「な、なに見てんのよ……! ジロジロ見んな!!」
大食堂の壇上で、真っ赤になった顔を背けるクララ(男)。
胸元をはだけさせた露出度の高いホスト風執事スーツをまとい、誰もが息を呑むほどの超絶爽やかイケメンへと変身を遂げたはずの彼女(彼)だったが——
その中身は、もともと「勝ち気で強がりな乙女」のままだった。
女子生徒たちからの熱烈すぎる黄色い悲鳴と、男子生徒たちからの熱い視線が一斉に突き刺さると、クララのキャパシティは一瞬で限界を迎えた。
強がろうと張ったイケメンボイスは上擦り、大きな体を縮こまらせて、涙目になりながら自分の腕で胸元を必死に隠そうとする。
「だ、だから……っ 寄らないでよぉ……っ! 恥ずかしいでしょぉ、バカ……!」
上目遣いに潤んだ瞳、ぎゅっと結ばれた薄い唇、そして格好いいイケメンの骨格から滲み出る圧倒的な「メス(乙女)」の隙。
その瞬間——大食堂全体を、恐ろしいほどの静寂が支配した。
「「「………………ッッッ!!!!」」」
その場にいた男女全員の脳内に、雷が落ちた。
(ギャップが……ッ! ギャップの破壊力が凄まじすぎる……!!)
これまで「高圧的で勝ち気な美少女」だったクララが、超絶イケメンの姿のまま、完全にお仕置きに怯える可憐なヒロインの表情を見せているのだ。
最初に限界を迎えたのは女子生徒たちだった。
「やばい……やばいやばいやばい!! 男の格好してあんな顔されたら……守りたくなるじゃん!!」
「イケメンなのに……攻められたいのに、逆に『可愛がって甘やかしたい』衝動が抑えられない……っ!」
「クララくん(ちゃん)……! 私が守ってあげるから! 照れないでこっち来て!!」
母性本能と歪んだトキメキを爆発させた女子たちが、目を血走らせて壇上へ迫っていく。
そして、悲劇(あるいは奇跡)は男子生徒たちにも起こった。
「く、クララ……お前、イケメンのくせに……なんでそんな……そんな可愛んだよ……!?」
「男の身体になった同性を可愛いと思うなんて俺の性がバグる……! でも……でもッ!!」
「守りたい……あのイケメンの涙を拭ってあげたい……!!」
男女の垣根、そして性別の壁すらも軽々と跳び越え、学校中の生徒たちが「クララの魅せるギャップ(メス)」の前に、完全なノックアウト状態へと陥っていく。
「ひやあぁぁぁ!? な、なに!? みんなの目が怖いんだけど! 助けてルーク! レオン!」
あまりの恐怖に、クララは自分と同じく被害者である(元・女子化の)美少年コンビ、ルークとレオンの背中にしがみついた。
高身長のイケメンが、小柄な美少年二人の後ろに縮こまって震えているという、狂おしいほど甘美でカオスな光景。
「「(頼むから俺たちを巻き込むなーーー!!)」」
青ざめるルークとレオンだったが、クララに縋られたことで彼らの「美少年度」も謎の相乗効果を発揮し、周囲の歓声はさらに一オクターブ跳ね上がった。
◇
「ふふ……『強気な者が魅せる隙』ほど、人を惑わせる毒薬はありませんね」
高みの見物とばかりに、アシュレイ先生は優雅に扇子を揺らしながら微笑んでいた。
「先生! たすけっ……助けてください! みんながおかしくなっちゃいました!」
涙目でお願いくるクララに対し、アシュレイ先生はそっとその顎に指を添えた。
「あら、拒むことはありませんよ。自分の中の『可憐さ』を素直に認めること……それもまた、立派な反省の第一歩です。さあ、一週間たっぷりその姿で、皆さんに愛されていらっしゃい」
アシュレイ先生がそっと背中を押すと、クララは壇上から男女の熱狂の渦へと押し出された。
「やだぁぁぁ! 触らないでぇぇぇ! 私(オレ)は男なんだぞ……いや、女だけど……もうどっちでもいいから誰か助けてぇぇぇぇ!!!」
イケメンの悲痛な乙女の悲鳴が大食堂に響き渡る中、魔法学校はさらなる混沌と「危険なトキメキ」の渦へと巻き込まれていくのだった。