デジモンストーリー オリジン   作:空閑アルト

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中央聖域の秩序が広がる中、遠く離れた北方の山岳地帯にも変化の波が訪れていた。独自の暮らしと伝統を守ってきたデジモンたちは、新たな時代を前に何を思うのか。平和を願う天使たちと、故郷を大切にする者たち。それぞれの想いが、静かに交わろうとしていた。


第6話「北方の対立」

【狭間劇場・VIPルーム】

 

(スクリーンには、険しい山々に囲まれた北方の集落が映し出されていた。)

 

(岩を積み上げた住居。崖に沿って作られた細い道。谷を渡る木製の橋。)

 

(中央聖域の白亜の街並みとは、まるで異なる景色だった。)

 

【サイガ】

 

「……ここが、前回の最後に出てきた北方の集落ですか?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。中央聖域から遠く離れた、山岳地帯の集落の一つですね」

 

【サイガ】

 

「ずいぶん険しい場所に住んでるんですね……」

 

【イグドラシル】

 

「山の暮らしには、平地とは違う知恵が必要になるだろうね」

 

【コンロン】

 

「ふっ。土地が違えば、暮らし方も変わる。そこで生まれる決まりも、当然同じとは限らないさ」

 

【ホメロス】

 

「それでも、互いに協力できることはあるはずですわ」

 

【サイガ】

 

「……今回は、うまく話がまとまるといいんですけど」

 

(ホメオスタシスが静かに頷いた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「では、続きを観測しましょう」

 

**【観測記録:ルーチェモンの時代・北方山岳地帯】**

 

---

 

【The ORIGIN・北方山岳地帯/岩角の集落】

 

(朝。)

 

(冷たい風が谷を吹き抜けていた。)

 

(集落の広場では、ゴブリモンたちが薪を運び、オーガモンが大きな岩を動かしていた。)

 

【ゴブリモン】

 

「おい、そっちの支柱を押さえてくれ!」

 

【別のゴブリモン】

 

「分かってるって! けど、この風じゃ橋が揺れちまうぞ!」

 

【オーガモン】

 

「だったら、先に縄を締め直せ!」

 

(オーガモンは岩を地面へ下ろすと、橋へ歩み寄った。)

 

(谷を渡る木橋は、昨夜の強風で一部が壊れていた。)

 

【オーガモン】

 

「……ちっ。またか」

 

【ゴブリモン】

 

「これで三度目だぜ。中央聖域みたいに、頑丈な橋があればなあ」

 

【オーガモン】

 

「……あっちの技術が便利なのは認める」

 

(オーガモンは、橋の支柱を見上げた。)

 

【オーガモン】

 

「だが、山の風を知らねえ奴が図面だけ持ってきても、うまくいくとは限らねえ」

 

【ゴブリモン】

 

「……まあ、それもそうだな」

 

(そのとき、見張り台から声が響いた。)

 

【見張りのゴブリモン】

 

「おーい! 南の空から誰か来るぞ!」

 

(集落のデジモンたちが顔を上げる。)

 

(青空の向こうに、三つの白い影が現れた。)

 

(翼を広げ、山々の上を飛んでくる三体の天使。)

 

(ホーリーエンジェモン、エンジェウーモン、アルケーエンジェモンだった。)

 

【ゴブリモン】

 

「……来たか」

 

【オーガモン】

 

(腕を組み、空を見上げる)

 

「……ああ」

 

「中央聖域の使いってわけだ」

 

---

 

【岩角の集落・広場】

 

(三体の天使が、静かに広場へ降り立った。)

 

(周囲のデジモンたちは警戒しながらも、武器を構えることはなかった。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「私はホーリーエンジェモン。中央聖域より、話し合いのために参った」

 

【オーガモン】

 

「……オーガモンだ。この集落の代表を任されてる」

 

【エンジェウーモン】

 

(穏やかに頭を下げる)

 

「お時間をいただき、ありがとうございます」

 

【オーガモン】

 

「……礼はいらねえ。話くらいは聞くって、前から伝えてある」

 

【アルケーエンジェモン】

 

「その申し出に感謝する」

 

(オーガモンは三体を見渡した。)

 

【オーガモン】

 

「……それで、ルーチェモン本人は来ねえのか?」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「ルーチェモン様は、中央聖域で多くの案件を扱っておられる」

 

【オーガモン】

 

「……ふん。相変わらず忙しい奴だ」

 

【エンジェウーモン】

 

「ですが、皆さんのお考えを伺うよう、私たちに託してくださいました」

 

【オーガモン】

 

「……そうか」

 

(オーガモンは、広場の奥にある集会所を指差した。)

 

【オーガモン】

 

「だったら、こっちだ」

 

「外で立ち話するには、ちと寒いからな」

 

---

 

【岩角の集落・集会所】

 

(石造りの集会所には、大きな炉が設けられていた。)

 

(火が燃え、壁には狩猟道具や古い地図が掛けられている。)

 

(中央の卓を挟んで、三体の天使と集落の代表者たちが向かい合った。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「まず、中央聖域が提案している共通規則について説明したい」

 

(ホーリーエンジェモンは、巻物を広げた。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「集落同士の争いを武力で解決せず、話し合いによって調整すること」

 

「交易路を利用する者の安全を守ること」

 

「食料や物資の交換について、双方が合意した取り決めを守ること」

 

【ゴブリモン】

 

「……まあ、そこまでは悪くねえな」

 

【別のゴブリモン】

 

「俺たちだって、毎日喧嘩したいわけじゃねえし」

 

【オーガモン】

 

「……ああ」

 

(オーガモンは、巻物へ目を落とした。)

 

【オーガモン】

 

「だが、問題はその先だ」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……と、いうと?」

 

【オーガモン】

 

「ここに書いてあるだろう」

 

(オーガモンが、一つの項目を指差す。)

 

【オーガモン】

 

「『集落間の争いについては、中央聖域が定めた判断に従う』」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……ああ」

 

【オーガモン】

 

「それじゃ、俺たちが自分で決められねえことも出てくるんじゃねえか?」

 

【アルケーエンジェモン】

 

「共通の判断基準がなければ、集落ごとに異なる結論が生じる」

 

【オーガモン】

 

「……そりゃそうだろ」

 

(オーガモンは、腕を組んだ。)

 

【オーガモン】

 

「俺たちは、ここで暮らしてるんだ」

 

「山の道も、食料の採れる場所も、雪が積もる時期も、全部自分たちで確かめてきた」

 

【エンジェウーモン】

 

「……はい」

 

【オーガモン】

 

「それを、遠くの神殿にいる奴らが全部決めるってのは、納得できねえ」

 

(集落の代表者たちが頷いた。)

 

【ゴブリモン】

 

「中央の決まりが便利なのは分かるけどよ……」

 

【別のゴブリモン】

 

「山には山の事情があるんだ」

 

(ホーリーエンジェモンは、静かに耳を傾けていた。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……理解した」

 

(オーガモンが顔を上げる。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「では、君たちは中央聖域との協力そのものを拒んでいるわけではないのだな?」

 

【オーガモン】

 

「当たり前だ」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……そうか」

 

(ホーリーエンジェモンは、巻物を閉じた。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「ならば、双方が納得できる条件を探そう」

 

---

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

【サイガ】

 

「……あ、ちゃんと話し合えてますね」

 

【イグドラシル】

 

「うん。互いの主張を確認するところから始めているね」

 

【ホメロス】

 

「オーガモンも、ただ反発しているわけではありませんのね」

 

【コンロン】

 

「ふっ。彼らは協力を拒んでいるのではなく、自分たちの判断する余地を残したいんだろう」

 

【サイガ】

 

「……確かに、全部遠くの人に決められるのは嫌ですよね」

 

【ホメオスタシス】

 

「そうですね。ですが、集落同士の争いを防ぐためには、共通の取り決めも必要になります」

 

【サイガ】

 

「……難しいですね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ふふ……だからこそ、対話が大切なのです」

 

(スクリーンでは、話し合いが続いていた。)

 

---

 

【岩角の集落・集会所】

 

(交渉は、昼を過ぎても続いていた。)

 

(卓には、山岳地帯の地図が広げられている。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……では、山岳地帯内部の生活に関する決まりは、各集落が定める」

 

【オーガモン】

 

「ああ」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「ただし、ほかの集落に影響する問題については、代表者同士で協議する」

 

【オーガモン】

 

「それなら構わねえ」

 

【エンジェウーモン】

 

「協議で解決できない場合は、中央聖域が仲裁する……という形はいかがでしょう?」

 

(オーガモンは、少し考え込んだ。)

 

【オーガモン】

 

「……仲裁するだけならいい」

 

【アルケーエンジェモン】

 

「……仲裁するだけ?」

 

【オーガモン】

 

「ああ。最初から中央の言い分が絶対ってわけじゃねえならな」

 

(アルケーエンジェモンは、静かに頷いた。)

 

【アルケーエンジェモン】

 

「……理解した」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「では、その条件を中央聖域へ伝えよう」

 

【オーガモン】

 

「……頼むぜ」

 

(エンジェウーモンが、別の巻物を広げた。)

 

【エンジェウーモン】

 

「それから、交易路についても相談があります」

 

【ゴブリモン】

 

「……交易路?」

 

【エンジェウーモン】

 

「はい。中央聖域では、北方への物資輸送を増やす計画があります」

 

【オーガモン】

 

「……ほう」

 

【エンジェウーモン】

 

「そのために、山道の整備へ協力していただけないでしょうか?」

 

(オーガモンは、少しだけ口元を緩めた。)

 

【オーガモン】

 

「……そいつは悪くねえ話だ」

 

【ゴブリモン】

 

「橋の修理も手伝ってもらえるのか?」

 

【エンジェウーモン】

 

「もちろんです」

 

【ゴブリモン】

 

「そりゃ助かる!」

 

(集会所に、少しずつ明るい声が戻ってきた。)

 

(だが、オーガモンは最後に一つだけ確認した。)

 

【オーガモン】

 

「……ただし、道の場所は俺たちにも決めさせろ」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……なぜだ?」

 

【オーガモン】

 

「この山の風と雪を、一番よく知ってるのは俺たちだからだ」

 

(ホーリーエンジェモンは、しばらく地図を見つめた。)

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……確かに、その知識は必要だろう」

 

【エンジェウーモン】

 

「では、双方の担当者で協力して設計しましょう」

 

【オーガモン】

 

「……ああ。それなら文句はねえ」

 

(こうして、交渉は一つの合意へと近づいていった。)

 

---

 

【中央聖域・神殿/数日後】

 

(三体の天使が、北方から帰還した。)

 

(評議の間では、ルーチェモンが報告を待っていた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……お帰りなさい、皆さん」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「ただいま戻りました」

 

【エンジェウーモン】

 

「北方の集落との交渉について、ご報告いたします」

 

【ルーチェモン】

 

「……お願いします」

 

(ホーリーエンジェモンが、交渉の内容を説明した。)

 

(山岳地帯内部の決まりは各集落が定めること。)

 

(集落同士の問題は、まず当事者間で協議すること。)

 

(解決できない場合に限り、中央聖域が仲裁すること。)

 

(交易路の整備については、双方が協力すること。)

 

(ルーチェモンは、静かに聞いていた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……なるほど」

 

(報告が終わると、ルーチェモンは少し考え込んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「……皆さん、よくまとめてくださいましたね」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「ありがたきお言葉」

 

【エンジェウーモン】

 

「北方の方々も、協力そのものには前向きでした」

 

【ルーチェモン】

 

「……それは良いことです」

 

(ルーチェモンは、穏やかに微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「ですが、一つ気になることがあります」

 

(三体が顔を上げる。)

 

【ルーチェモン】

 

「集落ごとに異なる決まりを残すという点です」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……はい」

 

【ルーチェモン】

 

「それでは、いずれ新たな争いが生まれる可能性があります」

 

【エンジェウーモン】

 

「……確かに、違いが原因となる争いは起こり得ます」

 

【ルーチェモン】

 

「ええ」

 

(ルーチェモンは、机の上の地図へ目を向けた。)

 

【ルーチェモン】

 

「ですが、今すぐすべてを統一することは難しいのでしょう」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……そのように考えます」

 

【ルーチェモン】

 

「……分かりました」

 

(ルーチェモンは、ゆっくりと頷いた。)

 

【ルーチェモン】

 

「今回の条件を認めましょう」

 

(三体の天使の表情が、わずかに和らいだ。)

 

【エンジェウーモン】

 

「ありがとうございます」

 

【ルーチェモン】

 

「ただし……」

 

(ルーチェモンは、静かに続けた。)

 

【ルーチェモン】

 

「今後、北方の集落にも中央聖域の決まりを少しずつ広めていってください」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……少しずつ、ですか?」

 

【ルーチェモン】

 

「はい」

 

(ルーチェモンは、穏やかに微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「彼らがその便利さと正しさを理解すれば、自然と受け入れてくださるでしょう」

 

【アルケーエンジェモン】

 

「……承知いたしました」

 

【ルーチェモン】

 

「そして、交易路の整備については、できるだけ早く進めてください」

 

【エンジェウーモン】

 

「……はい」

 

【ルーチェモン】

 

「北方との交流が増えれば、彼らも中央聖域の秩序を理解しやすくなるはずです」

 

(ルーチェモンは、静かに目を細めた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……いずれ、この世界のすべてのデジモンが、同じ秩序のもとで暮らせるようになるでしょう」

 

(その言葉に、三体の天使は頭を下げた。)

 

(だが、ホーリーエンジェモンは、ほんのわずかに考え込むような間を置いていた。)

 

---

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

【サイガ】

 

「……よかった。ちゃんと条件付きで認めてもらえたんですね」

 

【ホメオスタシス】

 

「ええ。北方の集落と中央聖域は、協力関係を結ぶことになりました」

 

【イグドラシル】

 

「双方が譲れるところを探した結果だね」

 

【ホメロス】

 

「うふふ。話し合いが実を結んだのは、喜ばしいことですわ」

 

【コンロン】

 

「……ただし、完全に意見が一致したわけではないようだ」

 

【サイガ】

 

「……え?」

 

【コンロン】

 

「北方の集落は、自分たちの決まりを守りたいと考えている」

 

【サイガ】

 

「……はい」

 

【コンロン】

 

「一方、ルーチェモンは、いずれ共通の秩序へ統一したいと考えている」

 

【サイガ】

 

「……あ」

 

(サイガは、スクリーンへ目を向けた。)

 

【サイガ】

 

「……確かに、目指してるところが違いますね」

 

【ホメオスタシス】

 

「……そうですね」

 

【イグドラシル】

 

「今は協力できても、その違いが残っている限り、また話し合いが必要になるだろうね」

 

【サイガ】

 

「……なるほど」

 

(サイガは、少し考え込んだ。)

 

【サイガ】

 

「でも、ルーチェモンは今回の条件を認めたんですよね?」

 

【ホメオスタシス】

 

「はい。それも、彼自身の判断です」

 

【サイガ】

 

「……だったら、まだ大丈夫なのかな」

 

(ホメオスタシスは、静かに微笑んだ。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……その答えは、もう少し記録を見てから考えてみましょう」

 

---

 

【北方山岳地帯・岩角の集落/数週間後】

 

(中央聖域との協定が結ばれてから、北方の集落にも変化が訪れていた。)

 

(崩れていた橋は修理され、交易路には新しい標識が設置された。)

 

(中央聖域から運ばれてきた食料や道具は、集落の暮らしを少しずつ豊かにしていた。)

 

【ゴブリモン】

 

「おい、見ろよ! この縄、前のやつよりずっと丈夫だぜ!」

 

【別のゴブリモン】

 

「へえ! これなら橋も長持ちしそうだな!」

 

(広場では、デジモンたちが新しい資材を手に喜んでいた。)

 

(その様子を、オーガモンが少し離れた場所から眺めている。)

 

【オーガモン】

 

「……ふん。悪くねえな」

 

【ゴブリモン】

 

「だろ? 中央聖域との協力も、案外いいもんじゃねえか」

 

【オーガモン】

 

「……ああ」

 

(オーガモンは、静かに頷いた。)

 

【オーガモン】

 

「助け合うこと自体は、悪いことじゃねえ」

 

(そのとき、集落の入口から一体の使者がやってきた。)

 

【中央聖域の使者】

 

「北方の皆さんへ、新しい案内をお持ちしました!」

 

【ゴブリモン】

 

「……案内?」

 

(使者は、一枚の巻物を広げた。)

 

【中央聖域の使者】

 

「中央聖域では、今後、各地の取り決めを整理するための会合を開く予定です」

 

【オーガモン】

 

「……ほう」

 

【中央聖域の使者】

 

「北方の集落にも、ぜひ参加していただきたいとのことです」

 

【ゴブリモン】

 

「……また決まりの話か?」

 

【中央聖域の使者】

 

「はい。より統一された秩序を築くために、皆さんの協力が必要なのです」

 

(オーガモンの表情が、わずかに険しくなった。)

 

【オーガモン】

 

「……統一、ねえ」

 

【中央聖域の使者】

 

「もちろん、皆さんの意見も伺う予定です」

 

【オーガモン】

 

「……そうか」

 

(オーガモンは、巻物を受け取った。)

 

【オーガモン】

 

「……返事は、あとで伝える」

 

【中央聖域の使者】

 

「承知しました!」

 

(使者が去っていく。)

 

(ゴブリモンは、オーガモンへ顔を向けた。)

 

【ゴブリモン】

 

「……どうする?」

 

【オーガモン】

 

「……さあな」

 

(オーガモンは、巻物を見つめた。)

 

【オーガモン】

 

「……こっちは、条件付きで協力するって話だったはずなんだがな」

 

(冷たい風が、集落を吹き抜けた。)

 

(新しく修理された橋の向こうには、中央聖域へと続く道が延びていた。)

 

---

 

【中央聖域・神殿/同時刻】

 

(ルーチェモンは、評議の間で新たな報告書を確認していた。)

 

(机の上には、各地の協定や規則を記した巻物が並んでいる。)

 

【ルーチェモン】

 

「……北方との交易も、順調なようですね」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「はい。各集落からも、物資の供給について感謝の声が届いております」

 

【ルーチェモン】

 

「……それは何よりです」

 

(ルーチェモンは、静かに微笑んだ。)

 

【ルーチェモン】

 

「やはり、協力することが最善の道なのです」

 

【エンジェウーモン】

 

「……はい」

 

【ルーチェモン】

 

「そして、協力を続けるためには、共通の秩序が必要になります」

 

(ルーチェモンは、巻物を一つ手に取った。)

 

【ルーチェモン】

 

「……次の会合では、各地の決まりを整理していきましょう」

 

【ホーリーエンジェモン】

 

「……承知いたしました」

 

【ルーチェモン】

 

「皆さんが同じ決まりのもとで暮らせるようになれば、争いはさらに減るはずです」

 

(ルーチェモンは、穏やかな表情のまま続けた。)

 

【ルーチェモン】

 

「……それが、この世界にとって最も良いことなのですから」

 

(その言葉に、迷いはなかった。)

 

(三体の天使は、静かに頭を下げた。)

 

(ルーチェモンの願いは、今も変わっていない。)

 

(争いのない世界。)

 

(誰もが安心して暮らせる平和な時代。)

 

(だが、その願いを実現するための道筋は、少しずつ一つの形へと絞られ始めていた。)

 

---

 

【狭間劇場・VIPルーム】

 

(スクリーンの映像が、ゆっくりと暗くなった。)

 

【サイガ】

 

「……なんか、ちょっと気になりますね」

 

【ホメオスタシス】

 

「……何がでしょう?」

 

【サイガ】

 

「交渉はうまくいったのに、ルーチェモンはまだ全部同じ決まりにしたいって考えてるんですよね」

 

【イグドラシル】

 

「そうだね。今回の協定を、最終的な形とは考えていないようだ」

 

【サイガ】

 

「……オーガモンたちは、今の条件で納得したのに……」

 

【コンロン】

 

「ふっ。互いに同じ約束をしていても、その約束の先に見ているものが違うことはある」

 

【ホメロス】

 

「それでも、今回の交渉で争いを避けられたことは、確かな成果ですわ」

 

【サイガ】

 

「……はい」

 

【ホメオスタシス】

 

「……北方の集落は、中央聖域との協力を選びました」

 

(ホメオスタシスは、静かにスクリーンを見つめた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「そして、ルーチェモンもまた、彼らとの協力を望んでいます」

 

【サイガ】

 

「……でも、考え方はまだ違う」

 

【ホメオスタシス】

 

「……ええ」

 

(ホメオスタシスは、穏やかに頷いた。)

 

【ホメオスタシス】

 

「その違いを、これからどう扱っていくのか……」

 

(スクリーンに、中央聖域の神殿と北方の山岳地帯が並んで映し出される。)

 

【ホメオスタシス】

 

「……それが、次の時代の課題となっていくのでしょう」

 

(サイガは、静かに息を吐いた。)

 

【サイガ】

 

「……平和を作るのって、本当に難しいんですね」

 

【イグドラシル】

 

「ふふっ。だからこそ、平和を守り続けることにも意味があるんだろうね」

 

【ホメロス】

 

「ええ。異なる願いを持つ者たちが、共に生きていくのですもの」

 

【コンロン】

 

「……答えが一つとは限らないからね」

 

(サイガは、もう一度スクリーンへ目を向けた。)

 

(そこには、次の観測記録が浮かび上がっていた。)

 

**【次回観測:天使たちの決断】**

 

**――第一章「原初の天使篇」第6話「北方の対立」完。**

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