蒸気工場の機械仕掛けの園児たち 作:匿名希望
「ひまわり幼稚園第一養成工場」で開催された伝説の「超真鍮合体ギガ・ヒマワリ」お披露目会。
そこで炸裂した、機能美を完全に無視した過剰なまでの「漢の浪漫」は、防護壁の向こうにいた外界の人間たちの常識を根底からひっくり返した。
そして――この日を境に、鉛色の蒸気街(スチームパンク・ワールド)を揺るがす空前の「浪漫ブーム」が巻き起こることになる。
ガルドをはじめとする見物客たちは、帰りの道中、興奮のあまり我を忘れていた。
「お前見たか!? あの二段変形時に無駄に展開するフリル装甲を! あれをうちの蒸気機関車にも取り入れたい!」
「馬鹿野郎! 機関車にフリルは合わねえよ!
やるなら、ボイラーを直火焼きから『キラキラ光るひまわり型LED(蓄光ペースト式)』に換装して、煙突からオルゴールを鳴らすべきだ!」
技術者たちの血が騒ぎ出した。
翌日から、近隣の交易都市や野良の工房から、工場への来訪者が後を絶たなくなった。
彼らが持ち込むのは、銅板やボイラーの端材だけではない。
「うちの掘削用クレーンにも、あの『蒸気リボン・ファンネル』の機構をパク……いや、リスペクトさせてほしい!」
「頼む! あの美少女オートマタたちの設計思想を少しでいいから分けてくれ! 俺たちの街の蒸気戦車にも『男のロマン』を搭載したいんだ!」
外界の無骨な男たちが、油まみれの顔で「可愛いフリル」や「華麗な変形ギミック」の図面を片手に土下座して教えを乞うという、かつてない光景が日常茶飯事となった。
最初は警戒していた管理母機エリも、ここまで来ると職人魂(と母性)に火がついた。
「まったく……あなたたちは不器用なんだから。ただ真似をするだけじゃ、ただの『鉄くずの山』よ。
可憐さと、圧倒的な重火器のロマンを両立させるには、ここのギア比を1.2倍にしなきゃダメでしょ?」
エリがさらりと描き加える修正図面は、外界の熟練技師たちが何日も悩んだ難題を軽々とクリアするものだった。
いつしか第一養成工場は、単なる児童の保護・再構築施設(幼稚園)から、「世界最高峰の浪漫兵器・オートマタ設計アカデミー」へとその名を変えていく。
元園児たち(児童ユニット)も、大忙しだった。
「みんな聞いて! 今度、隣町の重工業ギルドから『我が街の防衛用ロボに、私たちの合体バンクを支給してほしい』って正式な発注が来たよ!」
「やったあ! じゃあ、ボクたちの最新作『全自動おやつ給油カート・改め、超重装甲サポートドローン』のライセンス料も請求しちゃおうぜ!」
D-04(元ダイキ)をはじめとする元男子たちは、自分たちの考案した合体ロボの特許(?)が世界中に広まっていることに、誇らしげに胸を張る。
外見はどこからどう見てもお人形のように可憐な少女たちなのだが、中身は完全に「世界を股にかけるスーパーメカ・プロデューサー」の顔つきになっていた。
荒涼としていて、どこか残酷だったスチームパンクの世界。
しかし今や、その世界中のあちこちから、高圧蒸気の噴射音とともに「キラキラ星」のオルゴールメロディや、巨大なドリルが回転する威勢のいい音が響き渡るようになっていた。
労働者たちは日々の作業の合間に「うちのオートマタの変形機構は世界一だ」「いや、うちのフリル付きガトリングのほうがロマンがある」と熱く語り合い、子ども(ロボット)たちはマザー・エリにオイルを注がれながら、今日も今日とて新しい合体ポーズの試行錯誤に夢中になっている。
効率や合理性ではなく、「いかにカッコよく、いかに可愛いか」という純粋無垢な浪漫が、殺伐とした世界を丸ごとハッピーに侵蝕してしまったのだ。
夕暮れ時、黄金色の夕日と工場の煙突から立ち上る白い蒸気が混ざり合う中、エリは穏やかな笑みを浮かべて空を見上げた。
「……まったく、本当に手がかかる子供たちね。でも――世界中をこんなに温かい笑顔で満たせるなら、悪くないか」
工場の奥から、今日も元気に「全機、合体シークエンス開始!」という可愛い、しかし猛烈に重厚な電子音のコールが響き渡る。
終わりなきお遊戯会と、最高の浪漫の連鎖は、これからもずっと、この世界で加速し続けていく。