1991年9月 ― ホグワーツ魔法魔術学校
ホグワーツでの生活は、ハリーが想像していたよりもずっと慌ただしかった。
何しろ、城そのものが迷路のようなのだ。
階段は気まぐれに行き先を変え、壁に掛かった肖像画は勝手に話しかけてくる。廊下には通り抜けられる壁や、決して開かない扉まであった。
おまけに、ピーブズという悪戯好きのポルターガイストがいる。
彼は新入生を見つけると、これ幸いとばかりに厄介事を仕掛けてきた。
そんなわけで、ハリーとロンは最初の数日を、授業に遅れないよう城の中を駆け回ることに費やした。
もっとも、授業そのものは、なかなか興味深いものばかりだった。
少なくとも、ほとんどは。
変身術のマクゴナガル先生は厳格そのものだったが、彼女が机を豚に変えてみせたときには、ハリーもロンもすっかり夢中になった。
もっとも、自分たちが挑戦したマッチ棒を針に変える練習は、さっぱり上手くいかなかった。
ロンなど、マッチ棒の端をわずかに銀色にすることさえできなかった。
「ちぇっ。あんなに簡単そうだったのにな」
「先生は何年もやってるんだろう?」
「それにしたってさあ」
隣では、ハーマイオニー・グレンジャーという女の子が、もうマッチ棒の一部を銀色に変えていた。
ロンはそれを見て、余計に不機嫌になった。
呪文学のフリットウィック先生は、教壇の上に積み上げた本の山から授業をした。ハリーの名前を読み上げた途端、興奮のあまり危うく足を踏み外しそうになったのには、驚かされた。
薬草学ではスプラウト先生に連れられて温室へ向かい、見たこともない植物の世話の仕方を教わった。
天文学は真夜中の塔の上で行われた。
冷たい風に吹かれながら望遠鏡を覗くと、ロンドンでは見たこともないほどの星が広がっていた。
ハリーは思わず息を呑んだ。
ふと、組分けの夜に見た大広間の天井を思い出した。
そして、その下にいた黒髪の少女のことも。
どうして星空を見ただけで彼女を思い出したのか、自分でもよくわからなかった。
一方、魔法史の授業はひどく退屈だった。
ビンズ先生は幽霊で、黒板を通り抜けて教室に入ってきた。
それ自体は大変な驚きだったのに、いざ授業が始まると、眠たくなるような声で延々とゴブリンの反乱について話し続ける。
ロンは授業の半ばで眠りかけ、ハリーも何度か欠伸を噛み殺した。
闇の魔術に対する防衛術のクィレル先生は、いつも怯えたようにどもっていた。教室には妙なニンニクの匂いが漂っていて、生徒たちの間では先生のターバンについて様々な噂が囁かれていた。
そして、金曜日。
ハリーはとうとう、最も嫌いな授業を見つけることになった。
魔法薬学である。
薄暗い地下牢の教室で、セブルス・スネイプ先生はハリーを名指しし、まだ習ってもいない薬草や薬の材料について次々と質問を浴びせた。
もちろん、ハリーには答えられない。
それを見て、先生は冷笑を浮かべた。
挙句の果てには、ほかの生徒の失敗までハリーの責任にされ、グリフィンドールの点数を引かれてしまった。
「あいつ、絶対に君のことが嫌いなんだよ!」
授業が終わると、ロンは憤慨した。
「何にもしてないのに、あんなに目の敵にするなんてさ!」
「僕だってわかんないよ」
ハリーはうんざりしていた。
ダーズリー家を離れれば、理不尽に叱られる日々とはお別れできると思っていたのだ。
どうやら、そう簡単にはいかないらしい。
けれど、そんな憂鬱な学校生活にも、ひとつだけ楽しみができていた。
冷泉水那子。
入学初日の夜、ハリーが目を奪われたスリザリンの少女である。
彼女を初めて見かけたのは、その週のある昼下がりだった。
***
「……あれ?」
ロンと一緒に中庭を横切ろうとしたとき、ハリーは思わず足を止めた。
回廊に囲まれた石造りの中庭。
その一角に、いつの間にか小さな円卓が設えられていた。
真っ白なクロスの上には銀のティーポットが置かれ、陶磁器のカップと小さな菓子皿が並んでいる。
そして、そこには五、六人ほどのスリザリン生が集まっていた。
中心に座っているのは、見覚えのある黒髪の少女だった。
「あっ。あの子だ!」
ロンもすぐに気づいたらしい。
「レイゼイだろ? ほら、やっぱり綺麗だよなあ」
ハリーは黙って頷いた。
水那子は、隣に座った女子生徒の話を聞いているところだった。
膝の上に綺麗に揃えた手。背筋の伸びた姿勢。時折、相手の言葉に合わせて傾けられる小さな首。
黒い制服に緑色のネクタイという、ほかの生徒と変わらない格好をしているはずなのに、彼女だけがまるで違う服を纏っているように見えた。
ちょうど、彼女がティーカップを持ち上げた。
細い指が白い取っ手に添えられる。
その動作の美しさに、ハリーは思わず見入ってしまった。
「ねえ、ハリー」
「……何?」
「あれ、何してるんだろう?」
「お茶を飲んでるんじゃない?」
「そりゃわかるよ。そうじゃなくてさ、なんで学校の中庭で、あんなことしてるのかなって」
確かに、普通の生徒が気軽にお茶を飲んでいるというよりは、小さな社交の集まりのようだった。
水那子の向かいに座る上級生は何やら丁寧に話しかけ、彼女は穏やかに応じている。
ときには全員が楽しそうに笑い、ときには一人の話を真剣に聞いていた。
「貴族って、学校でもお茶会するのかな」
ロンが感心したように呟く。
「知らないよ」
ハリーは答えた。
すると、その瞬間。
ふいに、水那子が顔を上げた。
深紅の瞳が、こちらを向く。
――目が合った。
ハリーはぎくりとした。
思わず視線を逸らそうとしたが、それより早く、少女の口元に柔らかな微笑みが浮かんだ。
そして、ほんの少しだけ、こちらへ会釈してみせたのだ。
「……!」
ハリーは慌てて頭を下げた。
あまり勢いよく下げたものだから、前髪が眼鏡に引っかかった。
「何やってんだよ、ハリー」
ロンが笑った。
「べ、別に!」
「顔、真っ赤だぞ」
「暑いんだよ!」
九月のスコットランドは、決して暑くはなかった。
それでもハリーは、今すぐ冷たい水を飲みたい気分だった。
胸の奥が、どくどくと音を立てている。
ほんの少し目が合っただけなのに。
彼女がこちらへ微笑みかけただけなのに。
どうして、こんなに落ち着かないのだろう。
***
それからというもの、ハリーは中庭を通るたび、無意識にあの一角を確認するようになった。
もちろん、いつでも水那子がいるわけではない。
小さなテーブルだけが片づけられていたり、ほかの生徒たちが談笑していたりすることもある。
けれど、彼女を見かける機会は思いのほか多かった。
ある日には、銀色のティーポットから自ら紅茶を注ぎ、向かいの上級生に差し出していた。
またある日には、スリザリンの男子生徒二人が何かを言い争いかけたところを、彼女が一言二言話すだけで収めてしまった。
そのあと、二人が揃って頭を下げるのを見て、ハリーは改めて驚かされた。
フレッドとジョージの言っていたことは、本当らしい。
彼女の周囲では、誰もがごく自然に彼女の言葉に耳を傾ける。
それが家柄のためなのか、彼女自身の人柄によるものなのか、ハリーにはまだよくわからなかった。
そして、ある日の午後。
またしても中庭を通りかかったハリーは、水那子がこちらを見ていることに気づいた。
今度は、先に気づいたのは彼女の方だった。
水那子はティーカップを置くと、にこりと笑って、小さく手を振った。
ハリーは危うく自分の足に躓きかけた。
「おっと!」
ロンが慌てて肩を掴む。
「大丈夫か?」
「う、うん!」
ハリーは何とか姿勢を立て直し、ぎこちなく手を振り返した。
すると、水那子は満足そうに微笑み、また友人たちとの会話へ戻っていった。
「……なんだよ、今の」
ロンが呆れたように笑った。
「君って、クィディッチの話をしてるときは普通なのに、あの子を見ると急におかしくなるよな」
「そんなことないよ」
「あるって」
「……もう、行こうよ」
ハリーは足早に歩き出した。
その背中を、ロンがにやにやしながら追いかけてくる。
まったく、困ったことになった。
彼女に話しかけたい。
けれど、実際に目が合うだけで、まともに挨拶することすら難しい。
しかも相手は、スリザリンの二年生。
魔法界の王家とも噂される名門の令嬢なのだ。
ハリーは、自分がどうしてこれほど彼女を気にしているのか、まだよくわかっていなかった。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
あの深紅の瞳が自分を見つけてくれるたびに、胸が不思議なほど温かくなるのだった。
***
そんな日々の中で、ハリーにはもうひとつ、楽しみにしていることがあった。
飛行訓練である。
ホグワーツに入学してから初めて、箒に乗って空を飛ぶ授業。
魔法使いの世界で最も人気のあるスポーツ、クィディッチ。
ロンからその話を聞くたび、ハリーは胸を躍らせていた。
「僕、家で何度も飛んだことあるんだ」
ロンは得意げに言った。
「古い箒だけどね。兄さんたちもみんな飛べるし、僕だってそれなりには上手いはずさ」
ハリーは羨ましかった。
自分は生まれてこのかた、箒に跨ったことすらないのだから。
もっとも、ほかの生徒たちも事情は似たようなものらしい。
ネビル・ロングボトムなどは、飛行訓練の話が出るたびに顔を青くしていた。
一方、ドラコ・マルフォイは、自分がどれほど優れた飛行技術を持っているかを、聞かれてもいないのに周囲へ吹聴していた。
「あいつ、絶対に話を盛ってるよ」
ロンが言った。
「いくら純血の家だからって、そんなに上手いはずないさ」
ハリーも同意したかった。
けれど、初めて箒に乗る自分が、うまく飛べる保証などない。
マルフォイに笑われるのだけは嫌だった。
そして、もうひとつ。
水那子に、情けないところを見られたくない。
……もっとも、彼女は二年生だ。
一年生の飛行訓練を、わざわざ見に来るはずがない。
それでも、あの綺麗な微笑みを思い出すと、なぜだか格好悪いところを見せたくないと思ってしまう。
ハリーはそんな気持ちを振り払うように、初めての飛行訓練の日を迎えた。
その日の午後、ハリーとロンは城の前に広がる芝生へと向かった。
空はよく晴れていた。
遠くには禁じられた森が見え、芝生の上には二十本ほどの古びた箒が並べられている。
既にスリザリンの生徒たちが集まっていた。
その中には、もちろんドラコ・マルフォイもいる。
「さあ、みんな! 箒の横に立ちなさい!」
マダム・フーチの鋭い声が響いた。
短く刈り込まれた灰色の髪に、鷹のような黄色い目をした先生だった。
「右手を箒の上に差し出して、こう言うのです。『上がれ!』」
「上がれ!」
ハリーが声をかけると、箒はまるで待っていたかのように、ぴょんと彼の手の中へ飛び込んできた。
「おおっ!」
思わず歓声を上げる。
ロンの箒はというと、地面の上で少し身じろぎしたあと、ぴくりとも動かなくなった。
「ちぇっ!」
ロンが悪態をつく。
マルフォイの箒もすぐに持ち上がっていた。
どうやら、箒に乗ったことがあるという話は、まるっきり嘘というわけでもないらしい。
それから、生徒たちは箒の握り方と蹴り出し方を教わった。
ハリーは不思議なほど自然に、その感覚を理解できた。
箒の柄を握ると、身体の奥から何かが湧き上がってくる。
初めてなのに、初めてではないような感覚。
けれど、そんな高揚感は、次の瞬間に吹き飛んでしまった。
「ネビル! まだ飛んではいけません!」
マダム・フーチの声が響いた。
ネビル・ロングボトムの箒が、突然浮き上がったのだ。
「う、うわあああっ!」
ネビルは悲鳴を上げた。
箒はどんどん高度を上げていく。
そして、彼が必死にしがみついているうちに、とうとう身体が傾いて――。
「あっ!」
ネビルが落ちた。
鈍い音がして、彼の身体が芝生に叩きつけられる。
マダム・フーチが慌てて駆け寄った。
幸い、命に別状はないようだったが、手首を痛めたらしい。
先生はネビルを医務室へ連れていくことになった。
「誰も箒に乗ってはいけませんよ! 私が戻ってくるまで、絶対に!」
そう厳命して、先生は立ち去った。
ところが。
「おい、見ろよ!」
マルフォイが、芝生の上から何かを拾い上げた。
ネビルの思い出し玉だった。
中に煙のようなものが漂う、小さなガラス玉。
ネビルが祖母から貰った、大切な品物である。
「返してやれよ、マルフォイ」
ハリーが言った。
しかしマルフォイは、にやにやと笑った。
「どうして? ロングボトムには必要ないだろう? どうせ何を忘れたかも覚えてないんだから」
スリザリンの生徒たちが笑った。
ハリーはむっとした。
「返せって言ってるだろ!」
「欲しけりゃ、取ってみろよ!」
そう叫ぶと、マルフォイは箒に跨り、地面を蹴った。
あっという間に数メートルの高さへ浮かび上がる。
箒は滑らかに上昇し、空中でぴたりと止まった。
確かに、飛行技術は悪くない。
けれど、それを友達への嫌がらせに使っているのだから、まったく褒められたものではなかった。
「降りてこい!」
ハリーは叫んだ。
「嫌だね!」
マルフォイは思い出し玉を掲げてみせた。
「なんなら、学校の屋根の上にでも置いてやろうか?」
その瞬間、ハリーの中で何かが弾けた。
考えるより早く、箒に跨っていた。
「ハリー、やめろよ!」
ロンの声が聞こえた。
けれど、もう遅かった。
ハリーは地面を強く蹴り出した。
――飛んだ。
風が頬を撫でる。
芝生がみるみる遠ざかる。
そして、驚いたことに。
少しも怖くなかった。
むしろ、こんなに気持ちのいいことは初めてだった。
箒は自分の身体の一部のように動いた。
少し柄を傾ければ方向が変わり、身体を前へ倒せば速度が増す。
ハリーはあっという間にマルフォイの高さまで上昇した。
「返せよ!」
マルフォイは一瞬驚いたような顔をした。
しかし、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。
「それじゃ、取ってみろ!」
彼は思い出し玉を大きく放り投げた。
赤い煙の漂うガラス玉が、弧を描いて飛んでいく。
そして、地面へ向かって落ち始めた。
ハリーは迷わなかった。
箒を急降下させる。
風が耳元で唸った。
地面が凄まじい勢いで近づいてくる。
誰かが悲鳴を上げた。
けれど、ハリーの目はただひとつ、小さなガラス玉だけを追っていた。
あと少し。
もう少し。
――今だ!
ハリーは片手を伸ばした。
指先がガラス玉を掴む。
そのまま、地面へ叩きつけられる寸前で箒を引き起こした。
芝生すれすれを滑るように飛び、やがてゆっくりと着地する。
ハリーの手には、無傷の思い出し玉が握られていた。
一瞬の静寂。
そして――。
「やったあああっ!」
ロンの歓声が響いた。
グリフィンドールの生徒たちが駆け寄ってくる。
ハリーは思わず笑った。
やった。
飛べたのだ。
しかも、自分でも驚くほど上手く。
ところが。
「ハリー・ポッター!」
鋭い声が、歓声を切り裂いた。
ハリーは凍りついた。
マクゴナガル先生だった。
彼女は恐ろしい表情をして、こちらへ歩いてくる。
ああ、終わった。
退学だ。
ホグワーツへ来てまだ二週間も経っていないのに。
ハリーは絶望的な気分になった。
先生は有無を言わせずハリーを連れ出し、城の中へと向かった。
ロンが心配そうに見送っている。
遠くでは、マルフォイが何とも言えない表情をしていた。
ハリーはそれを見る余裕もなかった。
***
しかし、事態は思いもよらない方向へ転がった。
マクゴナガル先生はハリーを退学にするどころか、オリバー・ウッドというグリフィンドールの上級生を呼び出したのだ。
彼はクィディッチ・チームのキャプテンだった。
そして先生は、ハリーが見せた飛行技術を興奮気味に説明し始めた。
あの急降下。
思い出し玉を掴んだ瞬間の判断力。
地面すれすれで箒を制御する技術。
それらは、初めて箒に乗った一年生のものとは到底思えなかったのだという。
ウッドも目を輝かせた。
そして、ハリーはとうとう理解した。
自分が、グリフィンドールのクィディッチ・チームに選ばれたのだということを。
それも、シーカーとして。
「一年生がシーカーになるなんて、百年ぶりだぞ!」
ウッドは興奮を隠そうともしなかった。
ハリーは夢を見ているようだった。
数分前には退学を覚悟していたのに、今では学校を代表する選手の一人になってしまったのだ。
あまりの展開に、頭が追いつかなかった。
それでも、胸の奥には確かな喜びがあった。
生まれて初めて、自分の力を認めてもらえた。
誰かの有名な息子だからでも、ヴォルデモートを倒したという理由でもなく。
ただ、自分が箒に乗って飛んだから。
それが、たまらなく嬉しかった。
***
「シーカー!?」
ロンが素っ頓狂な声を上げた。
授業を終えたロンと廊下で合流したハリーは、声を潜めて事情を説明した。
「本当かよ、ハリー!」
「うん。でも、あんまり大きな声で言わないでよ」
「すっげえ! すっげえよ!」
ロンは自分のことのように喜んでくれた。
「一年生でシーカーなんて、聞いたことないぞ! フレッドとジョージだって、まだ一年生のときはチームに入ってなかったんだ!」
「僕だって、まだ信じられないよ」
「いやあ、でも、あの飛び方は凄かったもんな!」
ロンは興奮した様子で、身振り手振りを交えて先ほどの出来事を再現しようとした。
ハリーは照れ臭くなって笑った。
そのときだった。
「おやおや。てっきり荷物をまとめてる頃かと思ったのに」
嫌味な声が聞こえた。
マルフォイだった。
後ろには、クラッブとゴイルが控えている。
マルフォイはハリーを見ると、露骨に顔をしかめた。
「なんだ、ポッター。まだ退学になってないのか?」
「残念だったね」
ハリーは言い返した。
「僕は別に、何も罰を受けてないよ」
「へえ。それはおかしいな」
マルフォイが鼻を鳴らした。
「先生の命令に逆らって、勝手に空を飛んだくせに」
「最初に飛んだのは君だろ!」
ロンが割って入った。
「それに、ネビルの思い出し玉を盗ったのも!」
「盗った? 僕はただ、落ちてたものを拾っただけさ」
マルフォイは肩を竦めた。
「それに、ポッターが無茶苦茶な飛び方をしたのは事実だろ。あんなの、たまたま上手くいっただけだ」
「たまたま!?」
ロンが憤慨した。
「あんな凄い飛び方、君にできるのかよ!」
「もちろんさ!」
マルフォイは胸を張った。
「僕は小さい頃から箒に乗ってるんだ。ポッターみたいな素人と一緒にしないでほしいね」
ハリーも腹が立った。
「だったら、どうして自分で思い出し玉を取りに行かなかったんだよ?」
「何だって?」
「僕が取ったのが気に入らないなら、最初から君が取ればよかったじゃないか」
マルフォイの顔が赤くなった。
「なんだと、ポッター!」
険悪な空気が漂った。
クラッブとゴイルが一歩前へ出る。
ロンも負けじと肩を怒らせた。
そのとき――。
「あら。皆さん、お揃いですね」
澄んだ声が、廊下に響いた。
四人は一斉に振り向いた。
そして、ハリーは息を呑んだ。
そこに立っていたのは、冷泉水那子だった。
***
夕方の柔らかな光が、廊下の窓から差し込んでいた。
その光を背に、水那子は数人のスリザリン生を伴って歩いてきたところだった。
黒い髪がさらりと肩を滑る。
深紅の瞳が、ハリーたちを順番に見渡した。
「……冷泉様!」
マルフォイが慌てて姿勢を正した。
その変わり身の早さに、ロンが呆気に取られる。
水那子は何事もなかったかのように微笑んだ。
「こんにちは、ドラコ様」
「こ、こんにちは」
「ずいぶん賑やかでしたけれど、何か楽しいことでも?」
マルフォイが口ごもった。
ハリーも、何と答えればいいのかわからない。
すると水那子は、後ろに控えていた友人たちへ振り向いた。
「皆さん、先に談話室へ戻っていてくださる? 少しお話をしてから参ります」
スリザリンの女子生徒が一瞬だけハリーたちに視線を向けた。
「承知しました、冷泉様」
「どうぞ、ごゆっくり」
彼女たちは丁寧に会釈し、廊下の奥へと歩いていった。
水那子はその背中を見送ると、改めて四人に向き直った。
「さて」
小さく首を傾げる。
「先ほどの飛行訓練のお話でしょうか?」
ハリーの心臓が跳ねた。
「み、見てたんですか?」
水那子は微笑んだ。
「ええ。ちょうど図書室から戻る途中で、窓の外が賑やかでしたので。少しだけ拝見しました」
そう言って、ハリーへ視線を向ける。
「ポッター様の飛行、とても素晴らしかったですよ」
「えっ」
ハリーは固まった。
彼女に、見られていた。
しかも、褒められた。
それだけで、頭の中が真っ白になってしまった。
「初めて箒にお乗りになったとは思えませんでした。あの速度で降下して、地面に触れる直前に姿勢を立て直すなんて。見ているこちらが、思わず息を止めてしまいました」
水那子は穏やかに続けた。
「思い出し玉を掴む瞬間まで視線がぶれなかったでしょう? あの集中力と判断力は、なかなか身につけられるものではありません」
「あ、ありがとうございます……」
ハリーはようやくそれだけを口にした。
頬が熱い。
心臓がうるさい。
水那子が、自分の飛んでいるところを見ていた。
それだけでも信じられないのに、こんなにも丁寧に褒めてくれている。
ハリーは嬉しさのあまり、ほとんど舞い上がってしまいそうだった。
すると、隣から不満そうな声がした。
「……でも、ポッターは先生の命令に逆らったんですよ」
マルフォイだった。
彼は少しばかり拗ねたような表情をしていた。
「確かに、あいつが上手く飛んだのは認めますけど。でも、僕だって――」
「ええ。存じていますよ」
水那子は遮るのではなく、彼の言葉を受け止めるように頷いた。
「ドラコ様の飛行も、拝見していました」
「……え?」
「とてもお上手でしたね」
マルフォイは目を瞬かせた。
ハリーも驚いた。
てっきり、彼女はマルフォイを叱るのだと思っていたのだ。
しかし、水那子は続けた。
「箒の加速も滑らかでしたし、空中で静止する際の姿勢も安定していました。幼い頃から練習を重ねていらしたのでしょう?」
「……は、はい!」
マルフォイの声が明るくなった。
「父に箒を買ってもらって、小さい頃から乗っていました!」
「それは素敵ですね。きっと、たくさん練習なさったのでしょう」
水那子はにこりと笑った。
「だからこそ、少し残念に思ったこともあるのです」
マルフォイの表情が止まった。
「……残念、ですか?」
「ええ」
水那子は静かに頷いた。
「せっかく素晴らしい技術をお持ちなのに、ほかの方を困らせるために使われたら、その良さが伝わらなくなってしまうでしょう?」
マルフォイは口を開きかけた。
しかし、何も言わなかった。
水那子の声には、咎めるような響きがまるでなかった。
ただ、惜しいことをした、と心から感じているようだった。
「もちろん、お友達と競い合うことは悪いことではありません。競争することで上達することもありますもの」
彼女は続けた。
「けれど、上手な方ほど、その腕前を誰かのために使うことができたら素敵だと思いませんか?」
「……はい」
「よろしいですか、ドラコ様。お力のある方には、それにふさわしい振る舞いが求められるものです。マルフォイ家のご令息でいらっしゃるなら、なおさらでしょう?」
マルフォイは背筋を伸ばした。
「……仰るとおりです」
「ふふ。よかった」
水那子は嬉しそうに笑った。
そして、少しだけ声を弾ませた。
「それに、ドラコ様ほど飛行に慣れていらっしゃるのでしたら、来年度のクィディッチ・チームの選抜に挑戦なさってはいかが?」
「クィディッチ、ですか?」
「ええ。特にシーカーは、あなたに向いているかもしれませんね」
マルフォイの目が輝いた。
「本当ですか!?」
「もちろん。小柄な身体を活かした機敏な動きが求められますし、飛行中の姿勢も大切です。あとは、動く標的を正確に追い続ける練習をなされば、十分に候補になれると思います」
水那子は少し考えてから、付け加えた。
「もしご希望でしたら、来年度の選抜の際に、わたくしからもスリザリンの主将に推薦しておきましょう」
「……!」
マルフォイは息を呑んだ。
「冷泉様から、推薦を?」
「ええ。ただし、最終的に選ぶのは主将ですから、今からしっかり練習しておいてくださいね」
「もちろんです!」
マルフォイは勢いよく頷いた。
「必ず、選ばれてみせます!」
「楽しみにしています」
水那子は穏やかに微笑んだ。
マルフォイはすっかり機嫌を直していた。
先ほどまでの苛立ちは、ほとんど消え失せている。
「それでは、僕はこれで失礼します。冷泉様」
「ええ。また談話室でお会いしましょう」
マルフォイは丁寧に礼をすると、クラッブとゴイルを連れて立ち去った。
その足取りは、どこか弾んでいた。
***
ハリーは呆然としていた。
凄い。
それ以外の言葉が見つからなかった。
ほんの数分前まで、自分たちに悪態をついていたマルフォイが、今では嬉々として去っていった。
しかも水那子は、彼を叱りつけたわけでも、無理やり黙らせたわけでもない。
彼の長所を認め、そのうえで間違いを指摘し、最後には新しい目標まで与えてしまったのだ。
誰も怒っていない。
誰も恥をかかされていない。
それでいて、きちんと話が収まっている。
ハリーは思った。
あんなふうに話せる人がいるのか。
大人だって、あんなに上手く喧嘩を収められるとは限らない。
それを、たった一つ年上の女の子が、いとも簡単にやってのけた。
「……すごいですね」
気づくと、口に出していた。
水那子が振り向く。
「まあ。何がでしょう?」
「その……マルフォイのことです」
ハリーは少しだけ言葉を探した。
「あいつ、すっごく意地悪だったのに。今は、なんだか嬉しそうで……」
水那子は小さく笑った。
「ドラコ様は、少し負けず嫌いなところがおありなのですね」
「少し、ですか?」
思わずロンが口を挟んだ。
水那子は楽しそうに微笑んだ。
「ふふ。そうですね。少し、ではないかもしれません」
三人の間に、小さな笑い声が広がった。
「でも、それ自体は悪いことではありませんよ。負けたくないという気持ちは、ときに大きな力になりますから」
水那子は言った。
「ただ、その力の向け方を間違えてしまうと、ご自分も周りの方も苦しくなってしまいます。少しもったいないでしょう?」
ハリーは頷いた。
これまで、マルフォイのことは単なる嫌な奴だと思っていた。
もちろん、今でも好きにはなれない。
けれど、彼女の言葉を聞いていると、少しだけ違う見方があるようにも感じられた。
「それに」
水那子は、ふと悪戯っぽく目を細めた。
「ポッター様も、彼の飛行技術そのものは認めていらっしゃるのでしょう?」
「……えっ?」
ハリーは驚いた。
「だって、先ほど彼におっしゃっていたでしょう? 自分で取りに行けばよかったのに、って」
「……あ」
確かに、そう言った。
「それは、ドラコ様なら十分に取りに行けたはずだと、そう思われたからではありませんか?」
ハリーは少し考えた。
確かに、そうかもしれない。
マルフォイが箒を操るところを見て、思ったよりも上手いと感じたのは事実だった。
「……はい」
「でしたら、なおのこと。お二人が互いの腕を認め合えるようになれば、素敵なライバルになれるかもしれませんね」
水那子は微笑んだ。
ハリーは少し困った。
マルフォイと仲良くする自分など、どうにも想像できない。
けれど、彼女の期待を無下にするのも嫌だった。
「……頑張ってみます」
「ふふ。ありがとうございます」
水那子は嬉しそうに頷いた。
その笑顔を見た瞬間、ハリーはまたしても胸が高鳴るのを感じた。
ああ。
やっぱり、この人は特別だ。
容姿が綺麗だから、というだけではない。
もっと別の、何か。
うまく言葉にできないけれど、この少女には、人を自然と惹きつける力があるのだ。
ハリーはそう思った。
すると、水那子が少しだけ首を傾げた。
「ところで、ポッター様」
「は、はい!」
「申し遅れました。わたくし、冷泉水那子と申します」
彼女は優雅に会釈した。
「改めまして、どうぞよろしくお願いいたします」
ハリーは慌てて頭を下げた。
「あ、ハリー・ポッターです! その、よろしくお願いします!」
「ええ。もちろん、存じ上げていますよ」
水那子は柔らかく微笑んだ。
「ご入学以来、何度か中庭でもお見かけしましたものね」
「……!」
ハリーは目を見開いた。
覚えていてくれた。
中庭で何度か目が合ったことを、彼女も覚えていてくれたのだ。
嬉しさが、じわじわと胸に広がっていく。
「それから……」
水那子は隣のロンへ視線を向けた。
「そちらは、ロナルド・ウィーズリー様でいらっしゃいますね?」
「えっ!?」
ロンが飛び上がった。
「ぼ、僕のこと、知ってるんですか!?」
「ええ、もちろん」
水那子はにこりと笑った。
「ウィーズリー家は、イギリスの由緒ある魔法使いの家系でしょう? 聖二十八一族にも数えられる、歴史あるお家だと伺っています」
ロンはぽかんと口を開けた。
彼の家族が純血の魔法使いであることは、ハリーも聞いていた。
けれど、裕福というわけではないらしい。
実際、ロンの持ち物の多くは兄たちのお下がりだったし、本人もそれを少し気にしているようだった。
そんなロンにとって、見知らぬ外国の名家の令嬢から、自分の家の歴史を褒められるなど、思いもよらないことだったらしい。
「そ、そうなのかな……」
ロンは耳まで赤くした。
「僕んちは、そんなに立派な家じゃないと思うけど……」
「あら、そんなことはありませんよ」
水那子は首を横に振った。
「長い歴史を守ってこられたというだけで、十分に素晴らしいことです。それに、ご兄弟もたくさんいらっしゃるのでしょう?」
「う、うん! 僕は六人兄弟の末っ子で、妹もいるんだ!」
「まあ。賑やかで楽しそうですね」
「うん! いや、まあ、うるさいこともあるけど……」
ロンはしどろもどろになっていた。
ハリーは思わず笑いそうになった。
いつもはあんなにお喋りなのに、今はすっかり調子を狂わされている。
もっとも、人のことを笑えた立場ではないのだが。
そして、水那子は二人へ改めて向き直った。
「実は、お二人にひとつ、お伺いしたいことがあるのです」
「……え?」
ハリーの心臓が跳ねた。
「今度の週末、お時間はございますか?」
水那子は微笑んだ。
「もしよろしければ、わたくしのお茶会にいらっしゃいませんか?」
***
「……お茶会?」
ハリーは思わず聞き返した。
「ええ」
水那子は頷いた。
「週末の午後、中庭で小さなお茶会を開こうと思っているのです。各寮から何人かずつ、一年生の方々をお招きする予定でして」
彼女は楽しそうに続けた。
「せっかくホグワーツでご一緒するのですもの。寮が違うからといって、お互いをよく知らないままではもったいないでしょう?」
ハリーはぽかんとした。
お茶会。
彼女がいつも中庭で開いている、あの優雅な集まり。
そこに、自分が招かれるというのだ。
「もちろん、ウィーズリー様もご一緒に」
水那子はロンへ微笑みかけた。
「ポッター様と仲がよろしいのでしょう? ぜひ、お二人でいらしてください」
「……ほ、本当に!?」
ロンが叫びかけた。
水那子は楽しそうに頷く。
「ええ、もちろんです」
そのとき、ちょうど窓から差し込む夕陽を受けて、水那子の髪がきらりと輝いた。
彼女が少し身を乗り出すと、制服の胸元が自然とロンの視界に入った。
ロンは思わずちらりと目をやり、次の瞬間には慌てて視線を逸らした。
耳どころか、首まで真っ赤になっている。
「ぜ、ぜひ! 喜んで!」
水那子はにこりと笑った。
「ありがとうございます。では、詳しいお時間と場所は、後ほどお知らせいたしますね」
そう言って、ハリーへ視線を向ける。
「ポッター様も、いかがでしょう?」
ハリーは慌てて頷いた。
「は、はい! もちろん!」
「まあ。よかった」
水那子は嬉しそうに手を合わせた。
「それでは、楽しみにしていますね」
そして、ほんの少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。
「どうぞ、あまり緊張なさらずにいらしてください。学校のお友達同士のお茶会なのですから」
ハリーは、またしても顔が熱くなるのを感じた。
緊張していることまで、見抜かれている。
「……はい」
何とか返事をすると、水那子は満足そうに頷いた。
「それでは、失礼いたします。ポッター様、ウィーズリー様」
優雅に会釈して、彼女は廊下の向こうへと歩いていった。
黒髪がさらさらと背中を流れる。
その後ろ姿を、ハリーはしばらく見つめていた。
***
「……ハリー」
ロンが呟いた。
「……何?」
「僕たち、あの子のお茶会に呼ばれちゃったぞ」
「……うん」
「レイゼイだぞ! あの、すっごく綺麗な!」
「……うん」
「しかも、僕の名前まで知ってた!」
ロンはまだ顔を赤くしていた。
「凄いよなあ。あんな子が僕たちを誘ってくれるなんてさ」
ハリーも同じ気持ちだった。
いや、むしろそれ以上かもしれない。
ずっと遠くから見つめているだけだった少女。
何度か目が合っただけで、一日中そのことを思い出してしまうような相手。
その彼女と、今度は同じテーブルを囲んでお茶を飲むのだ。
考えただけで、胸が高鳴った。
けれど――。
「……ねえ、ロン」
「何?」
「お茶会って、何するのかな」
ロンが瞬きをした。
「……お茶を飲むんじゃない?」
「そりゃ、そうだろうけど」
ハリーは困ったように言った。
「僕、そういうの、行ったことないんだ」
ダーズリー家では、来客があるとハリーは部屋へ追いやられた。
礼儀作法らしいものを教わった記憶もほとんどない。
それなのに、今度招かれるのは、日本の魔法界の王家とも言われる家の令嬢が開くお茶会なのだ。
しかも、彼女の周囲にいるのは、いつも礼儀正しい上級生ばかり。
自分のような、ごく普通の少年が参加して大丈夫なのだろうか。
「……紅茶って、どうやって飲むんだろう」
ハリーが真剣な顔で尋ねると、ロンも少し考え込んだ。
「……カップを持って?」
「それは知ってるよ!」
「じゃあ、何を聞いてるんだよ!」
ロンは笑った。
けれど、すぐに彼も不安そうな顔になった。
「……でも、確かに。なんか、マナーとかありそうだよな」
「だろ?」
「僕だって、そんなにちゃんとしたお茶会なんか行ったことないよ」
二人は顔を見合わせた。
そして、同時に溜息をついた。
ハリーはふと、先ほどの水那子の姿を思い出した。
マルフォイをあれほど上手く宥め、誰に対しても丁寧に接する少女。
彼女なら、多少の失敗くらい、笑って許してくれるだろう。
たぶん。
きっと。
……そうであってほしい。
それに、各寮から何人かずつ招くと言っていた。
ということは、スリザリンの生徒もいるのだろう。
まさか、マルフォイも?
もしそうなら、また面倒なことになるかもしれない。
しかも、ほかの寮の生徒たちとは、まだろくに話したこともない。
知らない相手ばかりの中で、自分は何を話せばいいのだろう。
水那子に話しかけてもらえたら嬉しい。
けれど、実際に向かい合って座ることを考えると、それだけで心臓が口から飛び出しそうだった。
ハリーは困り果てた。
楽しみなのか、不安なのか。
自分でもよくわからない。
けれど、ひとつだけはっきりしている。
週末が、待ち遠しくて仕方がないのだ。
「……ねえ、ロン」
「何?」
「図書室に、お茶会のマナーが書いてある本って、あると思う?」
ロンは一瞬、ぽかんとした。
そして、腹を抱えて笑い出した。
「ハリー! 君ってば、もうすっかりあの子に夢中じゃないか!」
「ち、違うよ!」
「絶対そうだって!」
「だから、違うってば!」
二人の声が、夕暮れの廊下に響いた。
窓の向こうには、先ほどまで箒で飛んでいた広い芝生が見えている。
ハリーは今日、自分に空を飛ぶ才能があることを知った。
グリフィンドールのシーカーにも選ばれた。
そして、ずっと気になっていた少女と言葉を交わし、思いがけずお茶会に招待された。
まったく、信じられない一日だった。
けれど、考えてみれば。
箒に乗って空を飛ぶよりも。
地面すれすれで思い出し玉を掴むよりも。
今度のお茶会で、冷泉水那子と向かい合って座ることの方が、よほど勇気のいることのように思えてならない。
ハリーは小さく溜息をついた。
そして、未だに笑い続けているロンと一緒に、グリフィンドールの塔へと歩き出すのだった。