昔育てた勇者・聖女・王女に「女扱いせず鍛えてくれた」と慕われてますが、全員男だと思っていた 作:だぶすと
「先生も来たばかりで忙しいだろうと思って遠慮してりゃこれだ。白昼堂々と見せつけてくれるじゃねえか、なぁ勇者サマよ?」
穏やかに、しかし場の雰囲気を圧倒しながら店内に現れたエルシアは、茶を運んできた店員が離れていったのを確認すると声量を気にしながらロイゼに問い掛けた。外からの視線を気にしてか姿勢も崩そうとしないあたり、人々が持つ聖女のイメージを尊重したいという気持ちが見て取れる。
対するロイゼはエルシアが正面に座っても変わらない。店員が来た時だけは王子様然としていたが、今も俺と肩が触れるような距離を保ったままだ。
「お前達、知り合いだったんだな……」
「全員アンタに教えられた事が体に染み付いててな、何も知らなくても教え子同士で通ずるものがあったんだよ。集まって何度も話して、今じゃすっかり昔からの友人みたいになっちまった。ただ、そこの勇者サマはそんなダチの事なんか構わず一人でイイ思いしてたみてぇだがな?」
「ボクは持ち主に近況報告をしていただけだよ。というかエルシアだって昨日から先生が王都に来てるの知ってて黙ってたんだよね? ボク知らなかったんだけど?」
「う。……いいだろちょっとくらい……」
顔を逸らしてゴニョゴニョと言い訳するエルシアを、ロイゼがジト目で非難する。とはいえ二人の間に険悪な雰囲気は無く、エルシアが言うように親しい関係なのが窺えた。
こうして教え子同士に面識があって仲が良いというのは俺としても非常に嬉しい事だ。
昔の俺は少々アレだったので、そういった部分まで教え子間で共有されていたとしたら少し恥ずかしいんだが、それ以上に自分が面倒を見た子供達が良き友人同士になっているのを見ると感慨深いものがある。
「いやぁ、それにしても面倒を見た子供に二人も会えるなんて考えもしなかったな。しかも聖女様と勇者様になっていただなんて……自分がまだDランクってのは情けなく感じるけど、本当に嬉しく思うよ」
「おいおい先生、なにオッサンくせぇ事言ってんだ。先生は今が男盛りだし、冒険者ランクについても教会の奴らに追われて町に入れなかったせいだろ?」
「ボクが勇者になってから軍の調査隊が極南に派遣されたんだ。教会暗部を警戒させて、先生が町に戻れるようになるまでの時間が遅れたのはボクのせいでもある。ごめんね?」
「え? いやいや、俺は国境沿いで気楽にやってたから本当に何も気にしなくていいぞ。魔物を倒すのにも慣れたし病気なんかにも強くなったからな」
「それがおかしいんだよな」
「一緒に旅してる時からそういう部分は垣間見えてたからね」
エルシアとロイゼが気に病まないようフォローしたつもりが梯子を外されてしまう。ここは三人で互いを許し合う感動の場面じゃないのかよ。
あと当時の二人に俺が強く見えていたのは彼女達がまた幼かったからだと思う。あの時期の年齢差はセンスや技術では引っくり返せないほど大きいし、そもそもエルシアは衰弱してロイゼは痩せ細っていた。
「このまま話すなら、オレとしては場所を移して楽な姿勢になりてぇんだが……先生はもうギルドの用事は済んだのか?」
「いや、まだだ。通達書を渡しただけで、話は何も進んでない」
「はぁ? だったら何でこんなトコで油売ってんだよ」
「受付中だったのをボクが借りたんだ。待ち時間だったみたいだから丁度いいかなって」
「……早く返してこい。直接ランクアップ要請を出したのはシルヴィーナでも、オレ達だって一枚噛んでんだから」
拾ってきた猫の扱いを決めるように俺の処遇が話し合われている。
エルシアによるとランクアップ要請を出したのはシルヴィーナという人で、二人もそれに関わって――ん?
「シルヴィーナ様って……確か第二王女様だよな? まさか知り合いなのか? 王族とも面識があるなんて凄いじゃないか」
「え? なんで先生が知らな……あー、確か名前を伝えてないとか言ってたっけ」
「これに関してはアイツの自業自得だしな……ま、こっちが気にしなくても本人が上手くやるだろ」
「なんだその反応……もしかして別人の話だったか?」
「いや、そこは合ってるんだけど……ただ、本人が伝えてない以上はボク達から伝えるのも違うかなって。きっとやりたい事もあるだろうし」
第二王女様の話ではあるらしい。王族というやんごとなき身分のお方についてエルシアとロイゼが親しげに話しているのが気になるが、やはり聖女様や勇者様ともなると王族と交流する機会があるのだろう。
そう思うと、俺は今とんでもない二人とテーブルを囲んでいるのかも知れない。
「とりあえず一旦ボクは先生をギルドに返してくるね。また後で話を……そうだ先生、今日は久々に一緒の寝袋で寝ないかい? 昔と同じ寝方で、ボク達だけの思い出話をしよう」
「は?? おい、オレの時は寝袋なんて無かったんだが? 先生?」
話がまとまったかと思えば、ロイゼが絶対に今言わなくて良い事を言い出した。タイミングおかしいだろ。
立ち上がろうとしていたエルシアが椅子に座り直し、物言いたげにこちらを見てくる。なんとか誤魔化したいところだが、ロイゼと一つの寝袋で寝ていたのは事実なので上手い言い訳が出てこない。
「……でもまぁ? オレも先生にしごいてもらってたし? ケツとか叩かれてたし? 庇護対象としてだけじゃなく、隣に立つ戦力として対等に扱われてたのはオレなんだよなぁ……」
変な張り合い方やめろ。
旅をしていた時期によって俺の心持ちや旅道具が違うのは仕方がない事だ。エルシアの時は俺も死にに行くつもりだったから命懸けで鍛えたし、ロイゼは体が弱かった事もあって大事に扱った。
互いに大人になった今、同じ事をするつもりはない……というかできない。もう二人は立派に成長した魅力ある女性だから。
あと聖女様や勇者様にそんな事してたってバレたら俺の人生終わるから。
◇ ◇ ◇
ギルドに戻った俺を待っていたのは、こちらに物好きな視線を向けつつも決して目を合わせようとしない冒険者達と、時が止まったかのように棒立ちしたままの受付嬢だった。
誰も並んでいない新規窓口は異様な空気を放っていて、その中心にいた受付嬢は俺を視界に入れた途端に我に返ったように大きく息を吸った。今まで息をしていなかった可能性もある。
「すみません、通達書はどうでしたか」
「あっ、あ、あ……――なんだアレイドさんじゃないですか。びっくりしました。さっき私、目の前でロイゼ様がアレイドさんと親しげに話しているような幻覚が見えてたんです」
「それ現実ですよ」
「誤魔化すんですよ、普通こういう時は」
受付嬢は俺を半目で睨んでいたが、やがて溜息を吐いてカウンターテーブルの下から通達書を取り出した。
間違いなく何らかのショックは受けていただろうに、それでも切り替えて仕事に戻れるのは彼女がプロたる所以だろう。
「これをお返しします。確認が取れました。確かにアレイドさんには一年以上前からランクアップ要請が出ています。アレイドさんには今日から適切なランクになるまで王都で活動していただく事になりますね」
「分かりました」
大体は予想通りだ。最初こそ得体の知れない要請に警戒していたが、教え子も間接的に関与していると分かった事で不安は一気に解消されている。気になるのはその曖昧な文言くらいか。
「ちなみに適切なランクっていうのは……具体的にどのくらいなんですか?」
「要請を出した方――恐らくギルドマスターに掛け合えるほど位の高い貴族の方でしょうが、その方は特にランク目標を指定されてないんですよね。アレイドさんは十年間もDランクのままで、それが不適切だと判断されてる訳ですから……普通に考えたらCランクなのでは?」
「なるほど、Cランク」
BランクとかAランク言われたら厳しかったが、そのくらいなら多少手こずっても王都の滞在資金は足りるだろう。実際にはランクアップのために依頼もこなすから、生活レベルを上げ過ぎなければ資金不足で詰む事はないはずだ。
「まぁランクアップ要請自体が滅多にない特例なので、詳しい事は上級職員の話し合いで決める事になると思います。アレイドさんはその結果を待っていてもいいと思いますが、どうせ暇でしょうから王都の環境に慣れるためにも何か依頼を受けてみては?」
「え、いいんですか? じゃあそれでお願いします」
「丁度持て余していた討伐依頼があるんですよ。アレイドさんは流石に新人の方よりは慣れてるでしょうから、三つくらい同時に受けてもらってもいいですか? 報告はこの窓口で大丈夫なので」
「え、いいんですか? じゃあそれでお願いします」
「Noと言えない男ダサいですよ」
じゃあどう答えるのが正解だったんだよ。
ロイゼの件のせいか若干当たりが強いのが気になるが、ともあれ受付嬢とも少しは打ち解けられたような気がする。事務的にあしらわれるよりはよほどいい。美人なのもいい。