うちの美少女アバターに重い過去なんてありません! 作:もろきゅー
目の前に浮かぶ半透明の画面を眺めながら、俺は思わず頬を緩ませていた。
キャラクタークリエイト。
ゲーム好きなら、一度くらいは夢見たことがあるのではないだろうか。自分の思い描いた理想のキャラクターを作り、その姿で自由に冒険するという体験を。
もっとも、普通のゲームであれば、作ったキャラクターを画面越しに操作するだけだ。しかし、手紙の説明によれば、この能力は作成したキャラクターの姿と能力を実際に使用できるらしい。
「つまり、自分で作ったキャラクターになれるってことか……?」
改めて考えると、なかなかとんでもない能力だ。
ただでさえ異世界に来てしまったというのに、今度は自分の姿まで変えられるという。しかも、作成できるのは女性キャラクターに限られている。
普通なら、もう少し戸惑うべきなのかもしれない。
しかし、ゲームで女性キャラクターばかり作ってきた俺にとっては、むしろ歓迎したい仕様だった。
「……まあ、実際に変身するのは後でいいか。まずは作ってみないとな」
何事も試してみなければ分からない。そう自分に言い聞かせ、俺は画面に表示された説明へ目を通すことにした。
どうやら、この能力では最大三体までキャラクターを保存できるらしい。作成したキャラクターは自由に呼び出して姿を切り替えられるが、キャラクタークリエイトそのものを使用できるのは一日に一度だけ。また、一度完成させたキャラクターは後から設定を変更できず、作り直す場合には保存されているキャラクターを削除する必要があるという。
「三体までか。思ったより少ないな」
ゲームなら、気分に合わせて何人もキャラクターを作るところだが、どうやらそういうわけにはいかないらしい。
しかも、一度完成させたら細かな修正もできないとなれば、適当に作るわけにもいかないだろう。
これは慎重に考える必要がありそうだ。
画面を操作すると、目の前に新しいウィンドウが開いた。
『新規キャラクターを作成しますか?』
「もちろん!」
迷わず肯定すると、先ほどまで何もなかった空間に、人間の形をした立体的なモデルが現れた。
「おおっ!?」
思わず身を乗り出す。
そこに立っていたのは、何の特徴もない女性の姿をしたモデルだった。髪は短く、顔立ちも体型もごく平均的で、白い簡素な衣服を身に着けている。
どうやら、これがキャラクター作成の初期状態らしい。
試しに指を動かしてみると、モデルがゆっくりと回転した。さらに、二本の指を広げるように動かせば拡大し、逆に狭めれば縮小する。
「うわ、すげえ。操作感までゲームみたいだ」
モデルを正面から眺めたり、横に回してみたり、後ろ姿を確認したりしているうちに、自然と気分が高揚してくる。
それだけではない。
画面の端には、容姿に関する大量の設定項目が並んでいた。
顔の輪郭、目の形、瞳の色、眉の角度、鼻筋、唇の厚さ、耳の形。髪型についても、長さや毛量、前髪の分け方に至るまで、細かく調整できるらしい。
「……すごいな、これ。普通のゲームよりずっと細かく作れるぞ」
試しに瞳の項目を開いてみると、そこにはさらに細分化された設定が表示された。
瞳孔の大きさ、虹彩の模様、光の反射具合。目尻の角度やまつ毛の長さまで、自由に変更できるようだ。
しかも、数値を動かすたびに目の前のモデルへ即座に反映される。
「なんだこれ……。めちゃくちゃ楽しいぞ」
俺は思わず笑ってしまった。
元の世界でも、キャラクタークリエイトにはかなりの時間を費やす方だった。ゲームを始めるつもりで起動したのに、キャラクター作成だけで数時間が過ぎていたことなど、一度や二度ではない。
しかし、ここまで自由に作れるものは見たことがなかった。
これは、相当な時間をかけることになりそうだ。
「さて、どんなキャラクターにするかな……」
せっかくの異世界なのだから、やはりファンタジーらしいキャラクターがいい。
魔法使いも魅力的だし、弓を使うエルフなんかも悪くない。小柄な獣人の少女というのも、なかなか捨てがたいところだ。
だが、最初に作るキャラクターとなれば、やはり王道を選びたい。
「……よし。姫騎士にしよう」
金髪碧眼の美しい姫騎士。
華やかな鎧を身にまとい、長剣を手に戦場を駆ける凛々しい女性。
うん、いいじゃないか。
頭の中に浮かんだ姿を再現するべく、俺はさっそく容姿の設定に取りかかった。
まずは髪だ。
色は明るい金色にして、長さは背中の中ほどまで。まっすぐな髪も悪くないが、少しだけ柔らかな曲線をつけた方が、上品な雰囲気になるだろう。
前髪を整え、横髪の長さを調整し、毛先の広がり方まで細かく設定していく。
「……うーん、もう少しだけ長い方がいいか?」
何度か角度を変えて確認した末、ようやく納得のいく長さになったところで、今度は髪をまとめることにした。
長い金髪を後頭部でまとめ、上品なシニョンヘアに仕上げる。せっかくの長い髪が隠れてしまうのは少し惜しいが、姫騎士らしい気品を出すには、こちらの方が似合っている気がした。
次は顔立ちだ。
年齢は十九歳くらいをイメージし、少し大人びた美人にしてみる。目は大きすぎず、やや切れ長に。瞳は澄んだ青色で、鼻筋はすっきりと通し、唇には自然な柔らかさを残す。
あまり冷たい印象にはしたくないので、目尻の角度を少し下げてみた。
「おっ、いいな。美人だけど、ちょっと優しそうな感じになった」
正面から眺め、横顔を確認し、再び正面に戻す。
すると、今度は顎の形が気になってきた。
少し細くしてみたものの、今度は頬とのバランスが悪く感じられる。結局、輪郭全体を調整し直すことになり、気づけば顔だけで相当な時間を使っていた。
「……いや、これ、終わるのか?」
自分で言っておきながら、口元が緩む。
終わらないなら、それはそれで構わない。何しろ、こんなに楽しい作業を途中で切り上げる理由などないのだから。
ようやく顔立ちに満足したところで、次は体型の設定に移ることにした。
身長は百七十センチほど。女性としては少し高めだが、剣を振るう姫騎士なのだから、これくらいは欲しいところだ。
脚は長く、腰は細く、全体的にすらりとした体型にする。
とはいえ、ただ細いだけでは剣士らしくない。肩や腕、脚には適度に筋肉をつけ、しなやかで引き締まった身体を目指す。
「うんうん。やっぱり戦うキャラクターなんだから、ある程度は筋肉も必要だよな」
そんなことを考えながら設定項目を眺めていると、ふと気になるものを見つけた。
『衣装表示 ON/OFF』
「……ん?」
試しに切り替えてみる。
すると、目の前のモデルが身に着けていた衣服が消えた。
「…………オアッ?」
思わず固まってしまった。
目の前には、先ほどまで自分が調整していた女性のモデルが、何も身に着けていない姿で立っている。
「そこまでできるのかよ!?」
慌てて周囲を見回したが、当然ながらテントの中には俺しかいない。
誰かに見られたわけでもないのに、妙に落ち着かない気分になってしまった。
しかし、よく考えてみれば、これはキャラクターを作成するための機能なのだ。身体の細部まで調整できるのであれば、衣服を外して確認できるのも不思議ではない。
それにしたって、普通のゲームではなかなかお目にかかれない仕様である。
「……なるほど。これは本気を出す必要がありそうだな」
誰に聞かせるでもなく呟き、俺は改めてモデルへ視線を戻した。
胸の大きさ、形、位置。腰のくびれや尻の丸み、太腿の太さに至るまで、実に細かく調整できる。
もちろん、俺にも理想というものがある。
まずは胸を大きめにしてみたが、あまり極端にすると全体のバランスが悪くなってしまう。そこで少しだけ大きさを戻し、今度は腰の細さを調整する。
すると、今度は脚の長さが気になってきた。
「……うーん、もうちょっと脚を長くした方がいいかな」
正面から確認し、横に回して確認し、後ろ姿も眺めてみる。
ようやく納得したところで衣装を表示させてみたが、今度は服を着たときの印象が少し違って見えた。
仕方がないので、また衣装を外して調整し直す。
そんなことを何度も繰り返しているうちに、俺はすっかり時間の感覚を失っていた。
「……よし。こんなところか」
ようやく満足できる体型になったところで、俺はモデルをゆっくりと一回転させた。
美しい金髪に澄んだ青い瞳。整った顔立ちに、すらりと伸びた長い脚。女性らしい柔らかな曲線を残しながらも、剣士らしい引き締まった身体つき。
うん、完璧……いや、あとちょっとだけ胸を大きくするか。
よし、少なくとも、今の俺にはこれ以上のものを作れる気がしない。
「……いやあ、我ながらいい仕事をしたな」
満足げに頷き、俺は次の項目を開いた。
続いては装備の設定だ。
どうやら、キャラクター作成時には初期装備も選べるらしい。武器や防具の種類はもちろん、見た目や色合いまで自由に調整できるようだ。
ただし、装備の性能そのものには一定の制限があるらしく、どれほど豪華な見た目にしても、最初から伝説級の武器や防具を持たせられるわけではない。
「まあ、そりゃそうか。見た目だけなら自由ってことだな」
それなら話は早い。
せっかく姫騎士を作るのだから、装備もそれらしいものにしたい。
まずは白と銀を基調としたドレスアーマーを選び、ところどころに金色の装飾を加えていく。肩や腕には美しい曲線を描く金属製の防具を配置し、腰回りには布地を組み合わせた短めのスカートをつけた。
胸元は少し大胆なデザインにしてみたが、下品になりすぎないように全体のバランスを調整する。
「うん。やっぱり姫騎士といえば、こういう華やかな鎧だよな」
実際の戦場で使うには、いろいろと問題がありそうな気もする。
だが、今は見た目が重要だ。
それに、ここは剣と魔法の異世界なのだから、多少ファンタジーらしい装備でも構わないだろう。
武器には、装飾の施されたロングソードを選んだ。
刀身はまっすぐで、柄には金色の意匠を加える。華美になりすぎない程度に整えれば、姫騎士にふさわしい剣の完成だ。
「……おお、格好いいじゃん」
装備を身に着けたモデルを眺めながら、思わず感嘆の声が漏れる。
そこには、まさしく俺が思い描いた理想の姫騎士が立っていた。
あとは能力を設定すれば、ひとまずキャラクターとしての形は完成する。
俺はステータスの項目を開いた。
画面には、筋力、耐久力、素早さ、魔力など、いくつもの能力値が並んでいる。それぞれにポイントを割り振ることで、キャラクターの能力を決められる仕組みらしい。
そういえば、ガイドブックにも、現地の剣士や魔法使いの一般的な能力傾向が紹介されていたはずだ。
さっそく該当するページを開いてみると、そこにはおすすめのステータス配分やスキル構成が、ゲームの攻略本さながらに紹介されていた。
「……本当に攻略本みたいだな、これ」
剣士を目指すなら筋力と素早さを重視し、耐久力にもある程度の余裕を持たせると良いらしい。反対に、魔法を使わないのであれば、魔力は後回しでも問題ないようだ。
なるほど。こういう説明があるのは助かる。
何しろ、俺には実際に剣を振るった経験などないのだから。
それにしても、本当に普通のゲームみたいだな。
いろいろとツッコミたいところはあるが、面白いので良しとしよう。
さて、ガイドブックの説明も理解できたところで、実際にポイントを振り分けていこう。
姫騎士なのだから、当然ながら剣を使って戦うキャラクターにしたい。ガイドブックのおすすめに従って筋力と素早さを中心に振り分け、耐久力にもある程度の余裕を持たせることにする。
反対に、魔法については今回は諦めることにした。
剣も魔法も使える万能型というのは魅力的だが、限られたポイントを分散させると、どちらも中途半端になってしまいそうだ。
「最初のキャラだし、やっぱり特化型の方がいいよな」
方針が決まったところで、俺は画面を操作し、各能力値にポイントを割り振っていった。
筋力を上げれば攻撃力が増し、素早さを上げれば動きが軽くなる。耐久力も必要だが、そこばかり高くしても仕方がない。
ゲームでキャラクターの育成方針を考えているときと同じで、こういう作業もなかなか楽しいものだ。
最終的に、筋力と素早さを中心に、耐久力にも十分なポイントを振り分けた。
「よし。こんなもんだろ」
続いてスキルの項目を開く。
そこには、剣術、槍術、弓術、格闘術といった武器に関するものから、魔法や補助能力まで、実にさまざまなスキルが並んでいた。
どうやら、ステータスとは別に用意されたポイントを使って取得する仕組みらしい。
「おお、こっちも結構種類があるな……」
興味を引かれるものはいくつもあったが、今回は剣士としての能力を優先することにした。
まずは《剣術》だ。
項目を開いてみると、レベルごとに必要なポイントが表示されていた。
レベルが上がるほど消費するポイントも増えるらしく、最高レベルまで取得するには、それなりの負担があるようだ。
「……レベル五まであるのか」
説明によれば、レベル五は剣術の極致に達した者が扱う領域らしい。
なかなか大げさな説明だが、せっかくなら最高レベルを目指したい。
幸い、今のポイントでも取得できそうだったので、俺は迷わず《剣術Lv5》を選択した。
「よし。これで剣の腕は問題ないだろ」
もっとも、俺自身はまともに剣を握ったことすらない。
実際にどれほどの動きができるのかは、変身してみなければ分からないが、少なくとも魔物相手に何もできず逃げ回るようなことにはならないはずだ。
残ったポイントでいくつかの剣技を取得し、ようやく能力の設定も完了した。
「……ふう。これで大体完成かな」
大きく息を吐き、目の前のモデルを眺める。
容姿、装備、ステータス、スキル。
どれも十分に時間をかけて作り込んだつもりだ。
しかし、設定項目を見直していたところで、まだ一つだけ残っていることに気づいた。
『背景設定』
「……ああ、そういえば、これもあったな」
項目を開くと、画面には説明文が表示された。
『キャラクター背景設定』
『キャラクターの出自、経歴、性格、過去の出来事などを自由に設定できます。この項目は任意であり、設定しなくてもキャラクターの作成に支障はありません。基本的にはフレーバーテキストとなっており、ステータスやスキル等には反映されません』
「ふむふむ」
ここまでは分かる。
キャラクターのプロフィールを自由に作れるということだろう。
フレーバーテキストということからも、作成したキャラクターの雰囲気なんかを作るだけのもののようだ。
しかし、その下には少し気になる文章が続いていた。
『なお、設定した内容によっては、何らかの影響を及ぼす可能性があります』
「……ん?」
どういうことだろう。
背景設定によってイベントが変わったり、何か特別な能力が解放されたりするのだろうか。
気になって説明の続きを読んでみる。
『この先は、君自身の目で確かめてみよう』
「……なんだよ、それ!」
思わず声を上げてしまった。
さっきまで妙に丁寧な説明だったくせに、最後だけ急に昔のゲーム攻略本みたいな言い回しになっている。
しかも、肝心な部分は何一つ説明されていない。
「いや、そこはちゃんと教えてくれよ……」
しばらく画面を眺めてみたり、ガイドブックを読んでみたりしたが、それ以上の説明は見当たらなかった。
どうやら、本当に自分で確かめろということらしい。
とはいえ、設定しなくても問題はないようだし、わざわざ面倒なことを考える必要もないのかもしれない。
そう思ったところで、俺はふと考え直した。
「……いや、せっかくここまで作ったんだしな」
元の世界では、ゲームだけでなくTRPGも好きだった。
自分でキャラクターを作り、仲間と一緒に冒険するあの遊びでは、能力や装備だけでなく、キャラクターの性格や生い立ちまで考えることができる。
もちろん、そこまで細かく設定しなくても遊べるのだが、俺はついつい余計なところまで考えてしまう方だった。
「TRPGとかやってると、こういう設定も凝っちゃうんだよなぁ……」
キャラクターがどんな環境で育ち、何を経験し、どうして冒険者になったのか。
そういった背景を考えているうちに、いつの間にか一人の人物の人生が出来上がっていく。
俺は、あの感覚が結構好きだった。
「よし。せっかくだし、背景設定も作ってやるか」
まずは、このキャラクターの出自からだ。
姫騎士をイメージして作ったのだから、やはり王族ということにしたい。
「姫騎士なんだから、背景設定は……まあ、姫だよな」
とはいえ、ただのお姫様では面白みに欠ける。
せっかくなら、もう少しドラマのある設定にしてみたいところだ。
「うーん……亡国の王女、とか?」
悪くない。
平和な小国に生まれた王女だったが、ある日、大国に攻め込まれて国が滅亡してしまう。
うん、なかなか王道の設定だ。
「両親は……目の前で処刑されたことにするか。で、本人は敵国に捕まって……」
その後はどうしよう。
敵国の王に捕らえられ、王族としての尊厳を踏みにじられるような生活を送った末に、隙を見て逃亡したことにでもしておこうか。
「……よし。なかなかそれっぽくなってきたな」
我ながら、随分と悲劇的な設定になったと思う。
しかし、亡国の王女が一人で生き延び、剣を手に冒険するというのは、なかなか格好いいではないか。
せっかくなら、もう少し人間関係も考えてみよう。
「恋人は……うーん、最初から恋人がいたっていうのもなぁ」
それなら、幼い頃から憧れていた相手がいた、という設定にするのはどうだろう。
相手は騎士団長。
小さい頃から剣を教えてくれた年上の男性で、王女はいつしか淡い恋心を抱くようになっていた。
「……うん、いいな。王道だけど、こういうのは嫌いじゃない」
しかし、国が滅んでしまった以上、そんな恋が実るはずもない。
騎士団長も戦いの中で命を落とし、王女は想いを伝えることすらできなかった。
「で、捕まってるときに……そうだな。騎士団長の首を目の前に持ってこられた、とか」
敵国の兵士が、捕虜となった王女の前に騎士団長の首を突きつける。
彼女はその光景を目にして深い心の傷を負い、それ以来、彼のことを思い出すたびに苦しむようになった。
「……うーん、我ながら可哀想な設定だな」
両親を殺され、故郷を失い、憧れていた相手まで奪われる。
ここまで不幸を詰め込むと、さすがにやりすぎな気もしてきた。
しかし、悲劇的な過去を背負いながらも、剣を手に前へ進もうとする姫騎士というのは、なかなか魅力的な設定だと思う。
「……まあ、いいか。こういうのも嫌いじゃないし」
そんなことを考えながら、俺は設定を入力していく。
これはあくまでキャラクターの背景設定でしかない。
実際にそんな過去があったわけでもなければ、誰かに聞かせる予定があるわけでもない。
だが、こういう背景設定を考えておくことで、キャラクターに愛着が湧くってもんだ。
ひととおり入力を終えたところで、俺は保存の項目を選択した。
『背景設定を保存しました』
「よし。これで完成だな」
ようやく、すべての設定が終わった。
あとは名前をつければ、キャラクター作成は完了する。
「名前か……。そうだなぁ」
せっかくの姫騎士なのだから、それらしい名前にしたい。
姫なんだし、長ったらしい名前の方がそれらしいだろう。
少し考えた末、王族らしい華やかさを感じる名前を思いついた。
『シャルロッテ・アーデルハイト・セレスティーヌ・フォン・ローゼンハルト』
我ながら長すぎる。
まあ、普段はシャルと名乗ればいいだろう。
短くて呼びやすいし、どこか上品な響きもある。
何より、あれだけ時間をかけて作った姫騎士なのだから、名前くらいは少々大げさでも構わないはずだ。
「よし、シャルで決まりだな」
名前を確定すると、画面に確認のメッセージが表示された。
『キャラクターを作成しますか?』
『作成後は、容姿・初期ステータス・初期スキル・背景設定を変更できません』
俺はもう一度、完成したキャラクターを眺めた。
長い金髪を上品なシニョンヘアにまとめ、澄んだ青い瞳を持つ美しい女性。整った顔立ちと、女性らしくも引き締まった身体つき。白銀のドレスアーマーを身にまとい、腰には美しいロングソードを下げている。
少々胸が大胆になっていることと、スカートが短く、動くたびに中が見えそうなことを除けば、どこからどう見ても、理想の姫騎士だった。
「……完璧だ」
思わず満足げな笑みが浮かぶ。
ここまで時間をかけて作ったのだから、今さら迷う必要もないだろう。
「よし。決定!」
俺は迷わず作成の項目を選択した。
『キャラクターを作成しました』
画面には完成したシャルの姿が表示され、その横にはステータスや装備、スキルなどの情報が並んでいた。
これで、いつでもこの姿に変身できるというわけだ。
「……いやあ、すごいな。まさか本当にこんな能力が使えるとは」
改めてシャルの姿を眺めながら、俺は感慨に浸っていた。
元の世界では、どれほど時間をかけてキャラクターを作っても、結局は画面の向こうにいる存在でしかなかった。
しかし、この世界では違う。
自分が作ったキャラクターの姿になり、その能力を使って実際に冒険できるのだ。
そう考えると、自然と期待が膨らんでくる。
「……さて、さっそく試してみるか」
そう呟いて、俺はふと違和感を覚えた。
何やら、テントの外が薄明るい。
「……ん?」
入口の方へ目を向けると、布地の隙間から柔らかな光が差し込んでいた。
それだけではない。
どこか遠くから、鳥の鳴き声まで聞こえてくる。
「…………あれ?」
嫌な予感がして、俺はテントの入口を少しだけ開いた。
外には、朝日を浴びた森が広がっていた。
「……嘘だろ。もう朝じゃん」
どうやら、キャラクターを作っているうちに一晩が過ぎてしまったらしい。
そういえば、昨日から何も食べていなかった。
食事のことなどすっかり忘れていたし、当然ながら一睡もしていない。
意識した途端、猛烈な眠気と空腹が襲ってきた。
「……やっべ。完全にやらかした」
元の世界でも、ゲームに夢中になって夜更かしすることはあった。
しかし、異世界に来た初日から徹夜でキャラクタークリエイトに没頭するとは、我ながらどうかしていると思う。
もっとも、後悔しているかと聞かれれば、答えは否だった。
目の前には、何時間もかけて作り上げた理想の姫騎士がいる。
これだけのものが完成したのだから、一晩くらい安いものだろう。
「……まあ、変身するのは起きてからでいいか」
そう決めると、俺はキャラクタークリエイトの画面を閉じた。
アイテムボックスから寝袋を取り出し、テントの床に広げる。昨日から着替えてもいないが、今はそんなことを気にしている余裕もなかった。
寝袋に潜り込むと、全身から力が抜けていく。
まぶたを閉じれば、すぐにでも眠ってしまいそうだ。
「……起きたら、まずシャルになってみよう。それから街に行って……」
そこまで考えたところで、大きなあくびが漏れた。
そういえば、これからどうやって生活していくのか、まだ何も決めていない。
仕事も住む場所もなく、そもそも近くの街まで無事に辿り着けるかどうかも分からない。
考えなければならないことは山ほどあった。
それでも、今はもう少しだけ、この楽しい気分に浸っていたかった。
「……おやすみ」
誰に聞かせるでもなく呟くと、俺はそのまま目を閉じた。
意識が眠りに落ちる直前まで、頭の中には完成した姫騎士の姿が浮かんでいた。