こんな世界は滅べば良いのに 作:闇落ち精霊
焼け焦げた『将来の為のヒーロー分析』ノートの匂いが、放課後の教室に微かに残っていた。
「来世は個性持ちに生まれることを信じて、屋上からワンチャンダイブ!」
かつて幼馴染であったはずの爆豪勝己が吐き捨てたその言葉は、無個性の幼馴染……緑谷出久の心を粉々に打ち砕くには十分すぎた。絶望で息が詰まり、震える唇から声も出せない出久を背に、爆豪が下品な笑い声を上げて教室を出ようとしたその時だった。
「あまりにも巫山戯た言葉だね。ソレに……周りの皆もおかしいよ」
ガラッ、と教室の扉が開き、室内の温度が急激に氷点下へと落ち込んだ。
「寒みぃ!! テメェの仕業かぁ!」
「——勝己。お前さ今、出久になんて言った?」
そこに立っていたのは、出久と同じ鮮やかな緑色のショートボブを揺らす私……【
「もう1度聞くよ爆豪……出久になんて言った?」
幼馴染でありこの個性という超常の力が蔓延る世界でも数少ない無個性……ソレが緑谷出久という少年。そんな相手を自身の幼馴染でもある彼が追い詰めている。
「あァ!? 無個性のデクに現実を教えてやっただけ——「煩い」ッ!」
『カチャリ』と。爆豪が言い終わるよりも早く、彼の額に古めかしい短銃の銃口が突きつけられていた。私の背後には、巨大で禍々しい時計の幻影『
これまで出久が「誰も傷つけないで」と懇願するからこそ、私は爆豪の暴挙を静観し、彼が後に更生すると識っているからこそ静観していた。だがその絶対の枷が今、出久の心が完全に折れた事で私の自制心に限界が来た。
「ダメだよ出久……こいつは今、出久に死ねって言ったんだ。生かしておく理由がもうどこにもないよ」
引き金に指をかけた瞬間、出久の震える手が、私の細い腕をすがりつくように掴んだ。
「もう、いいんだ……零下ちゃん。もう、疲れたよ……っ」
大粒の涙をこぼし、完全に心が折れてしまった出久の声。
「コレで本当に……終わりにしよう……」
私の横をすり抜けた
「駄目! 出久!」
私が止めるよりも早く出久はその身を投げた。私も後を追って空へと身を投げその身を宙へと浮かべる。間に合え……間に合え!
「
私は落下する出久へ向かい鏖殺公を投擲し出久の制服を……そして校舎の外壁へと突き刺す事に成功する。良かった……間に合った……
「今助けるよ出久!」
私は急いで崩れ落ちそうになる出久をその腕で強く抱きしめた。そして、爆豪が何かを叫ぶ前には出久を連れて夕日に染まる校庭へと降りる。赤く染まった校庭で出久は世界に絶望して虚ろな瞳で周囲を見渡してる。
「出久が死ぬ必要なんてないよ。私が……出久を必ず守るから……」
誰も助けてくれなかった。教師も、幼馴染も、無個性というだけで彼を否定し、切り捨てた。そんな彼の背中を私は後ろから優しく包み込む。もう正論で励ますことなどしない。世界から拒絶された少年の絶望をその深い闇ごと全肯定する事にしよう。
「出久を否定するこんな世界なんて私はいらないよ。そんな事になるなら……」
私は出久を強く抱きしめる。
「出久が泣くくらいなら、ヒーローなんて頼らない。
私は出久と向き合い左手に灰色の
「出久のその素晴らしい頭脳に、私の持つ世界のすべてをあげる。世界が出久を助けないなら私が出久に与えるよ。まずは全知の天使『
「そしてもう二度と、誰にも出久を傷つけさせないから。その為の絶対再生の天使……『
「霊下……ちゃん?」
再び
「霊下ちゃん……身体が熱い……熱いよ!」
二つの天使の力が、出久の体へと流れ込んでいく。瞬間、爆豪につけられたばかりの肩の火傷や救出の際に私がつけてしまった傷が赤黒い炎と共に一瞬にして無傷の状態へと再生した。
「傷が……治ってる……?」
「うん。治ってるよ」
だがその直後。出久に微笑みかけていた私の口から、ごふっ、と大量の鮮血が吐き出された。カマエルによる再生の激痛と破壊衝動が、パスを通じてすべて私へと逆流したのだ。
「れ、零下ちゃん……!? 血が……!」
「だい、じょうぶ……っ。出久が受けた心の痛みに比べたら、こんなの……甘美なご褒美だよ……!」
血まみれの口元を歪め、狂気的に微笑む私はもう1度『
「——『四の弾(ダレット)』」
引き金が引かれると同時に、私の時間が巻き戻り、寿命を削って肉体の崩壊と激痛を隠滅する。何事もなかったかのように微笑む幼馴染を見て、出久は悟った。この少女は、自分を無傷に保つために、自らの命(時間)を燃やして痛みを喰らっているのだと。
「……狂ってるよ。零下ちゃん」
「かもしれないね。でもそれで出久が笑えるなら私は悪魔にでもなってみせるよ」
不思議と出久の涙は止まっていた。空っぽになった心に全知の天使がもたらす世界の薄汚い情報と、目の前で微笑む幼馴染の愛情だけが満ちていく。出久はゆっくりと立ち上がり、血に濡れた零下の頬にそっと手を添えた。
「世界なんて……私にはどうでも良いんだから……」
これは無個性の少年が悪の参謀へと反転し、彼に全てを捧げた天使と共に歩む物語。もう元の物語に戻る事は無いだろう……
需要があれば続きを書くかもしれません
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