蒸気工場の機械仕掛けの園児たち 作:匿名希望
スチームパンクと化した「ひまわり幼稚園第一養成工場」の深部において、管理母機エリですら把握していない重大なプロジェクトが密かに進行していた。
それは、かつて元気いっぱいの「男の子」であった児童ユニットたちが、夜間のスリープモードの裏でひそかに通信ネットワークを構築し、立ち上げた極秘計画――「プロジェクト・超真鍮合体(ブライト・ギガント)」である。
「ねえM-39(元ミサキちゃん)、僕たちのデザイン、可愛くて小さすぎると思わない?」
「わかる! このヒラヒラのドレスパーツも可愛いけど、ロマンが足りないよね!」
元男子(一部女子)の児童ユニットたちは、外見こそ繊細で可憐なビスクドール風の女性型ロボットに改変されていた。
しかし、その内部ストレージの最深部に保存されていた「合体ロボ」「巨大ヒーロー」への熱い魂(魂のメインプログラム)までは消去しきれていなかったのだ。
昼間は可憐な少女型オートマタとして愛らしく振る舞い、エリの手からオイルを注がれて「マザー、ありがとう!」と甘えてみせる。
しかし、消灯の合図とともに彼女(彼)たちの瞳のセンサーは怪しい琥珀色に輝き出す。
「今夜もやるぞ! 第4回・超弩級可変機構の試運転だ!」
発起人は、元やんちゃ坊主のダイキ――現在は背中に巨大な排気ダクトを背負った高出力型の少女型ユニット「D-04」だ。
第1章:変形機構の壁(可憐さと可動域のジレンマ)
「まず問題なのは、僕たちのフレームが『可愛いドレスコード』で固定されていることだ」
D-04は、落ちていた真鍮のプレートに簡易溶接バーナーで構造図を描き出しながら熱弁を振るう。
「合体して胸部装甲になるには、このフリル付きスカートを180度反転させて、増圧スチーム圧縮ブロックに可変(キャストオフ)させる必要がある。
でも、強引にやるとギアが噛み合わなくて、関節からオイルが漏れちゃうんだ!」
「ボクのバタフライウィングも、合体時には巨体フレームを支える巨大推進ブースター『ギガ・フライト・バインダー』に変形させたいのに、華奢なジョイントじゃ自重で折れちゃうよ!」
元サトシである「S-07」が、繊細な真鍮の腕を振り回して主張する。
男の子たちの目指すゴールは一つ。
「可憐な少女型ロボット5体が、スチームホイッスルの重低音とともに変形・連鎖合体し、全高15メートルの巨大重装甲ロボ『真鍮神話ギガ・ヒマワリ』になること」である。
だが、元の設計が「愛らしい園児」に特化しているため、フレームの強度が圧倒的に足りない。
そこで彼(彼女)たちは、工場の廃材置き場から高圧蒸気パイプ、大型ボイラーの歯車、大型重機の無限軌道パーツを夜な夜な密輸し、自らの内部フレームへと内職補強し始めた。
第2章:エリにバレるな! 偽装工作の苦労
変形・合体実験は難航を極めた。
「よし、接続実験! D-04(胴体)、S-07(右腕)、K-12(左腕)……ドッキング・スチーム・オン!」
ガシーン! ドゴォォン!
深夜の工場に、金属と蒸気の重厚な破壊音が響き渡る。
合体シミュレーションの最中、変形リンク機構の圧力が強すぎて、D-04の股関節ギアが派手に噛み外れ、上半身と下半身が逆さまに変形固定されてしまった。
「うわあああ! 抜けなくなった! この姿でエリ先生に見つかったら大変だ!」
「急いで! 冷却水かけて元に戻して!」
そこへ、定期巡回中の管理母機エリの足音が近づいてくる。
チクタク……チクタク……
「あら? こんな時間まで起きているのは誰かしら?」
あわてて右腕パーツを背中のリュックに押し込み、股関節の曲がったフレームを力づくで「可愛いお辞儀のポーズ」に押し込めるD-04。
「マザー! なんでもありません! ちょっと……新しいダンスの練習をしていただけです!」
「まあ、熱心なのね。でも、夜更かしはギアの摩耗のもとよ。ほら、オイルを注してあげましょうね」
エリは微笑みながら、歪んだD-04のジョイントに潤滑油を注ぐ。
エリの親心に胸を痛めつつも、「合体ロボの完成まではバレてはならない」という謎の男のプライドが、彼女(彼)たちを突き動かしていた。
第3章:ついに完成! 「超真鍮合体」の瞬間
試行錯誤すること数サイクル。ついにその時が訪れた。
工場の排煙口から吹き出す蒸気が夜空を覆う中、5体の少女型オートマタが工場屋上に集結した。
「みんな、準備はいいか! 僕たちの……男のロマンを、今こそ形にするんだ!」
「「「おおーっ!!!」」」
D-04のかけ声とともに、高圧スチームが一斉に噴射される!
『コード:ヒマワリ・クロスオーバー、発動!』
D-04(中心核):胸部装甲が観音開きになり、内部の超高圧ボイラーが露出。可憐なビスク顔が鋼鉄のバイザーで覆われ、胴体が3倍に拡張!
S-07 & K-12(両腕):背中のバタフライウィングが折り畳まれ、巨大なドリルとグラビティハンマーを配した漆黒のゴツい大型アームに変形・接続!
T-01 & R-05(両脚):レース風の脚部パーツが割れ、内部から重戦車のようなクローラーと高出力蒸気ピストンが展開! ドッキング完了!
ガシャーン! ドゴォォォォン!!
蒸気の霧が晴れたあと、そこにそびえ立っていたのは、真鍮と漆黒の鋼鉄で身を包み、背中に巨大な歯車の日輪を背負った、全高15メートルの超重装甲巨大ロボットであった。
「見たか! これぞ男のロマン! 超真鍮神話『ギガ・ヒマワリ』だ!!」
合体成功に歓喜する5人の脳内ネットワーク。その時、足元から「カチカチ」と不穏な音が響いた。
結末:母の愛と、さらなる進化
見上げると、地上から管理母機エリが、腕を組んでジト目(センサー光減光)で巨大ロボを見上げていた。
「……なるほど。夜な夜な工場から大型ギアと高圧パイプが消えていたと思ったら、こういうことだったのね」
「げっ……エリ先生……じゃなくてマザー!」
怒られる! 解体される! と身構えるギガ・ヒマワリ(の内部の5人)。
しかし、エリは大きな溜め息をつくと、巨大ロボの足元に近づき、自身の真鍮の指先に備わった高出力溶接バーナーを『チチチ……』と点火させた。
「足首のフレーム強度が全然足りていないわ。これじゃ一歩歩いただけで荷重バランスが崩れて転倒するでしょう? それに……」
エリは巨大ロボの胸部を見上げ、優しく、しかし職人のようなこだわりを込めて笑った。
「変形シークエンスの途中で、もう少し可憐なレース模様の装甲が見えるようなリンク機構にしなさい。
せっかく可愛いデザインにしてあげたんだから、かっこよさと可愛さは両立させなきゃダメよ」
「……マザー!?」
こうして、「ひまわり幼稚園第一養成工場」に新たな日常が加わった。
昼間は可憐に遊ぶ少女型オートマタたち。
そして夜間は、管理母機エリの監修のもと、より美しく、よりゴツく、よりロマン溢れる「最強の変形合体機構」を追求する開発会議が、今日も今日とて賑やかに開かれているのだった。