うん。最初は一人の行動だったけれど、助けられたデジモンたちが、その考えを周囲へ伝え始めたんだね」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。平和な暮らしを知った者たちが、今度は自分たちでそれを守ろうとしているのですわ」

 

【コンロン】

 

「……それは大きな変化だね」

 

(コンロンはスクリーンの各地を見渡した。)

 

【コンロン】

 

「以前は、力の強い者が欲しいものを奪うことも珍しくなかった。だが今は、話し合いや約束で問題を解決する集落が増えている」

 

【サイガ】

 

「……それって、ルーチェモンがいなくても平和に暮らせるようになってきたってことですよね?」

 

【イグドラシル】

 

「そうだね。それが続くなら、良い変化だと思うよ」

 

【ホメオスタシス】

 

「……そして、この頃から、各地のデジモンたちは共通の決まりを作り始めました」

 

【サイガ】

 

「共通の決まり?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。例えば、食料を奪わないこと。争いが起きたら、まず話し合うこと。弱い者を一方的に傷つけないこと」

 

「そうした決まりを、複数の集落が互いに守るようになっていったのです」

 

【サイガ】

 

「……なるほど。それが秩序ってことなんですね」

 

【ホメオスタシス】

 

(微笑む)

 

「ええ。秩序とは、ただ誰かが命令することではありません」

 

「多くの者が安心して暮らすために、互いの行動を調整する仕組みでもあるのです」

 

【サイガ】

 

「……なんだか、ちゃんとした世界になってきましたね」

 

(ホメオスタシスは静かに頷き、次の記録を開いた。)

 

⸻

 

【The ORIGIN・中央平原】

 

(それから、さらに長い時間が流れた。)

 

(かつて何もなかった中央平原には、大きな集落が築かれていた。)

 

(石造りの道が整備され、川には橋が架かり、各地から多くのデジモンが集まってくる。)

 

(広場には、争いを避けるための決まりが刻まれた石碑が立っていた。)

 

(その中央に、白い翼を広げたルーチェモンが降り立つ。)

 

【パタモン】

 

「ルーチェモン!」

 

(かつて森の集落で助けられたパタモンが、嬉しそうに駆け寄った。)

 

【ルーチェモン】

 

「……お久しぶりですね」

 

【パタモン】

 

「うん! ずっと会いたかったんだ!」

 

【ルーチェモン】

 

「皆さんは、お元気でしたか?」

 

【パタモン】

 

「もちろん! あれからオーガモンたちとも、何度か話をしたんだよ!」

 

【ルーチェモン】

 

「……そうなのですか?」

 

【パタモン】

 

「うん! まだ喧嘩することもあるけど、前みたいにいきなり襲ってくることはなくなったんだ!」

 

(ルーチェモンの表情が明るくなった。)

 

【ルーチェモン】

 

「……それは、素晴らしいことですね」

 

【パタモン】

 

「それでね、今日はみんなで、ルーチェモンにお願いがあるんだ」

 

【ルーチェモン】

 

「お願い……ですか?」

 

(パタモンが振り返る。)

 

(広場に集まっていたデジモンたちが、一斉に道を開いた。)

 

(その先には、各地の集落を代表するデジモンたちが並んでいた。)

 

【ガブモン】

 

「僕たち、話し合ったんだ」

 

【ゴツモン】

 

「せっかく作った平和を、これからも守っていきたいって」

 

【テントモン】

 

「せやけど、集落が増えれば増えるほど、意見がまとまらんことも出てきます」

 

【ピヨモン】

 

「だから……」

 

(ピヨモンが一歩前へ出る。)

 

【ピヨモン】

 

「ルーチェモンに、みんなを導いてほしいの」

 

(ルーチェモンは目を瞬かせた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……私が、ですか?」

 

【ガブモン】

 

「うん。あなたなら、みんなの話を聞いてくれるから」

 

【ゴツモン】

 

「それに、何かあったときは誰よりも頼りになる!」

 

【パタモン】

 

「僕たち、ルーチェモンと一緒に、もっと平和な世界を作りたいんだ!」

 

(広場に、賛同する声が広がる。)

 

「ルーチェモン!」

 

「お願いだ!」

 

「俺たちを導いてくれ!」

 

(ルーチェモンは、その声を静かに聞いていた。)

 

(やがて、胸に手を当てる。)

 

【ルーチェモン】

 

「……皆さんの願いは、よく分かりました」

 

(広場が静まり返る。)

 

【ルーチェモン】

 

「私も、争いのない世界を望んでいます」

 

「もし、私の力が皆さんの役に立つのであれば……」

 

(ルーチェモンは翼を広げた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……喜んで、お引き受けしましょう」

 

(歓声が広場を包んだ。)

 

(パタモンは飛び跳ね、ピヨモンは嬉しそうに翼を広げる。)

 

(ルーチェモンは、その光景を穏やかな笑顔で見つめていた。)

 

⸻

 

【天使を中心とした秩序】

 

 

【挿絵表示】

 

 

(それから、中央平原の集落は急速に発展していった。)

 

(各地の代表者が集まり、共通の決まりを話し合う。)

 

(食料の不足する地域には、余裕のある地域から物資が送られる。)

 

(危険な土地には、複数の集落から護衛が派遣される。)

 

(争いが起きれば、当事者を集めて事情を聞く。)

 

(そして、どうしても解決できない問題があれば、ルーチェモンの判断を仰いだ。)

 

【ガブモン】

 

「……この土地を、二つの集落で使いたいんだ」

 

【ゴツモン】

 

「でも、どっちも譲れなくてさ」

 

【ルーチェモン】

 

「それなら、季節ごとに利用する場所を分けてみてはいかがでしょう?」

 

【ガブモン】

 

「……なるほど!」

 

(別の日。)

 

【ピヨモン】

 

「南の森で、また食料が足りなくなっているみたい」

 

【ルーチェモン】

 

「では、中央の備蓄から届けましょう。ほかの地域にも協力をお願いしてください」

 

(さらに別の日。)

 

【テントモン】

 

「山道で旅人を襲うデジモンが現れたそうですわ」

 

【ルーチェモン】

 

「……私が向かいましょう」

 

(ルーチェモンが空へ飛び立つ。)

 

(その背中を、多くのデジモンが見送っていた。)

 

(いつしか、彼の名は中央平原だけでなく、遠く離れた地域にも知られるようになっていた。)

 

(そして、ルーチェモンを中心とした秩序は、原初の世界の広い範囲へと浸透していった。)

 

⸻

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

【サイガ】

 

「……本当に、世界が変わってきましたね」

 

【ホメロス】

 

「ええ。以前のような、力任せの争いは随分と減ったようですわ」

 

【イグドラシル】

 

「集落同士の協力も進んでいるね。ルーチェモンの力だけじゃなく、周囲のデジモンたちも努力している」

 

【コンロン】

 

「……ただ、少し気になることもあるね」

 

【サイガ】

 

「……何ですか?」

 

【コンロン】

 

「問題が起きるたびに、ルーチェモンへ判断を求めるようになっている」

 

【サイガ】

 

「……それって、悪いことなんですか?」

 

【コンロン】

 

「必ずしも悪いとは言えないよ。信頼できる者に判断を任せるのは、合理的な選択だからね」

 

(コンロンは、スクリーンに映る中央平原を見つめた。)

 

【コンロン】

 

「ただ、最初は皆で考えていた問題まで、彼一人に任せるようになれば……どうなるだろう?」

 

【サイガ】

 

「……自分たちで考えなくなる?」

 

【コンロン】

 

「その可能性はあるね」

 

【イグドラシル】

 

「ふふっ。でも、まだそうなると決まったわけじゃないよ」

 

【コンロン】

 

「もちろん。だからこそ、続きを見たいんだ」

 

【ホメオスタシス】

 

「……では、もう少し時を進めましょう」

 

(スクリーンの光が、ゆっくりと変化した。)

 

⸻

 

【The ORIGIN・中央聖域】

 

(さらに時が流れた。)

 

(中央平原の集落は、今や巨大な都市へと姿を変えていた。)

 

(白い石造りの建物が並び、広場には大きな噴水が設けられている。)

 

(都市の中心には、ひときわ高い神殿が築かれていた。)

 

(その神殿の奥。)

 

(高い天井から光が差し込む広間に、ルーチェモンのための席が用意されていた。)

 

(かつて集落の地面に座り、デジモンたちと一緒に木の実を拾っていた小さな天使。)

 

(その彼が今、各地の代表者たちを前に、静かに座っている。)

 

【テントモン】

 

「……それでは、次の議題ですわ」

 

(テントモンが記録板を開く。)

 

【テントモン】

 

「西の森と東の丘陵で、交易路の使用を巡る問題が起きております」

 

【ルーチェモン】

 

「……双方の代表者は?」

 

【テントモン】

 

「こちらに」

 

(二体のデジモンが前へ出る。)

 

【ガブモン】

 

「僕たちは、以前からあの道を使っていたんだ」

 

【ゴツモン】

 

「でも、最近は荷車が増えすぎて、俺たちの作業に支障が出てるんだよ」

 

【ルーチェモン】

 

「……なるほど」

 

(ルーチェモンは少し考えた。)

 

【ルーチェモン】

 

「では、交易に使う時間を決めましょう。朝から昼までは荷車を通し、午後は作業用の道として利用してください」

 

【ガブモン】

 

「……分かったよ」

 

【ゴツモン】

 

「それなら、何とかなりそうだ」

 

(二体は頭を下げ、広間を後にした。)

 

(続いて、別の代表者が前へ出る。)

 

【ピヨモン】

 

「ルーチェモン、南の集落から相談が来ているの」

 

【ルーチェモン】

 

「……どのような?」

 

【ピヨモン】

 

「新しい集落を作りたいんだけど、場所を決められないんだって」

 

【ルーチェモン】

 

「それなら、南の川沿いがよいでしょう。水も豊富ですし、周辺の土地も広いですから」

 

【ピヨモン】

 

「……うん。伝えておくね」

 

(ピヨモンが去っていく。)

 

(ルーチェモンは、次の記録板へ目を向けた。)

 

(以前なら、もっと詳しく事情を聞いていたかもしれない。)

 

(だが、今の彼は数え切れないほどの問題を処理していた。)

 

(そして、その判断の多くは正しかった。)

 

(実際、彼の指示によって争いは減り、集落は発展していた。)

 

(だからこそ、周囲のデジモンたちは次第に彼の判断を疑わなくなっていた。)

 

⸻

 

【小さな違和感】

 

(ある日。)

 

(神殿の広間に、一体のガブモンが駆け込んできた。)

 

【ガブモン】

 

「ルーチェモン!」

 

【ルーチェモン】

 

「……どうしました?」

 

【ガブモン】

 

「南の川沿いに、新しい集落を作るって話なんだけど……」

 

【ルーチェモン】

 

「……ええ。私が提案した場所ですね」

 

【ガブモン】

 

「うん。でも、あそこには昔から暮らしているデジモンたちがいるんだ」

 

【ルーチェモン】

 

「……そうなのですか?」

 

【ガブモン】

 

「それで、少し揉めていて……」

 

(ルーチェモンは記録板へ視線を落とした。)

 

【ルーチェモン】

 

「……では、先住の方々と話し合ってください」

 

【ガブモン】

 

「もちろん、そのつもりなんだけど……」

 

【ルーチェモン】

 

「双方が納得できるよう、土地を分ければよいでしょう」

 

【ガブモン】

 

「……でも、向こうは土地を分けること自体に反対していて……」

 

(ルーチェモンは、わずかに眉を寄せた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……それでは、何も進みませんね」

 

【ガブモン】

 

「……え?」

 

【ルーチェモン】

 

「新しい集落が必要なのは、そこに暮らす場所を求めている方々がいるからです」

 

「それを理解していただかなければなりません」

 

【ガブモン】

 

「……うん。でも……」

 

【ルーチェモン】

 

「……ガブモン」

 

(静かな声だった。)

 

【ルーチェモン】

 

「私は、皆さんが安心して暮らせる世界を作りたいのです」

 

【ガブモン】

 

「……分かってるよ」

 

【ルーチェモン】

 

「それなら、協力していただけませんか?」

 

(ガブモンは口を閉じた。)

 

(ルーチェモンの言葉は、決して乱暴ではなかった。)

 

(怒鳴られたわけでもない。)

 

(それでも、何かを言い返すことが難しく感じられた。)

 

【ガブモン】

 

「……分かった。もう一度、話してみるよ」

 

【ルーチェモン】

 

「ありがとうございます」

 

(ルーチェモンは穏やかに微笑んだ。)

 

(ガブモンは小さく頭を下げ、広間を後にした。)

 

(その背中を、ルーチェモンは特に気に留めることなく見送った。)

 

⸻

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

【サイガ】

 

「……あれ?」

 

【イグドラシル】

 

「……どうしたの?」

 

【サイガ】

 

「いや……なんか、さっきまでと少し違うような……」

 

【ホメロス】

 

(静かに頷く)

 

「……ええ。わたくしも、少し気になりましたわ」

 

【コンロン】

 

「以前なら、相手が何に困っているのか、もう少し詳しく聞いていたかもしれないね」

 

【サイガ】

 

「……そうですよね」

 

【ホメオスタシス】

 

「……ルーチェモンの判断は、多くの場合、正しい結果をもたらしていました」

 

「その経験が積み重なるにつれて、彼自身も、自分の判断に強い確信を持つようになっていったのです」

 

【サイガ】

 

「……自信がついた、ってことですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。自信を持つこと自体は、決して悪いことではありません」

 

(ホメオスタシスはスクリーンへ目を向ける。)

 

【ホメオスタシス】

 

「ですが、自分の判断が正しいと確信するほど、ほかの意見に耳を傾ける必要を感じなくなることもあるのです」

 

【サイガ】

 

「……なるほど」

 

【コンロン】

 

「ふっ。今の彼は、まだ自分が間違っているとは考えていないようだね」

 

【イグドラシル】

 

「……それだけ、今まで多くの問題を解決してきたんだろうね」

 

(スクリーンの中では、次の会議が始まろうとしていた。)

 

⸻

 

【The ORIGIN・中央聖域/神殿】

 

(数日後。)

 

(神殿には、各地の代表者たちが集まっていた。)

 

(議題は、中央聖域で定めた決まりを、さらに遠くの地域へ広げることだった。)

 

【テントモン】

 

「……現在、北方の山岳地帯では、中央聖域の決まりを受け入れていない集落がいくつか存在しております」

 

【ルーチェモン】

 

「……そうですか」

 

【テントモン】

 

「彼らは、昔からの暮らし方を続けたいと考えているようですわ」

 

【ルーチェモン】

 

「……その暮らし方では、争いが起きているのでしょうか?」

 

【テントモン】

 

「小さな衝突はあるようですが、大きな争いにはなっておりません」

 

【ルーチェモン】

 

「……でしたら、なおさらです」

 

(ルーチェモンは静かに立ち上がった。)

 

【ルーチェモン】

 

「今のうちに、正しい決まりを知っていただきましょう」

 

【ピヨモン】

 

「……でも、ルーチェモン」

 

【ルーチェモン】

 

「何でしょう?」

 

【ピヨモン】

 

「向こうのデジモンたちは、自分たちのやり方で暮らしたいって言ってるんだよね?」

 

【ルーチェモン】

 

「……ええ」

 

【ピヨモン】

 

「だったら、無理に変えなくてもいいんじゃないかな?」

 

(ルーチェモンは、少し意外そうにピヨモンを見つめた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……なぜですか?」

 

【ピヨモン】

 

「だって、今は大きな争いが起きてないんでしょう?」

 

【ルーチェモン】

 

「……ですが、これから起きるかもしれません」

 

【ピヨモン】

 

「それは、そうだけど……」

 

【ルーチェモン】

 

「争いが起きてからでは、遅いこともあります」

 

(ルーチェモンは広間を見渡した。)

 

【ルーチェモン】

 

「私たちは、これまで多くの争いを終わらせてきました」

 

「その経験から、何が平和につながるのかを学んできたはずです」

 

(代表者たちは黙って聞いている。)

 

【ルーチェモン】

 

「……それなのに、なぜ同じ過ちを繰り返す可能性を残しておかなければならないのでしょう?」

 

【テントモン】

 

「……ルーチェモンの言うことも、もっともですな」

 

【ピヨモン】

 

「……うん」

 

(ピヨモンは、それ以上言葉を続けなかった。)

 

【ルーチェモン】

 

「皆さんが安心して暮らすためには、共通の秩序が必要です」

 

(ルーチェモンは微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「……私たちは、正しい道を進んでいるのですから」

 

(広間に、賛同する声が広がった。)

 

(その中で、ピヨモンだけが少し考え込んでいた。)

 

⸻

 

【神殿の夕暮れ】

 

(会議が終わり、神殿には静けさが戻った。)

 

(窓の外には、夕日に照らされた巨大な都市が広がっている。)

 

(整然と並ぶ建物。)

 

(行き交うデジモンたち。)

 

(争いの声が聞こえることは、ほとんどなくなっていた。)

 

(ルーチェモンは一人、神殿の高台に立っていた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……随分と、変わりましたね」

 

(彼は、遠くの森を見つめた。)

 

(かつて、パタモンたちがオーガモンに襲われていた小さな集落。)

 

(あの日、ルーチェモンはただ、争いを終わらせたいと願っていた。)

 

(そして今、その願いは現実になりつつあった。)

 

【ルーチェモン】

 

「……皆さんが、安心して暮らせるようになった」

 

(その声には、確かな喜びがあった。)

 

(しばらくして、ルーチェモンは都市を見下ろしながら呟く。)

 

【ルーチェモン】

 

「……やはり、私の考えは間違っていなかったのですね」

 

(夕日が白い翼を赤く染める。)

 

【ルーチェモン】

 

「争いをなくすためには、正しい秩序が必要です」

 

「そして、その秩序を示す者も……」

 

(ルーチェモンは、自分の手を見つめた。)

 

(かつてオーガモンの棍棒を止めた手。)

 

(数え切れないほどの争いを終わらせてきた手。)

 

【ルーチェモン】

 

「……私が導けば、皆さんは迷わずに済む」

 

(彼は小さく微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「……そうでしょう?」

 

(問いかけに答える者は、誰もいなかった。)

 

(それでも、ルーチェモンは疑わなかった。)

 

(自分が進んできた道を。)

 

(自分が示してきた秩序を。)

 

(そして、自分こそが、その秩序を守るのに最もふさわしい存在なのだという考えを。)

 

⸻

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

(スクリーンの映像が静かに止まった。)

 

(夕日に照らされたルーチェモンの横顔が、そこに残されている。)

 

【サイガ】

 

「……なんか、最初の頃と変わりましたね」

 

【ホメロス】

 

(少し寂しそうに目を細める)

 

「……ええ。あの頃は、相手の言葉を聞くことを何より大切にしていたように見えましたわ」

 

【イグドラシル】

 

「今も、平和を望んでいること自体は変わっていないんだろうね」

 

【コンロン】

 

「……ただ、平和を実現する方法について、自分の考えが最も正しいと思い始めている」

 

【サイガ】

 

「……それって、慢心ってことですか?」

 

【コンロン】

 

「そう呼べる兆しはあるだろうね」

 

(コンロンは腕を組んだ。)

 

【コンロン】

 

「ただ、今の彼が何も成し遂げていないわけじゃない。実際に多くの争いを終わらせてきたんだから」

 

【イグドラシル】

 

「うん。だからこそ、自分の判断を信じるようになったんだと思うよ」

 

【サイガ】

 

「……最初は、みんなの話を聞いていたのに」

 

【ホメオスタシス】

 

(静かに頷く)

 

「……そうですね」

 

(ホメオスタシスは、スクリーンのルーチェモンを見つめた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「ルーチェモンは、争いのない世界を望みました」

 

「その願いによって、多くのデジモンが救われたことも事実です」

 

「ですが、秩序が広がるにつれて、彼は次第に、自分の判断こそが平和を実現する最善の方法だと考えるようになっていきました」

 

【サイガ】

 

「……誰かに頼られ続けると、そうなっちゃうものなんですかね」

 

【ホメオスタシス】

 

「必ずそうなるわけではありません」

 

「ただ、多くの者から信頼され、自分の判断が繰り返し成功していれば、疑問を抱く機会は少なくなるでしょう」

 

【ホメロス】

 

「……そして、周囲の者たちも、次第に異なる意見を言いにくくなってしまいますわね」

 

【サイガ】

 

「……ピヨモンも、途中で黙っちゃいましたね」

 

【イグドラシル】

 

「うん。あの場で、もう少し話し合えていたら、違う結論になったかもしれないね」

 

【コンロン】

 

「……とはいえ、まだ何も決まっていない。これから彼がどう振る舞うかだろう」

 

(サイガは、しばらくスクリーンを見つめていた。)

 

(そこに映るのは、白い翼を持つ小さな天使。)

 

(その姿は、最初に森の集落へ降り立ったときと、ほとんど変わっていなかった。)

 

(しかし、サイガには、もう同じようには見えなかった。)

 

【サイガ】

 

「……ルーチェモンって、悪いことをしようとしてるわけじゃないんですよね」

 

【ホメオスタシス】

 

「……少なくとも、この時点では、彼自身は世界のために行動していると考えています」

 

【サイガ】

 

「……そっか」

 

(サイガは椅子の背にもたれた。)

 

【サイガ】

 

「……だから、難しいんですね」

 

【ホメオスタシス】

 

(優しく微笑む)

 

「ええ」

 

(スクリーンに、次の観測記録が浮かび上がる。)

 

【次回観測:揺らぎ始める秩序】

 

【ホメオスタシス】

 

「……それでは、次の記録では、ルーチェモンが築いた秩序の中で、何が起きていくのかをご覧いただきましょう」

 

(サイガは、静かに頷いた。)

 

⸻

 

――第一章「原初の天使篇」第3話「光が築いた秩序」完。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。