ドラクエの世界に転生したらスライムだったけど世界を救う 作:雅2
死してなお
消えぬ灯火
青色に
◇◆◇◆◇◆
勇者の夢を見る。
幾条もの光が軌跡を描く、流麗な剣技。
握られている美しい剣。
ああ、あれは――
勇者の剣、ロトの剣だ――。
♢
体の感覚がおかしい。手足はおろか、体の存在を感じない。まるで首から上しか存在していないような。
はっと目覚めると、薄く
「ここは? 俺は一体」
「あなたは転生しました」
突然声を掛けられ、驚いてそちらを見ると、エルフのような尖った耳をし、天使のような羽根の生えた美しい女性がいた。
「貴女は?」
「……私はルビス。精霊ルビス」
「精霊ルビスって、ドラゴンクエストの?」
「はい。そして貴方はドラゴンクエストのスライムに転生しました」
何か妙に体がぷるぷるしていると思った。子供の頃、勇者になりたいと思った事はあったが、まさかスライムになるとは。
「この世界は、新たに私が創造したものです」
「もしかして、ドラクエ12の世界ですか?」
「違います」
違うのか……。
「この世界は、いま危機に瀕しています。数多の世界で勇者に打ち倒された魔王の残留思念が一つとなり、この世界に流れ込んできたのです。このままでは、いずれこの世界は魔の者に支配されるでしょう。貴方にはそれを止めてもらいたいのです」
「えっ! ただのスライムなのに? 無茶が過ぎるのでは? それならもっと強い、それこそ勇者にでも転生させてくれれば良かったのに」
「本当に……申し訳……ありません。私の力が及ばなかったばかりに。ううっ……」
物凄い申し訳なさそうだ。涙まで流して。これは許さざるを得ない。
「わ、わかりました。出来るだけの事はします」
正直、ドラクエの世界に転生するというワクワク感もある。
「ありがとうございます。無論、私も可能な限りの協力はさせて頂きます。差し当たって本日の、まあ言ってしまえばログインボーナスのような物です」
そう言って、ルビス様は一振りの剣を差し出した。
ログインボーナスか。ソシャゲの開発に携わっていた頃を思い出すな。ドラクエが好きで、そういうゲームを作りたいと思って開発者になったのだけれど、結局過労で倒れてスライムになるとは。
「その剣は、鋼の剣ですか?」
公式ガイドブックで見た物に似ている。だが、それよりもう少し細く小さい気がする。
「似たような物です。けれど、貴方でも装備できる特別製ですよ。この袋に入れておきますね」
「入らないのでは?」
「大丈夫です。ドラえもんの四次元ポケットみたいな袋ですから」
ドラ繋がりか?
ルビス様は剣をしまった袋を、優しい手付きで俺の背に括り付けた。
「それでは、この世界をよろしくお願い致しますね……」
酷く、思い詰めた顔に見えた。
なので、俺は元気付けるようにぴょんぴょんと跳ね、
「まあ、何とかやってみますよ」
と笑いかけた。
微笑み返すルビス様が手を掲げると、ぱあっとまばゆい光に包まれて、俺は再び意識を失った。
♢
波の音が聞こえる。
「目が覚めましたか」
涼やかな少女の声が聞こえた。
目を開くと、目の前に赤いスライム。随分赤い。ファミコン版ドラクエ1のスライムベスだろうか。
「……ここは?」
「ここは、スライム属がたくさん住んでいる、スライムの島です。海岸に貴方が流れ着いていたから、ビックリしちゃいました。遭難でもしたんですか?」
「まあ、そんな感じかと」
「私は、スライムベスのルビーです。貴方は?」
「俺は、スライムの……スラリンです」
ドラクエのスライムと言えばスラリンだろう。
「スラリンさん、私より年上のようですし、敬語なんか使わなくて良いですよ」
くすり、と少女が笑った。
スライムにも心臓があるのだろうか。眩しい笑顔に胸?の高鳴りを感じる。
不意に頭上でバサリと羽音が聞こえ、影がよぎる。
笛のような鳴き声と共に、ルビーの頭上へ、ふわりと鳶が飛来して来た。
「危ないっ!」
「え?」
鋭い爪が閃いたのを見て、慌ててルビーを突き飛ばす。
「あいたたたっ!」
鳶の爪にがっちり掴まれてしまった。
くそっ、このままでは何処かへ連れていかれてしまう。モンスターでもない鳥に、負けてたまるか!
俺はぷるんぷるんと体をくねらせた。
そんな風に、ひたすら体をよじってもがいていると、鳶は諦めたのか爪を離し、飛び去って行った。
危なかった。鳥の餌にされるところだった。
「あ、ありがとうございます。すみません、庇って頂いて……」
「いや、お嬢さんが無事で何より」
涙が出そうだが、かっこ悪い所を見せたくなくてグッと堪えた。
「大変! 血が出ています。私の巣に薬草がありますから行きましょう。手当します」
♢
ルビーの巣は小さな洞穴だった。
薬草を塗ってもらうと、驚く程痛みが引いていく。
「あの、スラリンさん。もし行く当てがなければ、私と一緒にいてくれませんか?」
「どうして?」
「私、寂しがり屋なんです。だから、スラリンさんみたいな方が、一緒にいてくれると良いなって……」
唐突な申し出に面食らったが、スライムとしての生き方も、この世界の勝手も分からない身だ。この少女と、しばし共に生きるのも良いかもしれない。
それに、寂しがり屋を自称する、この儚げな少女を放ってはおけなかった。
「ああ、構わないよ」
「良かった。じゃあ、よろしくお願いしますね」
出会ったばかりの男女が一緒に暮らすのはどうかとも思うが、スライム達の間では珍しい事ではないのかもしれない。ならば、俺も変に意識しない方が良いだろう。
♢
こうして、俺はルビーと生活を共にする事となった。
食事はその辺に生えてる草や小川の水が主だった。当初、草を食べる事に戸惑っていた俺を見て、ルビーは首?を傾げていた。
だが、食べてみると美味だった。まさか、草をこんなに美味しく感じるようになろうとは。しかし、木の実は更に美味い。なので、ルビーと一緒に木の実を拾い集めるのが日課になった。
ルビーは優しくて大人しく、俺たちの生活は穏やかだった。
暇な時間に、俺は剣を振るった。
仮にもこの世界の創造神であるルビス様から、直々にこの世界を護って欲しいと言われたのだ。鍛錬はしておくべきだろう。
だが、まず手が無いので普通に剣を持つことが出来ない。なので、柄を体にめり込ませ、包み込むように持った。まるで体から剣が生えてるみたいだ。
剣を振り回すようになって数日。頭の中でファンファーレが聞こえた気がした。もしかしたらレベルアップしているのかもしれない。
剣を振る事にも大分慣れた頃、いつものように鍛錬していると、声を掛けられた。
「熱心ダナ」
ガサガサと茂みからベホマスライムが出てきた。微妙に片言だ。
「どうも」
「強くなりたいナラ、相手がいたほうが良いんじゃないか?」
触手に棒きれを持って、ぶんぶん振ってる。どうやら、特訓に付き合ってくれるつもりらしい。
「俺はスライムのスラリン。君は?」
「ベホマン。ベホマスライムだ」
ドラクエ6のベホマンを彷彿とさせる。同じような存在として、ルビス様が作ったのかもしれない。
俺は鞘を付けて相手をする事にした。
二、三度打ち合って、すぐに気付いた。力も速さも違い過ぎる。回復キャラのイメージが強いが、ベホマスライムとただのスライムでは、初期ステータスに差があり過ぎるのだ。
十分も打ち合っていると、俺はすっかり息が上がってしまった。
「マダマダだな」
ぽむぽむと俺を触手で軽く撫で、ベホマンは去っていた。
情けないが、格上の相手と特訓したせいか、経験値がかなり稼げた気がする。
『スラリンはレベルが上がった。ニフラムを覚えた』
そんなメッセージが脳内に流れた気がした。
ニフラム? 確かにドラクエ5の仲間スライムは二フラムを覚えるけど。
「ニフラム!」
試しに唱えて見ると、ピカッと光が放たれた。ゾンビ系の魔物に遭遇してもやり過ごせるな。まあ、この島にはスライム系以外のモンスターはいないんだけど。
♢
ある朝、ルビーが木に実った林檎をじっと見上げていた。
「食べたいの?」
「ええ、でも、私高い所が苦手で……」
「じゃあ、俺が採ってくるよ」
剣の特訓をしているからか、この体で動く事にもすっかり慣れていた。俺はしゅるしゅると木に登り、林檎をぶちっともぎ取った。
「はい、ルビー」
「ありがとうございます。スラリンさんが採って下さったのですから、半分こしましょう」
にっこり微笑むルビー。だが、どうやって半分にしよう。剣で斬るか?
「私、こっちから食べますから、スラリンさん反対側から食べて下さい」
ポッキーゲームみたいだ。
むしゃり、と真っ赤な林檎に噛り付く。
間近にルビーの顔があって、何だか照れてしまう。
しゃくり、しゃくり、互いの咀嚼音だけが聞こえる。ルビーの口がとても近い。
何故だか俺の鼓動は高鳴っていた。
「美味しかったですね」
林檎を食べ終え、ルビーはニコニコぷるぷるとしていた。
「ああ、そうだね」
俺は何だか緊張してしまって、味が良く分からなかった。
「ねえ、スラリンさん」
「ん?」
じっと、ルビーが俺を見つめていた。潤んだ瞳で。憂いを帯びた瞳で。
不意に陽光に照らされ、彼女からキラキラと赤い輝きが零れ出る。
そして、その華憐な唇は、予想だにしなかった言葉を紡いだ。
「私のお兄ちゃんに、なってくれませんか?」