何で書いたのかもわからんですが、適当に読み流していただければと思います。
また、一本目と同じように相当淡白で殺伐とした話になります。
不意打ちのお天気雨の所為で、雨宿りをする羽目になるとは思っても見なかった。
日はすでに傾いている。
そこは交差点だった。
夕日が
――バァン、漫画ででてくるようなあっけのない音はまだ、僕の耳の中で反響している。
目の前で人が死ぬっていう光景は、案外心に突き刺さるものだ。
それが知らない人であっても、知っている人であっても、平々凡々な“その他大勢”と分類されるような僕みたいな人間にとって、それはそれは大層、心を抉るということに変わりはない。
さくりと、結果だけを言うならば。人がまぁまぁ多い交差点で、少しスピードに乗ったトラックが、小走りしていた一人の人間にぶつかった。
そんな程度のことだった。
月並みな表現だが、それはミンチ。
これまたどこかで聞いたことがある言葉だが、先ほどまで人間だったはずのものが、一瞬で人間ではない何かになった。
はてさて、そうなった人間? は、死ぬ間際にいったい何を思うのだろうか。
『ぐはぁ』だとか『な、なんじゃこりゃぁ』だったり、そういうことを考えるのだろうか?
それとも、何も思う間もなくミンチになってしまうのだろうか。
そんな目にあったことはない僕には、わかるはずも無い。
ではどうするか。
やってみよう――阿呆か。そんな馬鹿なことをやってたまるか。
死んだ人間はどうなる?
人の形を保っていたのなら、棺桶に収められるとか骨を燃やされるとかなんとか、そういうことになるだろう。
じゃあ、ミンチはどうする? あんなものはもう、人とは呼べない。
なんと呼ぼうか? 肉塊――なるほど、ずばり。その表現がピタリと嵌るな。
案外、精肉店に並べられるソーセージは……はは、この考えは忘れよう。吐き気がしてきたじゃあないか、くそったれ。
――と、この間数十秒。
自分はおかしくなってしまったのかと、割と真面目にそう思った。
あ、そうだ。ふと思い出す。
隣には自分の友人がいたんだと、思い出した僕はその友人の方を向く。
そして僕は、もう一度自分がおかしくなってしまったのかと――今度は更に、真剣に、そう思った。
友人――女の子だ――彼女は、笑っていた。酷く愉快そうに、腹を抱えて笑っていた。
彼女の笑った顔を見たのは初めてだ。5年以上の付き合いがあって、初めて。
そんな他愛のないことを考えてしまうくらいに、僕は混乱していた。――いや、目を背けていたの間違いか。
目の前で人が死ぬと言う光景は、心にグサリとくる。
少なくとも、僕の心には。
彼女はそうでなかったのだろうか?
いや、或いは僕とは違った意味でグサリときたのかもしれない。
正直、彼女に声を掛けるのは躊躇われた。どう声を掛ければいいのかわからなくて――あ、いや、これは目を背けるための方便で、卑怯な言い訳だ。
恐かった。恐ろしかった。目の前の彼女はとてもとても、正常のものとは思えなかったから。だから、声を掛けることが出来ない。
同じ場所に遭遇したほかの人々も、
救急車のサイレンの音が聞こえてくる。
誰かが通報したんだろう。
ばかだなぁ、もう助からないのに。そんなことさえ考えてしまう。
あまりにも荒唐無稽で不可解なこの景色が、行きかう人も僕も彼女もミンチも太陽も全部全部ひっくるめて、それはもう、漫画みたいだった。
やがてサイレンの音がはっきりと聞こえるくらいに近くなる。
僕がそう思うのと一緒に彼女の笑い声が止まった。
彼女は立ち上がり、僕の手を握ってきた。
彼女は笑顔だった。
さっきまでのおかしな笑顔ではなく、嬉しそうな楽しそうな、晴れやかな笑顔で。
夕日みたいに耀いて、とても綺麗だった。
ビルの谷間から覗くオレンジ色の日の光が、物語の主役を耀かせるスポットライトみたいにパッと僕と彼女を照らした。
「一緒に行こう?」
彼女が言う。
僕にはまるで、その意味がわからなかった。
だから僕は聞くのだ、彼女の真意を問う為に。
「どこに?」
「いいところ」
スポットライトは、今度は救急車を照らした。
道を遮るものの無い救急車は、ある程度以上のスピードは出していた。
でも、その“ある程度のスピード”は僕たちか弱い人間には少しばかり多すぎるくらいのエネルギーを持っているんだから、笑えない。
「いこっ」
彼女は無理やりに僕の手を引っ張った。
仕方が無いから、僕は抵抗しないで彼女の為すがままに引っ張られていく。
また、僕たちにスポットライトが当たる。でも、今度は救急車にもあたったままだった。
タッタッタ、僕らは走る。
救急車が近づいてくる。
――人は死ぬ間際に何を思う?
僕は……はは、は。
困ったな。なにか、考えておけばよかった。
それじゃあ彼女は何を思っているんだろう。
人を巻き込んだんだから何かは考えていて欲しいものだけど、僕には予想もつかない。
案外、彼女もなにも考えてなかったりして。……はは。
彼女の方を見てみる。なんだ、彼女はまだ笑っていた。
なにがうれしいのか僕にはわからないけれど、彼女がとても楽しそうだったので、まぁいいかと、僕はそう思った。
バァン、僕の耳にはまた漫画みたいな効果音が反響する。
夕日はビルの陰に消えていた。
◇
消毒液のツンとしたにおいで目が覚める。
天井は真っ白だ、壁も白くてどうにも落ち着かない。
ふと窓の方を見ると、外は雨が降っていた。――だけど、夕日は顔を出していた。
……お天気雨はじきに止む。
だけどきっと、その頃には夕日も落ちているだろう。
ふと隣のベッドを見てみると、そこにはぶっきらぼうな顔で僕を睨む彼女がいた。
そんな彼女に苦笑で返して、僕はまた目を閉じる。
雨はもう、止んでいた。
トラックにはねられた人は異世界に転生した可能性が微レ存……?
ないわぁ