「知らねぇ天井だ」
桜に繋がっている地脈を浄化し、一気に押し寄せた疲労のせいで寝てしまった。
目を覚ました彼は、辺りを見渡すと何処かの屋敷まで誰かが運んでくれたのだと理解し、普段の着ている服装じゃないのが分かる。
片腕を上げ、振袖のような白黒の縞模様の衣装の下には、包帯がぐるぐるに巻かれており、稲妻の寝る衣装もあって動き辛そうだと感じた。
「腹辺りから何か重いな…あ?」
両肘を突いて起き上がろうとカスラは首を曲げる。
しかし、腹の上には長い白髪に白黒のウェーブ、ボディタイツの上に黒いドレスを身に纏っている小さな少女が眠っている。
特徴的なのは、背中に赤い目が複数ある一対の翼があり、それが何者なのか不思議とカスラは一目で分かった。
「おい…おい起きろ
「くあぁ〜…んぅ…起きたか」
「まあな。それはそれとしてお前に突っ込みたいことはあるが」
軽く手で彼女の小さな肩を揺すると、彼女は起き上がって背筋を伸ばし、あくびした。
暫く彼女の意識が完全に覚めるまで待ち、カスラは質問した。
「お前…何で烏から人の姿になってんだ?」
「きみが過剰なまでにアビスを吸収したおかげで、わたしは肉体を得た」
「余分な力のおかげで受肉したのか…いや、それでも人になるのは可笑しくねぇか?」
「元より烏の姿になっていたのは最低限の力で消費する形の姿だ」
「あれ省エネモードだったのかよ!」
烏の姿で見てきたものだから、カスラにとって彼女は烏の姿が本来だと思ったが。その裏にある理由は、エネルギー消費を抑えるための単なる省エネモードとは知らなかった。
腐れ幼馴染の言葉を借りるなら、彼女は進化したと言うことになる。
「きみが最後の無茶振りをしたおかげで、肉体を手に入れた。そのおかげで半永久機関になったが」
「永久機関じゃねぇのか…補給とかどうすんだよ」
「アビスの吸収か食事をすれば問題ない」
「普通に人と同じ感じか…へへ、それならお前と一緒に飯が食えるな」
どんな理由があれ、カスラにとって、肉体を持った相棒と共に旅や食事する事ができて嬉しくなる。
笑みを見せる彼に、トゥオネタルも釣られて微笑む。
「ところで…あれから俺はどれくらい寝てたんだ?」
「2日間程度だ」
「2日間も寝てたのか…」
しかし、よくよく考えれば瀕死の雷神を助けてから一睡もせず、そのまま稲妻まで護衛する形で戦闘した。
更に雷神の片割れである妹の友を助ける為に戦い、最後は稲妻の地脈に侵食するアビスを全て浄化したのだ。
「まあ、確かに2日間くらいなら…ここ程度と言えるか」
「そうでしょう?あと、出たいなら屋敷の人間に会うと良い」
「そうだな…取り敢えず、無断で出る訳にはいかねぇから、屋敷の主を探して会わねぇとな」
彼女の言葉に納得し、カスラは屋敷に立ち上がり、近くにある襖を開けようと向かう。
「失礼しま……え…」
「「あ」」
しかし、タイミング悪く襖が開いてしまって対面する。
腰まで届く淡い水色の長い髪。毛先にカールがかかっており、扇形の装飾品で飾られた2つの飾り髷まげが特徴的。
更に垂れ目をした紫色の瞳で、瞳孔は螺旋状になっており、気配も相まって人間ではないと察した。
「あ……お、おはようございます」
「ああ、おはよう。さっき目を覚ましたばかりでな…少し辺りを散策してた」
見苦しい言い訳を口にし、濡らしたタオルが乗ったお盆を両手に、女性を見下ろす形で目と目が合う。
だが、所々に包帯が巻かれたガラの悪い高身長の野郎という第一印象が仇となったせいで、女性に思わず目を逸らされた。
(あ、目を逸らされた…)
仕方ないとはいえ、その仕草にカスラは何気なく傷ついた。
すると、そんな気不味い空気を壊さんとばかりに腹の音がなった。
「あー…飯を食ってねぇから、まあ…うん」
「ちょっと待ってね。ご飯、用意してくるから」
頬を紅くし、羞恥心が勝って素直に言えなかったが、そんなカスラの気持ちを読み取った彼女は、最初にきょとんとした表情になるもすぐにクスクスと笑う。
そして濡らしたタオルを彼に渡し、食事を用意しに一礼して襖を閉じた。
「取り敢えず…飯が来るまで待つか」
「そうしよう。この身体になってから随分と眠気や疲労など受ける…」
「ハハ!さっそく人間としての経験を味わっているようだな」
これまで埋め込まれた兵器で過ごしていた彼女にとって、空腹や睡眠など初めての経験ばかりで新鮮だろう。
暫くの間、彼女が飛んでいる様子や頬をプニプニと触ったりしていると、こっちに向かって来る音が聞こえた。
「失礼します。食事を持ってきました」
「おお、ありがとうよ!」
「どういたしまして、ゆっくりしてね?」
先程の女性が食事を持ってきてくれて、素直に受け取って礼を言えば、彼女は優しい眼差しを向けて言い残し、部屋を出て行った。
カーンルイアから出て武者修行というのもあり、常に金欠気味だった彼にとって、稲妻の料理は豪華だった。
焼き魚や汁物、漬物とご飯…空腹の2人にとって食欲が唆る料理しかない。
「知らねぇ料理だらけだ」
「きみと初めて食事する日が、このような形とは…」
「そうだな。さて…飯を食う前に」
「「いただきます」」
旅で出会った人から教わった礼儀作法に、2人は両手を合わせ、命に感謝を込めて言った。
カスラ
武者修行で常に金欠気味である。野生動物や食えるキノコで飢えを凌いでいた。
毒キノコを食った時は腹が痛い程度で済む。
相棒
何処かの非常食と同じ大きさ。食費は凄まじいが、そこは吸収した力などで抑えれる。
不思議な女性
皆も知ってる稲妻のヒロイン…最初はビビったけど、少し不器用で可愛い人間として見るようになった。