ゴムゴムのォ〜、ヒロアカ! 作:ゴムゴムゴムゴムゴムゴムのォ〜!!!!!
ヒロアカに転生した。
"個性"が発現して、ゴム人間になった。
「あ〜、これはハズレだな?」
がっくしと声に出して言いながら肩を落とす。
コロリとベッドに寝転がって、頭を抱えながらゴロゴロと転がりまくる。
にわかオタクとはいえ少年を心に飼う者として、必修科目であるONE PIECEは履修済みだ。
ゴム人間が鍛え上げれば強くなれる可能性を秘めていることは勿論知っている。
だが、それには極限の努力が前提条件にあるのだ。
見た目には分かりづらいが、"個性:ゴム"は異形系の"個性"だった。
皮膚、筋肉、骨、内臓、血管など、人体の全てがゴムの性質に置き換えられている。
頬や腕を引っ張られたらビヨーンと人間の可動域を遥かに超えて伸びる伸縮性、伸びた身体が元に戻ろうとする張力性、ボールでも投げ当てればボヨンと跳ね返る弾力性、電気を通さない絶縁性がある。
これだけ羅列すれば便利そうに見えるが、残念ながらそう簡単な話でもないのだ。
まず、現在のオレはピッチピチの四歳児。
当然筋肉なんて最低限しか付いてなくて、少しでも気を抜くとオレの身体はグデングデンの、グニョングニョンになってしまう。
だって、骨まで全部ゴムなんだもの。
荒ぶる鷹のポーズでもしようものなら、肘関節や膝関節が通常曲がる方とは逆の本来曲がらない方向に折れ曲がるショッキングな光景が起こり得る。
実際"個性"が発現したと判明した時、マイマザーがオレの手を軽く引っ張ったのに合わせてビヨヨーンと伸びた瞬間の衝撃は忘れられない。
いや、マイマザー迫真の絶叫の方が記憶に焼き付いてるわ。*1
それはさておき。
どれだけの力を籠めて拳を振れば"ゴムゴムの銃(ピストル)"になるのか。
凡人のオレには皆目見当もつかない。
ルフィのゴムの身体を活かす独創的な発想力も確かに特筆すべきものだが、それも自分が思い描いた技を実現する超人的な身体能力があるからこそ可能になることだ。
それを可能とするまでに必要としたトレーニングは如何程だろうか。
恐らく、常人ならば発狂するほど過酷な、人体改造にも等しいものだったに違いない。
とはいえ、ルフィがした修行をすればオレも同じ強さを得られるかと言えばそんなことはない。
あのやり方はONE PIECEだから意味があった。
同じジャンプ作品であっても、ジャングルで一ヶ月サバイバルしたからといって劇的に強くなるとは限らないのだ。
"個性"によって部分的に凄まじく発展した科学や医学的なアプローチ、ヒーローを育成するにあたって培われてきた効率的なトレーニング理論を基に身体作りを行うのが強くなるための近道だろう。
更に現役プロヒーローであるマイファーザーとマイマザーに監督してもらえれば、中身平凡な一般人のオレでもルフィという到達点に近づける可能性はある。
実際に可能かどうかは、オレの頑張り次第だな。
「よぉ〜しっ、思い立ったが吉日って言うもんな! 父ちゃんと母ちゃんに鍛えてもらわねえと!」
奇しくもトレーニングに使える期間はルフィと同じく十年間といったところ。
だが、オレは到達点を知っている。
技を一から考える必要もなく、明確なイメージがある。
ルフィと比べれば遥かに恵まれた環境だろう。
そして、折角ヒロアカに転生したなら進路は雄英一択だ。
受験勉強も疎かに出来ないけど、目標は高校入学までに"ギア2(セカンド)"と"ギア3(サード)"を習得する。
最終的に"個性"の"覚醒"を経て"ギア5(フィフス)"に至ろうと言うのならば、それくらいはやってみせないとな。
しかし、足をポンプ代わりにするって、どんな筋肉の使い方をすれば出来るんだろうか?
まあ、未来のオレが何とかしてくれると信じよう。
◆◇◆
あれから十年の月日が流れた。
本日は国立雄英高等学校の実技科目試験の当日だ。
"個性"が"ゴム"であると分かってから、オレは時に泣き言を言いながらも厳しいトレーニングを重ね続けてきた。
何度となく弱音と共に血を吐いても、自分が決めた道から逃げ出すことだけは決してしなかった。
鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛えまくった青春時代。
ルフィという目標を胸に、オレは強くなった。
もろちろん勉学にも励んだ結果、先日行われた筆記科目試験でも手応えはあった。
ケアレスミスなどがあっても平均80点以上は確実だ。
前世と色々異なるため苦手科目になってしまった歴史だって、七割は超えているだろう。
あとは実技で高得点を出せば合格も夢ではない。
それもこれも、オレと夢を同じくして研鑽に励んでくれた得難い友人の存在があってこそである。
時に血と共に汗を流し、時にナンパをするため街に繰り出し、時に互いを監視することで勉強地獄を生み出し、時にナンパしては、時に必殺技を考えたりと、青春の一ページの中には必ず奴がいた。
そんなオレの親友にしてライバル、上鳴電気との出会いは小学生の頃だった。
あの頃の電気は、"帯電"という強力な"個性"を発現したことで極めて調子にノッていた。
ノりにノッて、めちゃくちゃ「ウェ〜イ」してた時期だ。
敢えて言うまでもないが、黒歴史である。
死ぬまで弄り続けるつもりなので、覚悟して欲しい。
「ウェイ!? な、なんか寒気が……?」
「風邪でも引いたか〜? オレだけ雄英に合格しても、電気のことは忘れねえからな!」
「やめろよ縁起でもない! 多分あれだよ、この前ナンパした子がオレの噂でもしてるんだよ。そうに違いねえ!」
「へぇ〜、おめでとう」
「心にも思ってねえこと言うな! せめて、もう少し興味持ってくれてもいいだろ!?」
鼻でもほじり始めそうなほど興味がない顔をしていたのだろう。
電気がちょっと涙目になりながら、元気に騒ぐ。
そんなこと言われても、電気の良さが分からない奴の話なんてマジでどうでもいいからな〜。
初対面だとチャラさが目に付くから仕方ないけどさ。
「ちぇっ、彼女がいる奴は余裕があって羨ましいなぁ〜」
「そりゃもう、オレが一番アイツを幸せに出来る自信があるからな!」
「あ〜〜〜っ、今のは藪をついた俺が悪かったけど、頼むから惚気はやめてくれぇ〜!! 独り身に限界イチャイチャカップルの惚気は致命傷なんだよ!」
またも騒いでいる電気だが、言葉とは裏腹に楽しそうだった。
それもそのはず、オレの彼女は電気にとっても仲の良い友人であり、一つ歳が上ではあるが気安い関係なのだ。
彼女と出会ったのは電気と仲良くなった後で、同じく小学生の頃だった。
語るも涙、聞くも涙な話があるのだが、詳しい話はまたの機会に。
「……あのさ! そこの二人、ちょっといいかな?」
そうして受験者らしからぬ和気藹々とした雰囲気で歩いていたからだろうか。
突然背後から二人に話しかけてくる声があった。
同時に振り返れば、耳たぶがイヤホンジャックになっている少女が興味深げにオレ達を見ていた。
「急に割って入ってごめん。アンタ等が楽しそうだったから、つい声掛けちゃった」
「いいよ、気にすんなって! 確かにちょっと驚いたけど、女子ならいつでも大歓迎だからな!」
「あっ、そういうのは別に要らない」
「……アッハイ」
「ニッシッシ! 一瞬で振られてやんの! 過去最速じゃねえか?」
「うるせえ! まだ振られてねえよこの野郎ォ!!」
「ぷっ! あははははっ!」
いつも通りのやり取りをすれば、少女は声をあげて笑った。
クールっぽい外見を裏切る気持ちの良い笑い方だった。
それに、敢えて道化を演じた電気を馬鹿にするような感じではなく、心底から楽しそうなのが個人的に好印象。
改めて、露骨になり過ぎないよう少女を観察する。
どこかの中学校の制服だろうか。
シンプルなデザインのセーラー服を綺麗に着こなした、小柄でスレンダーな整った容姿の少女だった。
髪はショートボブで、三白眼がチャームポイントだ。
そして、何より特徴的なのはやはり耳たぶがイヤホンジャックになっていることで、これはそのまま彼女の"個性"が"イヤホンジャック"であるためだ。
そう、オレは彼女を知っている。
何故ならば彼女は原作主人公が所属するヒーロー科1年A組の生徒であり、同じく1年A組に所属する上鳴電気との間で、ファンが度々カップリングを意識していた人物。*2
"イヤホンジャック"を用いた音波攻撃を得意とし、プラグを直接挿されてしまえば最後、体内に直接衝撃波を叩き込まれる。
ラスボス相手にも一矢報いてみせた実力派、ロックンロール魂を胸に秘めたクールに熱血な女傑。
「ハァー、笑った! アンタ等見てると、柄にもなく緊張してたのが馬鹿らしくなってくるわ」
「俺達の漫才が受けたんなら本望だぜ……。ところで、そろそろ名前聞いてもいい? ちなみに俺は上鳴電気! そんでコイツが────」
「ご紹介に預かりまして、電気の相方こと
「そっちが上鳴、こっちが長手な。ウチは耳郎響香。受験生同士、これも何かの縁ってことで、よろしく」
そうして、オレ達は
数奇な運命の末に、二度目の生を得た少年、長手仁賀。
唯一無二の親友、最愛の恋人、愛する家族や友人達に囲まれた新たな人生は苦難と希望に満ちていて。
そんな愉快痛快、波瀾万丈な英雄物語は、ここから始まった。
多分続かない