オタクはホロウを東奔西走 作:でゅふ侍
「フホホホ!拙者の盤面は完成しているで御座る!覆す事は不可能!次のダイレクトアタックでそちらのHPを削り切って勝利で御座るよ!」
「……何を勘違いしてるんだ?」
「ほ?」
「俺のターンは、まだ終わって無いんだぜ!」
「ば、馬鹿な!?そのカードは!」
「マジックカード殺虫スプレーD・G・Sを発動!このカードはフィールドのインセクト族カードをすべて破壊する!」
「ぬああああああ!?拙者の蜂艦隊がー!!…………いや、完全に拙者のメタカードでは御座らんか?そっちのデッキに何のシナジーも無いで御座るよ」
「この前フルボッコにされて突発的に入れた。反省も後悔も無い。寧ろ清々しい気分だ!そして!ここからは俺のドラゴンに粉砕されろー!」
「くっ!甘いで御座るよ!伏せておいた罠カードを此処で発動で御座る!」
「なんだと!?」
「自爆特攻第蜂艦隊!このカードは、このターン墓地に送られた蜂艦隊カードの攻撃力の合計分を双方のプレイヤーに与えるので御座る!死なば、諸共ー!」
「ぐわぁああああああ!?いや、メタカードにメタカードぶつけてくんな!?」
「フホホホ!勝てずとも、負けぬ!相討ちを狙うのも立派な戦術というもので御座るよ!」
「くっ……今回は勝てると思ったんだがなぁ」
「甘いで御座るな。拙者の蜂艦隊は、盤面制圧と攻撃に長ける反面守備は味噌っかすで御座る。故に、捲られた時の保険も幾つか用意してるで御座るよ」
「破壊よりも手札かデッキに戻した方が良かったか?」
「で、御座るな。それはそれとして抑えは出来て御座ったが」
「一応、こっちは環境デッキを握ってるんだけどな?」
「その環境デッキをマイナーデッキでぶん殴るから愉しいんで御座るよ。あと、環境デッキは対環境デッキに強い反面、マイナーテーマには不意打ち食らいやすいんで御座るな」
昼休み。教室の片隅では小さな集まりが出来ていた。
彼らが興じるのは、カードゲーム。インフレが進み過ぎて先行盤面制圧でオワコンだ何だと言われているが、友人間で趣味デッキを握って楽しむ分にはまだまだ余地があったりする。
昼休みが終わるまでは、あとニ十分ほどある。となれば状況次第でもう1、2試合は出来る事だろう。
「次は、誰がやるで御座るか?拙者は席を空けるで御座るが」
「俺もちょい休憩。メタカード入れてひっくり返せないとかショック過ぎるわ」
二人が席を立てば、入れ替わるようにプレイマットが敷かれた机には別の二人が席に着く。
再び始まる熱い勝負を尻目に、テルは時計を確認していた。
「ふむ、何か飲み物でも調達してくるで御座るかな」
「あ、木吉君。丁度良かった」
「ん?おお、委員長殿。如何されたか」
常にかけている瓶底眼鏡の位置を直していたテルに声を掛けてきたのは、メガネの少女。
「午後の授業使う備品を持ってくるように先生に頼まれてたんだけど――――」
「相分かった。拙者で宜しければ手を貸すで御座る」
「ごめんね。友達と居る所に水差しちゃって」
「なんのなんの。それに、一区切りついているで御座る故、御心配は無用というもの。ちゃちゃっと済ませるで御座るよ」
ニッと笑みを浮かべるテルにつられて、委員長も笑う。
そのまま二人揃って教室を出ていった。
そして、そんな二人のやり取りは自然と教室内に残っていた者達の注目も集めていた訳で。
「テルってモテるよな」
「
「ばっ、そういうんじゃねぇよ」
「まあ、話し方はどうあれ性格良し、運動神経良し、勉強良しと好物件だし。話し方はアレだけどな」
「何で一昔前のサムライ口調なんだろう?それに、見た目も……というか、僕らもテルの顔って見た事ないよね」
「あの眼鏡なぁ。度が強すぎて、先が見えねぇしな」
「ま、顔が見えなくても友達である事は変わんねぇだろ。しゃあ!そこだ!ヒーローで突撃!」
「こ、の脳筋がぁぁあああああ!?」
ギャフン、と可愛らしい小動物のデッキがヒーローを主軸にしたデッキに殴り飛ばされた。
因みに、前者は相手の盤面を削りながらチマチマバーンを狙うタイプで、後者は攻撃時に何度も入れ替えて連続攻撃を叩き込むタイプだ。
結局のところ、こうして楽しく騒いで遊んでいられる時間が、彼らは好きなのだ。その仲間内の一人が変わっていたとしてもそんな事は関係がない。
木吉 輝の学生生活は、充実している。
友が居り、クラスで浮く事も無く、順風満帆。
そんな日常が、そこにはあった。
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恙なく学校を終え、今日も今日とてテルはホロウを訪れていた。
今回の彼への依頼は、ホロウ内の一定区画のエーテリアスの討伐。定期的にエーテリアスの討伐を行う事でホロウの拡大をある程度抑制する事が出来る為だ。
「……っと、思っておったんで御座るが。
やれやれ、とお面をつけた顔を振ってテルは溜息を一つ。
彼の視線の先では、四人の使用人たちが居た。そして、彼はそんな四人を一方的にだが知っている上、その内一人はプライベートでも少々繋がりがある。
テルの言葉を受けてか、白銀の毛並みを持つ狼のシリオンが義足を鳴らして一歩前へと踏み出してきた。
「まずは、この様な手段を用いてしまったことへの謝罪を。申し訳ありません、オタッキー様。私共は、ヴィクトリア家政。この度は、ご主人様の意向によりこうして接触を持った次第に御座います」
「ヴィクトリア家政……お金持ち御用達の家事代行サービスで御座ったか。というか、拙者そちらのメイド喫茶にお邪魔した事があるで御座るよ」
「然様で御座いましたか」
「めっちゃ楽しかったで御座る。メイドさんは丁寧で可愛いし、料理もGoodで御座った」
「有り難いお言葉です。では「ねぇ」」
狼のシリオンの言葉を遮るのは、一人の少女。
大鋏を手にした、サメのシリオンである彼女は気だるげな表情で飴を咥えて真っ直ぐに
「テルでしょ。何してんの?」
「ひょ!?せ、せせせ拙者、木吉何某とは関係ない一般ホロウレイダーで御座るが?!」
「お面付けた位で……と、友達を見間違う訳ないでしょ」
左手で自身の髪を弄りながら、彼女は視線を逸らして唇を尖らせた。
思わぬ相手の反応に、テルはお面の下で眉を上げる。そして頭を掻いた。
「そう言われてしまっては、お約束、といった反応も野暮で御座るな」
そう言うと、彼はお面を外す。
「改めて、拙者故あってホロウレイダーをやっているオタッキー、もとい木吉 輝と申す者。テルと呼んでもらって良いで御座る。そちらの彼女、エレン殿とは良い友好関係を築かせて頂いておるで御座る」
「では、こちらも改めて。ヴィクトリア家政所属、フォン・ライカンと申します」
「メイド長、アレクサンドリナ・セバスチャンと申します。リナ、とお呼びください」
「ヴぃ、ヴィクトリア家政!カリン・ウィクスです!よ、よよよろしくお願いいたします!」
「ライカン殿、リナ殿、カリン殿で御座るな。ふむふむ、それにしても……」
三人からの自己紹介を受けて、テルは顎を撫でつつその視線は上下を行ったり来たり。
一頻り見たかと思えば、大きく頷いた。
「三人が三人ともタイプの違うメイドさんと執事で超グッジョブに御座る!ライカン殿はモフモフ紳士で御座るし、リナ殿はおっとし淑やか、カリン殿は健気な頑張り屋さん。ここに気だるげながらもやる時はやるエレン殿が加わるとなれば拙者のテンションの鰻登りに御座ッ!?」
「……ちょっと黙って」
ぺらぺらと加速し続けていたテルの口は、横合いからの強烈な尻尾ビンタによって強制的にシャットダウン。
二回転半の捻りを加えて宙を舞ったテルの体は、そのまま地面に転がると仰向け大の字の恰好で転がり、
「――――ありがとうございます!」
この男、ブレない。
そもそも常日頃から侍のような口調で公私関係なく話すのだから、割と羞恥心とかそういうものは死んでいたりする。
そのまま何事も無かったかのように起き上がるのだから、そのメンタルは計り知れない。
「ええっと?それで、ライカン殿。態々こんな方法で接触してきたのだから、何かしらの理由があるので御座ろう?」
「え、ええ……そう、ですね。ンンッ!今回は、ご主人様の意向によりオタッキー様改め、テル様には提携のご提案を申し上げに来たのです」
「提携?拙者は、基本ソロで御座るが?」
「便宜上、という枕詞が付きます」
「成程……さしずめ、そちらのご主人様が自由に動かせる手札が欲しい、といった所で御座るかな?ヴィクトリア家政を手中に収め乍ら、随分と欲張りというか何というか…………あ、別に貶める意図はないで御座るよ?ただ、拙者のような半端者にまでお声がかかるとは思わなかった故……」
「ご謙遜を。貴方の良い噂は、こちらも多く仕入れる事が出来ました。助けられた者も多く、依頼の完遂は誠実。何より、ホロウに巻き込まれた一般市民の救助も率先して行う。素晴らしい事です」
「いやー、照れるで御座るな」
「こちらも裏取りが取れましたので、ご主人様は今回の件を進める事をお決めになりました。重ね重ね、不意打ちとなってしまった事を深くお詫び申し上げます」
深々と紳士の礼をしてくるライカンに対して、慌てたのはテルの方だった。
「ま、待つで御座る!拙者特に怒ったりとかしておらぬで御座るよ!?仕事を受ける方法から、何かと不意打ち騙し討ちは受けて来たで御座るからな!?」
「それはそれで、どうなの?というか、一回受けたら止めるでしょ、フツー」
「…………こ、困ってると言われてしまい、仕方なく。嘘の場合もあるで御座るが、それも昔の事。今では、本気で困っている
視線を逸らす少年に、エレンは無意識の内に舐めている飴に歯を立てていた。
彼女とテルの付き合いは、先のメイド喫茶の一件にまで遡る。といっても、メイド姿でバイトしていたエレンにテルが気付き、この事を彼女が口止めした、というもの。
今日にいたるまで、テルは一度たりとも口を滑らせたことはなかった。ペラが回る一方で約束事は律儀に守るのだ。
エレンの飴の消費が跳ね上がった一方で、テルとライカンのやり取りはある程度の終着点を見つける。
「寛大なお言葉、感謝いたします。しかしながら、テル様。今回の依頼は確かに貴方に接触するためのものではございましたが、同時にその全てが偽りという訳ではありません」
「……というと?」
「つまりは……こういう事、です!」
瞬間、衝撃音と冷気が舞いエーテリアスの鉱石のような体はくの字へと折れ曲がって吹き飛んだ。
いったいどこから現れたのか。大小さまざまな、ホロウ内での
その光景を前に、テルは頷く。
「成程、エーテリアス退治。拙者の試金石、といった所で御座ろう?」
「ご明察です、テル様。ご油断なさいませぬように」
「了解に御座る」
返事と共に鯉口を切る。
仕事の時間だ。