ドラクエの世界に転生したらスライムだったけど世界を救う 作:雅2
剣を握らば修羅となり
修羅となりては
その生涯
血濡れの道を歩む他無し
◇◆◇◆◇◆
夢の中、靄が掛かった空間にいた。
ゆらりと人影が現れる。
「お久し振りですね。スライムの体には、慣れましたか?」
見覚えのあるその人は、ルビス様だった。
「ええ、かなり慣れましたよ。島の皆も良くしてくれるし」
「それは良かった。それでは、本日のログインボーナスです」
渡されたのは聖水だった。
「何か今日はいまいちなアイテムですね」
「でも、ログインボーナスって、そういう物ではありませんか?」
「確かに、そうかも」
基本はいまいちだったりそれなりで、たまに良い物がもらえるイメージだ。
「ログインボーナスって言っても、毎日くれるわけではないんですね」
「実は、貴方の夢に出てきてアイテムを渡すのは、かなり力を消耗してしまうのです。今回はいまいちでしたが、次回は特別な物をお渡ししますので」
特別な物、危ない水着とかだろうか。
そんな事を考えていると、脳が眠りから覚めようとしているのを感じた。
ルビス様はやはり憂いを帯びた表情をしていて、何だかとても気になったけど、何か言葉を紡ぐ前に、意識が覚醒していった。
目覚めると、間近にルビーの顔があった。
「おはようお兄ちゃん。今日は、教会にお祈りに行こう」
「教会? この島にあるんだ」
「うん。食べ物も貰えるんだよ」
ルビーが目をキラキラさせている。さては、それが目当てだな。
教会は、島の中心部にある洞窟に作られていた。ルビーと連れ立って入ると、修道女のベールを被ったスライムと、はぐれメタルが出迎えてくれた。
「まあ、お久しぶりですね。ルビーさん」
「やっほー、ルビーちゃん」
「しすたーさん、はぐりんさん、こんにちは。あ、こちら私のお兄ちゃんです」
「どうも初めまして。スラリンです」
「まあまあ、わたし、ここでシスターをしている、しすたーと申します」
ややこしい。けど、そういえば、スライムもりもりドラゴンクエスト2に、そういう可愛いキャラが居たな。
「私は、はぐりん。お姉ちゃんって呼んでくれても良いよ」
この世界のはぐりんはメスなんだな。戯れに『姉さん』と呼んでみると、キュルキュルと嬉しそうに喉?を鳴らしていた。
教会にはバブルスライムやホイミスライム、メタルスライムなど、多種多様なスライム達が来ていた。みんな熱心にお祈りをしている。
お祈りを済ませると、はぐりんが丸焼きになった猪を運んできた。
「今日はおっきいのが獲れたよ~」
「調理済みなんだ」
「ギラで狩ったからね。丁度良く焼けたの」
「でも、教会で肉は良いんだろうか」
「良いのですわ。たまには、お肉を食べたいのです」
俺の疑問に、しすたーがニコニコしながら答える。戒律とかはあまり厳しくないようだ。
「では、切り分けますね。バギ!」
しすたーの唱えた呪文により、真空の刃が肉を切り裂いた。まさかこんな風にバギを使うとは。
「バギを使えるスライムって、珍しいですね」
ゲームでは、しすたーはホイミを使ってたけど。
「えっへん。実は以前、ダーマの神殿で僧侶になったのです。丁度良く切り分けられるようになるまでは、大変でしたけどね」
この世界にもダーマがあるのか。魔王の思念とやらと戦うなら、上級職を目指したいところだ。バランス的にはパラディンだな。回復も攻撃もこなせるから、一人でも戦える能力がある。
帰り道、ルビーは少しだけ拗ねたように頬を膨らませていた。
「お兄ちゃん、しすたーさんとはぐりんさんに見惚れていたでしょ。二人ともすっごく綺麗だもんね」
見惚れていたつもりは無かったが、そう見えてしまっていたか。
「ルビーだって綺麗だよ」
赤さとか。
「や、やだっ、お兄ちゃんってば♡ もうっ♡」
ルビーは赤い顔をますます赤くして、ぷよんぷよんと揺れた。
♢
ルビー、マリリン、しすたー、はぐりん。
もしかして、俺はドラクエ世界が舞台の、スライムギャルゲーの世界に転生したのではなかろうか。ベホマンは男だけど。男だよな?
そんなアホな事を考えながら、ルビーと木の実を拾っていた時の事だった。
「あら、何だろう。これ」
「! 待て! ルビー! それに触るな!!」
「えっ? 熱っ!」
触れるだけで危険な毒キノコ、カエンタケだ。この世界にも生えているなんて。
「大丈夫か!?」
「う……クラクラする……」
震えている。触れただけで神経症状が出るなんて。スライムの体表は成分を取り込みやすいのかもしれない。それに、体が小さい分、毒が回るのが速いのか。
「ルビー、近くに毒消し草が生えている。すぐに採って来るから、動かないで待っていろ」
剣の修行に使っている広場。あそこには、毒消し草の花が咲いていた。
俺は
不意に気付く、ルビーが俺にとって、かけがえのない存在になっている事に。
当然だ。スライムになった不安や心細さ、そういった負の感情を、ルビーのお陰で感じる事が無かったのだから。
ルビーが側にいてくれたから、俺はいつも笑えていた。
必ず助けてみせる。
全速力で走った俺は、息を切らしながら広場に着いた。
そして、毒消し草に体を伸ばしたその時、樹上から感じた。ゾッとするような視線を。
見上げた先に、ハゲワシのような顔と翼。蛇のような胴体。
キメラ……だと? どうして? この島にはスライム属しかモンスターはいないはず……。
目が合った。
「気付かれたか。哀れな。気付かなければ、死なずに済んだものを」
高速で下降して来たキメラの嘴を、すんでのところで躱す。
俺の中で、怒りと焦りが沸々と湧き上がった。
邪魔だ、コイツは――。
「どけ!」
俺は……!
袋から剣を取り出し、抜いた。一刻も早くルビーを助けるために――、
殺す。
「ほう、スライムが剣を使うとはな」
ガキィン!
再び飛来するキメラの攻撃を、剣で防いだ。速い。しかも、上空から飛来し、攻撃を加え、また上昇する。スライムのリーチじゃ、近付いたところを狙わないと攻撃が届かないし、いつまでも防げるものじゃない。
ギィン! ガァン! ドガッ!
事実、徐々に防げなくなって来た。
「ぐはっ!」
嘴が体にめり込み、俺の口から苦悶の声が漏れ出でる。
ブンッ!
渾身の力を込めて振るった剣は、空を斬った。
不味い。このままでは、俺もルビーも助からない。どうする? どうすれば勝てる?
夢で見た勇者の剣技。あんな剣技が使えれば。
いや、使うしかない。
繰り返し見た夢。繰り返し振った剣。幾度となく繰り返したベホマンとの打ち合い。
見様見真似で構わない。俺なら使えるはずだ!
足は無い。が、地面に接している部分を意識する。他の部分は、しなやかに脱力しながらも、接地部分に溜めた力を、瞬間的に爆発させる!
――剣技・疾風突き――
ドスッ!!
闇のように黒い血が、飛び散った。
最速の剣技は、俺に向かって飛来したキメラの喉を串刺しにしていた。
カウンター。向かってくる奴の推進力も利用し、高い威力を生み出したのだ。
命を剣で貫いた感覚は、戻れない道へ踏み出した感覚を想起させる。
「ぐはっ!! ば、ばか、な、スライム、如きが……」
信じられぬ物を見た表情のまま、墜落し、キメラは絶命した。
急がないと……。俺はブチブチと毒消し草を千切り、ぼろぼろの体で再び駆けた。
「ルビー、遅くなってごめん。採ってきたぞ」
苦し気に喘ぐルビーの口に、毒消し草を含ませた。もごもごとルビーの口が動き、ごくりと嚥下し、少し経つと呼吸が落ち着いて来た。
「大丈夫か?」
「うん……、ありがとう、お兄ちゃん……」
そう言って、ルビーはうとうと目を閉じた。すうすうと寝息が聞こえる。少し眠った方が良いのかもしれない。俺も疲れたし、しばらくここに居よう。
そう思った時、ぎゃあぎゃあと耳障りな声が聞こえた。
「まさか、キメラがスライムに倒されるとはな」
「しかし、満身創痍、と言ったところか。二対一なら始末出来よう」
現れたのは、大きな鴉の魔物、デスフラッターだった。
まずい、残ってるダメージと疲労が大き過ぎる。二匹を相手に出来るだろうか? だが、それでもルビーだけは守らなければ。
剣を取り出す暇もなく、デスフラッターは襲い掛かって来た。
攻撃速度が速い。二匹の猛攻を躱すのが精一杯で、剣を構える事すらできない。
「すばしっこい奴め」
デスフラッター達は攻撃を躱し続ける俺から距離を取った。ふと、その視線が向いている先に気付いて、俺は蒼褪めた。
奴等の視線が、ルビーに向けられている――。
「やめろぉっ!」
眠っているルビーに向かって、鋭い嘴が襲い掛かる。
割り込むように庇った俺の体表は、ざっくりと切り裂かれ、青い血が吹き出した。
「ぐっ、ううっ」
痛みで呻く俺に、止めを刺そうと二匹が飛び掛かる、その刹那――、
「ギラッ!」
「バギッ!」
炎の帯と真空の刃が、デスフラッターに襲い掛かった。
「そこまでよっ!」
「スラリンさん、大丈夫ですか? ホイミ!」
はぐりんとしすたーだ。思わぬ救援に、涙が零れそうになる。
「分が悪いな……」
「くそっ、撤退だ!」
デスフラッターたちはバサバサと逃げていった。
「はぐれメタルから逃げるなんて、何考えてるのかしら」
「でも、どうして、この島にスライム以外の魔物がいて、襲い掛かってくるのでしょう?」
しすたーは目を閉じて考え込んでいた。
疑問は尽きない。
不安が心の底に、澱のように積もっていった。