「ふぅ……みなさん、ありがとうございました。でも、そろそろお腹が空いてきちゃいました」
TS魔法体験期間(および、二つの姿を切り替える大人気お試し期間)が終わり、アシュレイ先生の手によって元の身体へと戻されたボブ。
紫色の光が消え、いつもの丸っこくて柔らかい「ぽっちゃり男子」の姿に戻ると、ボブは自分のぽんぽんとしたお腹を撫でながら、のほほんと微笑んだ。
「あー、やっぱりいつもの身体が一番落ち着きますねぇ」
元々ルークやレオン、クララのように校則を破った罰ではなく、純粋な好奇心から魔法を受けたボブ。罰ゲームのような過激な衣装を着せられたわけでもなく、日頃から誰に対しても優しく穏やかだった彼は、そもそも学校中で誰からも嫌われていなかったのだ。
だからこそ——男に戻った後の展開は、ルークたちとはまた違った形で凄まじいことになった。
◇
放課後の大食堂。
元の姿に戻ったボブが、山盛りのチキンライスを美味しそうに頬張っていると、周囲のテーブルから熱い視線が注がれていた。
「……ねえ、ボブくん」
最初におそるおそる声をかけてきたのは、クラスの女子生徒たちだった。
「あのね、ボブくんが女の子だった時の『包容力ぽっちゃりモード』の時、すっごく優しくお話ししてくれたでしょ? ……男に戻っても、ボブくんの包容力って全然変わらないんだね」
「ううん、むしろ男子の姿の方が、なんだか包み込まれるような安心感がすごくて……その、抱きつきたくなっちゃうというか……っ」
女子たちが頬を赤らめてもじもじしていると、今度は男子生徒たちがドカドカと押し寄せてきた。
「おいボブ! 俺にも一口くれ! ……じゃなくて!」
「ボブ、お前が『ナイスバディモード』の時のあの素晴らしい肉体の神秘……俺は忘れられない! でも、男に戻ったお前も……なんだか愛おしくてたまらんのだ!」
「ボブ! 膝枕してくれ! お前のその柔らかい太ももなら、男同士とかどうでもよくなるんだよ!!」
「「「ボブ(くん)ーーーっ!!」」」
あっという間に、ボブの周囲は男女混合の「ボブファンクラブ」状態で埋め尽くされた。
「えへへ、みんな仲良しで嬉しいです。あ、クッキーならいっぱい焼いてきたので、みんなで分けましょうね」
争う生徒たちをなだめるように、ボブがニコニコと手作りクッキーを差し出すと、男女全員が「聖母(聖父)だ……!」「可愛すぎるだろ……ッ!」と一斉に胸を撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちた。
◇
「……なあ、レオン。世の中って不公平だと思わないか?」
「思う。めちゃくちゃ思うよ、ルーク……」
遠くの席で、相変わらず「学園一の美少年コンビ」として女子からも男子からもキャーキャー言われ、悲鳴を上げながら逃げ回っているルークとレオン。
二人が必死の思いで勝ち取った(?)モテ期が「羞恥と悲劇の産物」だったのに対し、ボブのモテ期は「純粋な愛と癒やしの平和な世界」だったのだ。
「ボブくんは、元々の人徳と素直さが素晴らしいですからね」
いつの間にかルークたちの背後に立っていたアシュレイ先生が、優雅に扇子を揺らしながら満足そうに頷いた。
「人を惹きつけるのは、魔法の力ではなくその者の『心』……。彼を見習って、二人ももう少し反省して優しくなると良いでしょう」
「「いや、俺たちはただ元の影薄い男子に戻りたいだけなんですけどーーー!!」」
美少年コンビの悲痛な叫びをよそに、ぽっちゃり男子に戻っても男女問わずみんなから愛され、お菓子を囲んでモテモテなボブの周りには、今日も温かく平和な笑顔(と若干の狂気)が溢れているのだった。