ドラクエの世界に転生したらスライムだったけど世界を救う   作:雅2

1 / 1
限りなく透明に近いブルー

 

死してなお

消えぬ灯火

青色に

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

勇者の夢を見る。

 

幾条もの光が軌跡を描く、流麗な剣技。

 

握られている美しい剣。

 

ああ、あれは――

勇者の剣、ロトの剣だ――。

 

 

♢

 

 

体の感覚がおかしい。手足はおろか、体の存在を感じない。まるで首から上しか存在していないような。

 

はっと目覚めると、薄く靄(もや)がかかった場所にいた。

 

「ここは? 俺は一体」

 

「あなたは転生しました」

 

突然声を掛けられ、驚いてそちらを見ると、エルフのような尖った耳をし、天使のような羽根の生えた美しい女性がいた。

 

「貴女は?」

 

「……私はルビス。精霊ルビス」

 

「精霊ルビスって、ドラゴンクエストの?」

 

「はい。そして貴方はドラゴンクエストのスライムに転生しました」

 

何か妙に体がぷるぷるしていると思った。子供の頃、勇者になりたいと思った事はあったが、まさかスライムになるとは。

 

「この世界は、新たに私が創造したものです」

 

「もしかして、ドラクエ12の世界ですか?」

 

「違います」

 

違うのか……。

 

「この世界は、いま危機に瀕しています。数多の世界で勇者に打ち倒された魔王の残留思念が一つとなり、この世界に流れ込んできたのです。このままでは、いずれこの世界は魔の者に支配されるでしょう。貴方にはそれを止めてもらいたいのです」

 

「えっ! ただのスライムなのに? 無茶が過ぎるのでは? それならもっと強い、それこそ勇者にでも転生させてくれれば良かったのに」

 

「本当に……申し訳……ありません。私の力が及ばなかったばかりに。ううっ……」

 

物凄い申し訳なさそうだ。涙まで流して。これは許さざるを得ない。

 

「わ、わかりました。出来るだけの事はします」

 

正直、ドラクエの世界に転生するというワクワク感もある。

 

「ありがとうございます。無論、私も可能な限りの協力はさせて頂きます。差し当たって本日の、まあ言ってしまえばログインボーナスのような物です」

 

そう言って、ルビス様は一振りの剣を差し出した。

 

ログインボーナスか。ソシャゲの開発に携わっていた頃を思い出すな。ドラクエが好きで、そういうゲームを作りたいと思って開発者になったのだけれど、結局過労で倒れてスライムになるとは。

 

「その剣は、鋼の剣ですか?」

 

公式ガイドブックで見た物に似ている。だが、それよりもう少し細く小さい気がする。

 

「似たような物です。けれど、貴方でも装備できる特別製ですよ。この袋に入れておきますね」

 

「入らないのでは?」

 

「大丈夫です。ドラえもんの四次元ポケットみたいな袋ですから」

 

ドラ繋がりか?

 

ルビス様は剣をしまった袋を、優しい手付きで俺の背に括り付けた。

 

「それでは、この世界をよろしくお願い致しますね……」

 

酷く、思い詰めた顔に見えた。

 

なので、俺は元気付けるようにぴょんぴょんと跳ね、

 

「まあ、何とかやってみますよ」

 

と笑いかけた。

 

微笑み返すルビス様が手を掲げると、ぱあっとまばゆい光に包まれて、俺は再び意識を失った。

 

 

♢

 

 

波の音が聞こえる。

 

「目が覚めましたか」

 

涼やかな少女の声が聞こえた。

 

目を開くと、目の前に赤いスライム。随分赤い。ファミコン版ドラクエ1のスライムベスだろうか。

 

「……ここは?」

 

「ここは、スライム属がたくさん住んでいる、スライムの島です。海岸に貴方が流れ着いていたから、ビックリしちゃいました。遭難でもしたんですか?」

 

「まあ、そんな感じかと」

 

「私は、スライムベスのルビーです。貴方は?」

 

「俺は、スライムの……スラリンです」

 

ドラクエのスライムと言えばスラリンだろう。

 

「スラリンさん、私より年上のようですし、敬語なんか使わなくて良いですよ」

 

くすり、と少女が笑った。

 

スライムにも心臓があるのだろうか。眩しい笑顔に胸?の高鳴りを感じる。

 

不意に頭上でバサリと羽音が聞こえ、影がよぎる。

 

笛のような鳴き声と共に、ルビーの頭上へ、ふわりと鳶が飛来して来た。

 

「危ないっ!」

 

「え?」

 

鋭い爪が閃いたのを見て、慌ててルビーを突き飛ばす。

 

「あいたたたっ!」

 

鳶の爪にがっちり掴まれてしまった。

 

くそっ、このままでは何処かへ連れていかれてしまう。モンスターでもない鳥に、負けてたまるか!

 

俺はぷるんぷるんと体をくねらせた。

 

そんな風に、ひたすら体をよじってもがいていると、鳶は諦めたのか爪を離し、飛び去って行った。

 

危なかった。鳥の餌にされるところだった。

 

「あ、ありがとうございます。すみません、庇って頂いて……」

 

「いや、お嬢さんが無事で何より」

 

涙が出そうだが、かっこ悪い所を見せたくなくてグッと堪えた。

 

「大変! 血が出ています。私の巣に薬草がありますから行きましょう。手当します」

 

 

♢

 

 

ルビーの巣は小さな洞穴だった。

 

薬草を塗ってもらうと、驚く程痛みが引いていく。

 

「あの、スラリンさん。もし行く当てがなければ、私と一緒にいてくれませんか?」

 

「どうして?」

 

「私、寂しがり屋なんです。だから、スラリンさんみたいな方が、一緒にいてくれると良いなって……」

 

唐突な申し出に面食らったが、スライムとしての生き方も、この世界の勝手も分からない身だ。この少女と、しばし共に生きるのも良いかもしれない。

 

それに、寂しがり屋を自称する、この儚げな少女を放ってはおけなかった。

 

「ああ、構わないよ」

 

「良かった。じゃあ、よろしくお願いしますね」

 

出会ったばかりの男女が一緒に暮らすのはどうかとも思うが、スライム達の間では珍しい事ではないのかもしれない。ならば、俺も変に意識しない方が良いだろう。

 

 

♢

 

 

こうして、俺はルビーと生活を共にする事となった。

 

食事はその辺に生えてる草や小川の水が主だった。当初、草を食べる事に戸惑っていた俺を見て、ルビーは首?を傾げていた。

 

だが、食べてみると美味だった。まさか、草をこんなに美味しく感じるようになろうとは。しかし、木の実は更に美味い。なので、ルビーと一緒に木の実を拾い集めるのが日課になった。

 

ルビーは優しくて大人しく、俺たちの生活は穏やかだった。

 

暇な時間に、俺は剣を振るった。

 

仮にもこの世界の創造神であるルビス様から、直々にこの世界を護って欲しいと言われたのだ。鍛錬はしておくべきだろう。

 

だが、まず手が無いので普通に剣を持つことが出来ない。なので、柄を体にめり込ませ、包み込むように持った。まるで体から剣が生えてるみたいだ。

 

剣を振り回すようになって数日。頭の中でファンファーレが聞こえた気がした。もしかしたらレベルアップしているのかもしれない。

 

剣を振る事にも大分慣れた頃、いつものように鍛錬していると、声を掛けられた。

 

「熱心ダナ」

 

ガサガサと茂みからベホマスライムが出てきた。微妙に片言だ。

 

「どうも」

 

「強くなりたいナラ、相手がいたほうが良いんじゃないか?」

 

触手に棒きれを持って、ぶんぶん振ってる。どうやら、特訓に付き合ってくれるつもりらしい。

 

「俺はスライムのスラリン。君は?」

 

「ベホマン。ベホマスライムだ」

 

ドラクエ6のベホマンを彷彿とさせる。同じような存在として、ルビス様が作ったのかもしれない。

 

俺は鞘を付けて相手をする事にした。

 

二、三度打ち合って、すぐに気付いた。力も速さも違い過ぎる。回復キャラのイメージが強いが、ベホマスライムとただのスライムでは、初期ステータスに差があり過ぎるのだ。

 

十分も打ち合っていると、俺はすっかり息が上がってしまった。

 

「マダマダだな」

 

ぽむぽむと俺を触手で軽く撫で、ベホマンは去っていた。

 

情けないが、格上の相手と特訓したせいか、経験値がかなり稼げた気がする。

 

『スラリンはレベルが上がった。ニフラムを覚えた』

 

そんなメッセージが脳内に流れた気がした。

 

ニフラム? 確かにドラクエ5の仲間スライムは二フラムを覚えるけど。

 

「ニフラム!」

 

試しに唱えて見ると、ピカッと光が放たれた。ゾンビ系の魔物に遭遇してもやり過ごせるな。まあ、この島にはスライム系以外のモンスターはいないんだけど。

 

 

♢

 

 

ある朝、ルビーが木に実った林檎をじっと見上げていた。

 

「食べたいの?」

 

「ええ、でも、私高い所が苦手で……」

 

「じゃあ、俺が採ってくるよ」

 

剣の特訓をしているからか、この体で動く事にもすっかり慣れていた。俺はしゅるしゅると木に登り、林檎をぶちっともぎ取った。

 

「はい、ルビー」

 

「ありがとうございます。スラリンさんが採って下さったのですから、半分こしましょう」

 

にっこり微笑むルビー。だが、どうやって半分にしよう。剣で斬るか?

 

「私、こっちから食べますから、スラリンさん反対側から食べて下さい」

 

ポッキーゲームみたいだ。

 

むしゃり、と真っ赤な林檎に噛り付く。

 

間近にルビーの顔があって、何だか照れてしまう。

 

しゃくり、しゃくり、互いの咀嚼音だけが聞こえる。ルビーの口がとても近い。

 

何故だか俺の鼓動は高鳴っていた。

 

「美味しかったですね」

 

林檎を食べ終え、ルビーはニコニコぷるぷるとしていた。

 

「ああ、そうだね」

 

俺は何だか緊張してしまって、味が良く分からなかった。

 

「ねえ、スラリンさん」

 

「ん?」

 

じっと、ルビーが俺を見つめていた。潤んだ瞳で。憂いを帯びた瞳で。

 

不意に陽光に照らされ、彼女からキラキラと赤い輝きが零れ出る。

 

そして、その華憐な唇は、予想だにしなかった言葉を紡いだ。

 

「私のお兄ちゃんに、なってくれませんか?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。