【狭間劇場・VIPルーム】
(巨大なスクリーンには、夕日に染まる中央聖域の神殿が映し出されていた。)
(第3話の最後にルーチェモンが立っていた、あの高台である。)
(サイガは椅子に座り直すと、隣のホメオスタシスへ顔を向けた。)
【サイガ】
「……ルーチェモンって、あれだけ大きな都市を一人でまとめてるんですよね?」
【ホメオスタシス】
「厳密には、多くのデジモンたちが彼を支えています。ですが、最終的な判断の多くを彼が担っているのは確かですね」
【サイガ】
「それって、相当大変じゃないですか?」
【イグドラシル】
(緑色の瞳を細める)
「そうだね。世界が広がるほど、一人で把握できることには限界が出てくるよ」
【コンロン】
「ふっ。どれほど優れた判断力を持っていても、すべての場所に同時にいることはできないからね」
【ホメロス】
(優雅に微笑む)
「だからこそ、信頼できる協力者というものが大切になりますの」
【サイガ】
「協力者……」
【ホメオスタシス】
「ふふ……ちょうど、今回の記録はそのお話になります」
(ホメオスタシスが指先を動かす。)
(夕暮れの神殿が光に包まれ、映像が切り替わった。)
【観測記録:ルーチェモンの時代・三体の天使】
⸻
【The ORIGIN・中央聖域/神殿】
(朝の光が、白亜の神殿を照らしていた。)
(中央聖域は、今日も多くのデジモンで賑わっている。)
(商人たちが荷車を引き、旅人たちが広場を行き交う。)
(神殿の前では、各地から届いた報告を抱えるデジモンたちが列を作っていた。)
【テントモン】
(記録板を抱え、慌ただしく歩く)
「いやはや……今日もえらい数の報告ですなあ」
【ピヨモン】
「北の集落から食料の相談、東の森からは道の整備について……」
【ガブモン】
「西の山では、また縄張りのことで揉めてるみたいだよ」
【テントモン】
「……全部、ルーチェモンに確認してもらうんですかいな?」
【ピヨモン】
「今は、そうするしかないみたい」
(ピヨモンは積み上げられた記録板を見つめた。)
【ピヨモン】
「でも……最近、ルーチェモンはほとんど休んでないんだよね」
【ガブモン】
「……確かに」
(そのとき、神殿の奥から穏やかな声が聞こえた。)
【ルーチェモン】
「……皆さん、おはようございます」
(三体が振り返る。)
(白い翼を広げたルーチェモンが、広間へ入ってきた。)
【ピヨモン】
「あっ、ルーチェモン!」
【ルーチェモン】
「今日も、各地から報告が届いているのですね」
【テントモン】
「ええ。それが、かなりの量でして……」
【ルーチェモン】
(記録板へ目を向ける)
「……なるほど」
(ルーチェモンは、静かに微笑んだ。)
【ルーチェモン】
「では、順番に確認していきましょう」
【ガブモン】
「……あのさ、ルーチェモン」
【ルーチェモン】
「何でしょう?」
【ガブモン】
「少しくらい、休んだ方がいいんじゃない?」
【ルーチェモン】
「……休む?」
【ガブモン】
「うん。最近、ずっと忙しそうだから」
(ルーチェモンは少しだけ目を瞬かせた。)
【ルーチェモン】
「……ご心配ありがとうございます」
(そして、穏やかに首を横へ振る。)
【ルーチェモン】
「ですが、私を必要としている方々がいるのです」
「その方々を待たせるわけにはいきません」
【ピヨモン】
「……でも、一人で全部やらなくても……」
【ルーチェモン】
「ふふ……大丈夫ですよ」
(ルーチェモンは記録板を手に取った。)
【ルーチェモン】
「私には、皆さんを導く責任がありますから」
(その言葉に、三体は何も言えなくなった。)
(ルーチェモンは、すでに次の報告へ目を通していた。)
⸻
【遠方からの報告】
(昼過ぎ。)
(神殿の広間に、一体の旅人が駆け込んできた。)
【旅のパタモン】
「ルーチェモン様!」
【ルーチェモン】
「……どうしました?」
【旅のパタモン】
「北方の山岳地帯で、争いが起きています!」
(広間に緊張が走った。)
【テントモン】
「……北方ですかいな?」
【旅のパタモン】
「はい! 複数の集落が、中央聖域の決まりを巡って対立していて……!」
【ルーチェモン】
「……そうですか」
(ルーチェモンは静かに立ち上がった。)
【ルーチェモン】
「では、私が向かいましょう」
【ピヨモン】
「えっ!? でも、今から北方まで行くの?」
【ルーチェモン】
「はい」
【ガブモン】
「……ほかにも、相談がたくさん残ってるのに?」
【ルーチェモン】
「争いを放置することはできません」
(ルーチェモンは翼を広げた。)
【ルーチェモン】
「……私が行けば、解決できるでしょう」
(その言葉には、以前よりも強い確信が宿っていた。)
(しかし、誰もそれを疑わなかった。)
(実際、ルーチェモンはこれまで幾度となく争いを終わらせてきたのだから。)
(そのときだった。)
【???】
「……お待ちください」
(広間の入口から、低く落ち着いた声が響いた。)
(ルーチェモンが振り返る。)
(神殿の大扉が、ゆっくりと開かれた。)
(そこには、三体の天使型デジモンが立っていた。)
⸻
【三体の完全体天使】
(最初に進み出たのは、白銀の鎧を身にまとい、八枚の翼を持つ天使だった。)
(右腕には聖剣を宿し、顔には兜をかぶっている。)
(その姿からは、厳格さと気高さが感じられた。)
【ホーリーエンジェモン】
(ルーチェモンの前で片膝をつく)
「……お初にお目にかかります、ルーチェモン様」
(続いて、白い衣装と紫色の装飾をまとった、女性の姿をした天使が進み出る。)
(その背には美しい翼が広がり、穏やかながらも芯の強い眼差しを向けていた。)
【エンジェウーモン】
(静かに頭を下げる)
「お目にかかれて光栄です、ルーチェモン様」
(最後に、重厚な装備をまとった三体目の天使が進み出た。)
(その佇まいには、二体とは異なる威厳があった。)
【アルケーエンジェモン】
(胸に手を当て、敬意を示す)
「我ら三体、あなた様の御前に参りました」
(広間にいたデジモンたちが、息を呑む。)
【ガブモン】
「……すごい……」
【ピヨモン】
「……あの人たちも、天使なの……?」
【テントモン】
「……なんとも、立派なお姿ですなあ」
(ルーチェモンは、三体を静かに見つめていた。)
【ルーチェモン】
「……あなた方は?」
【ホーリーエンジェモン】
「私は、ホーリーエンジェモン」
【エンジェウーモン】
「エンジェウーモンと申します」
【アルケーエンジェモン】
「そして、私はアルケーエンジェモン」
(ホーリーエンジェモンが顔を上げた。)
【ホーリーエンジェモン】
「我らは、あなた様がこの世界にもたらした秩序を知り、その御志に感銘を受けました」
【ルーチェモン】
「……私の志に?」
【エンジェウーモン】
「はい。争いに苦しむ者たちを救い、弱き者にも安心して暮らせる場所を与える……」
(エンジェウーモンは、穏やかに微笑んだ。)
【エンジェウーモン】
「その願いは、私たちも同じです」
【アルケーエンジェモン】
「ゆえに、我らはあなた様に仕えることを望みます」
(広間が静まり返った。)
【ルーチェモン】
「……私に、仕えるのですか?」
【ホーリーエンジェモン】
「はい」
(ホーリーエンジェモンは、さらに深く頭を下げた。)
【ホーリーエンジェモン】
「あなた様の掲げる秩序を守り、この世界に平和を広げるために」
【エンジェウーモン】
「どうか、私たちの力をお役立てください」
【アルケーエンジェモン】
「我らの力は、すべてルーチェモン様の理想のために」
(ルーチェモンは三体を見つめた。)
(その瞳に、わずかな驚きが浮かぶ。)
(そして、静かに微笑んだ。)
【ルーチェモン】
「……ありがとうございます」
(ルーチェモンは三体へ歩み寄った。)
【ルーチェモン】
「私も、皆さんと同じ願いを持っています」
「争いのない、平和な世界を築くこと」
(ルーチェモンは翼を広げた。)
【ルーチェモン】
「……そのために、力を貸していただけるのですね?」
【ホーリーエンジェモン】
「無論です」
【エンジェウーモン】
「喜んで」
【アルケーエンジェモン】
「我らの誓いに、偽りはございません」
(ルーチェモンは満足そうに頷いた。)
【ルーチェモン】
「……では、共に歩みましょう」
(広間に、歓声が広がった。)
(こうして、三体の完全体天使デジモンが、ルーチェモンの配下に加わった。)
⸻
【狭間劇場・VIPルーム】
【サイガ】
「……おお!」
(サイガは思わず身を乗り出した。)
【サイガ】
「今度は、ルーチェモン以外の天使が出てきましたね!」
【ホメロス】
「うふふ。しかも、三体とも随分と立派な天使ですわ」
【イグドラシル】
「彼らも、ルーチェモンの築いた秩序に共感しているようだね」
【コンロン】
「……そして、自ら仕えることを選んだ」
【サイガ】
「……そういえば、あの三体って、ルーチェモンより大きいですよね」
【ホメオスタシス】
「ええ。彼らは、三体とも完全体のデジモンです」
【サイガ】
「……完全体!」
(サイガは、第2話で教わった進化段階を思い出した。)
【サイガ】
「確か、成長期よりずっと上の段階でしたよね?」
【ホメオスタシス】
「はい。一般的には、成長期よりも高い段階に位置します」
【サイガ】
「……でも、その三体が成長期のルーチェモンに仕えてるんですね」
【コンロン】
「ふっ。以前も話しただろう? 成長段階だけで、デジモンの強さや立場が決まるわけではないんだ」
【サイガ】
「……そうでしたね」
【イグドラシル】
「それに、彼らがルーチェモンに仕えている理由は、単純な強さだけではないと思うよ」
【サイガ】
「……平和を願う気持ちが同じだから?」
【イグドラシル】
「うん。少なくとも、今の三体はそう考えているようだね」
【ホメオスタシス】
「……彼らの加入によって、ルーチェモンを中心とした秩序は、さらに大きく発展していくことになります」
(スクリーンには、三体の天使がルーチェモンの前に並ぶ姿が映し出されていた。)
⸻
【The ORIGIN・中央聖域/神殿】
(翌日。)
(神殿の広間には、ルーチェモンと三体の天使が集まっていた。)
(その前には、各地から届けられた記録板が並んでいる。)
【ルーチェモン】
「……それでは、皆さんにお願いしたいことがあります」
【ホーリーエンジェモン】
「何なりとお申し付けください」
【ルーチェモン】
「まず、ホーリーエンジェモン」
【ホーリーエンジェモン】
「はっ」
【ルーチェモン】
「あなたには、各地の秩序を守る役目をお願いしたいのです」
「争いが起きた際には、双方の事情を確認し、公正な判断を下してください」
【ホーリーエンジェモン】
(深く頭を下げる)
「承知いたしました」
【ルーチェモン】
「エンジェウーモン」
【エンジェウーモン】
「はい」
【ルーチェモン】
「あなたには、傷ついた者や、助けを必要とする者たちを支えていただきたい」
【エンジェウーモン】
(優しく微笑む)
「お任せください。救いを求める声を、決して見過ごしはいたしません」
【ルーチェモン】
「そして、アルケーエンジェモン」
【アルケーエンジェモン】
「はっ」
【ルーチェモン】
「あなたには、中央聖域の防衛と、各地の守護をお願いしたいのです」
「もし大きな争いが起きたときは、被害が広がる前に対処してください」
【アルケーエンジェモン】
「承知いたしました。ルーチェモン様の築かれた秩序は、我らが守り抜きましょう」
(ルーチェモンは三体を見渡した。)
【ルーチェモン】
「……ありがとうございます」
(その表情には、確かな安堵があった。)
【ルーチェモン】
「これで、より多くのデジモンたちを救うことができるでしょう」
【ホーリーエンジェモン】
「はい。我ら三体、力を尽くします」
【エンジェウーモン】
「ルーチェモン様も、少しはお休みになってくださいね」
【ルーチェモン】
「……ふふ。そうですね」
(ルーチェモンは小さく笑った。)
【ルーチェモン】
「ですが、まだやるべきことは多くあります」
【アルケーエンジェモン】
「そのために、我らがおります」
(ルーチェモンは三体へ視線を向けた。)
(そして、ゆっくりと頷いた。)
【ルーチェモン】
「……頼もしい限りです」
⸻
【三体の天使、それぞれの役目】
(それから、三体の天使は各地で活動を始めた。)
(北方の山岳地帯。)
(険しい岩場に、ホーリーエンジェモンが降り立つ。)
(そこでは、二つの集落が土地の使用を巡って対立していた。)
【ホーリーエンジェモン】
「……双方の言い分は理解した」
(ホーリーエンジェモンは、静かに剣を収めた。)
【ホーリーエンジェモン】
「しかし、互いの事情を知らぬまま争っていては、解決には至らない」
(彼は両者を見渡した。)
【ホーリーエンジェモン】
「まずは話し合おう。どちらか一方の意見だけを通すつもりはない」
(その言葉に、集落の代表者たちは静かに頷いた。)
(南方の森。)
(傷ついたデジモンたちの前に、エンジェウーモンが降り立つ。)
【エンジェウーモン】
「……もう大丈夫ですよ」
(彼女の手から、柔らかな光が広がる。)
(傷ついたデジモンたちの表情が、少しずつ和らいでいく。)
【エンジェウーモン】
「無理をしないでください。助けが必要なときは、遠慮なく声を上げてくださいね」
(西方の荒野。)
(旅人たちを襲おうとしていた凶暴なデジモンたちの前に、アルケーエンジェモンが立ちはだかる。)
【アルケーエンジェモン】
「……そこまでだ」
(重厚な翼が広がる。)
【アルケーエンジェモン】
「この地を通る者たちに、これ以上の危害を加えることは許さぬ」
(凶暴なデジモンたちは、その威圧感にたじろいだ。)
【アルケーエンジェモン】
「退くのであれば、追撃はしない」
(やがて、彼らは武器を下ろし、その場を去っていった。)
(こうして、三体の天使の働きによって、各地の争いはさらに減少していった。)
⸻
【狭間劇場・VIPルーム】
【サイガ】
「……三体とも、すごいですね」
【ホメロス】
「ええ。それぞれの役目を、見事に果たしていますわ」
【イグドラシル】
「ホーリーエンジェモンは公正な判断を重んじ、エンジェウーモンは救済を、アルケーエンジェモンは守護を担っているんだね」
【コンロン】
「ふっ。役割が明確になったことで、中央聖域の統治も効率的になっているようだ」
【サイガ】
「……これなら、ルーチェモンも少しは楽になりそうですね」
【ホメオスタシス】
「……ええ。三体の天使は、彼にとって非常に大きな支えとなりました」
(ホメオスタシスは静かにスクリーンを見つめた。)
【ホメオスタシス】
「そして、ルーチェモン自身も、彼らの働きを高く評価していたのです」
⸻
【The ORIGIN・中央聖域/神殿】
(数日後。)
(神殿の広間には、各地から戻ってきた三体の天使が並んでいた。)
【ホーリーエンジェモン】
「北方の争いは、無事に解決いたしました」
【エンジェウーモン】
「南方の負傷者たちも、回復へ向かっています」
【アルケーエンジェモン】
「西方の交易路も、安全を確保いたしました」
(ルーチェモンは、三体の報告を静かに聞いていた。)
【ルーチェモン】
「……素晴らしい働きです」
(ルーチェモンは立ち上がった。)
【ルーチェモン】
「皆さんのおかげで、より多くのデジモンたちが安心して暮らせるようになりました」
【ホーリーエンジェモン】
「すべては、ルーチェモン様の御志あってこそ」
【エンジェウーモン】
「私たちは、その願いを支えているだけです」
【アルケーエンジェモン】
「あなた様の導きがあれば、この世界はさらに平和になるでしょう」
(ルーチェモンは、三体の言葉を聞いて微笑んだ。)
【ルーチェモン】
「……ええ」
(その声には、静かな自信が宿っていた。)
【ルーチェモン】
「私たちは、正しい道を進んでいます」
(ルーチェモンは神殿の窓へ目を向けた。)
(眼下には、平和な中央聖域が広がっている。)
【ルーチェモン】
「……この秩序を、世界の隅々まで広げましょう」
【ホーリーエンジェモン】
「はっ」
【エンジェウーモン】
「はい」
【アルケーエンジェモン】
「御意」
(三体の天使が、一斉に頭を下げた。)
(ルーチェモンは、その姿を静かに見つめていた。)
(かつて、たった一人で争いを止めようとしていた小さな天使。)
(今や彼の傍らには、強大な力を持つ三体の天使が仕えていた。)
(そして、彼を中心とした秩序は、さらに強固なものとなっていった。)
⸻
【狭間劇場・VIPルーム】
(スクリーンの映像が、ゆっくりと暗くなった。)
(最後に映し出されていたのは、ルーチェモンの前に並ぶ三体の天使の姿だった。)
【サイガ】
「……なんだか、すごい組織になってきましたね」
【イグドラシル】
「うん。ルーチェモン一人では難しかったことも、三体の天使が加わったことで実現できるようになったんだね」
【ホメロス】
「うふふ。しかも、皆さんとても忠実ですわ」
【コンロン】
「……今の三体は、ルーチェモンの理想を心から信じているようだね」
【サイガ】
「……でも、三体ともちゃんと自分の考えを持ってるみたいでしたね」
【コンロン】
「そうだね。それぞれが自分の役目を理解し、判断している」
【ホメオスタシス】
「……三体の天使は、ルーチェモンの秩序を支える重要な存在となりました」
(ホメオスタシスは、静かに微笑んだ。)
【ホメオスタシス】
「そして、この時代のデジモンたちにとって、彼らは平和を守る象徴でもあったのです」
【サイガ】
「……ルーチェモンと、三体の天使かあ」
(サイガは、もう一度スクリーンへ目を向けた。)
【サイガ】
「……これから、どうなっていくんでしょうね」
【ホメオスタシス】
「ふふ……それは、次の記録で確かめてみましょう」
(スクリーンに、次の観測記録が浮かび上がった。)
【次回観測:秩序の影】
(サイガは、静かに頷いた。)
――第一章「原初の天使篇」第4話「天使たちの誓い」完。