残月の短編集   作:残月

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『僕のヒーローアカデミア』+『再構成』

これは『無個性』の少女が最高のヒーローから『個性』を受け継ぎ、最高のヒーローになる筈だった物語。



※以前連載していた物を再掲載しました。キリの良い所まで再掲載したので長くなってます。1〜6話まで。


僕のヒーローアカデミア 飛べない鳥

 

『1話』

 

事の始まりは中国、軽慶市。

発光する赤子が生まれたことを皮切りに、各地では次々と超常現象と呼ばれる能力を持つ人間が生まれるようになった。

そして世界人口の約八割が何らかの特異体質である超人社会となった現代。

人々の持つ超常の爆発的増加に伴い、それを用いた犯罪も増加していた。

法律ができる速度を無視して増え続けるそれらの犯罪者に対抗するため、同じく超常を使い、犯罪者を捕まえる者たちが現れた。

 

 

『ヒーロー』

 

 

空想の産物でしかなかった存在が『特異体質』と呼ばれた『個性』を持つ者が成り得る職業となった。

そして……それと対する様に『個性』を犯罪に使う者を人々は『敵(ヴィラン)』と呼んだ。

 

 

 

 

 

緑谷出久は、ヒーローに憧れる少女だった。

世界総人口の八割が何らかの特異体質『個性』を持つ世の中で、それを持たぬ『無個性』と呼ばれる存在であった。

『個性』を前提とした超人社会において、その『個性』を活かし活躍する職業『ヒーロー』

 

 

『無個性はヒーローになれない』

 

 

『個性』を持たぬ故に可能性の芽すらないのだと知り、出久の心は絶望に苛まれた。

世間でも『無個性』は下に見られ、馬鹿にされる風評がある。その姿勢は子供達にも受け継がれてしまう。

幼い悪意は周りに伝播し、小学校に入る頃には出久はイジメの対象となっていた。小馬鹿にされる程度ではあったが、それは確実に少女の心を蝕んでいく。

 

出久はそれでも諦めなかった。ヒーローの事を観察、研究して『無個性』でもヒーローになれる様に普段からノートに書き纏めていた。

 

しかし、出久が中学になってから幼馴染みの爆豪勝己から自身に対する扱いが酷くなっていく。

爆豪は元から口が悪い。そしてそれは思春期を迎えると更に悪化した。幼馴染みの少女に対しても悪辣な言葉を投げ掛け、爆豪の個性『爆破』で持ち物を爆破される事も増えた。

そんな扱いを受けても出久は爆豪と変わらずに接した。それが気に入らないと更に爆豪の怒りを買う事になるが出久は爆豪を心配するし、微笑んだ。

 

そんな日々が続いた……ずっと、そんな関係が変わらないのだろうと誰もが思っていた。

ある日、爆豪は出久が書き留めていた手帳を奪い爆破しようとする。ブツブツと言いながら必死に何かを書いている姿が気に触ったらしい。

出久は焦った。その手帳は出久にとって特別な物だった。

 

 

「これはダメーっ!」

「なっ!?よせ、馬鹿!」

 

 

出久は爆破される前に爆豪から取り返し、手帳を胸に抱き締め、爆豪から背を背ける。

同時に聞こえたのは爆豪の焦る声と個性の爆破の音。

それと同時に出久は頭が軽くなった感覚に襲われる。パサリ、と何かが落ちる音が聞こえ振り返ると驚愕の表情をしている爆豪と………視線を下に降ろすと其処には自分が髪を纏める為に使っていたオールマイトデザインのバンダナと千切れた長い髪。反射的に出久は自分の首筋に手を這わす。其処にあった筈の長い髪は爆豪の爆破でバンダナもろとも爆破され千切れていた。

爆豪が手帳を爆破しようと火力を最小限にした事で爆破されたのはバンダナと後ろ髪だけだったのは不幸中の幸いだったのだろうが、その光景に教室内はシンと静まり返っていた。

 

 

「ふん……無個性の癖にヒーローなんか目指すからだデク」

 

 

爆豪は悪びれた様子もなくバンダナを拾い上げると出久の胸の辺りにバンダナを投げ渡す。投げ渡されたバンダナは出久の胸に当たり、そのまま地面に落ちた。

 

 

「そうだ、デク。個性を出す秘訣を教えてやろうか。来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!」

 

 

 

そう言って爆豪は悪い笑みを浮かべた。その仕草に爆豪の取り巻きになっている男子生徒が数名、笑い始めると、その笑いは教室中に伝染した。

 

髪の爆破はやりすぎと思ったが緑谷を苛める事は少年達にとっては、いつもと同じちょっとしたからかいであった。苛めたとしても『どうせ、無個性の緑谷だし』と、そんな軽い考えだった。女子達からの冷たい視線に気付かない男子生徒達は笑い続けた。

 

 

 

「ゴメンね……かっちゃん……」

 

 

そう言って床に落ちたバンダナを拾った出久は教室を出ていった。

爆豪やクラスメートには、いつもの光景。緑谷出久にとってもそうであっただろう。

 

しかし、それが大きな間違いだと少年少女が気づく日はそう遠くなかった。

 

 

放課後になり、出久は学校の屋上に足を踏み入れていた。屋上から見る景色に「これがヒーローがビルの上から見ている景色なんだよね」と一言だけ溢し、膝を抱えて震えた。

 

 

『来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!』

 

 

幼馴染みの爆豪から放たれた一言は出久の心に深い傷を刻み込んでいた。

 

 

「やっぱり……無理なのかな……無個性じゃ……」

 

 

膝を抱えて涙を流す出久。いつもなら諦めない心があるのだが爆豪に爆破で千切られた後ろ髪の事もあり、気分は最悪だった。癖っ毛の出久は幼い頃、髪を伸ばすのが嫌だったが髪を伸ばす切っ掛けは爆豪だった。

親同士が仲が良い事もあり、爆豪とは良く遊んでいた間柄で互いの家でテレビを見ていたりもした。オールマイトが事件を解決したニュースの中で髪の長い女性ヒーローが映った時に爆豪はただ思った事を口にした。

 

 

「女って髪が長い方がいいな」

 

 

その一言を切っ掛けに出久は後ろ髪を伸ばし始めた。中学に上がる時には髪も背中に届くくらいの長さになり、髪留め代わりにオールマイトデザインのバンダナで後ろ髪をうなじの辺りで一本に纏めていた。

 

だが、その伸ばしていた髪も爆豪の手により、千切られた。大事にしていたオールマイトデザインのバンダナも爆破の影響で焦げ付いていた。

 

 

夢を否定され、伸ばしていた髪を台無しにされ、出久の心は今までで一番絶望に塗り潰されていた。

 

 

「現実を見る……か」

 

 

それは今までで散々言われていた。

『無個性はヒーローになれない』『現実を見ろ』『夢を見るな』

出久の脳裏に今まで大人や友人達に言われた言葉がリフレインする。

 

 

『来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!』

 

 

幼馴染みの言葉が一番大きく出久の脳裏に響く。

そう思った時、出久は屋上のフェンスを既に乗り越えていた。

 

 

そして足を踏み出し、屋上から身を投げ出す。一瞬の浮遊感。その直後、落下していくのが分かった。

『走馬灯って本当に見れるんだ』と出久は何処か他人事の様にも落下していく景色を見ていた。

 

 

『2話』

 

 

爆豪勝己にとって『緑谷出久』は『腐れ縁の幼馴染み』だった。

 

親同士が仲が良い事と家が近い事から昔から付き合いのある幼馴染み。

無個性で女の癖にヒーローになりたいとほざく上に、遊んでいる時や学校行事の際にも自分を心配する腐れ縁女。

 

周囲は『幼馴染みに愛されてる』なんて言われて吐き気がした。自分が、無個性のデクの坊である出久に対等に扱われているというのは許しがたいとさえ思っていた。

 

格の違いを見せ付けようが、どれだけ罵倒を浴びせ、持ち物を爆破しようが、自分の周囲をウロチョロする出久の姿に、何度怒りを爆発させたことか。

いっそ目の前から消し去れたらどんなに楽だろうか。

その思いは、出久の姿を目の端に捉える度に年々強くなっていた。

 

中学生になってから、その思いは加速していく。似合わないセーラー服に長い髪をうなじの辺りで一本に纏めていた出久に爆豪は妙にイライラしていた。

イライラの正体は分からないが出久を見ているとイライラする。マトモに話せない自分にもイライラした。

結局は『無個性の馬鹿女』にイライラしているのだろうと結論付けた爆豪は幼い頃よりも出久を否定した。

中学生活がある程度過ぎた頃、爆豪の思惑とは裏腹に出久は今でもヒーローになろうと必死にノートに何かを書き込んでいた。ブツブツ言いながらペンを走らせる姿に爆豪は苛立ちを隠せなくなる。

 

書き纏めてるノートを爆破すりゃコイツもヒーローを諦めるだろう、と思った爆豪は出久が必死に何かを書いていた普段のノートとは違う手帳を出久の手から取り上げた。

 

 

「無個性がヒーローなんざ目指すんじゃねーよ。いい加減、現実見ろや」

 

 

そう言って手帳を爆破しようと個性を使おうとする爆豪。その瞬間だった。

 

 

「これはダメーっ!」

「なっ!?よせ、馬鹿!」

 

 

爆豪が個性を使う寸前に出久は爆豪から手帳を奪い返し、背を背けた。

その結果、爆豪の爆破は奪われた手帳を爆破する事なく、背を向けた出久のうなじの辺りを爆破してしまう。個性を止めようとしたがあまりにも突然の事で間に合わなかったのだ。

 

個性を使って人を傷つけてしまったかと焦る、爆豪だったが出久に怪我は無い様で安心したのも束の間。

爆豪の目の前で出久の髪を纏めていたバンダナがパサリ、と落ちた。

出久の後ろ髪は過去に自分が漏らした一言が切っ掛けだったのを爆豪は覚えていたが、その時は『単純だなー、出久』と位にしか思っていなかった。

 

そんな爆豪の思考は反射的に自分の首筋に手を当てて髪の有無を確認している出久によって引き戻された。

其処にあった筈の長い髪は爆豪の爆破でバンダナもろとも爆破され千切れていた。その事に出久の表情は青ざめているのが分かる。

爆豪が手帳を爆破しようと火力を最小限にした事で爆破されたのはバンダナと後ろ髪だけだったのは不幸中の幸いだったのだろうが、その光景に教室内はシンと静まり返っていた。

 

 

「ふん……無個性の癖にヒーローなんか目指すからだデク」

 

 

爆豪は悪びれた様子もなくバンダナを拾い上げると出久の胸の辺りにバンダナを投げ渡す。投げ渡されたバンダナは出久の胸に当たり、そのまま地面に落ちた。

 

 

「そうだ、デク。個性を出す秘訣を教えてやろうか。来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!」

 

 

 

そう言って爆豪は悪い笑みを浮かべた。そう、いつもの事だ。コイツはどんなに罵倒しようが、叩こうがヘラヘラ笑う。爆豪はそう思っていた。爆豪の一言にクラスの誰かが笑い始めると、その笑いは教室中に伝染した。だが、今日は様子が違った。

 

 

「ゴメンね……かっちゃん……」

 

 

そう言って床に落ちたバンダナを拾った出久は教室を出て行った。いつもならヘラヘラ笑っていた出久が俯いたまま教室を出て行く様子に爆豪は再び、妙なイライラを感じるが『デクの癖に俺に楯突くからだ』と自分を納得させていた。

 

その日の放課後。爆豪はヘドロのヴィランに襲われた。体を乗っ取られ、町を破壊しそうになったが偶々通り掛かったナンバーワンヒーロー、オールマイトに助けられた。爆豪はヘドロヴィランに体を乗っ取られそうになっても抵抗した事をオールマイト以外のプロヒーローに褒められていたが、ヴィランに遅れを取った事実が爆豪をイラつかせていた。更に警察からの事情聴取で家に帰れたのは夜になってからだった。時計を見れば時刻は既に20時を回っていた。

 

 

「帰ったぞ。ババァ」

 

 

口の悪い爆豪は自身の母を『ババァ』と呼ぶ。いつもなら此処で反論が飛んでくるが妙に静かな事に爆豪は眉を潜める。

 

 

「ちっ……いねぇのか?」

 

 

爆豪がキッチンに行くと何故か食材が出されているままだった。まるで夕食の準備中に何処かに慌てて出掛けたかの様だった。

 

 

「なんだってんだ……あん?着信36件?」

 

 

スマホを確認すると母親からの着信が凄い事になっていた。ヘドロヴィランと警察の事情聴取で爆豪はスマホを見る暇がなく母親からの着信に今頃気づいたのだ。

すると、タイミング良く母、光己からの電話が鳴り響く。

 

 

「………なんだよ?」

『勝己!アンタ、今何処に居るの!?』

 

 

電話に出ると母の叫びがスマホを通して爆豪の耳にダメージを与える。キーンと耳鳴りのする耳とは反対の耳にスマホを押し当て爆豪は叫んだ。

 

 

「うるせぇんだよ、クソババァ!さっきまでクソヴィランに襲われたから警察の事情聴取受けてたんだよ!」

『なっ、こんな時に……アンタは無事なの!?怪我は!?』

 

 

爆豪が自身の帰りが遅かった事と電話に出なかった理由を叫ぶと母の心配そうな声が聞こえたが、それ以上に爆豪には気にかかる事があった。

 

 

「おい、『アンタは』ってどう言う事だ?」

『夕方だったんだけど……引子ちゃんから電話があって、出久ちゃんが学校の屋上から飛び降りて……病院に搬送されたんだけど、まだ意識が戻らない程の重体だって』

 

 

何があったかを問う爆豪の耳に……絶対に聞きたくなかった事が聞かされる。それと同時に自分が学校で何を言い放ったか……その言葉が頭の中でリフレインした。

 

 

『来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!』

 

 

自分の一言でデクが学校の屋上から飛び降りた?病院で治療を受けているけど意識が戻らない重体?

 

 

『勝己?ちょっと聞いてるの、勝己!』

 

 

爆豪は自分の手からスマホが落ちている事にも気付かない程に動揺していた。落ちたスマホから母の声が聞こえるがマトモに爆豪の耳に届いているのかも怪しかった。

 

自分が無責任に言い放った発言が、どれほど残酷で人を傷付けていたのか思い知らされる事となる。

 

 

『3話』

 

光己から病院の場所を教えられた勝己は行くか行かないかを相当悩み……行く事を決意した。それを決めるまでに家で一時間はたっぷりと悩んだ末の結論だった。

 

普段なら乗らないタクシーに乗って出久が入院した病院へ到着した勝己。治まらない心臓の鼓動がバクバクと鳴っていた。

病院に入ると病院特有の消毒液の臭いがする。今はそんな臭いですら煩わしかった。勝己が慌ただしく動く看護婦から出久が居る病室へと案内された。

勝己が悩んでる時間と病院へ向かってる最中に出久の治療は終わっていたらしく、今は面会は出来ないが一命はとりとめたと説明を受けた。

 

病室には入れないが病室の前に設置されたベンチに出久の母である引子と自身の母である光己が座っていた。

二人とも憔悴しきった顔をしていた。性格に言うと憔悴している顔を見れたのは光己だけだ。

引子の方は顔を俯かせて表情を窺えなかった。仮に俯いていなかったとしても勝己は罪悪感から引子の顔を見れなかっただろう。

光己は手術の最中も引子にズッと付き添っていたそうだ。顔は伺えないが憔悴した引子を放っておけないのと出久が心配だったからだと光己が喋る。

 

 

「勝己君……出久の為に来てくれて、ありがとうね」

「え、あ……は、い……」

 

 

そしてズッと俯いていた引子が顔を上げると泣き晴らした顔を上げ、勝己に礼を言う。誰がどう見ても無理をして笑っているのが目に見えた。勝己はそんな引子に絞り出した様な返事しか出来なかった。

自分の一言が出久を追い詰めたなんて言える筈もない。今まで自分が出久を苛めていたなんて言える訳がない。そんなお礼を言われる側の人間じゃない……俺がデクを……そんな思いが勝己の頭の中を駆け巡る。

 

居たたまれなくなり勝己はその場を逃げる様に後にした。トイレに駆け込み、勝己は胃から込み上げてくる物を吐き出した。

 

 

「か……は……うぐっ……」

 

 

夕食の前で胃の中にある物は殆ど無かっただろう。だが、それでも勝己は込み上げてくる物を吐き出さずにはいられなかった。胃液を吐き出し、少しだけ気分が落ち着いたと同時に出久に向けて放った自身の言葉が頭を過る。

 

 

 

『来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!』

 

 

 

高らかに笑いながら言った自分の声が、頭の中で繰り返されていた。

いつもの事だった……出久を馬鹿にして苛めて……そう、いつもの日常だった。あんな奴、消えてくれと願った。殺す、死んでくれとさえ口にしていた。

 

その思いは、叶った。最悪の形で。それも自分が原因でだ。

勝己は自分の無責任な言動と行動がどんな結果に繋がるか、それを思い知らされていた。

 

 

 

『4話』

 

 

 

勝己はその日、家に帰らされた。出久が心配だろうが勝己は学生でしかも受験生だ。あまり病院に長居はさせれないと光己がやって来た夫の勝に勝己の事を任せて共に帰らせたのだ。光己は引子と共に病院に残った。なぜなら引子の夫であり父の久は海外出張ですぐに日本には戻れない。現状で引子が頼りに出来る人物は少なく、ならばせめて自分だけでも付き添うと光己は決めていた。

普段なら反抗する勝己だが、出久の件で茫然自失状態の勝己は珍しく親の言うことを聞いてしまっていた。

 

 

出久の見舞いに行った翌日。学校は臨時休校になっていた。

理由は二つ。一つは勝己がヘドロヴィランに襲われてオールマイトに助けられたから。もう一つは出久が学校の屋上から飛び降り自殺を図ったから。

 

その日から数日、学校は臨時休校となり、学校には報道陣が詰め掛けていた。勝己のヘドロヴィラン事件も世間を賑わせたが、それ以上に『飛び降りた無個性の女生徒』の方に関心が向いたらしい。未成年だから勝己や出久の名が出る事は無かったが中学校の名前は全国に広まった。

学校の教師は記者会見を開き……自分達に都合の良い解釈の話をしていた。

 

 

『無個性で他の生徒から虐めを受けていた』

『少々変わった子で周囲から孤立気味だった』

『無個性ながらヒーローを目指そうとする夢見がちな少女』

『無個性である事が少女に絶望を与えた』

 

 

これが学校側が主張する出久の評価だった。その記者会見をテレビを通して見ていた勝己は思わずテレビを爆破してしまうところだった。ギリッと歯軋りが鳴る。

学校の教師達は自分達に落ち度はなく『無個性』の生徒に問題があったと主張したのだ。学校は生徒を庇うよりも保身に走ったのだ。本当の事を告げてしまえば虐めが日常的に行われていて、尚且つ教師はそれを見て見ぬふりをしていたと認めるのだから。

 

世間でも『無個性』に対する評価は酷いものだが、これはかなり露骨な話だった。

勝己は、その虐めをしていた側であったが、この記者会見にキレていた。自分自身の事は棚上げしていると理解しつつも勝己は苛立ちを隠せなかった。

 

この記者会見を見ていたヒーローやニュースの評論家などは、この記者会見や事件に対して賛否両論な討論をしていたが勝己はそれらを見た後に行くと決めていた場所へと行く為に家を出た。

 

勝己は目的地に行く途中の道で見舞いに行った初日の晩に、勝から聞いた出久の容態の事を思い出していた。

屋上から飛び降りた出久は運が良いと言うべきなのか死には至らず、重体となった事。頭を強く打ち、全体の損傷が激しく、最悪何らかの後遺症が残るかもしれない事。そして……現在、頭を強く打った影響なのか昏睡状態でいつ目覚めるか分からないという事だった。

 

 

勝己は目的地である病院に到着すると教えてられていた病室へと足を運ぶ。その足取りは一歩一歩が重く感じられた。一歩、歩みを進める度に足が重くなる感覚に襲われていた勝己だったが出久が居る病室にたどり着いた。

病室のドアを開けようとするが手が重い。まるで錆びたロボットの様に勝己の腕が上がらなくなっていた。

 

 

「あれ、勝己?」

「…………おう」

 

 

病室のドアの前で立ち尽くしていた勝己だったが突如、病室のドアが開く。開いたドアの先には光己が驚いた様子で勝己を見ていた。

光己は引子の付き添いで病院に良く来ており、今日も一緒に来ていたらしい。

 

 

「来たんだね。ほら、中に入んなさい」

「……ああ」

 

 

 

光己に促されるままに病室に足を踏み入れる勝己。しかし、足を踏み入れ病室の中を見た瞬間、心臓が止まるのでは無いかと思うほどの衝撃に教われる。

 

病室のベッドで眠る出久は全身が包帯やギプスで固定され、腕には点滴。口には人工呼吸器が取り付けられていたのだ。自分の仕出かした事で出久が重体になったという現実が勝己の心に重くのし掛かっていた。

 

枕元には出久が髪留めとして使用していたオールマイトデザインのバンダナがあり、それが勝己の心に棘のような物が刺さる感覚になっていた。

 

 

「勝己君……ありがとうね。出久の為にお見舞いに来てくれて」

「あ……はい……」

 

 

出久が眠るベッドの隣に椅子に座っていた引子が勝己に礼を言う。勝己はそんな引子の顔を見る事が出来ず思わず顔を背けてしまう。そして、その視線の先に見付けてしまったのは出久が飛び降りた日に自分が爆破しようとした手帳だった。

 

 

「あ、その手帳……勝己君が出久にプレゼントしてくれたんでしょ?前に出久が言ってたわ」

「…………え?」

 

 

引子の言葉に勝己は思考が止まる。

『俺がデクに手帳をプレゼントした?』身に覚えの無い事に勝己は焦り、過去を思い出そうとする。そもそも自分は出久にプレゼントを渡すなど、あり得ないのだから。

必死に思い出そうとして、記憶の糸を辿る。朧気に思い出したのは勝己と出久が中学生になったばかりの頃だった。

学校の帰り道に本屋に寄った勝己は、その店で何らかのキャンペーンが行われていた、くじ引きで引いて当たりのシステム手帳を貰った。しかし、勝己は手帳なんて使わない。その時、目についたのが出久だった。偶然、同じ本屋に買い物に来ていた出久に、そのシステム手帳を投げ渡したのだ。「いらないからやる」と。

 

勝己は自分に必要ない物を出久に押し付けた。ただ、それだけだった。

だが、出久にとっては違ったらしい。少なくとも押し付けた、それを出久は大事にしていた。

 

自分はそれを完全に忘れて、悪びれもなく爆破しようとした。勝己は置かれているシステム手帳に手が、それを手にする。軽い筈のシステム手帳が何故か重く感じた。

 

『5話』

 

 

学校の臨時休校が解かれ、久し振りに登校した勝己はクラスで孤立していた。

普段から連んでいたクラスメイト達は遠巻きに勝己を見ていた。まるで腫れ物を触るかの様にビクビクとした態度だったのだ。

 

その態度に勝己は舌打ちする。

クラスの男子は勝己に乗って出久を苛めていたし、無個性と言う事で下に見ていた。クラスの女子も出久を露骨に苛める事は無かったものの見て見ぬ振りをしていたと勝己は記憶している。それが事件が起きてから自分は関係ない、自分は苛めに参加していないと言わんばかりの態度だった。担任の教師も入院した出久に「応援の寄せ書きを書こう」等と自分は教師として全うな事をしていると白々しい態度を取っていた。

学校全体がそんな雰囲気になっており、それが勝己の苛々を加速させていた。

 

「テメェ等もデクを苛めてただろうが」と、その一言が言えたら、どれだけ楽だっただろう。だが、勝己は沈黙を貫いた。此処で責任転嫁をして逃げてはいけないと考えていたのだ。

 

くだらねぇ、とクラスメイトの態度に舌打ちし放課後は出久の見舞いに行こうと思っていた勝己は昼休みにクラスの女子に呼び止められる。話があるからと人気の無い場所に連れ出される。

 

 

「………なんだ?」

「その……緑谷さんの容態って分かるんでしょ?どうしてる?」

 

 

女子生徒の態度に苛々している勝己に女子生徒は怯えながら勝己に出久の状態を尋ねる。

 

 

「知るかよ……デクの事なんざ」

「そんな、だって……爆豪君、緑谷さんのお見舞いに行ってるんでしょ!?」

 

 

知った事かと、その場を後にしようとする勝己を女子生徒が呼び止める。

 

 

「ああん!テメェもデクを無個性だって、シカトしてただろうが!!なんで今さら、デクを気にかける!?」

「だって……緑谷さんを庇えば爆豪君は私達を苛めるでしょ!?庇いたくても私達は庇えなかったのよ!」

 

 

イラついた様子で女子に食って掛かる勝己に女子生徒は涙目になりながら反論する。

 

 

「爆豪君が緑谷さんを無個性だからって苛めて!男子もそれに便乗してたから女子達は何も出来なかったのよ!緑谷さんを庇ったら今度は私達が狙われるじゃない!」

「なっ……」

 

 

右手で女子生徒の胸ぐらを掴んで左手は個性の爆破を使用してBOMと威嚇する勝己だったが、女子生徒の叫びに動きが止まる。

自分は出久に嫌がらせはしていたが、それを庇った奴を苛める気など更々無かったが女子達の認識は違ったらしい。初めて知ったクラスメイトの女子達の思いに胸ぐらを掴んでいた力が緩む。

 

 

「爆豪君、雄英に行くって広言してたけど……緑谷さん、苛めててヒーローになれるの!?」

「………っ」

 

 

周囲の認識なんか関係ない。自分はオールマイトを超えるナンバーワンヒーローになると幼い頃から自分自身に誓っていた。だが、今は女子生徒の言葉が妙に心に響く。

そんな勝己の様子がただ事ではないと察した女子生徒は「後で良いから緑谷さんの事、教えてよね」と勝己の手を振り払い去ってしまう。

 

勝己は幼い頃からヒーローを目指していた。それは間違いない……だが、何故ヒーローを目指そうとしていたのか。それを思い出そうとすると頭に靄が掛かった様に思い出せなかった。

 

勝己は昼休みが終わるチャイムが鳴るまで、その場に立ち竦み……その日は毎日、行っていた出久の見舞いに行く気にならなかった。

 

 

『6話』

 

 

勝己は幼い頃の夢を見ていた。自分がまだ出久の事を『デク』と呼ぶ前の頃だ。

 

 

『凄い、カッコいい……オールマイトだ!』

『ああ、カッケーな!』

 

 

一緒にテレビを見てヴィランを捕まえているオールマイトを見て二人で興奮していた。

 

 

『僕、オールマイトみたいなヒーローになるんだ!』

『俺だって!』

 

 

『オールマイトみたいなヒーローになりたい』二人でそう願った。幼い頃の純粋な思い。あの頃は出久と手を繋いで遊んだり、一緒に風呂にも入っていた、本当に幼い頃。

 

 

 

そこで勝己は目を覚ました。自室のベッドから起き上がり頭をガリガリと掻く。目覚めの気分は最悪と言えた。よりによって出久の夢を見た。それも関係が険悪になる前のだ。しかし、懐かしい夢だったと考える。

 

 

「あの頃は……まだ名前で呼んでたんだよな」

 

 

誰に聞かせるわけでもなく勝己は呟く。何時から出久との関係が険悪になったんだったか。『ヒーローになりたい』その願いが歪になったのは、いつからだったのか。勝己は思い出せない過去に苛立ちを隠せなかった。

 

 

学校は相変わらずだった。出久を励まそう、応援しよう、なんて空気になっているが、その実は保身に走ってるだけだろ、と勝己は思っていた。しかし、昨日のクラスの女子生徒の発言を考えるとそれは違うとも思えた。

 

自身が描いていたヒーローとしての像と周囲が自分に向けていた像は大きく違っていた。その思いが今の勝己の心を締め付けていた。

HRが始まると担任から出久の現在の状況が報告された。何でも昨日、勝己が行かなかった見舞いと入れ違いに担任は出久の様子を見に行っていたらしい。

そこで医師から聞いた事を話し始める。意識不明の昏睡状態でいつ目が覚めるかも分からない状態なのだと。クラスの男子達は青ざめた表情になり、女子達の顔色も悪い。片方は苛めていた罪悪感で片方は何もしなかった後悔なのだろう。

 

昼休みになると昨日、絡んできた女子が来るかもしれないと考えていた勝己だったが女子は来なかった。担任から話は聞けたし、昨日の怯え方を見るに相当無理をして勝己に出久の話を聞きに来たのだろう。

 

 

放課後になると勝己は憂鬱な気分のまま出久の病室に来ていた。昨日は来れなかったが出久の容態を見ていないと何処か落ち着かない気分だったのだ。病室に入ると引子が出久の近くの椅子に座っており「お見舞い、ありがとう」と言われ、勝己の心を更に締め付けていた。

本来なら礼を言われる立場などではなく、批難される側なのだ。本当の事を話して、土下座でもしなければならない……だが、それを口にしてしまえば自分はもう、出久の見舞いには来れないだろう。それが勝己に後一歩を踏み出せない要因となっていた。

 

「少し、席を外すから出久の事をお願いね」と引子は席を立つ。引子の背に何かを言おうとして勝己は何も言えなくただ立ち尽くしていた。こうして出久と病室で二人きりなど今まで無かったのだ。

どうするべきか悩んだ後に勝己は引子が座っていた椅子に座る。先程まで引子が座っていた人の温かさを感じながら勝己は人工呼吸器を付けられながら眠る出久を見つめた。

 

自分と出久が小さい頃には一緒に寝たり、手を繋いで遊んでいた。昨晩見た、夢の中でもそうだった。何時からこんなにも離れてしまったのだろう。勝己は眠り続ける出久の顔を見てながらそんな事を思っていた。ふと、布団から出ている出久の右手に視線が移る。恐らく、引子が出久の手を握っていたのだろう。引子が先程まで座っていた椅子の位置との距離を考えれば、それが自然だった。

 

勝己は恐る恐る出久の右手に手を伸ばす。出したり引っ込めたりを数回繰り返してから勝己は出久の手を握った。

コイツの手、こんなに柔らかかったのか……と久し振りに握った出久の手の柔らかさに驚く勝己。そう言えば出久以外の女子と手を繋いだ事など無かったし、関係が険悪になってから出久と手を繋ぐ事も無かったと勝己は思う。そもそも自分の個性を知っていれば手を繋ごうなどと思うバカはいないだろう。

 

 

「………デク」

 

 

勝己は出久の手を握りながら、デクの渾名を呼ぶ。出久本人はそう呼ばれたくないだろうし、手を握られるのも嫌がるだろう。だが、今の勝己はそうしたかった。そうしなければならない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに勝己の行動を戻ってきた引子と出久の見舞いに来た光己が目撃し、勝己を温かい目で見ていた。物思いに更けていた勝己がそれに気付くのは十数分後の話である。

 

 




『緑谷出久(♀)』

そばかすを気にしている地味目の中学生。
長い髪をうなじの辺りで一本に纏めている。髪留め代わりに使っているバンダナはオールマイトデザインの限定品。
一人称は『僕』


無個性の少女。幼い頃からヒーローを夢見ていたが無個性である事に絶望する。しかし、夢を諦めずにヒーローを目指していたが幼馴染みの爆豪の手により、夢を否定され、心が折られる。屋上で泣いている最中、爆豪に言われた一言を切欠に屋上から飛び降りてしまう。

本来ならオールマイトに出会い、一時的にヒーローになる事を否定されるがヘドロに襲われた爆豪を助けに行く姿にオールマイトからヒーローの素質を見いだされ、個性『ワンフォーオール』を受け継ぎ、ヒーローを目指すのだが、この物語では爆豪に髪を爆破されたショックで学校の屋上で泣いていた為にオールマイトには出会わなかった。
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