安眠は権利である。
翌日に訓練を控えた人間から睡眠時間を奪う行為は、傷害に数えてもよいと思う。
ましてや、その原因が敵襲でも火災でもなく、隣室から聞こえる寝台の軋みとなれば、酌量の余地などない。
……眠れない。
一定の間隔で、ぎしぎし、と床板まで震える。
私は毛布を頭まで引き上げた。耳を塞いでも、古い木造家屋は振動まで遮ってくれない。
夫婦仲が良好なのは結構である。だからといって、寝台の軋みまで家族に共有する必要はないだろう。
幼児の睡眠時間を侵害するな、この無計画な父親め。
向かいの寝台で、布が動いた。
「……ターニャ、起きてる?」
「兄さまが話しかけるまでは眠っていました」
「ごめん」
嘘である。うるさくて眠れるはずがない。
ルーデウスが寝台から降りる。足音を忍ばせ、扉へ向かった。
「どこへ?」
「便所」
「そうですか」
止める理由はない。
扉が細く開き、兄の姿が廊下へ消えた。隣室からの騒音は、その瞬間だけ不自然に止まった。
気づかれたらしい。
羞恥心が残っているなら、初めから音量へ配慮していただきたい。
私は寝返りを打ち、壁へ顔を向けた。
しばらくして廊下の床が鳴った。
便所へ行くだけにしては遅い。廊下で見つかれば、私まで起こされて事情を聞かれるかもしれない。身体を起こしかけたところで、扉が静かに開く。
ルーデウスが戻ってきた。
「兄さま」
「な、なんだ?」
「その気色の悪い顔をやめてください」
兄が頬を押さえた。
「いきなりひどくないか?」
「夜中に廊下へ出て、変な顔で戻ってきた人間へ下す評価としては妥当です」
「そんな顔してないと思うけどなぁ」
視線が定まらず、なぜか頬まで赤い。廊下で金貨を拾った程度では、ああはならない。
兄は寝台へ戻り、毛布を鼻まで引き上げた。
「廊下に誰かいましたか?」
「い、いなかった」
「そうですか」
いるな。
だがこれ以上は聞かない。
翌朝、食卓についたロキシーは妙に寝不足な顔をしていた。ルーデウスは彼女を見るたび、昨夜と同じ気色の悪い笑みを浮かべる。
私は黙って兄の脛を蹴った。
「痛っ」
「どうしたの、ルディ?」
「なんでもありません、母様」
まったくこの兄は。
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ロキシーがグレイラット家へ来て、四か月が過ぎ、私たちは中級までの魔術は使えるようになった。
「二人とも中級までの魔術は問題なさそうですね。」
兄が机へ身を乗り出した。
「次は上級ですか?」
「その前に知っておくべきことが山ほどあります」
「魔術の練習じゃないんですか?」
「魔術だけ使えても一人前の魔術師とは呼べません。どこで使うのか。誰に向けて使うのか。使った後に何が起こるのか。知らなければ、庭木を折るだけでは済まなくなります」
兄が姿勢を戻した。
庭木は有効な教材として、今も活用されている。
「ですから今後は夕食後にも授業を行います。歴史、地理、魔物、魔術の成り立ち。お二人の年齢なら早すぎますが、進度を考えれば必要でしょう」
「夜も勉強するんですか?」
「嫌ですか?」
「いいえ。僕は大丈夫です」
「私も異論はありません」
夜まで授業か。だが地理も歴史も、手元の五冊では足りない。何を聞くか、先に書き出しておこう。
彼女は質問に対し、知っていることと推測を区別する。分からないことを問えば、曖昧な権威で押し切らず「分かりません」と答え、そのうえで調べ方を示した。
未知の現象を神の御業という便利な屑籠へ放り込む教師ではなかった。
「では今晩から始めましょう」
「「はい、先生」」
こうして、午前の実技、午後の身体訓練に加え夜間講義が始まった。
過密労働である。
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夜間講義が始まった日のことだ。
「先生。どうして魔術には戦うためのものばかりなんですか?」
ルーデウスが唐突に尋ねた。
私も蝋板へ並べられた魔術の分類を見ながら同じ疑問を抱いていた。火を起こし、水や土を生み、風を操れるのであれば、用途は戦闘に限られない。それにもかかわらず、体系化されている術の大半は攻撃用である。
「戦闘用しかないわけではありませんよ。そうですね……まず、魔術の始まりから説明しましょうか」
ロキシーは蝋板へ文字を刻んでいた尖筆を置いた。
「魔術を最初に生み出したのは古代長耳族――ハイエルフだと言われています」
兄が目に見えて身を乗り出した。
「エルフがいるんですか!」
「ええ。長耳族は現在もミリス大陸の北方に暮らしています。大昔、人魔大戦が始まるより前、世界中で争いが絶えなかった頃、古代長耳族は森の精霊と対話し、外敵と戦うために風や土を操ったそうです。それが史上最古の魔術とされています」
耳が長いのか、弓を使うのかと、兄は妙な熱意で質問を続けた。
初めて存在を知った者にしては、長耳族という単語へ食いつきすぎではないか。
「現在の魔術は人族が戦争の中で長耳族の術を模倣し、詠唱や魔法陣として形にしたものです。人族は新しい技術を作ることに長けていますから」
戦争のために生まれ、戦争の中で改良された。
こちらでも使い道を増やすのは戦争か。
「それに身近な道具で済むことをわざわざ魔術にする必要もありません。明かりが欲しければ、蝋燭やカンテラを使えばよいでしょう」
明かりを保つために術者を一人拘束するなら、蝋燭の方が安そうだ。まず魔術師を雇う費用から考えなければならない。
「すべてが攻撃魔術というわけでもありません。召喚魔術なら必要な力を持つ魔獣や精霊を呼び出せます」
「召喚魔術も教えてもらえるんですか?」
「残念ですがわたしには使えません。ほかには魔道具もあります。魔力を帯びた物質を材料にして、内部へ魔法陣を刻んだ道具です。定期的な魔力の補充は必要ですが魔術師でなくとも扱えます」
魔術を道具の内部へ固定し、使用者の技量を不要にするらしい。
演算宝珠と同じものではないにせよ、思想は近いだろう。性能、製造費、耐久性。実物を見なければ評価はできないが、調査する価値はある。
ルーデウスは召喚魔術を諦めきれない顔をしていたが、やがて別の疑問を口にした。
「先生。魔獣と魔物はどう違うんですか?」
ロキシーによれば、魔物は従来の動物などから突然変異で生まれる。その中で繁殖し、種として定着し、世代を重ねて知恵を得たものが魔獣と呼ばれるらしい。ただし知恵があっても人を襲えば魔物と呼ばれ、魔獣が後に凶暴化する場合もある。厳密な境界は存在しないという。
生物学的な分類というより、人族にとっての危険度を含んだ便宜的な呼称か。
「では魔族は魔獣が進化したものなんですか?」
「まったく違います。魔族とは人族と魔族が戦争をしていた頃につけられた名称です。分かりやすく言えば、一番新しい戦争で魔族側についていた種族ですね。例外もありますが」
最初の人魔大戦は八千年前。直近の大戦は四百年前。
ロキシーは休止を挟みながら七千年以上も争いを続けてきたと説明した。
四百年前が直近か。私の生きてきた年数を全部足しても届かない。
しかも当時どちら側だったかで、今も呼び名が決まるらしい。
「ちなみにわたしも魔族です。正式には魔大陸ビエゴヤ地方のミグルド族といいます」
「そうだったんですか」
「ご両親もわたしを見て驚いていたでしょう?」
「先生が小さいからだと思っていました」
ロキシーの眉が動いた。
「小さくありません。あれはわたしの髪を見たからです」
魔族は緑に近い髪を持つほど凶暴だと、人族の間では信じられている。水色であるロキシーの髪も、光の加減によっては緑に見えるため、警戒されることがあるらしい。
兄はロキシーの髪をしばらく眺めた。
「先生の髪はきれいです!」
「……ありがとうございます。でもそういうことは将来好きな子ができたときに言ってあげてください」
「僕は先生のこと好きですよ?」
三歳児の無邪気な好意と受け取れなくもないが、この兄の場合は疑わしい。
「そうですか。十数年後にも気持ちが変わっていなければ、もう一度言ってください」
ロキシーは平静を装っているが、前髪を指へ巻きつけていた。
兄も声の調子を戻した彼女を見て満足そうである。
まったくこの兄は。
「話を戻します。髪の色が派手なほど危険というのは迷信です。ただしそう言われるようになった理由はあります」
四百年前の戦争で、緑色の髪を持つスペルド族が敵味方を問わず恐れられるほど暴れた。そのため、戦争後には味方だった魔族からも迫害され、魔大陸を追われたという。
ロキシー自身、子供の頃から、スペルド族が味方の集落を襲った、女子供まで殺した、戦場で敵を全滅させた後に味方も殺したと聞かされてきたらしい。
いずれも伝聞であり、事実確認の手段はない。戦時の風聞には誇張も敵対勢力による宣伝も混じる。種族全体の性質と断定するには資料としての質が低すぎる。
だがロキシーの声は冗談を許さなかった。
「エメラルドグリーンの髪と額に赤い宝石のようなものを持つ種族には決して近づかないでください。やむを得ず話す場合も侮辱せず刺激しないように。怒らせれば家族を皆殺しにされるかもしれません」
息が詰まった。
「……家族まで、ですか?」
自分でも口を挟むつもりはなかった。
ロキシーはわずかに目を見開き、静かに頷いた。
「ええ。可能性の話ですが必ず覚えておいてください」
自分が無事でも家へ帰れば手遅れということか。
尖筆を置き、ロキシーを見た。見分け方を聞き漏らすわけにはいかない。
「緑の髪と額の赤い宝石ですね。その宝石で何ができるんですか?」
「魔力の流れを見るそうです。第三の眼ですね」
「スペルド族は女性しかいないとか、宝石が青くなることは?」
「男女ともにいますし、青くなるという話も聞いたことはありません。どうしてそんなことを?」
ロキシーが首を傾げた。
私も同じ疑問を兄へ向けたが、ルーデウスは「なんでもありません」と笑ってごまかした。
「とにかく見かけても急に逃げ出してはいけません。追われる可能性があります。用事を思い出したふりでもして、静かに離れてください」
兄は真剣な顔で頷いた。
私も特徴と対処法を何度も頭の中で繰り返した。
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夜間講義が始まってから、しばらく経ったある日。
授業が終わってもルーデウスは席を立たなかった。
ロキシーは蝋板の表面をへらでならし、尖筆と一緒に鞄へ戻そうとしている。私は借りた地図を丸めながら、兄が何度も口を開きかけては閉じる様子を眺めていた。
「何か質問がありますか、ルディ」
「はい。先生のことです」
「わたしの?」
兄は椅子へ座り直した。
「先生のことは先生じゃなくて師匠と呼んだ方がいいんでしょうか」
ロキシーは露骨に嫌な顔をした。
虫の混じったスープを出されたときでも、もう少し穏当な表情をするだろう。
「いいえ。やめた方がいいです」
「どうしてですか?」
「ルディはいずれ簡単にわたしを追い越します。自分より優秀な人から師匠と呼ばれるのは生き恥です」
「僕は気にしませんけど」
「わたしが気にするんです」
「先生も自分の師匠より強くなったからそう思うんですか?」
ロキシーの手が止まった。
「いいですか、ルディ。師匠というものはもう教えることはないと言いながら、こちらが何かするたびに口を挟んでくる厄介な存在です」
「でもロキシー先生はそんなことしないでしょう?」
「するかもしれません」
「しても僕は先生を敬いますよ」
ルーデウスは笑った。
世辞を言っている顔ではない。
ロキシーも気づいたのだろう。一瞬だけ言葉に詰まり、それから目を逸らした。
「弟子の才能に嫉妬したら、何を言うか分かりません。魔族のくせに、とか。田舎者のくせに、とか」
「僕は魔族じゃないですけど、でも先生はそんなこと言わないと思います」
「分かりませんよ」
「なら威張っていればいいじゃないですか」
「年齢が上なだけで威張ってはいけません。実力の伴わない師弟関係なんて、不快なだけですよ」
断言だった。
過去に、実際に言われたのだろう。
魔族。田舎者。
教えることがなくなると、出自をあげつらう。嫌な手合いは、どこにでもいるものだ。
少なくともロキシーは質問に答えられないからといって私たちを怒鳴りつけたりはしない。
「分かりました。では先生と呼びます」
「ぜひそうしてください」
ロキシーは安堵したように蝋板と尖筆を鞄へ入れた。
兄も頷いたがまだ何か言いたそうに鞄を眺めていた。
兄が何と呼ぶかは兄が決めればよい。
私は地図をロキシーへ返した。
「ありがとうございました、ロキシーさん」
「……ターニャは先生とは呼んでくれないんですね」
「今までどおりではだめですか?」
「だめではありませんけど……」
笑いをこらえる兄が横目に見えたので、脇に肘を入れておいた。
「うぼぉ!!」
---
夜が更けた頃、私は庭の隅にいた。
もう家族は眠っている。ロキシーの部屋も暗い。
声を出さずに、小さな水弾を作る。
初級も中級も、もう詠唱は要らない。昼間、授業で唱えるたびに、少々むず痒い思いをしている。
水弾を消し、土魔術へ切り替えた。
土塊が地面から浮かびかける。
「やっぱり使えたんだな」
土塊が崩れた。
振り返る。
寝間着姿のルーデウスが家の壁へ背を預けていた。
「……いつから見ていたんですか?」
「さっきの水弾から」
「眠っていたのでは?」
「同じ部屋ならさすがに気づくよ」
不用意だった。昼間の訓練と夜間講義で、兄は朝まで眠ると思っていた。扉を開ける音くらい、気づくべきだった。
「先生には使えないふりしてたのか?」
「使えないとは言っていませんよ」
「詠唱なしで使えることは黙ってたでしょ」
「尋ねられていませんから」
兄がこちらへ歩いてくる。
「どうして隠すんだ?」
「知らせる利点がないからです」
「でも先生は俺たちが追い越しても仕方ないって思ってる。さっき聞いただろ?」
もちろん聞いていた。
そして、ロキシー個人が比較的信用できる人物だという評価にも異論はない。
「信用と情報開示は別問題です。善良な人物へ保有する情報をすべて渡す組織などありません」
「家族なのに俺にも隠してたじゃないか」
返答が一拍遅れた。
痛いところを突いたつもりなのか、兄の眉がわずかに上がる。
「兄さまは聞かなかったでしょう」
「聞いたら教えた?」
「状況によります」
「今は?」
「目撃されたので説明しています」
「それ、教えたって言わないだろ」
まったく、今夜に限って追及が鋭い。
「無詠唱が一般的な技術なら隠す意味はありません。しかしロキシーさんの反応を見る限り希少な能力です」
「だから見せた方がいいんじゃないか?もっと教えてもらえるかもしれない」
「希少な能力は価値であると同時に拘束の理由になります。知られれば期待され、期待されれば役割を与えられる。私は自分の能力の用途を他人に決めさせるつもりはありません」
兄は口を閉じた。これで話が通じたかと思ったが、すぐに聞き返してきた。
「俺の無詠唱はもう知られてるけど」
「兄さま一人なら極めて優秀な魔術師で説明できます。双子が二人ともとなれば、家系、両親、教育環境まで調べようとする者が現れるかもしれません」
「父様と母様まで?」
「可能性の話です。ですが避けられる危険を増やす理由はないでしょう」
兄は家の窓を見た。灯りはない。
騒がしく、警戒心に欠け、ときに子供の意思確認さえ省略する家族である。
見知らぬ誰かがあの窓を覗き、私たちのことを尋ねる。パウロなら、得意になって話し始めるのではないか。
余計な材料まで渡す気はない。
「分かった」
兄の肩から力が抜けた。
「俺からは言わない。ターニャが自分で話したくなるまでは」
「助かります、兄さま」
「でも危ない実験をするときは兄ちゃんに言えよ」
危ない実験をする気はない。そう言い返そうとしたが、兄はもう満足げに家へ戻っていく。
その背中を見送り、私は崩れた土を靴で均した。
戸口で兄が振り返ったので、声を出さずに頷いた。明日の授業でも、今までどおり詠唱を使う。
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ロキシーが来て一年が過ぎた頃、私たちは上級魔術へ進んだ。
ロキシーが上級土魔術の詠唱を終える。
遠くに置いた標的の周辺の地面から石槍が突き上がり、乾いた音とともに木片が弾けた。
「上級魔術は初級や中級とは消費する魔力も制御の難しさも違います。失敗した場合、自分だけでなく周囲も巻き込みます」
ロキシーは私たちを順番に見た。
「ルディ。分かっていますね?」
「はい」
「特にルディ。分かっていますね?」
「……はい」
壁と庭木を破壊した実績が重い。
兄がロキシーの指示した位置へ立つと、地面が震え始めた。
今回も詠唱はない。
轟音。
木片だけでなく、その周辺の木々まで抉れている。
範囲が広すぎる。
「ルディ、威力がつよすぎます!」
「少し弱くしたつもりですが……」
ロキシーが額を押さえた。
再現力と魔力量。この二点において、兄は既に通常の尺度から外れている。
「次、ターニャ」
「はい」
私は同じ位置へ立ち、教わった詠唱を唱えた。
標的だけに当てればよい。周りの木まで壊す必要はない。
「――『アースヘッジホグ』!」
石槍が標的の周囲から突き上がり、的に細い亀裂を入れた。
兄のような轟音はない。地面も抉れていない。
だが狙った位置からずれてはいなかった。
「……成功ですね」
ロキシーは標的へ近づき、亀裂を指でなぞった。
「ルディは範囲が広すぎ、ターニャは狭すぎですね」
「狭くてはいけませんか?」
「目的によります。ただ上級魔術として試験を受けるなら規定された規模を示す必要があります」
「実用上は?」
「その威力を毎回同じ場所へ当てられるなら使い道はあるでしょう」
ロキシーが私を見る。
何か言われるかと待っていたが、彼女は次の標的へ向き直った。問い詰めないでいてくれるのは助かる。
夜、一人で同じ上級魔術を無詠唱で試した。
狭い範囲に留めたとはいえ、三度続けても、まだ余裕がある。以前なら初級を繰り返すだけで疲れていたのに。
使った分だけ、魔力も増えるのだろうか。兄も私も、幼い頃から使い続けてきた。二人だけでは断定できないが、続けて損はなさそうだ。
四度目はやめておく。一人で上級魔術を使い続け、倒れては笑えない。
残りの練習は小さな魔術で済ませた。
今の総量はロキシーを上回っている可能性が高い。
それでも兄ならば、同じ規模を何度撃っても平然としているだろう。
効率だけでは越えられない、桁の違う総量差がある。
ならば、同じ戦い方を選ばなければよい。
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さらに季節が巡った。
明日、私とルーデウスは五歳になる。
この国では、毎年の誕生日を祝う習慣はない。五歳、十歳、十五歳。節目となる年に、家族が贈り物を用意するという。
知らされたのはつい最近だ。
もっとも家族に秘密工作の適性はない。
パウロは三日前から物置へ近づくなと言い、ゼニスとリーリャさんは普段より多い量の料理を仕込んでいる。ロキシーは何か細長い物を布へ包み、私たちが来ると背中へ隠した。
これで察するなという方が無理である。
夜。階下ではまだ小さな物音が続いていた。
向かいの寝台から、兄の声がする。
「ターニャ、起きてる?」
「兄さまが話しかけるまでは眠っていました」
今夜は隣室から寝台の軋む音は聞こえない。
代わりに、食器の触れ合う音と、誰かが慌てて床へ何かを落とす音がした。
ゼニスの小さな悲鳴。パウロの笑い声。リーリャさんの、怪我を心配している声。
「眠れないのか、ターニャ」
「兄さまこそ」
「俺は別に。明日のことなんて楽しみにしてないし」
「そうですか。では兄さまの分の料理も私がいただきます」
「それは駄目だろ」
即答だった。
階下で、また何かが落ちた。
暗闇の中で兄と目が合う。
先に笑ったのがどちらだったかは分からない。
私は毛布へ潜り、目を閉じた。
階下で食器が鳴るたび、また目が開いた。
今度は何を落としたのだろう。毛布から耳を出したところで、向かいの寝台も軋んだ。
この物語のルーデウスは、ターニャが居るということもあり、原作のように気持ち悪い顔をすることはあまりありません。
でも見られないところでは相変わらずやってます。
ロアの町では原作通りの変態ルーデウスになるんじゃないですかね?