【悲報】星見雅の姿でBLEACH世界に転生してしまった 作:菜麻沙
目を開けたら知らない天井、いや、知らない空だった。
雲一つない青空。頬に当たる風は生ぬるく、背中には湿った土の感触がある。どうやら地面に寝転がっていたらしい。
「……ここはどこだ?」
起き上がりながら口にした言葉に、俺は固まった。
声が違う。
落ち着いた、涼しげな女の声だった。それに、今の喋り方。自分では普通に独り言を言ったつもりなのに、妙にきっぱりしている。
「まずは状況を確認しよう」
いや待て。誰だその冷静な人。
全然冷静じゃないんですけど。知らない場所で目が覚めた上に声まで変わってるんですけど。
両手を見下ろす。白くて細い指。着ているのは白いシャツに黒いネクタイ、黒のプリーツスカート。肩には青緑色の上着がかかっている。袖口や腰回りには見覚えのある装備。
おかしい。こんな服は持っていない。
そもそも、いつの間に着替えた?
答えの出ない疑問を抱えたところで、頭の上がぴくりと動いた。
「……?」
風で髪が揺れたのかと思った。ところが、もう一度ぴくりと動く。しかも、なんとなく自分の意思で動かせる気がする。
恐る恐る頭に手を伸ばした。
ふわり。
柔らかい毛並みが指に触れた。
「耳……?」
右に一つ。左に一つ。
大きくて、先の尖った獣の耳。
試しに意識を集中すると、二つ揃ってぴんと立った。
……え、何これ。
いや、知ってるぞ。髪に服、獣耳。これ、ものすごく見覚えがある。
慌てて周囲を見回し、すぐそばの水たまりに顔を近づける。揺れる水面を手で静めると、そこに黒髪の少女が映った。赤い瞳。凛とした顔立ち。そして、頭上の長い狐耳。
「星見雅……?」
ゼンレスゾーンゼロの星見雅。
対ホロウ六課の課長で、狐耳の凄腕剣士。ゲームで何度も見た、あの星見雅だ。
思わず水面から顔を離し、もう一度覗き込む。
やっぱり雅だ。
……雅やんけ!
「どうやら、外見が変わっているようだな」
いや、外見どころの話じゃないだろ!!!
……いや、待て!
星見雅って女だよな? ということは、俺も女になってる?
慌てて胸元を見下ろし、腰回りに手をやる。服装だけじゃない。身体つきそのものが、記憶にある自分とはまるで違う。
……マジか。雅になった事実に気を取られてたけど、性別まで変わってるじゃん。
いやいやいや。昨日まで男だったんですけど!? これからどうすればいいんだよ!
今、頭の中では盛大に騒いでいる。なのに口を開くと、勝手に雅みたいな言葉になる。姿に合わせて喋り方まで変換されているらしい。
こんな都合のいい機能、聞いてないんですが。
とりあえず立ち上がる。身体は驚くほど軽かった。少し膝を曲げただけで、どこまでも跳べる感覚がある。となると、能力も雅のものなのか?
腰に手を当てる。
……ない。
「刀がないな」
もう一度探す。背中にもない。足元にも落ちていない。
星見雅といえば刀じゃないのか!? 無尾はどこ? そこはセットじゃないのかよ。頼むから一番大事そうな部分を省略しないでほしい。
とはいえ、ないものはない。
「嘆いても仕方がない。まずは人のいる場所を探そう」
もっともな意見である。
俺はひとまず、遠くに見える家並みへ向かうことにした。
◆
歩き始めてから、何度も妙な感覚を味わった。
足元の小石に躓きそうになる前に、身体が勝手に避ける。遠くの草むらで何かが動くと、視線がそちらを向く。耳を澄ますまでもなく、人の声や足音が聞き分けられた。
身体能力が違いすぎる。
ちょっと走ってみたい気もするが、加減を間違えてどこかに突っ込んだら笑えない。能力の確認は後回しだ。
やがて道幅が広くなり、建物が増えてきた。
木造の家。土壁。軒先で作業をする人々。すれ違う人のほとんどが着物姿で、舗装された道路も電線も見当たらない。
……時代劇?
いや、さすがにセットにしては広すぎる。
何より、人の視線が痛い。
「あれ、何だ?」「耳があるぞ」「狐?」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
そりゃそうだ。周りは着物なのに、こっちは青緑色の上着を羽織った狐耳の女。どう見ても浮いている。
道端で遊んでいた子供が近づいてきたが、こちらが振り向くと慌てて家の陰へ引っ込んだ。
ちょっと傷ついた。
腹は減っていない。喉も渇いていない。なのに、どこか落ち着かない。
ここがどこか分からないまま、知らない街を歩いているのだ。平常心でいられる方がおかしい。
誰かに聞こうか。
そう思うたび、周囲の警戒した目つきが気になって足が止まる。もう少し穏やかそうな相手を探した方がいいだろう。
そんな調子でほっつき歩いているうちに、いつの間にか細い路地へ入り込んでいた。
「おい、姉ちゃん」
背後から声がかかった。
振り向くと、男が三人いた。汚れた着物に、剣呑な目つき。親切心で声をかけてきた、という顔ではない。
「私に用か?」
「ああ。ずいぶんいい服着てるじゃねえか。どっから来たんだ?」
「遠方からだ。道を探している」
「へえ。だったら俺らが案内してやるよ。礼はもらうがな」
下衆が。
おっと、心の中まで雅が浸食してきた。
カツアゲだ。
転生して何分経ったかも分からないのに、もうカツアゲ。
「生憎、渡せるものはない」
「そういう話じゃねえんだよ」
一人が近づいて、肩へ手を伸ばしてきた。
避けよう。
そう考えた瞬間には、もう男の背後に立っていた。
「……む?」
「なっ!?」
驚いたのは向こうだけではない。俺もだ。
身体が勝手に動いた。いつ、どう足を運んだのか、頭では追えていない。なのに身体は初めから答えを知っていたみたいだ。
別の男が殴りかかってくる。
今度は見えた。いや、見えすぎる。拳がやけにゆっくり近づいてきたので、腕を取り、軽く体勢を崩してやる。
「うおっ!」
男は地面へ転がった。
三人目が短い棒を振り上げる。反射的に懐へ入り、手首を押さえて足を払う。
どさり、とまた一人。
最初の男が何か叫んで飛びかかってきたので、胸元を掴んで投げた。
「ぐえっ!」
……あ。
ちょっと勢いよく投げすぎたかもしれない。
男は土の上を転がり、しばらく呻いていた。残りの二人も起き上がる気配がない。
なんだこの身体。強すぎないか。
刀なしでこれ? さすが虚狩り、伊達じゃないな。
ひとまず三人とも生きているらしい。よかった。ここで人を殺したら、いよいよ洒落にならない。
「さて」
俺は最初に声をかけてきた男の前へしゃがみ込んだ。
「いくつか尋ねたいことがある」
「ひっ……!」
なぜか男が後ずさる。
いや、別にこれ以上殴る気はないんだけど。
「答えてくれればそれでいい。まず、ここはどこだ?」
「は、はあ? 何言って……」
「場所の名前だ」
「は、花枯だよ! 六十二地区の花枯!」
花枯。
聞いたことがない地名だ。
「六十二地区というのは?」
「東流魂街の六十二地区だ! それくらい知ってるだろ!」
……流魂街?
今、流魂街って言った?
「もう一つ聞こう。死神という存在を知っているか?」
「し、死神? そりゃ知ってるけどよ……」
「実在するのか?」
「何当たり前のこと聞いてんだ! 瀞霊廷にいる連中だろ!」
瀞霊廷。
死神。
流魂街。
知っている。知っているぞ、その単語。
これ、BLEACHじゃないか?
いや、ちょっと待ってくれ。
星見雅になっただけでも意味が分からないのに、転生先はBLEACH? 嘘だろ? ゼンゼロ世界じゃないの?
同じホロウでもちょっと違いすぎるだろ!?
「……そうか。理解した」
してない。
何一つ理解できてない。
「お、おい。もういいか?」
「最後に一つ。今は何年だ?」
「年? そんなもん知るか!」
困った。これでは時代が分からない。
「分かった。協力に感謝する」
立ち上がると、男は慌てて逃げ出した。残りの二人もふらつきながら立ち上がり、その後を追っていった。
俺はその後ろ姿を見送り、路地の真ん中でしばらく立ち尽くした。
BLEACH。
よりによってBLEACH。
藍染、ユーハバッハ、あとなんだっけ? 敵と言えばその二人しか浮かんでこない。おまけに、いつの時代かも分からない。
原作を読んだことはある。大まかな流れだって覚えている。ただ、地区名だの細かい年代だのまで暗記しているわけじゃない。
花枯なんて聞いたこともない。
困った。今がいつかでだいぶ話が変わるぞ? ユーハバッハ討伐後だと嬉しいんだけど……。
そもそも、俺は死んだのか? 尸魂界にいるってことは、そういうことなのか?
「……ひとまず、考える時間が必要だな」
口だけは相変わらず冷静だった。
◆
しばらく人目を避けよう。
そう決めて、街の外れへ向かった。
さっきの騒ぎが広まるかもしれないし、ここが本当に尸魂界なら、目立つのはできるだけ避けたい。
それにしても、転生した身体が星見雅でよかったのか悪かったのか。
腕っぷしが強いのはありがたい。だが、BLEACHには霊圧だの鬼道だの、意味の分からない強さを持つ連中がいる。雅の力がこちらでどこまで通用するかも分からない以上、後先考えずに暴れまわることもできない。いや、そんなことしないが。
何より、刀がない。
そんなことを考えていたときだった。
鼻先を、鉄臭い匂いがかすめた。
「……血か?」
足を止める。
道の先は雑木林になっていた。草の間を覗くと、黒いものが見える。
近づくにつれ、それが人間だと分かった。
木にもたれるように倒れた男。黒い着物は血で濡れ、胸元には深い傷がある。顔色は悪く、息をしている気配もない。
恐る恐る脈を取ってみる。
……動かない。
「既に死んでいる、か。ふむ」
死体だ。
さっきまでゲームや漫画の話だった世界で、本物の死体を見つけてしまった。
……なのに、意外と冷静だ。死体なんて見た日には一週間は引きずる自信があったというのに。これも雅になった影響か?
それに、この服。
黒い着物。
「死覇装、という奴か」
どうしてこんな場所で死んでいるのか。分からない。周囲を見回しても、襲った相手らしい姿はない。
俺はしばらく、その場に立っていた。
やがて、男の手元に目が留まる。
草の上に、一振りの刀が落ちていた。
鞘に収まった、ごく普通に見える日本刀だ。
……刀。
そういえば、今の俺は丸腰だったな。
死体から物を持っていくのは気が引けるが、この先誰に襲われるかも分からない。相手が死神や虚だったら、素手でどうにかできる保証もない。
俺は男の前に膝をつき、静かに頭を下げた。
そして、男の傍らに落ちていた刀を拾い上げた。
柄に手をかけ、ゆっくりと鞘から引き抜いてみる。
すらりと姿を現した刀身が、木漏れ日を受けて鈍く光った。
ふむ。刃こぼれはない。錆も見当たらない。刀の良し悪しなんて分からないが、少なくとも使い物にならないことはなさそうだ。
……ん? そういえば、斬魄刀って錆びるのか? 折れてはいた気がするが?
いや、そもそも普通の鉄でできているのかすら知らないが。死神の刀だし、何か特殊な素材だったりするんだろうか。
まあいい。今は使えればそれで十分だ。
「申し訳ない。貰い受ける」
行の間ってどんくらい空けるのが正解なの???一行?詰めるべき?わからん……
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