デジモンストーリー オリジン   作:空閑アルト

7 / 12
ルーチェモンの導きによって、原初の世界はさらなる繁栄を迎えていた。三体の天使に支えられ、平和な暮らしは各地へと広がっていく。しかし、世界が大きく変わる中で、すべてのデジモンが同じ未来を望んでいるわけではなかった。穏やかな時代の裏側で、新たな変化が静かに始まろうとしていた。


第5話「秩序の影」

【狭間劇場・VIPルーム】

 

(巨大なスクリーンには、白亜の神殿を背景に並ぶ四体の天使が映し出されていた。)

 

(中央に立つルーチェモン。その傍らには、ホーリーエンジェモン、エンジェウーモン、アルケーエンジェモンの姿がある。)

 

(前回の記録が終わってから、サイガはしばらくスクリーンを眺めていた。)

 

【サイガ】

 

「……あの三体が加わって、ルーチェモンもずいぶん助かったんでしょうね」

 

【ホメオスタシス】

 

(穏やかに頷く)

 

「ええ。三体の天使は、それぞれの役割を果たし、世界の平和を支える存在となりました」

 

【イグドラシル】

 

「それまでルーチェモン一人に集中していた仕事を、分担できるようになったんだね」

 

【サイガ】

 

「じゃあ、今度こそ少しは休めるようになったのかな?」

 

【ホメロス】

 

(微笑みながら首を傾げる)

 

「うふふ。それは、本人の考え方にもよるのではないかしら」

 

【コンロン】

 

「時間ができれば休む者もいる。だが、その時間を使って、さらに多くのことを成し遂げようとする者もいるからね」

 

【サイガ】

 

「……ルーチェモンは、後者っぽいですね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ふふ……では、少し先の時代を観測してみましょう」

 

(ホメオスタシスが手をかざすと、スクリーンに表示されていた四体の姿が光の粒子となって消えていく。)

 

(次に映し出されたのは、以前よりも大きく発展した中央聖域だった。)

 

【観測記録:ルーチェモンの時代・拡大する秩序】

 

⸻

 

【The ORIGIN・中央聖域/数年後】

 

(中央聖域の街並みは、以前とは見違えるほど発展していた。)

 

(白亜の神殿を中心に、幾重もの街道が四方へ延びている。)

 

(広場には噴水が設けられ、商店が立ち並び、遠方から訪れたデジモンたちが行き交っていた。)

 

(かつて、食料を巡って争っていた小さな集落。)

 

(その面影は、もはやほとんど残っていない。)

 

【パタモン】

 

(荷車に積まれた果物を見ながら)

 

「わあ! 今日は南の森から、こんなにたくさん届いたんだ!」

 

【テントモン】

 

「ほんま、ありがたい話ですわ。昔は自分らの食べる分を集めるだけでも一苦労でしたのになあ」

 

【ピヨモン】

 

「今は遠くの集落とも交換できるようになったもんね!」

 

(パタモンが一つの果物を手に取った。)

 

【パタモン】

 

「これも、ルーチェモンのおかげだよね」

 

【テントモン】

 

「もちろん、みんなで頑張ったからこそですけどな」

 

【ピヨモン】

 

「うん! でも、ルーチェモンがいなかったら、こんなに早く変わらなかったと思う」

 

(広場の向こうでは、中央聖域の決まりを記した掲示板の前に、旅人たちが集まっていた。)

 

(そこには、交易の方法、道の利用、争いが起きた際の相談先などが記されている。)

 

(文字を読めないデジモンには、案内役が丁寧に説明していた。)

 

【旅のガブモン】

 

「へえ……ここでは、誰かが勝手に道を塞いじゃいけないんだね」

 

【案内役のゴツモン】

 

「そうさ。みんなで使う道だからな」

 

【旅のガブモン】

 

「じゃあ、荷物を運ぶのも安心だね!」

 

【案内役のゴツモン】

 

「困ったことがあったら、担当のデジモンに相談してくれよ!」

 

(そのやり取りを、神殿の高台から見つめる者がいた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……随分と賑やかになりましたね」

 

(白い翼を広げたルーチェモンが、穏やかに微笑んでいる。)

 

(その背後には、三体の天使が控えていた。)

 

【エンジェウーモン】

 

「はい。南方との交易路が整備されてから、訪れるデジモンも増えました」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「各地の争いも、以前に比べて大幅に減少しております」

 

【アルケーエンジェモン】

 

「主要街道の警備も順調です。旅人を襲う者は、ほとんど見られなくなりました」

 

【ルーチェモン】

 

「……そうですか」

 

(ルーチェモンは、満足そうに頷いた。)

 

【ルーチェモン】

 

「皆さんの働きには、感謝しています」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「ありがたきお言葉」

 

【ルーチェモン】

 

「ですが、まだ安心するには早いでしょう」

 

(三体が顔を上げる。)

 

【ルーチェモン】

 

「この世界には、まだ私たちの秩序が届いていない場所があります」

 

【エンジェウーモン】

 

「……はい」

 

【ルーチェモン】

 

「そこに暮らす方々にも、同じように平和を届けたいのです」

 

(エンジェウーモンは、優しく微笑んだ。)

 

【エンジェウーモン】

 

「そのお気持ちは、私たちも同じです」

 

【アルケーエンジェモン】

 

「必要とあらば、我らが道を切り開きましょう」

 

【ルーチェモン】

 

「ふふ……頼もしいですね」

 

(ルーチェモンは、再び街を見下ろした。)

 

【ルーチェモン】

 

「……きっと、この世界はもっと良くなります」

 

(その言葉には、疑いのない確信が宿っていた。)

 

⸻

 

【中央聖域・評議の間】

 

(数日後。)

 

(神殿の奥にある評議の間では、各地から集まった代表者たちが会議を行っていた。)

 

(長い卓の中央にはルーチェモンが座り、その左右に三体の天使が並んでいる。)

 

【ゴツモン】

 

「東の街道についてですが、最近、荷車の通行量が増えています」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「道幅の拡張が必要ということか?」

 

【ゴツモン】

 

「はい。ただ、街道沿いには昔から暮らしているデジモンたちもいて……」

 

【エンジェウーモン】

 

「住居を移す必要があるのですね」

 

【ゴツモン】

 

「そうなんです。もちろん、代わりの場所は用意するつもりなんですが……」

 

【ルーチェモン】

 

「……なるほど」

 

(ルーチェモンは、机に広げられた地図を見つめた。)

 

【ルーチェモン】

 

「道を広げれば、より多くの物資を運べるようになります」

 

「そうなれば、食料が不足している地域にも、今より早く届けられるでしょう」

 

【ゴツモン】

 

「はい。それは間違いありません」

 

【ルーチェモン】

 

「では、街道の拡張を進めましょう」

 

【ゴツモン】

 

「……えっ?」

 

【ルーチェモン】

 

「住居を移す方々には、新しい土地と必要な物資を用意してください」

 

【エンジェウーモン】

 

「移転先の生活については、私が確認いたします」

 

【ルーチェモン】

 

「お願いします」

 

(ゴツモンは、少し困ったように頭を掻いた。)

 

【ゴツモン】

 

「あの……まだ、そこに住んでいる連中の返事をもらっていないんですが……」

 

【ルーチェモン】

 

「……そうなのですか?」

 

【ゴツモン】

 

「ええ。昔から住んでいる場所だから、離れたくないって言う者もいて……」

 

(ルーチェモンは、しばらく考え込んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「……気持ちは理解できます」

 

(その声は、いつも通り穏やかだった。)

 

【ルーチェモン】

 

「ですが、街道の整備は多くの方々のためになることです」

 

【ゴツモン】

 

「……はい」

 

【ルーチェモン】

 

「新しい住居も用意されるのですから、決して悪い話ではないでしょう」

 

(ルーチェモンは静かに微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「事情を丁寧に説明すれば、きっと理解していただけます」

 

【ゴツモン】

 

「……分かりました」

 

(ゴツモンは、記録板へ決定を書き込んだ。)

 

(会議はそのまま、次の議題へ移った。)

 

(だが、エンジェウーモンだけは、先ほどの地図へもう一度目を向けていた。)

 

⸻

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

【サイガ】

 

「……あれ?」

 

(サイガが、わずかに首を傾げた。)

 

【イグドラシル】

 

「どうしたんだい?」

 

【サイガ】

 

「いや……今のって、まだ住んでる人たちが納得してないんですよね?」

 

【ホメオスタシス】

 

「……ええ。少なくとも、全員の同意は得られていないようですね」

 

【サイガ】

 

「でも、ルーチェモンは進めるって決めちゃった……」

 

【ホメロス】

 

「街道を広げること自体には、大きな意味がありますわ」

 

【コンロン】

 

「そうだね。物資の輸送が改善されれば、助かる者も増えるだろう」

 

【サイガ】

 

「……じゃあ、間違った判断ってわけじゃないんですか?」

 

【コンロン】

 

「そこが難しいところだね」

 

(コンロンは腕を組んだ。)

 

【コンロン】

 

「多くの者に利益がある判断でも、一部の者には大きな負担になることがある」

 

【イグドラシル】

 

「だからこそ、決める前に当事者の声を聞くことが大切なんだ」

 

【サイガ】

 

「……なるほど」

 

【ホメオスタシス】

 

「ルーチェモンは、皆さんの幸福を願っています。その気持ちに偽りはありません」

 

(ホメオスタシスは、静かにスクリーンを見つめた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……ただ、願いが正しくても、そこへ至る方法については、考え続ける必要があるのでしょうね」

 

(サイガは小さく頷いた。)

 

(スクリーンの映像が、再び動き出す。)

 

⸻

 

【The ORIGIN・東方街道】

 

(数週間後。)

 

(街道の拡張工事が始まっていた。)

 

(ゴツモンたちが岩を運び、テントモンたちが作業の進行を確認している。)

 

(新しい道は、以前よりも広く、平らに整えられていた。)

 

(しかし、その傍らでは、数体のデジモンが不安そうに集まっていた。)

 

【ベタモン】

 

「……本当に、ここを離れなきゃいけないのか?」

 

【ゴツモン】

 

「悪いな。新しい住居は、川の向こうに用意してあるんだ」

 

【ベタモン】

 

「でも、俺たちはずっとここで暮らしてきたんだぞ」

 

【ゴツモン】

 

「……それは分かってる」

 

【ベタモン】

 

「だったら、道を少し曲げることはできないのか?」

 

(ゴツモンは、困ったように地図を見つめた。)

 

【ゴツモン】

 

「それだと、運ぶ荷物が増えたときに通りにくくなるらしいんだ」

 

【ベタモン】

 

「……そんな理由で……」

 

(ベタモンが俯いた、そのとき。)

 

【エンジェウーモン】

 

「……お話を聞かせていただけますか?」

 

(空から、エンジェウーモンが降り立った。)

 

【ゴツモン】

 

「あっ、エンジェウーモン様!」

 

【エンジェウーモン】

 

「移転について、まだ不安が残っているようですね」

 

【ベタモン】

 

「……ああ」

 

(ベタモンは、遠慮がちに顔を上げた。)

 

【ベタモン】

 

「俺たちは、別に道を広げることに反対してるわけじゃないんだ」

 

【エンジェウーモン】

 

「……はい」

 

【ベタモン】

 

「ただ……昔から住んでる場所を、そんなに簡単に捨てられないんだよ」

 

(エンジェウーモンは、静かに頷いた。)

 

【エンジェウーモン】

 

「……大切な場所なのですね」

 

【ベタモン】

 

「そうなんだ」

 

【エンジェウーモン】

 

「分かりました。すぐに結論を出す必要はありません」

 

(エンジェウーモンは、工事の担当者へ顔を向けた。)

 

【エンジェウーモン】

 

「この区画の作業は、一度止めてください」

 

【ゴツモン】

 

「……えっ?」

 

【エンジェウーモン】

 

「移転する方々の事情を、もう少し詳しく確認したいのです」

 

【ゴツモン】

 

「……分かりました!」

 

(ベタモンは、驚いたように彼女を見つめた。)

 

【ベタモン】

 

「……いいのか?」

 

【エンジェウーモン】

 

(優しく微笑む)

 

「もちろんです。皆さんが安心して暮らせることが、何より大切なのですから」

 

(ベタモンの表情が、少しだけ和らいだ。)

 

⸻

 

【中央聖域・神殿】

 

(その日の夕方。)

 

(エンジェウーモンは、街道工事についてルーチェモンへ報告していた。)

 

【エンジェウーモン】

 

「……以上の理由から、一部の工事を一時的に停止しました」

 

【ルーチェモン】

 

「……そうですか」

 

(ルーチェモンは、静かに報告を聞いていた。)

 

【ルーチェモン】

 

「住民の方々は、まだ移転を望んでいないのですね」

 

【エンジェウーモン】

 

「はい。新しい住居に問題があるというより、長年暮らしてきた場所への思いが強いようです」

 

【ルーチェモン】

 

「……なるほど」

 

(ルーチェモンは、しばらく目を閉じた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……気持ちは理解できます」

 

【エンジェウーモン】

 

「ありがとうございます」

 

【ルーチェモン】

 

「ですが、工事を長く止めることはできません」

 

(エンジェウーモンが、静かに顔を上げた。)

 

【ルーチェモン】

 

「東方街道の整備が遅れれば、物資の輸送にも影響が出ます」

 

【エンジェウーモン】

 

「……はい」

 

【ルーチェモン】

 

「一つの集落の事情だけで、多くの方々を待たせるわけにはいかないでしょう」

 

(ルーチェモンの言葉は、穏やかだった。)

 

(しかし、その結論には迷いがなかった。)

 

【エンジェウーモン】

 

「……では、どうなさいますか?」

 

【ルーチェモン】

 

「もう一度、丁寧に説明してください」

 

「新しい土地での生活も、できる限り支援しましょう」

 

【エンジェウーモン】

 

「……承知しました」

 

【ルーチェモン】

 

「そのうえで、工事は予定通り進めてください」

 

(エンジェウーモンは、一瞬だけ言葉を止めた。)

 

【エンジェウーモン】

 

「……はい。ルーチェモン様」

 

(彼女は、静かに頭を下げた。)

 

(ルーチェモンは、窓の外へ目を向ける。)

 

【ルーチェモン】

 

「……いつか、あの方々にも分かっていただけるはずです」

 

(その表情に、悪意はなかった。)

 

(ただ、自分の判断が正しいという確信だけがあった。)

 

⸻

 

【北方山岳地帯・古い集落】

 

(さらに時間が流れた。)

 

(中央聖域の秩序は、以前よりも広い地域へ浸透していた。)

 

(各地の代表者が中央聖域へ報告を送り、争いが起きれば担当の天使が仲裁する。)

 

(交易路には共通の決まりが設けられ、集落同士の交流も活発になった。)

 

(しかし、そのすべてが順調というわけではなかった。)

 

(北方の山岳地帯。)

 

(険しい崖に囲まれた古い集落では、数体のデジモンが話し合っていた。)

 

【ゴブリモン】

 

「……また、中央聖域から使いが来たらしいぞ」

 

【オーガモン】

 

「……ああ?」

 

【ゴブリモン】

 

「今度は、集落同士の争いについて、中央の決まりに従えってさ」

 

【オーガモン】

 

「……ふん」

 

(オーガモンは、腕を組んだ。)

 

【オーガモン】

 

「俺たちは、昔から俺たちのやり方で暮らしてきた」

 

【ゴブリモン】

 

「でも、中央聖域に従えば、食料の交換とかも楽になるらしいぞ」

 

【オーガモン】

 

「……それは分かってる」

 

(オーガモンは、遠くの山並みを見つめた。)

 

【オーガモン】

 

「だが、何もかも向こうに決められるのは、気に入らねえ」

 

【ゴブリモン】

 

「……じゃあ、どうするんだ?」

 

【オーガモン】

 

「……話くらいは聞いてやるさ」

 

(オーガモンは、静かに立ち上がった。)

 

【オーガモン】

 

「ただし、俺たちにも譲れねえものがある」

 

(その言葉に、周囲のデジモンたちが頷いた。)

 

⸻

 

【中央聖域・評議の間】

 

(数日後。)

 

(北方山岳地帯からの報告が、ルーチェモンのもとへ届いた。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……北方の複数の集落が、共通規則の受け入れを保留しています」

 

【ルーチェモン】

 

「……保留、ですか?」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「はい。彼らは、中央聖域との交流自体を拒んでいるわけではありません」

 

【エンジェウーモン】

 

「ただ、自分たちの習慣や判断を尊重してほしいと望んでいるようです」

 

【アルケーエンジェモン】

 

「現時点で、目立った武力衝突は確認されておりません」

 

(ルーチェモンは、報告書へ目を落とした。)

 

【ルーチェモン】

 

「……なるほど」

 

(しばらく沈黙が続いた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……彼らは、まだ秩序の大切さを十分に理解していないのでしょう」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……と、申されますと?」

 

【ルーチェモン】

 

「争いを防ぐためには、共通の決まりが必要です」

 

(ルーチェモンは、地図の北方地域を指差した。)

 

【ルーチェモン】

 

「それぞれが異なる決まりで行動していては、いずれ衝突が起きてしまいます」

 

【エンジェウーモン】

 

「……確かに、共通の決まりには大きな意味があります」

 

【ルーチェモン】

 

「ええ」

 

(ルーチェモンは、静かに頷いた。)

 

【ルーチェモン】

 

「だからこそ、彼らにも理解していただかなければなりません」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……では、改めて対話の場を設けましょう」

 

【ルーチェモン】

 

「お願いします」

 

(ルーチェモンは、少し考えたあとで続けた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……ただし、いつまでも結論を先延ばしにはできません」

 

(三体の天使が顔を上げる。)

 

【ルーチェモン】

 

「この世界全体の平和を考えるなら、秩序の統一は避けて通れないことです」

 

【アルケーエンジェモン】

 

「……承知いたしました」

 

【ルーチェモン】

 

「彼らが納得できるよう、丁寧に説明してください」

 

(ルーチェモンは、穏やかに微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「……正しいことを伝えれば、きっと理解していただけるでしょう」

 

(ホーリーエンジェモンは、深く頭を下げた。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……御意」

 

(会議は、それで終わった。)

 

(だが、三体の天使が退室したあとも、ルーチェモンはしばらく地図を見つめていた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……どうして、ためらうのでしょう」

 

(その声は、誰に向けられたものでもなかった。)

 

【ルーチェモン】

 

「皆さんが安心して暮らせる世界を、私は望んでいるだけなのに……」

 

(ルーチェモンは、静かに目を閉じた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……いずれ、分かっていただけるはずです」

 

⸻

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

(スクリーンの映像が、ゆっくりと暗くなった。)

 

(サイガは、しばらく何も言わなかった。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……いかがでしたか?」

 

【サイガ】

 

「……なんというか……」

 

(サイガは、言葉を探すように腕を組んだ。)

 

【サイガ】

 

「ルーチェモンがやろうとしてることは、悪いことじゃないと思うんです」

 

【ホメオスタシス】

 

「……はい」

 

【サイガ】

 

「でも……最近、相手が何を考えてるのか、前ほど聞かなくなってませんか?」

 

(ホメオスタシスは、静かに頷いた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……そう感じられたのですね」

 

【サイガ】

 

「最初にオーガモンと会ったときは、ちゃんと相手の話を聞いてたじゃないですか」

 

【イグドラシル】

 

「うん。あのときのルーチェモンは、争いの理由を知ろうとしていたね」

 

【サイガ】

 

「でも今は……自分の考えが正しいって、最初から決めてるように見えて……」

 

【コンロン】

 

「……興味深い変化だね」

 

(コンロンは、静かにスクリーンを見つめた。)

 

【コンロン】

 

「以前の彼は、争いを止めるために答えを探していた」

 

【サイガ】

 

「……はい」

 

【コンロン】

 

「今は、すでに自分が答えを持っていると考え始めているようだ」

 

【ホメロス】

 

「けれど、彼が築いてきた平和も、本物ですわ」

 

【サイガ】

 

「……そうなんですよね」

 

【ホメロス】

 

「多くのデジモンたちが救われ、安心して暮らせるようになった。それは、決して小さなことではありませんもの」

 

【イグドラシル】

 

「だからこそ、ルーチェモン自身も、自分の判断を信じられるんだろうね」

 

【サイガ】

 

「……成功してきたから、ですか?」

 

【イグドラシル】

 

「そうだよ。何度も正しい結果を出してきた者ほど、自分の判断を疑う機会が少なくなることもある」

 

(サイガは、ゆっくりと頷いた。)

 

【サイガ】

 

「……なるほど」

 

(ホメオスタシスが、静かに口を開いた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……ルーチェモンは、今も平和を願っています」

 

「そして、三体の天使も、その願いを信じて彼に仕えているのです」

 

【サイガ】

 

「……はい」

 

【ホメオスタシス】

 

「ですが、平和を守るための決まりが、すべてのデジモンにとって同じ意味を持つとは限りません」

 

(ホメオスタシスは、穏やかな眼差しをスクリーンへ向けた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……その違いに、彼らがどう向き合っていくのか」

 

(スクリーンに、北方山岳地帯の集落が映し出される。)

 

(そこでは、オーガモンたちが中央聖域からの使者を待っていた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……次の記録では、それを見ていただくことになります」

 

【サイガ】

 

「……分かりました」

 

(サイガは、静かに背もたれへ体を預けた。)

 

(スクリーンには、次の観測記録が浮かび上がっていた。)

 

【次回観測:北方の対立】

 

(中央聖域に広がる平和。)

 

(その光の届く先で、小さな影が生まれ始めていた。)

 

――第一章「原初の天使篇」第5話「秩序の影」完。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。