「……ちょっと待ってください、アシュレイ先生!」
学園一の美少年コンビへと変貌を遂げ、連日男女問わず凄まじい歓声(と愛の攻防戦)に追われていたルークとレオン。そんな二人が必死の思いで逃げ込んだ中庭で目撃したのは、信じがたい光景だった。
アシュレイ先生の前に正座させられているのは、一人の女子生徒。
普段から勝気な性格で知られ、魔法の実技訓練で対戦相手をやり過ぎなまでに叩きのめして問題になっていたクララだった。
「先生! まさか女性生徒にまで……!?」
「いくら先生でも、女の子にTS魔法(性転換)をかけるのは無理なんじゃ……」
駆け寄るルークとレオンの言葉に、アシュレイ先生は男とも女とも取れない美貌に妖しい笑みを浮かべた。
「無理? ふふ、私の魔法を甘く見てもらっては困りますね。……罪と罰は、男女平等に与えられるべきでしょう?」
アシュレイ先生が胸元から取り出したのは、これまで見たこともない濃紺の輝きを放つ魔法札だった。
「ひえっ……! 先生、冗談でしょ!? 私はただ、相手が弱すぎるからちょっと手加減を忘れただけで——」
「手加減を忘れ、相手に怪我を負わせたのは明らかな暴走です。元気があり余っているその身体……少し男の子の視点で反省してもらいましょう」
「や、やめてぇぇぇ……んっ!?」
アシュレイ先生が優雅に指を鳴らした瞬間、クララの身体が深い藍色の光に包まれた。
ゴツ、と骨格が鳴る音。
華奢だった肩幅がグッと広がり、凛とした声が一段と低く掠れていく。
光が収まったそこに立っていたのは——
「な……なにこれ……声が……声が低い!? 背も伸びてる……!?」
肩にかかっていた金髪は短く切り揃えられ、きりっとした眉とシャープなアゴラインを持つ、息を呑むほどの超絶爽やか系イケメン男装(TS)男子だった。
ブカブカになった女子制服の胸元からは、がっしりとした男の胸板が覗いている。
「うわあああ!? ホントに男になってるーーー!?」
ルークとレオンが叫ぶ。
「ええ……!? ウソでしょ……私、男になっちゃったの……!?」
自分の大きな手やゴツゴツした節々を検分し、青ざめる元・クララ。
だが、アシュレイ先生の「お仕置き」がこれで終わるはずがなかった。
「さて、制服がサイズ違いでは可哀想ですね。……ついでに、先ほど『過剰な力を見せつけた』お返しとして、衣装もチェンジしておきましょう」
パチンッ!
「えっ、ちょっと待っ——」
瞬時に光が弾け、クララの衣装が変化する。
現れたのは——胸元をはだけさせ、体にピッチリとフィットした露出度高めな『男装執事(ホスト風)スーツ』。
胸元には怪しい薔薇のコサージュ、そして腹筋のラインが薄っすらと浮かび上がるシースルーのシャツという、過激極まりない姿だった。
「な、なんだこの格好!? 恥ずかしすぎるだろ!!」
顔を真っ赤にして胸元を隠そうとする元・クララ。しかし、高身長のイケメンがその仕草をすると、無駄に色気がダダ漏れてしまう。
「ふふ、よくお似合いですよ。……では、さっそく全校生徒に『新しくなったクララくん』をお披露目しに行きましょうか」
「嫌だ! 頼むからやめてくれアシュレイ先生ぇぇぇ!!」
◇
数分後。大食堂の壇上。
「生徒の皆さん、ご注目ください!」
アシュレイ先生の声と共に、壇上に引っ張り出された執事風TSイケメン(元・クララ)。
『『『きゃああぁぁぁぁぁぁーーーーーッッ!!!!』』』
その瞬間、大食堂にいた女子生徒たちの黄色い悲鳴が、過去最高音量で天井を突き破った。
「誰あのイケメン!? ヤバい、ドタイプすぎるんだけど!!」
「執事服ズルい! 胸元ヤバい! 抱きつかれたい!!」
「クララちゃんが男になったの!? 嘘でしょ、男前すぎて恋に落ちる……!」
さらに、これまでクララに気圧されていた男子生徒たちまでもが——
「く、クララ……お前、男になっても格好いいじゃねえか……」
「なんか守られてる感がすごい……弟子にしてください兄貴!」
と、謎の憧れとトキメキを抱き始める始末。
「だ、誰も見るな! 向こうを向けー!」
真っ赤になって叫ぶクララ(男)だったが、低く響くイケメンボイスが拍車をかけ、女子たちの悲鳴は増すばかりだった。
壇下の隅でその光景を見ていたルークとレオンは、震えながら互いに肩を寄せ合った。
「……ねえ、ルーク」
「なんだ、レオン……」
「アシュレイ先生って、性別の壁すら簡単に踏みにじる悪魔だったんだね……」
「ああ……俺たち、二度とあの先生に逆らうのはやめよう……」
学園に新たなる「TSイケメン被害者」が誕生したその日、生徒たちの「校則遵守率」は過去最高値を記録したという。