人間を研究するエルフの国に招待されました。 作:ドライアイスクリーム
ある日の昼間。
レイは自宅に、リアンとリアンの紹介で知り合った友人の女性エルフ、「ジュリア」の二人を呼び談笑していた。
「ねえ、ジュリアとアタシのリアンって名前似てない?だってほら、どっちにも『リア』って言葉が入ってるもん!」
「確かに似てるけど……別に笑い話にすることでもなくない?」
「えー?だって面白いじゃん!」
日本語でも、エルフ語でも『リア』という音が含まれている。そのため、言葉を勉強していたときのレイは、二人の名前を書き分けることにも苦労した。
ジュリアは、リアンと同じくこの国で暮らすエルフだ。
赤と青のオッドアイかつ腰まで伸びる緑髪という点を除けば、外見上はレイと同様に高校生にしか見えない。
また、ジュリアの年齢は二百歳でリアンは五百歳。
年齢が三百歳も離れているものの、リアンには自分の数少ない友人であることを理由に、ジュリアに限りため口で話すことを許されている。
ジュリアは、動画投稿者のクライアントと業務契約を結び、投稿する動画の原稿を書くという珍しい仕事をしている。テーマは、面白い雑学や闇の深い漫画などらしい。
彼女いわく、毎月十本程度のテーマを考えクライアントに提出し、採用されたテーマの原稿を執筆しているようだ。
そうして、原稿料として報酬を支払ってもらい生活しているとのこと。
「レイって無口だよね。私たちの話、黙って聞いてて楽しいの?」
「新鮮味があって面白いですよ」
「ふーん」
何気なく答えると、ジュリアは手元の紅茶をすすった。
レイがジュリアを知ったのは、リアンに紹介されたことがきっかけだった。
エルフ語を勉強していたころ、レイはリアンやウィル以外のエルフとも会話してみたいと提案したことがある。それを聞くが早いか、リアンは彼女を紹介してくれたのだ。
「ジュリアはちょっと気難しい性格の子だけど、レイとだったら仲良くやっていけると思うんだ!」
「人前でそれを言う?」
レイは、初めてジュリアを紹介された際の、そんな二人の親しげなやり取りを覚えている。
そして、レイはジュリアと会話を重ねるうちに友人となり、互いの連絡先をスマホに登録した。
ジュリアは、友人になりたいという意識よりも、人間の存在に対する好奇心の方がはるかに大きかったかもしれない。
また、彼女の話から、エルフの国はこれまで多くの人間を招待してきたとはいえ、生身の人間を見ることは珍しいことであると察することができた。
連絡先を交換して以降、ジュリアは暇さえあればレイの家へ遊びに来るようになった。
レイのことを気に入っているから遊びに来るのか、人間への好奇心を満たしたいから遊びに来るのか。
本人の中でも、その境界は曖昧なのだろう。
「あのね」
ここで、ジュリアが口を開いた。
「私の仕事は、なかなか世間に理解されないと思うんだ。だけど、今ではその仕事が生きがいになってるの。自分の書いた文章が動画という形式で世の中に公表され、その結果が反映される。さらに、クライアントから報酬ももらえる。最高だと思わない?」
「正直なところ、ジュリアさんの仕事はイメージしにくいんですよね」
「その、『さん』って付けるのやめて。友人なんだからジュリアでいいよ。あとため口で喋って。何だか申しわけなさを感じるし……話続けてもいい?」
「わかった。ジュリア、続けて」
「アタシも話聞きたいな!」
レイとリアンの言葉に促され、ジュリアはまんざらでもない表情を浮かべて続ける。
「ここだけの話、この仕事を始めてから、ようやく生きることが楽しくなったんだよね。百九十年くらい引きこもり生活を送ってたの。人生つまんないなって思いながら怠惰に暮らしてた」
紅茶を一口飲み、ジュリアは言葉を紡ぐ。
「だけど、五年くらい前に、エルフの国で動画の原稿を書く仕事が新しくできたんだよ。動画サイトで色んな動画を見てたとき、偶然、ライターを募集する動画投稿者の動画が目に留まったの。元々、文章を書くことには抵抗がなかったし、何気なく応募してテストライティングを受けたんだ」
「それで合格が決まって、今も仕事を続けてるんだね」
「そうそう。まさにそんな感じ」
「立派になったんだねえ!お姉さん嬉しい!」
「……私よりちびっ子のくせにお姉さん?」
「なんだと!?何度も言うようだけど、ジュリアより三百年長く生きてるんだぞ!」
「はいはい、言いたいことは分かったよ。家からチョコレート持ってきたけど欲しい?」
「欲しい!」
ジュリアは、自身のポーチから個包装のチョコレートを取り出すと、リアンに手渡した。
その直後、ジュリアのスマホから呼び出し音が鳴り響いた。
ジュリアは「ちょっとごめんね」と断り、レイとリアンに背中を向け小声で電話に出た。
「お疲れ様です……承知しました。ですが、現在外出中のため、戻り次第内容を確認し再納品させていただきます。はい、はい……こちらこそ申し訳ありません。よろしくお願いします」
スマホを再度タップし、電話対応を終える。
ジュリアは、こちらに体を向け肩をすくめた。
それから、メモアプリを開きながら「クライアントから指摘が入った。あとで直さないと」と言い、スマホに修正点をメモする。
「お仕事大変だねえ」
チョコレートを頬張りながら、リアンが言う。
「アタシも、レイの家庭教師をするっていう使命?みたいなものがあるけど!」
「使命だなんて、大げさな物言いやめなよ。『家庭教師としてエルフの言葉を教えてる』でいいじゃん」
「分かってないなあ!アタシがいなかったら、今ごろレイは言葉も知らないままだったんだよ!」
「リアンさんには感謝してます。おかげで、ある程度の本を読めるようになりましたから」
「別に褒めなくたっていいのに……リアンが調子に乗るだけだよ」
それから、しばらく談笑が続いた。
最近の天気から、今日食べた料理。パソコンやスマホで見た面白い動画まで、思い思いのことを語り合った。
やがてリアンが帰ったあと、レイはジュリアと二人きりになった。
「そういえばレイ、リアンからあの話は聞いたことある?」
「何の話ですか?」
「エルフの出生制度について」
その言葉を聞き、レイは腕を組み考え込む。
リアンから言葉を教わっているとき、そのような話はされただろうか。
過去に、自称独裁者の男がいた。そういった話しか聞かされていなかった。
もしかしたらその話をされた可能性はあるが、当時は言葉を覚えたてだった。聞き逃した可能性は十分にある。
「まあどっちでもいいよ。とりあえず、今からとある場所に一緒に来てほしい。人間の反応が見たいんだ。単なる好奇心」
ジュリアはそう言うと立ち上がり、レイの裾を軽く引っ張った。
「とある場所というと、エルフの出生について分かる場所ですか?」
「そんな感じ。とにかく行こうよ」
エルフの出生。
今までは、人間と変わらないのではないかと思っていたが、ジュリアの反応を見る限り、そうではなさそうだ。
「わかった。興味あるし一緒に行こう。場所はどこ?」
その言葉を聞いたジュリアは、満足そうに頷き、自身のスマホを取り出した。