人間を研究するエルフの国に招待されました。 作:ドライアイスクリーム
人間を研究するエルフの国に招待されました。
秋から冬に移り変わろうとしている、うすら寒い深夜のこと。
「レイ」は、薄暗い自室のベッドの上でうずくまっていた。
髪型は黒髪のミディアムウルフ。服装は黒いパーカーとスウェット。
中性的な顔立ちと華奢な体躯をしており、両目は長い髪の毛で隠れて見えない。
その子は、脳内で入り乱れる数多の思考に押しつぶされそうになり身悶えしていた。
通っている学校にも馴染めず、家族との折り合いも付いていない。
つまり、どこにも居場所がないのだ。
かつては、それらを苦に幾度も自殺を考えたことがある。
自殺に関する電子書籍も読み実行に移そうとしたが、怖さのあまり一歩を踏み出すことができなかった。
死にたいけれど死ぬのは怖い。そんな状況が現在も続いている。
ーーー誰かこの人生を終わらせてくれ。
そんな思いが強かった。
ふと、風圧を感じた。
枕にうずめていた顔を上げ周囲を見回すと、ベッドのすぐそばで誰かが立っていることが分かった。
不審に思いつつベッドから起き上がり、警戒心を抱きながら部屋の明かりをつける。
するとそこには。
「こんばんは」
長身で、両耳の尖った人型の存在が、柔和な笑みを浮かべ丁寧にお辞儀をしてきた。汚れ1つない乳白色のローブを身にまとっており、上品な風格を漂わせていた。
レイがあっけにとられていると、その存在は小さく口を開いた。
「驚きましたか?私はエルフです。人間界では、様々な物語を通して知られているかと思うのですが」
「……エルフ?」
ここで、初めてレイが口を開いた。
エルフと言えば、ファンタジー世界に登場する長寿の存在であり、弓や魔法の技術に長けている種族だ。
そこまで詳しくはないのだが、レイはそんなイメージを抱いている。
そんなレイを前に、エルフを自称する存在は続ける。
「私は、あなたがたで言うところの異世界からやってきたのです。しかし、異世界と言いましても……いえ、それはまだ言う必要がありませんね」
「剣と魔法が存在するファンタジー世界ですか?」
「どうでしょう。それはご想像にお任せします」
エルフを名乗るその存在は静かに微笑んだ。
「ところで、あなたにご提案なのですが、エルフの国に行ってみたいとは思いませんか?」
いきなりの提案だった。
だが、この流れは何となく知っている。俗に言う異世界転移というものだろう。
「正直に申し上げると、可能であれば来ていただきたいのです。エルフの国の文明の発展のために人間の知識を提供してほしいと思いまして。いつでも人間界に戻ることは可能です。」
レイは無言でエルフの手を握った。
前時代的なファンタジー世界であろうが、文明が急速に発展した近未来的な世界であろうがどうでもいい。
人間界から去れるのであればそれに越したことはない。レイはそのように考えた。
「手を握ったということは、私の提案に承諾したということですね」
レイが小さく頷くと、エルフは片手で指を鳴らした。
「さあ、目を閉じて……」
レイはエルフとともに黒い霧に包まれ、やがてその場から姿を消した。