西暦2071年。地球はアラガミと呼ばれる生物の天下となっていた。彼等は一言で言ってしまえば、"食のレパートリーが広い"。人間はもちろん、コンクリートづくりのビルや核廃棄物に至るまで、何でも食べてしまう。それ故人類は今までの遺産や文明を破壊され、さらに自身も絶滅に追い込まれかけた。
しかし、人類は600万年前に誕生して以来、知恵と団結で自らの何倍も強い獣達にも勝ち、世界の王者に君臨するまでとなった。もちろん人類も、アラガミにただやられている訳ではなく、自らの絶滅を阻止するため、対抗策を講じた。その1つがアラガミと戦う戦士、ゴッドイーターである。彼らの活躍によってアラガミと人類の戦いは、やがて平行線に落ち着いた。
一方で旧日本いわゆる極東地域には人間や妖怪、神様に至るまでの最後の楽園がある。その地の名は幻想郷。昔々に、博麗大結界によって現実世界と切り離されて以来、現実世界で何があろうともここは何も変わらない。外がアラガミの世界になっても相変わらずである。しかし、そんな桃源郷も、終わりに向けてのカウントダウンが始まろうとしていた。
ここは博麗神社。幻想郷を覆う博麗大結界の中心となっている場所である。ここは今博麗霊夢が管理しており、彼女と腐れ縁の魔法使い霧雨魔理沙の溜まり場ともなっている。幻想郷に異変が起これば依頼するものの一人はいるはずなのだが、今はないので、今で寛ぐ魔理沙以外誰もいない。そこに白玉楼の庭師である魂魄妖夢が訪問する。異変とは全く関係無い目的だが。
「あら、いらっしゃい。…って妖夢か。」
「…霊夢さん。例のブツを取りに来ましたよ。」
「はいはい。とりあえず上がっていって。あと、分かってるわね。」
「…まあ、異変を解決してもらっているお礼でもありますし…。」
そう言って妖夢は神社の賽銭箱に7銭ほど入れる。ここに来る妖怪や実力のある人間達にとって、訪問の際に賽銭を入れるのは恒例のこととなっている。霊夢に対する哀れみの意味合いもあるが。
「たった7銭か…。時化てるわね。」
「…これでも出血サービスですよ?それに人の善意をそうやって無下にすることは無いと思います。」
そんな会話をしながら、妖夢は居間に通された。居間には座布団を枕代わりに寝息を立てる魔理沙の姿があった。
「おーい、魔理沙、来客だぞー。起きなさーい。」
そう言って霊夢は魔理沙の頬を強くつねる。しばらくすると「痛い、痛い。」と声を上げて魔理沙は目を覚ます。そのまま霊夢は二人を残して廊下へ消えていった。霊夢が戻ってくるまでの間、二人は近況報告も交えての雑談に暮れた。20分ほどして霊夢が戻ってきた。
「はい、約束のものよ。…全く少女の欲しがるものじゃ無いわよ。」
そう言う霊夢は妖夢のお望みの箱を抱えていた。調べたところ、ウルトラマンティガCompleteBlu-rayBoxというものらしい。数日前に境内に落ちてきたのを霊夢が拾ったのだ。霊夢にとっては無用の長物だったので人里での競売にかけようと思っていたところ、噂を聞き付けた妖夢が引き取りたいという連絡を受け、待っていたということである。
「いいじゃないですか。好きなことに少女も少年もないですよ。さて…。」
妖夢は霊夢から箱を受け取り、繁々と眺めた。箱は落ちてきたこともあってか角が擦れていたか、その他は綺麗に保たれていた。彼女は箱の前面、裏面、側面、挙げ句に中の小さな箱の数々にも目を通す。霊夢が横から見てみると、3つある小さな箱の中には幾つかの手を広げた大きさの円盤が入っていた。それも妖夢は丹念に見ていく。かれこれ10分ほど経ったところで、妖夢は確認を終えた。その目は水を得た魚のように輝いている。
「…間違いないです。取っておいてくれてありがとうございました。これはお礼です。」
妖夢はそう言って霊夢の手に4円を握らせた。ここでの1円は明治時代の1円で、2015年時の2万円の価値である。箱がそれほど価値があるものだったと思っていなかった霊夢は流石に動揺する。
「いいの?こんなに貰っちゃって。」
「いいですよ。当時の値段に比べれば二倍くらいの値段ですけど…。」
「だったら…。」
「でも、最近は外の世界のものは滅多に落ちてきません。増してやここまで状態の良いものはほとんど無いと言っていいでしょう。そして私はここに写っているウルトラマンティガの大ファンです。このお金でも足りないくらいですよ。」
そう言って妖夢は深々と頭を下げた。頭を上げると彼女は「アサギ!」と叫ぶ。すると、1つの霊魂が出現した。この霊魂の名はアサギ。生前の名は朝霧リョウヤ。享年17歳。妖夢とは最早腐れ縁の霊だ。
「アサギ、これを仕舞って。」
「おうよ。」
そう言うとアサギは念力で妖夢の手から箱を受け取り、呪文を唱えると、箱は跡形もなく消え去った。妖夢曰く風呂敷袋代わりの異次元空間に送ったのだという。
「良かったな、妖夢。ところでウルトラマンティガとかっていうのは誰から教わったんだ?」
魔理沙の問いに妖夢は答える。
「美鈴さんに教えて貰ったんです。その時は"迪迦奥特曼"っていう中国語のタイトルでしたが…。」
そんな話に話を咲かせて数十分ほどたった頃、突如庭先に衝撃が走った。三人が一斉に現場に目を向けると、砂埃が落ち着いた頃合いに庭に落ちた人、いや妖怪の姿が見えてきた。幻想郷の瓦版"文々。新聞"の編集者、射命丸文である。
「あややや、皆さんお騒がせして申し訳ない。今日は霊夢さんに突撃取材を敢行しま~す!」
「…グルメレポートかなにかの乗りで突撃取材されても困るんだけど…。で?何の取材?」
「おっ、では取材!…と言いたいところですが、部外者が二人ほど混ざっていますね…。どうしましょうか…。」
戸惑う文の姿を受けて妖夢と魔理沙は退散しようと席を立ち、庭先に向かおうとするが、霊夢はそれを手で制止する。
「いいわ。二人も残って。そもそもこの烏天狗は最初からあなた達を巻き込もうとしているみたいだし。」
「あややや、勘づかれてましたか。まあ、確かに純粋な戦闘力の強い妖怪や人間はスペルカードのバトルの普及でめっきり減ってしまって、 今はその人たちが必要という皮肉な事態に…。」
「勿体ぶらないで、本題に入りなさい。」
「あややや、短期は損気ですよ。…では本題に入ります。ズバリ、"博麗大結界の弱体化"についてです。」
その瞬間、時間が止まったかのようにその場が静まり返った。まださっきまでの笑顔が砂上の楼閣の如くに消えた。
「…え?どういうことなんだぜ?霊夢…。」
「…その情報は紫達にしか共有していない筈よ。どこで知ったの?」
「紫様に問いただした…と言いたいところですが、伊達に大結界前から生きていた訳ではありませんよ。紫様がそんな簡単に機密情報を吐くことがないのは、言うまでもありません。」
「じゃあ、何を根拠に…。」
「そうなりますよね。では…椛!」
その声から数秒くらいで再び庭先に衝撃が走る。砂埃が止むと、着地点と思われる場所には白狼天狗の犬走椛と、見慣れない赤毛のサングラス男が立っていた。
「ほう…。射命丸、取り敢えず、そこの赤毛の男は誰かしら?」
「ああ、この人は…。」
「初めまして。僕はフェンリル極東支部所属のゴッドイーター、エリック・デア=フォーデルヴァイデと言います。」
赤毛の男はサングラスを取って、軽くおじきをした。チャラい容姿をしながらも、その紅い瞳には数々の戦場を駆け抜けてきたと思われる気迫が感じられた。彼の右手には武器と思われる大砲が握られている。
「…いろいろ聞きたいことがあるから、上がってちょうだい。武器は庭に置いておいてくれると助かるわ。」
赤毛の男は少し躊躇の態度を見せながらも、武器を縁側に接するように地面におき、椛や文と共に神社の建物に上がる。エリックは外の世界で暴れているアラガミと言う怪物の討伐を主な生業としていると言う。外の世界には彼のような存在、ゴッドイーターがたくさんいると言う。エリックに対しての質問会のようなことが行われた後、射命丸が咳をして本題に入った。
彼らが言うには、エリックはしっかりと意識を保ったまま幻想郷に来たのだという。しかも博麗神社からではなく、天狗たちの寺から出てきたそうだ。博麗大結界は意志を持った物を外からも通さないし、中からも外に出さないものなので、大きな矛盾である。
それだけでも皆の顔を青ざめさせるには十分であるが、エリックの口から更にこれからの災厄を示唆する言葉が飛び出した。外の世界ではアラガミという怪物が暴れまわり、世界の主導権はほぼアラガミに渡ってしまっている。そのアラガミが幻想郷を狙ってか結界の周辺に集まっているということだ。
エリックの件を考えると、いつ彼らが幻想郷に侵攻してきてもおかしくはない。
「嘘でしょ……?確かに最近結界の強度が弱まっているとは思っていたけど…。」
「私達にはエリックさん自身と彼の証言以外に証拠はありません。信じるも信じないもあなたたちの自由です。ですが……。」
再び場に沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのは居間にいた面々ではなく、居間に突然現れた大妖怪;八雲紫だった。
「妖夢、こんなところにいたの!?早く白玉楼に戻って!」
「え?紫様、それはどういう……。」
「霊界に見たこともない怪物が出現したの。今藍や幽々子が応戦してるわ。今すぐ来て!」
「……分かりました!」
そう言って妖夢はアサギと共に紫の出現させた空間の隙間に入っていく。
「待って。紫、私も付いていくわ。異変の解決は私の役目だもの。」
妖夢がスキマの中に完全に入ったと同時に霊夢も入ろうとするが、紫はそれを制止する。
「妖夢は白玉楼の庭師だから呼びに来たのよ。貴女はここの主でしょう?」
「だけど…!」
「それに、この異変は恐らく貴女が思っているよりも厄介なものよ、多分。最後の切り札はまだ出すタイミングじゃないわ。まあ、妖夢も切り札を持っているけどね。」
「えっ、それはどういう……?」
霊夢がそれも言い終わらないうちに紫は自らが展開した空間のスキマを閉じ始める。スキマの大きさが10センチ程に成ったとき、スキマに突っ込んで来て無理矢理こじ開けようとする一組の手があった。
「……だれ!?」
「僕の名はエリック。エリック・デア=フォーデルヴァイデと言います。僕もそちらに行かせてください。」
「はあ?悪いけどただの人間に立ち向かえる相手じゃないのよ!?」
「僕はただの人間じゃない!僕はアラガミと戦う戦士;ゴッドイーターです!貴女達が対峙しているのはもしかしたらアラガミかもしれない。ならば十分、戦力になるはずです!」
その言葉を聞いて紫は暫く考え込む。そして閉じかけていたスキマがまた広がり始めた。他の面々は別のところに行ってしまったらしく、スキマから妖夢たちが見たのはエリックと名乗る赤毛の青年の姿だけであった。
「……時間がないわ。20秒で支度してちょうだい。」
エリックは「はい!」と答えると、持ってきた鞄などを急いで体に身につけ、庭においてある武器を持ち上げ、スキマのところまで急いだ。まずは武器を先に中に入れ、本人がその後にスキマの中に入る。そしてスキマはいよいよ閉じ、博麗神社の居間から消えた。
所は変わって、冥界内の屋敷、白玉楼の庭園。妖しい輝きを放つ霊界の月が照らす静寂な庭園に、スキマが出現した。始めに妖夢とアサギ、次にエリック、最後に紫が現れ、スキマが閉じられる。一人ごっつい武器を持っている場違いのような人物がいるが、他はいつもの霊界と変わらない。変わっているのは、西行妖の周辺で戦火が垣間見えると言うことだ。
「アサギ、楼観剣を。」
アサギは「おう。」といって、小さなスキマを出現させた。そこから桜の柄が描かれた鞘に入っている極長な太刀が出てきた。妖夢の武器である楼観剣である。妖夢はそれを受け取り、背中に背負う。
「幽々子様……今行きます!」
そう言って妖夢は駆け出した。アサギも後を追う。
道中アサギが妖夢に尋ねる。
「妖夢、大丈夫か?」
「何がですか?」
「これから対峙する怪物…アラガミだっけ?そいつのことだよ。エリックとかいう奴が言うには、外の世界を制してしまったっていうが…。」
「……恐らく外の世界にはウルトラマンみたいな超人が居なかったんですよ。故に怪物に負けた。ある意味自分達が超人を追い出したものですから、自業自得ではないでしょうか。」
「……凄い辛辣な物言いだな。」
「幻想郷に来た人や妖怪、神様は外の世界の人が追い出したも同然ですからね。でも幻想郷、しかも霊界に来ようと言うのなら容赦しません。私はウルトラマンみたいに強いと自惚れはしませんが、自らの力を最大限発揮して戦うまでです。」
「そうか…。そういえば、西行妖の大木には妖刀「叢雲」が刺さってたと思うけど、絶対手を出すなよ。何せあれは……。
「…分かってますよ。あれは幽々子様の亡骸と共に西行妖の力を封じる為の刀。それにあの刀自身も、使用者の命を吸いとる危険な代物。お父様に接触を厳禁されて以来、10年触ったこともありませんし……大丈夫ですよ。」
「だといいんだけどな……。」
「それに、知っての通り、楼観剣は刀としては最高のものです。あの刀の出番は無いでしょう。」
そう言っている内に妖夢達は激戦区と言うにふさわしい西行妖周辺に到着した。
紫の要請を受けて西行妖の根本に到着した妖夢たち。しかし、アラガミと呼ばれる怪物の実力は妖夢達の想像を越えるものだった。妖夢達は一体どうなるのか。
次回をお楽しみに!
注;この幻想郷では西行妖を封じるのに幽々子の死体だけではなく、妖刀「叢雲」も用いているという設定が有ります。果たして抜いてしまうと、どうなるのでしょうか。
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