先の展開は考えておりますが続くかはモチベ次第なります
稚拙な文章や誤字脱字等があるかとは思いますが、何でも許せる方のみお進みください。
温かい目で読んでいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
このすばのキャラは佐藤和真のみと、なります
筋金入りの引きこもりゲーマーである彼が、何日も前から心待ちにしていた人気ネトゲの限定版を買うため、珍しく外出をしたその帰り道のことだ。
心地よい疲労感とともに歩道を歩いていたカズマの視界に、同じ高校の制服を着た女子生徒の姿が映る。彼女はスマホに夢中で、前方への注意を完全に怠っていた。
そして次の瞬間、カズマの耳をつんざく轟音が響いた。
視線をやると、巨大な黒い影――暴走トラックが、彼女めがけて猛スピードで突っ込んできているではないか。
「――危ないっ!」
考えるより先に体が動いていた。
長年の引きこもり生活で鈍った体とは思えない瞬発力で、カズマは少女を突き飛ばした。
身代わりとなって正面から迫り来る衝撃。世界がスローモーションになり、最後に響いた鈍い音とともに、カズマの意識はぷつりと途切れる。
(……まあ、悪くない死に方だったんじゃないか……?)
せめてあの娘が無事なら、名もなき引きこもりの英雄として、少しは称えられるかもしれない――。
そんな満足感に浸りながらまぶたを開けたカズマの前に広がっていたのは、見慣れぬ光景だった。
一面の白い闇。足元には冷たい霧のような靄が立ち込め、そこにポツンと簡素なパイプ椅子が置かれている。
そして、その向かいの豪奢な椅子には――息を呑むほどの美少女が座っていた。
水色の長い髪を優雅になびかせ、透き通るような白い肌。神々しさすら漂わせる羽衣をまとった彼女は、長い足を組み、どこか退屈そうにカズマを見下ろしていた。
「佐藤和真さん。ようこそ、死後の世界へ」
鈴を転がすような美声。彼女は自らを水を司る女神『アクア』と名乗り、カズマが命を落としたことを告げた。
カズマは覚悟を決めた面持ちで、静かに問いかける。
「……そうか、やっぱり死んだのか。あの子は……俺が助けた女の子は、無事だったか?」
「ええ、無事よ。あなたが突き飛ばしたせいで、足をちょっと捻挫したくらいね」
「そうか、よかった……なら、俺の死も無駄じゃなかったってことだな」
満足そうに微笑むカズマ。
だが、その瞬間――女神アクアの整った顔立ちが、ぷるぷると震え始めた。
口元に手を当て、必死に笑いを噛み殺そうとするアクア。しかし、その我慢は数秒と持たなかった。
「ぷっ……あーっはっはっはっは!! む、無駄じゃなかったですって!? ちょっと、もう我慢できない! あーおかしい!!」
椅子から転げ落ちそうになりながら腹を抱えて爆笑する女神に、カズマは呆気にとられた。
「な、なんだよ急に!」
「あなた、トラックに轢かれたと思って得意げになってるけど、あれね、ただの『トラクター』よ!」
「……は?」
「のろのろ走ってた農作業用のトラクター! 衝突安全ブレーキだってついてたから、あなたが飛び出さなくてもその子にぶつかることなんてなかったの! それなのに、あなたが勝手にトラックだと勘違いして、勝手に飛び出して――」
アクアは涙を流しながら、死神ならぬ女神による残酷すぎる宣告を続けた。
「あなた、轢かれてすらいないのよ。ただの『ショック死』! トラックに轢かれたと思い込んで、心臓麻痺を起こしただけ! しかも気絶した拍子に盛大に『失禁』までしちゃって!」
「し、失禁……!?」
「病院に運ばれた時にはもう手遅れだったけど、お医者さんも看護師さんも、救急隊員から事情を聞いてみんな吹き出すのを堪えてたわよ! 駆けつけたあなたのご両親なんて、死因を聞かされて悲しむ前に大爆笑しちゃって――あはははは! こんな滑稽な死に方、久しぶりに見たわ!」
カズマの顔から急速に血の気が引いていく。
英雄的自己犠牲? 人助けの美談?
違う。自分はただ、のろのろ走るトラクターに勝手に怯えてちびりながらショック死し、親族や医療従事者を大爆笑させた伝説の恥さらし野郎として死んだのだ。
(死にたい……いや、もう死んでるけど、消滅したい……!)
床に手をついて絶望するカズマを見下ろし、アクアは勝ち誇ったようにパンと手を叩いた。
「さあ、死んでしまったものは仕方ないわ。あなたには選択肢があるの。天国へ行くか、記憶を消されて赤ん坊からやり直すか……そして、もう一つの特別な選択肢がね」
アクアが語ったのは、魔王軍に脅かされている『異世界』への転生だった。
記憶と肉体をそのままに異世界へ行き、魔王討伐を手伝ってほしいのだという。しかも、転生者には特権として『望む能力や強力な装備を何でも一つだけ』持っていく権利が与えられるらしい。
ゲーム好きのカズマにとって、それは本来なら胸が躍るような提案だった。
並べられた数々のチートスキルの目録を前に、カズマが真剣に悩んでいると――目の前の駄女神が、あからさまに鼻を鳴らした。
「はぁ……早く決めてくれないかしら。ヒキニートの相手なんて時間の無駄なのよね。どれを選んでも、あなたみたいな根暗オタクには大して使いこなせないでしょうけど」
ニヤニヤと小馬鹿にした視線。失禁の件といい、先ほどからプライドをズタズタに踏みにじってくるその態度に、カズマの脳内で何かがプツンと切れた。
(……こいつ、絶対に許さねえ)
カズマは目録を放り投げ、すっくと立ち上がった。
そして、獲物を定めるかのようにアクアをまっすぐに指差す。
「決めたぞ。俺が異世界に持っていく『もの』は――」
カズマは口角を吊り上げ、これ以上ないほど邪悪で、底意地の悪い笑みを浮かべた。
指差されたアクアは、きょとんと目を丸くしている。
「――お前だ、この駄女神!!」
「決まったのね、それなら...」
「……は?」
間抜けな声が白い部屋に響いた。
アクアは自分の胸元を指差し、それからカズマの顔を二度見する。
「お、お前って……私? えっ、ちょっと待ちなさいよ、冗談でしょ!? 私は天界の女神よ!? なんで私がアンタみたいなヒキニートと一緒に――」
『――承知いたしました』
突如として、天から厳かで機械的なアナウンスが響き渡った。
同時に、白い空間の中央に光の魔法陣が展開され、アクアの足元を拘束するように眩い光の鎖が巻き付く。
「きゃあっ!? ちょっ、何これ!? 嘘でしょ、規約! 天界の規約はどうなってんのよ!?」
「あーっはっはっは! ざまあみろ! ルールブックには『望むものを一つだけ持っていける』としか書いてねえんだよ! 俺を散々コケにしてくれた礼だ、異世界へ道連れにして、現地で顎でこき使ってやるから覚悟しろ!」
勝ち誇って高笑いするカズマ。
泣き叫びながらジタバタと暴れるアクア。
ざまあみろ、これぞ痛快無比な復讐劇――そう確信した、まさにその瞬間だった。
『――警告。エラーが発生しました』
「……え?」
頭上から響いた無機質な声に、カズマとアクアの動きがピタリと止まる。
『転送先空間座標の照合を完了……エラー。指定された転送先は、魔力体系の存在しない異次元境界世界です。神格を持つ上位存在の直接降臨は、現地の物理法則に抵触するため不可能です』
「は……? ちょ、ちょっと待って、どういうこと!?」
カズマが慌てて叫ぶが、システム音声は容赦なく処理を続行する。
『特権条項に基づき、対象【佐藤和真】の転送を優先実行します。同行不可となった女神アクアに代わり、同神格が保有する固有概念――【神聖幸運】を抽出し、対象の魂へ代替付与します』
「ぎゃああああああああっ!? ちょっと、私の幸運があああああっ!? 引き剥がされるぅぅぅぅぅ!!」
アクアの体から青白い光の奔流が吹き荒れ、強引にカズマの胸元へと吸い込まれていく。
胸が焼けるように熱い。
全身の血管へ、得体の知れないエネルギーが一気に注ぎ込まれるような感覚だった。
「お、おい待て! 話が違うだろ! 俺はお前を現地に連れて行ってパシリにする予定だったんだよ! 魔力がない世界ってなんだ!? 俺の異世界スローライフはどこ行ったァァァッ!?」
『転送を開始します。良い第二の人生を』
「私の運を返しなさいよ、このクズニートおおおおおおおおっ!!」
アクアの怨嗟に満ちた絶叫が遠ざかり、視界は真っ白な閃光に呑み込まれた。
「……ぐえっ!?」
硬くザラついた地面へ、顔面から激突する。
鼻を強打した激痛に涙目となりながら、カズマは四つん這いになって激しく咳き込んだ。
「い、痛ってぇ……! なんなんだよ、あのクソシステム……!」
悪態をつきながら立ち上がり、ジャージの埃を払う。
気を取り直そう。アクアを連れてくることには失敗したものの、代わりにあの駄女神の『神聖幸運(ラック)』とやらを根こそぎ奪い取ってやったのだ。
結果オーライである。
これなら異世界のカジノで連戦連勝し、豪邸を買って酒池肉林のスローライフを送ることなど造作もないはずだ。
「さようなら引きこもり生活! こんにちは異世界!」
満面の笑みで顔を上げたカズマは――そのまま、彫像のように硬直した。
「…………」
見渡す限りの風景。
灰色のコンクリートで固められたビル群。
頭上を縦横無尽に走る黒い電線。
足元には綺麗に舗装されたアスファルトの道路と、横断歩道の白線。
壁に設置された赤い消火栓と、コカ・コーラの自動販売機。
「……は?」
カズマは自分の着ている服を見下ろした。
死んだときと同じ、安物の緑色のジャージ。
ポケットを探ると、限定版ゲームを買ったときのコンビニのレシートの切れ端と、百円玉が二枚。
「……日本じゃねえかァァァッ!!」
路地裏にカズマの魂の叫びが木霊した。
どこからどう見ても現代日本である。石畳の王都もなければ、行き交うエルフもドワーフも、空飛ぶワイバーンもいやしない。
「おいふざけんな! 神格降臨がどうのとか言ってたのはこれか!? 元の世界に戻されただけじゃねえか! いや、ここはどこだ!? 俺の地元か!? だとしたら俺の部屋のパソコンのハードディスクはどうなったんだよ!!」
頭を抱えてパニックに陥りながら、カズマは大通りへと駆け出した。
しかし、通りに出てみると、街の異様さが際立っていた。
走っている車が一台もない。
人通りもまばらで、立ち並ぶビルの壁面やガラス窓のあちこちには、まるで砲撃でも受けたかのような補修痕や、真新しい鉄板のバリケードが乱雑に打ち付けられている。
「なんだこの街……治安悪すぎだろ。スラム街か?」
不気味な静寂に背筋を冷たいものが伝った、その時だった。
――ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……!!
突如として、街の防災スピーカーから鼓膜をつんざくような重々しいサイレンが鳴り響いた。
火災報知器でもなければ、地震速報でもない。まるで戦争映画の空襲警報のような、切迫した警報音だ。
『警戒警報。警戒区域内に、
「門? 避難……?」
スピーカーの機械的なアナウンスと同時に、遠くの路地から「出たぞー!」「逃げろ!」という叫び声が響いてきた。
何事かと見上げたカズマの頭上で――青空が、割れた。
バリバリと空間が裂けるような凄まじい炸裂音。
何もない虚空に黒い幾何学模様の亀裂が走り、ポッカリと口を開ける漆黒の『穴』。
そこから、何かが落ちてきた。
ズッシャァァァァァンッ!!
地響きとともに、数十メートル先のアスファルトを派手に粉砕して着地したソレを見て、カズマの思考は完全に消し飛んだ。
「……な、んだ、あれ……」
巨大だった。
小型トラック数台分はあろうかという、鈍色に光る装甲。
昆虫のようでもあり、重戦車のようでもある異様なシルエット。
丸みを帯びた甲羅のような胴体から何本もの太い脚が生え、中央には感情の欠片も読み取れない無機質な単眼が、不気味に赤く発光している。
ドラゴンではない。ファンタジーの魔獣ですらない。
近未来の無人兵器と、宇宙の侵略生物を悪魔合体させたような、正真正銘のバケモノ。
「ギチチチチチ……!」
金属を擦り合わせるような耳障りな鳴き声を上げ、その怪物――バムスターが、ゆっくりとこちらを向いた。
逃げ遅れ、大通りの真ん中で棒立ちになっているカズマの姿を、その単眼が冷酷にロックオンする。
(ま、待て待て待て! なんであんなのが日本の街中にいるんだよ!? 異世界ファンタジーですらねえ! これ、完全に世紀末ミリタリーパニック映画の世界じゃねえか!!)
逃げなければならない。
だが、トラクターにビビってお漏らしショック死したばかりの元引きこもりの足は、ガクガクと震えてアスファルトに縫い止められたように動かなかった。
バムスターが太い前脚を振り上げ、カズマの頭上めがけて叩き落とそうと振りかぶる。
巨大な影が視界を覆う。
押し寄せる突風が息を詰まらせる。
(死ぬ――! 今度こそ、ミンチになって死ぬ!!)
カズマがギュッと目を固く閉じた、その刹那だった。
「――『嵐山隊、現着。射線クリア』」
凛とした、少年の声が響いた。
直後、真紅の閃光が視界を灼く。
パンッ、パンッ、パンッ! と甲高い破裂音が連続して炸裂し、カズマの頭上に振り下ろされかけていたバムスターの巨腕が、光の弾丸を浴びて激しく弾け飛んだ。
「ギシャアアアッ!?」
バランスを崩した怪物の脚が、カズマの数歩横のアスファルトに突き刺さり、派手に粉塵を巻き上げる。
突風に煽られて尻餅をついたカズマの目の前に、一人の人影が音もなく舞い降りた。
「……え?」
そこに立っていたのは、紅を基調としたスタイリッシュなジャケットに身を包んだ、精悍な顔立ちの少年だった。
手には見慣れない形状の銃を構え、その背中からは一切の迷いも恐怖も感じられない。
「大丈夫か、君! 怪我はないかい?」
少年が振り返り、カズマに力強い視線を投げかけてくる。
端正な顔立ち。澄んだ瞳。胸元には誇らしげに刻まれたボーダーのエンブレム。
絵に描いたような好青年だ。前世の学校なら間違いなくスクールカーストの最頂点に君臨し、運動会でリレーのアンカーを走って女子の黄色い歓声を浴びていたタイプの人間である。
引きこもりのカズマにとっては、本能的に一番ソリが合わない人種だった。
「あ、う……」
「すぐに片付ける! 危ないから、そこで伏せていてくれ!」
好青年――嵐山准が鋭く叫ぶと同時に、ビルの屋上からもう一つの影が飛び降りてきた。
「時枝、足を止めろ!」
「了解」
時枝充と呼ばれたもう一人の少年が空中で銃を構え、流れるような無駄のない動作でバムスターの残った脚を正確に撃ち抜いていく。
完璧な連携。バムスターが完全に体勢を崩して横転した瞬間、嵐山が間髪入れずに突撃し、至近距離から分厚い装甲の隙間――トリオン供給機関めがけて光弾の連射を叩き込んだ。
ドォォォォォンッ!!
爆発的な光とともに、さっきまでカズマを殺しかけていた巨大なバケモノが、信じられないことに光の粒子となって綺麗サッパリ消滅した。
戦闘開始から、わずか十秒足らず。
「……は……?」
カズマは口を半開きにしたまま、その光景を見上げるしかなかった。
魔法ではない。剣と鎧の騎士でもない。
洗練された銃火器と組織的な戦術による、あまりにも合理的でハイテクなバケモノ退治。
「立てるかい?」
銃を消滅させ、嵐山が爽やかな笑顔で手を差し伸べてきた。
眩しい。朝日のように眩しすぎて、直視すると目が潰れそうだ。
「あ、どうも……」
カズマは差し出された手を取って引き起こされながら、反射的に愛想笑いを浮かべた。引きこもり特有の、カースト上位者に対する処世術のペコペコ腰低ムーブである。
「怖かっただろう。でももう大丈夫だ、敵はすべて排除したよ。避難誘導のシェルターまで送っていくけれど、歩けそうかい?」
「あ、はい、なんとか……あの、すみません、一つ聞いてもいいですか」
「なんだい?」
「……ここ、どこですか?」
情けない声で尋ねると、嵐山は少し驚いたように目を丸くし、それから「ああ」と納得したように微笑んだ。
「相当パニックになっているんだね。無理もない。ここは三門市南部、第4警戒区域だ。……僕たちは、界境防衛機関『ボーダー』。あの異次元からの侵略者――ネイバーを撃退するための組織だよ」
「ボーダー……ネイバー……?」
嵐山の口から滑り出てくる単語のすべてが、カズマの知っている常識から完全に乖離していた。
ネイバー? 侵略者?
あんなヤバいバケモノが日常的に降ってくる街なのか、ここは?
ふと、遠くの交差点にある巨大な電光掲示板が目に入った。
そこには、嵐山の胸元についているのと同じエンブレムと、巨大なニューステロップが流れていた。
『界境防衛機関ボーダー――防衛体制のさらなる強化を発表』
『来月より、第1次入隊試験の願書受付を開始。門の脅威から街を守る、未来の隊員を募集』
「……」
カズマは、震える自分の手を見つめた。
そして、あの白い部屋でシステムが告げた言葉を思い出す。
『指定された転送先は、魔力体系の存在しない異次元境界世界です』
(……全然ファンタジーじゃねえじゃねえかあああああああああっ!!)
内心で血の涙を流しながら絶叫する。
冒険者になって楽して大金稼いで美少女にちやほやされるはずが、異次元の侵略兵器が空から降ってくる、世紀末SFサバイバルの街に放り出されたのだ。
しかも、金も身寄りも住む場所もない、ただの無力なジャージ姿の高校生として。
「君、本当に大丈夫かい? 顔色がひどく青いけれど……どこか怪我でもしたのか?」
心底心配そうに顔を覗き込んでくる、嵐山准の圧倒的な善意の眼差し。
カズマは引きつった笑みを貼り付けたまま、乾いた声で答えるしかなかった。
「だ、大丈夫です……ちょっと、自分の第二の人生が初手からハードモードすぎて、絶望しただけですから……」
こうして、佐藤和真の、生き残りをかけた三門市サバイバルが、最悪の形で幕を開けたのだった。