気が付いたら私は赤木リツコになっていた   作:無茶振りされたあなたは最高に輝いている

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「涙の通り道にほくろのある人は一生泣き続ける運命にある」
 


1 気が付いたら私は赤木リツコになっていた

 

 気が付いたら私は『赤木リツコ』になっていた。

 

 

 物心ついた幼いころから、どことなく世界について違和感というか既視感を覚えていたが、それは人生2周目だったせいらしい。

 

 そして自分の名前を認識して。

 母親が赤木ナオコだと気付いて。

 ここが新世紀エヴァンゲリオンの世界らしいと知って。

 

 

 

 

 

 

 それ以来、私は、強迫的で強烈な思いに囚われている。

 

 

 

 

 

 私は赤木リツコだ。

 

 だから。

 それゆえに。

 

 

 私は世界を救わなければならない。

 

 

 来(きた)るセカンドインパクトを生き延びた先で。

 その後のサードインパクトから。

 あるいはニアサードインパクトから。

 そしてそれに続くかもしれない四番目(フォース)か番外(アナザー)か続後なる(アディショナル)かのインパクトから。

 

 

 人類を、救わなければならない。

 

 そうでなければ、いったい他の誰が真剣に人類を救おうとするというのだ?

 実働部隊のトップがアレ(碇ゲンドウ)だぞ?

 人類の行く末に色恋を絡めるんじゃねぇ!!

 

 

 そして、人類救済のためには、それに相応しい器が必要だ。

 

 だから造らなくてはならない。

 完成させねばならない。

 運用せねばならない。

 

 

 兵器を。

 人造人間を。

 汎用人型決戦兵器を。

 

 

 ──── エヴァンゲリオンを完成させなくてはならない。

 

 

 他ならぬ私が。

 

 私が。

 私こそが。

 

 やらなければならない。

 私がやらなければ誰がやるというのだ。

 

 本来の『赤木リツコ』は居ない。

 ここに居るのは、どういう理屈か分からないままに何処からか迷い込んだ『私』だけだ。

 

 だから。

 それゆえに。

 

 私が。私が。私がッ!

 人類をッ! 救わなければならないっ!!

 

 何故なら私は『赤木リツコ』なのだから……────!!!

 

 

 

#####

§

#####

 

 

 

 前世では一般人だった私が『赤木リツコ』に転生(あるい憑依?)して、はや十数年。

 諸々あって東京は吹き飛んだものの、世界規模の紛争もひと段落し、セカンドインパクト後の常夏の気候にもなんとなしに慣れてきたところだ。

 

 生きてるって素敵ね。世界に感謝。

 

「おはよう世界、おはよう私、おはよう──── 赤木リツコ」

 

 朝。

 洗面台の鏡の前で日課の独言をする。

 鏡の中には、泣きボクロの少女(JK)が一人。

 

「私は天才。私は天才。私は天才。何故なら、私は赤木リツコだから」

 

 そう。私は赤木リツコだ。

 だからできる。

 何でもできる。

 

 エヴァだって建造できるし、陽電子砲の調整も数時間で出来るし、ハッキングしてきた使徒(イロウル)を自滅させるプログラムも作れるし、魂の輪郭を失った碇シンジをサルベージするプランも立てられるし、アヤナミレイシリーズの製造と調整もするし、コア化する世界を封印柱で堰き止められるし、新たにガイウスの槍をヴンダーの脊髄から創造できる……!!

 

 できる。

 できるっ。

 できるッ!

 できるッッ!!

 

「やっぱり無理では……いやっ、正気に戻るなッ、赤木リツコ! 私はできる!! できるったらできるッ!! ぐっ」

 

 ぐぅ、ストレスで胃が軋む……っ。

 

 だけど、やらねば……!!

 私が、やらなければ……!

 

 そうしないと、比喩ではなく──── 世界が滅ぶッ!!

 

 

 アヤナミレイが14歳まで育つことなく。

 

 チルドレンが乗るべきエヴァたちが完成することなく。

 

 襲来した使徒を撃破することもできず。

 

 ヴィレと碇シンジのネオンジェネシスは行われない!

 

 

 

 原作の修正力を信じる?

 

 ──── 運命をそこまで信頼できない。そもそも普通に滅ぶ並行未来もありうる世界観だし。

 

 

 

 現実と化したこの世界におけるネルフの人材層の厚さを信じる?

 

 ──── そりゃあ居るんだろうさ、優秀な人材は山ほど。もっとも、味方になるとは限らんがな!!

 

 

 

 母、赤木ナオコの自殺を阻止し、原作時間軸まで生かす?

 

 ──── 母親だから生きててほしいが、最悪、ゲンドウ側に就くぞ、あの色ボケ不倫(プリン)頭は!? 色恋を絡めるな、真剣にやれッ!! どいつもこいつもよォ~~!!

 

 

 

 全人類の命を懸けるのに、世界を救うのに、どれもこれも不確か過ぎるし、どいつもこいつも不真面目だ!

 っていうかそもそも初恋こじらせたマダオの陰謀で滅びるんじゃないよ、人類! ……え? 愛は全てを凌駕する? それラスボス側でやっていい理屈じゃねーだろ。

 

 は、ハハハ、なぁに、この肉体のスペックは赤木リツコそのものなのだ。

 実際に物心ついたころから、前世記憶を踏み台にして鬼気迫る勢いで学習して技術と知識を吸収してきたから、かなり良いセン行ってる自覚はある。

 現在の成長曲線的にも、必要技術の習得は間に合うはずだ。

 

「でもそもそも、物理的に間に合わないはずのシーンが多すぎないか……?」

 

 設計はできたとして、建造だの修復だの改造だのが、物理的・時間的に間に合う気がしない場面が多すぎると思う。

 そりゃNERV(ネルフ)の運用に天文学的な予算が必要になりますわよ。

 

 

 ポジトロンライフルの調整とか、あんな短い時間でできる訳がないだろ……。

 そもそも機材が足りねーよ。

 無から湧いてきたのかよ。

 どんだけ用意周到なんだよ。

 

 未来でも見えてたのかよ。

 中身転生者かよ……。

 わーい、ブーメランですね。

 そうわよ、私が準備すればいいんだルォォオおん!?

 

 

 あと封印柱とかのオカルト系謎技術はいったい何なんだ。

 

 あれも赤木リツコが作るの?

 

 ……そーなんだろうなぁ……、他に造れそうなやつが居ないよなあ……。

 

 ああ、いやでもセカンドインパクトで赤くなった海を浄化する技術を加持リョウジがパチってきたんだったか……?

 いうても量産はどうやるんだって話だし、量産するにはヴィレ側にその技術に精通した奴が居ないとだめだからどうせ『赤木リツコ』にお鉢が回って来るんだろう。

 

 聖書関連の歴史研究に、洋の東西問わずに神秘研究もしつつ、医学工学呪術プログラミングを満遍なく極めて、もちろん形而上生物学の最新研究にもキャッチアップして……!

 

 

 や、やることが、やることが多い────!!

 

 

「で、でも、私がやらないと……! そう、できる、できる、できる! 何故なら私は赤木リツコなんだから……!!」

 

 人類の未来。

 文字通りの全ての人類の命が懸かった未来。

 それが私の、『赤木リツコ』の双肩にかかっている。

 

「ぐぅぅうっ!?」

 

 突き刺すような胃の痛みに、思わず腹を押さえる。

 

 転生者として人生二周目とはいえ、思春期の小娘の双肩には重すぎるソレが、ついに胃の腑を突き破ったのだ。

 

 

「ゴホッ」

 

 

 ごぼり。

 べしゃり。

 

 赤。

 水っぽい湿った咳の音。

 

 貧血のためか隅から暗くなる視界の中で、赤黒く染まる洗面台が近づいてきて────

 

 

衝撃。

 

 

 ゴン。

    ドサッ。

  ガン。

 

 

そして暗転。

 

 

 

 つまり限界を迎えて意識を失った私は、受け身も取れずに、色々ぶつけながら倒れたのだった。

 

 

 

#####

§

#####

 

 

 

 赤木ナオコにも、まだ母として娘への情はあったらしい。

 

 ゲヒルン(NERVの前身)での生体コンピュータの研究も佳境だろうに、私の入院に付きっきりだ。

 これを機にゲンドウとの不倫からは足を洗ってほしいのだが……。

 

 いや?

 まだ碇ユイ氏が生きているから、今のところは愛人関係には無いのか??

 

 でも明らかに横恋慕というか、色目使ってるというか……。

 家の中でもゲンドウへの言及が多いんだよな。

 

 

 ちなみに私の診断は、出血を伴うストレス性の胃潰瘍からの胃穿孔。

 緊急の開腹手術もする羽目になった。

 内視鏡手術がまだ発展途上な技術なせいで腹を切って開けることに……。傷跡が残らなければ良いが。

 

 あと倒れたのは胃からの出血で血圧低下が起こったのと、月のモノ(女の子の日)の貧血が重なったせいのようだ。

 そして隠すことでもないが、この年で初潮だ。

 生理周期の乱れもストレスのせいらしい。

 

 まあ、せやろな。

 知ってた。

 

 倒れるときに頭や顔をあちこちぶつけたから、たんこぶや青あざも出来てるし、口の中は歯に当たって切れてるし。

 お腹の手術痕はじんわり痛いし、色々ぶつけて打ち身になっているし。

 幸い、脳の方の血管には異常はなかったみたいだけど。

 

 何か泣けてくる……。

 母の代わりに普段世話をしてくれている祖母にも、随分と心配をかけただろう。

 申し訳ないことだ。

 

 

「はぁ……何してんだろ、私」

 

「最近ちょっと根を詰め過ぎだったのよ、リツコ。良い機会だからゆっくり休みなさい」

 

 

 ショリショリとリンゴの皮を剝く赤木ナオコ(ははおや)。

 

 いやあの、胃の穴を塞ぐ手術したばっかりだから、私は二日くらい絶食しなきゃなんですけど??

 

 

「私が食べるのよ」

 

「そう……」

 

「絶食措置中なのは知ってるけど、職場(ゲヒルン)の人たちからのお見舞いの品を断るわけにもいかないでしょう?」

 

「ソウデスネ」

 

 

 その割に仕方なしに消費するって感じでもなく、妙にうきうきしてるのは、そのお見舞いの果物盛り合わせ、さてはゲンドウから持たされたものなのでは?

 

 この色ボケがよぅ……。

 

 職場の若くてでもちょっと危険な雰囲気のするイケメンからのプレゼント(※入院した娘への見舞いの品を横取りしたもの)を食べるのは美味いか??

 

 

「あら美味しい。良い品みたいね。ゲンドウ君、なかなかセンスあるわぁ」

 

「……不倫は止めてよね。向こうも既婚者で子持ちなんでしょ」

 

「邪推は止めなさい。そんなんじゃないわよ」

 

 

 女(メス)の顔してそう言っても説得力皆無なんだよなあ。

 

 

「そろそろ面会時間も終わるし、お母さんも帰ったら?」

 

「あら、もうこんな時間! ……安静にしてるのよ? ストレスにならないように、極力ゆったりとしておきなさい」

 

「お医者さまからもそう言われているし、自分でもそのへん勉強しているから分かってる。痛み止めも打ってもらったし、安静にしておく」

 

「よろしい。まあ一週間もすれば退院できるでしょ」

 

 

 一週間。

 ……一週間かぁ……。

 

 Xデー(原作開始)までの残り六百数十週のうちの一週間(0.2%)かぁ……。

 

 間に合うのかなぁ……。

 

 

 ああ、止め止め。

 

 これ以上考えるとまた胃が痛くなって、さらに恢復が遅れるっ。

 

 平常心、平常心。

 

 

「それじゃ、おやすみなさい、リツコ」

 

「はい。おやすみ、母さん」

 

「また明日お見舞いに来るわ。着替え入れ替えたりするから部屋に入るけど、勘弁ね」

 

「別にいいよ。ありがとう、また明日。おやすみなさい。母さんこそ無理しないでね」

 

 

 去り行く母ナオコの足音を聞きながら、私は目を閉じた。

 

 極力何も考えないようにしながら。

 

 ………まずは身体を休めなければ。

 

 

 

#####

§

#####

 

 

 

 ──── そうだ、チベットに行こう。

 

 

 一週間の入院を経て精神をリセットして、私が考え付いたのがそれであった。

 知識技術も大事だが、精神修養も大事だと気づいたのだ。

 

 人間強度を高めなければこの先やっていけないだろう。

 

 あの程度の負荷で血を吐いていては肝心な時にまた倒れる可能性がある。

 

 それはダメだ。

 いつでも涼しい顔して分かるような分からないような意味深な解説を垂れ流せるようでないと、それは赤木リツコではない。

 

 体力面では多少は身体も鍛えているのだが、それに加えて精神的な修行が必要だと悟ったのだ。

 

 いや、悟っただとか気軽に使ってはいけないな。

 まあ気付きを得た、ということだ。

 

 

 そう、それでチベットだ。

 

 ほら特殊な呼吸法とかあるかもしれないし。

 

 まあそれは冗談として。

 

 あとアレだ。

 封印柱の関連技術。

 

 覚えているソレは、見た目がマニ車っぽかったからたぶんチベットにルーツがあるんじゃないかと思っている。

 

 私がいま習熟すべきは多分そちら方面の技術だ。

 

 母の赤木ナオコが存命なうちは、通常の技術方面は任せておいていいと思うし。

 

 というわけで、出家(しゅっけ)(家出に非ず。)……とまでは行かないが、将来、大学に入ったらすぐ休学してチベットに行くのは良い選択だと思う。

 

 時間を取れるとすればそのタイミングしかないのは確かだし。

 

 休学理由は、あー、形而上生物学の実地調査(フィールドワーク)とでもしておけば良いだろう。

 何も嘘は言ってないし。

 

 きっと何かは掴めるはず。

 

 特に、ニアサード後のNERV側の体制を支えていたと思われる、無から色々と具現化する系の技術があるはず── そうでもないとごく少人数で拠点を維持できていた理屈の説明がつかない── なのでそれをぜひ習得したい。

 

 投影魔術とか、空想具現化とかそういう感じのやつ。

 

 この世界が一種のシミュレーテッドリアリティなんだとすれば、多分、世界の理に干渉する系のチートコードか何かがあるのだと思うのだが。

 

 物資を生み出すのに、きっと世界のパラメータを書き換えるみたいなことをやっていたと思うのだ。

 ゲームで持ち物(アイテム)の数を最大化するみたいなことを。

 

 チートコード利用のためには、槍とか鍵とか、使徒とかエヴァとか、ゴルゴダオブジェクトという特殊座標とか、なんかそういう触媒だのが必要なのかもしれないが、それでも探求することは悪いことではないだろう。

 

 

 

 というわけで。

 

 大学に進学してすぐのころ。

 

 私はチベットに旅立った。

 

 2002年、18歳の頃であった。

 

 




 原作破壊は転生者のたしなみ。
 じゃけんまずはオカルト系のスキルツリーば生やしましょうね~。
 そして投稿は不定期です。

=====

■次回予告

 大学生になった赤木リツコは、さっそく休学して神秘の地チベットにやってきていた。
 この世界の秘密を暴くため、そして精神修養してタフな心と体を手に入れるため……。
 幼少から積み上げた知識を信じて、リツコは今しばしの寄り道を自分に許した。それこそが未来のためになると自分に言い聞かせて……。

 そのチベットの地でリツコが出会ったのは、ストレイツォと名乗る武僧であった。
 ストレイツォと師弟関係を結んだリツコは、この地に連綿と受け継がれてきた神秘の御業に触れることを許される。
 マニ車に宿る神秘の力。人間の限界を超越する特殊な呼吸法。雄大な自然の中での修行を通じて体得した無我の境地。
 そして来る別れの日。
 そのとき師匠ストレイツォの口から語られたのは、同門の兄弟子に当たるという学者の日本人、『コーゾー』の名前だった。

 次回、『さらばチベット! また来る日まで!』
 それでは次回も、サービスサービスゥ!
 
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