「ゴルド先輩! 今日のクッキーの焼き加減、これで合ってますか!?」
「先輩! こっちのタルト生地、型に敷くの手伝ってください!」
一週間のTS魔法お試し期間が終了し、アシュレイ先生の魔法によって元の身体へと戻されたゴルド先輩。
2メートルを超える巨体、丸太のような腕、板チョコのごとき腹筋という、いつもの「超絶ムキムキマッチョ男子」の姿に戻った彼だったが……家庭科室の中は、かつて彼が夢にまで見た暖かく賑やかな笑顔で満ち溢れていた。
「おお! 生地の厚みが均一でバッチリだぞ! こっちは型から外す時に優しくな……そう、上手い上手い!」
三角巾とエプロンをキュッと結んだ巨大なマッチョが、繊細な手つきで後輩たちにパイ生地の伸ばし方を教えている。その目元は目尻が下がりっぱなしで、目好い優しさが溢れ出ていた。
◇
TS魔法で「美しくも可憐なマッスルお姉様」だった頃、後輩たちは知ったのだ。
あのイカつい外見の裏には、誰よりも繊細で、後輩思いで、お菓子作りを愛する「最高にピュアで優しい心」があるということを。
一度その内面の温かさに触れてしまえば、もう男に戻ろうが、体が巨大に戻ろうが関係なかった。
「最初は『歩く災害』とか思ってて本当にすみませんでした……! 男に戻ったゴルド先輩、めちゃくちゃ頼りになってカッコいいです!」
「力仕事は全部笑顔で手伝ってくれるし、教え方はめちゃくちゃ丁寧だし、作ったお菓子はプロ級だし……最高のお兄ちゃん(先輩)すぎる!!」
男に戻ったゴルド先輩は、恐怖の対象から一転して「頼れる圧倒的大黒柱」にして「最高のお菓子作り仲間」として、後輩たちから絶大な信頼と親しみを得ることになったのだ。
「うぅ……俺……俺、後輩たちと一緒にこんな風にお菓子が作れるなんて……夢みたいだ……っ!」
極太の腕で涙をぐしゃぐしゃと拭い、感極まるゴルド先輩。
そんな彼に、後輩女子たちが「泣かないでくださいよー!」とワチャワチャと群がり、後輩男子たちが「先輩! 筋トレとパウンドケーキのコツ、両方教えてください!」と目を輝かせる。
まさに家庭科室は、幸せに満ちあふれた平和そのものの空間だった。
◇
「……ハァ」
その平和な家庭科室の窓の外。
廊下の陰からその光景を眺めていたルークとレオンは、深い深いため息を吐いていた。
「……なぁ、レオン。ボブといいゴルド先輩といい、自ら志願してTS魔法を受けたやつら、男に戻った後の方が圧倒的に幸せになってないか?」
「なってるね。完全に『ギャップ萌え』と『内面の良さ』が周知されて、学校中の人気者になってるよ……」
一方、反省のためにお仕置きとしてTS魔法をかけられた自分たちはといえば——
「あ! 美少年コンビのルークくんとレオンくんだ!」
「二人ともー! 今日も儚くて可愛いね! 一緒に写真撮ろ!!」
「ルーク! 抱きつかせてくれーーー!!」
「「「きゃあああぁぁぁぁぁ逃げろーーーーーッッ!!!」」」
いまだに男女問わず「男だとか女だとかを超越した愛」の追手から逃げ回る日々が続いていた。
「ふふ、心根が素直な者は、どのような姿になろうとも人に愛されるものです」
背後からパッと扇子を広げて現れたアシュレイ先生が、妖しく微笑みながら逃げる二人を見送る。
「さて……次はどんな悪い子に、最高の『お仕置き(教育)』を施してあげましょうか……?」
アシュレイ先生の男とも女とも取れない美しい声が響く魔法学校では、今日も新たな噂とトキメキ(と悲鳴)が広がり続けていくのだった。