気が付いたら私は赤木リツコになっていた   作:無茶振りされたあなたは最高に輝いている

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当作は架空の前日譚(しゅうだんげんかく)『エヴァンゲリオン/Zero ゲンドウ編』(伝奇学園モノ)があ(・)っ(・)た(・)ものと仮定して構成されている胡乱(うろん)SSです(挨拶)

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■前回までのあらすじ
 ・『赤木リツコ』をやらざるを得なくなった転生者、吐血する。
 ・入院中に自分を見つめ直した赤木リツコは、心機一転、エヴァ世界の神秘技術をラーニングするため、チベットへと留学を決める。
 ・そこで彼女は、とある武僧から導きを受ける────。

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「このストレイツォ、容赦せん!」
 


2 さらばチベット! また来る日まで!

 

「師父、お世話になりました!!」

 

「うむ、リツコよ。そなたであれば今後も自らの手で修業を続けられるであろう」

 

 岩窟の中の修行場にて、若く見える男と、実際若い女が互いに礼をしていた。

 その周囲には、砕けた岩や、この場には似つかわしくないが、ネジや何かの機器の部品らしきものが落ちていた。

 

「リツコよ、お前はこの2年という短い時間の間に、呼吸法を極めた先にある奥義を修め、この世界の理を動かすに至った」

 

 リツコは頷くと、調息し、その掌の中に一つのネジを創り出した。

 創造の力、そのごくごく一部の、さらに末端の切れ端。

 だが彼女は確かに、この世の理を一部改変する力(いわばチートコード)の一つを手に入れたのだ。

 

「……結局のところ、私は滅諦(めったい)の境地には至れませんでしたが」

 

「そうであろうとも。なぜなら、人類救済の志も、また汝の欲であるからよ。

 汝のそれは我欲であり、御仏の救済とは異なるもの。

 全ての我欲を滅したニローダ・サティヤ……滅諦の境地には程遠いと心せよ」

 

 2年の修行の結果、リツコは20歳になり、そしてチベットで得た生涯の師と別れようとしていた。

 

 

 

「そも2年で悟れるようであれば、人はみな既に救済されておるよ。我とてまだその境地には至っておらぬ」

 

「師父……」

 

「なにせ、汝との別れを惜しんでおるのだからな。四苦八苦のうちのひとつ、愛別離苦を乗り越えるのは誠に難事であることよ」

 

「私も、それをまさに感じております……」

 

 だがまあ、いつまでも別れを惜しんでいる訳にもいかない。

 

 日本に戻り、母のナオコが行っているゲヒルンの研究を引き継ぐ準備もしたいし、大学に復学してこの2年間で進歩があっただろう最新の理論と技術に追いつかなくては。

 

「リツコよ、日本で何か困ったことがあれば、コーゾーという男を訪ねると良い」

 

「『コーゾー』?」

 

「ああ、私の弟弟子にあたる男だ。私の名を出せば相談くらいには乗ってくれるだろう」

 

 コーゾー。

 コウゾウ……。

 

「あの、師父。そのコウゾウという方の姓は……?」

 

「確か、フユツキと言ったはずだ」

 

 フユツキ、ね。

 ふゆつきコウゾウ。

 

 冬月コウゾウ?!

 

「あーっ!」

 

「ん、どうした、リツコ?」

 

「もしかしてその方、学者では!?」

 

「おお、そうだ。形而上なんとか学だか言っていたな」

 

 ハイ確定!

 

 やっぱりあの冬月じゃねーか!

 

 師父の弟弟子ってことは、私と同門になるのかよ!?

 

 でもそりゃそうか、マニ車じみた謎技術を活用しているのは、未来のヴィレだけではない。

 未来のネルフも、オカルト系謎技術には精通している。

 

 その出所はと考えれば、候補は2人。

 

 碇ゲンドウか、あるいは、冬月コウゾウ。

 

 性格的にどっちが、と問われれば、まあ、実際に手を動かす担当は冬月コウゾウの方であろうか。

 

 ネブカドネザルの鍵によって人外と化した碇ゲンドウの権能による可能性も考えられるが……。

 

 だがまあ、ここで師父から同門として冬月コウゾウへの言及があったということは、密教由来のオカルト技術を修めていたのは副司令の彼の方だったということだろう。

 

 ……碇ゲンドウが── いや六分儀ゲンドウが、冬月の弟子として同等の技能を修めているという可能性もまだある、が。

 

「コーゾーを知っているのか? リツコ」

 

「知っているも何も、彼は形而上生物学の泰斗で、私はその学問の学生です。まあ、所属大学は違いますが」

 

 冬月教授は京都大学。

 

 私は第二東京大学で、しかも一年生な上に、いきなり二年も外に出ている。

 

 いやまあ、途中から留学扱いにしてこっちの大学で単位はいくらか取得したりもしたから、戻っても留年にはならないようには手配しているが。

 

 場合によっては、冬月教授の研究室に入るために京都に転学しても良いだろうか。

 将来のネルフはトップ二人(ゲンドウ・冬月)ともに京大閥ということになるから、それも視野に入れてもいいかもしれない。

 

 何にせよ、今の私とは、立場はかなりの違いがある。

 

「ふむ、そうであったか……とはいえ、私からの紹介状があれば、そう会うのに苦労はしないだろう」

 

「はっ、ありがとう存じます、師父!」

 

 紹介状自体はとてもありがたい。

 このチベットで体得した特殊な呼吸法や武術、あるいは神秘文字を回転させることによる超常現象発生装置など、そして形而上生物学について、この世界の構造について……冬月教授に見解を尋ねたいことは山ほどあるのだ。

 

 母である赤木ナオコもまた、冬月教授と知己は得ているだろうか?

 いや、生粋の技術屋である母との接点は薄いか……。

 

 まあいい。

 

 これは奇貨だ。

 

 

「息災でな、リツコ。我が弟子よ」

 

 私はストレイツォ師父に対して、深く礼をした。

 

 

 

#####

§

#####

 

 

 

 帰国して、日本。

 

「リツコ! 大丈夫だったか? ご飯はちゃんと食べられとったか?」

 

「お祖母ちゃん、迎えに来てくれてありがとう。平気平気、何にも問題ないわよ」

 

「確かに元気そうじゃが………ああ、でも髪をそんなに短くしてしもうて……。綺麗な髪じゃったのに」

 

 そう言って、私は祖母は私に駆け寄り、抱擁して髪を撫でてくれる。

 

 まあ、修行に邪魔だったのでベリーショートにしていたのだ。

 

「髪なんてまた伸ばせばいいでしょ。お祖母ちゃんは元気だった?」

 

「まあ、この通り、ばあちゃんは元気よ!」

 

 とか言いつつ、力こぶのポーズをとる祖母に、私は笑みを向ける。

 祖母にはどうか、元気でいてほしい。

 そのため、私はさっきの抱擁の時に、こっそりと波紋の力を流したのだ。

 

「はー、やっぱり元気な孫の顔を見ると、ばあちゃんも元気もらえるなあ! 疲れも吹っ飛んだわい!」

 

「それならよかった」

 

 くすくすと笑い合う。

 

 今は2004年。

 世界情勢は落ち着きを見せたとはいえ、セカンドインパクト以降、常夏になった日本の気候は高齢者には酷だ。

 家族が健康だというのは何にも代えがたい。

 

「で、母さんは相変わらず仕事?」

 

「それじゃよ、ナオコのやつめ、せっかく娘が二年ぶりに帰ってくるいうに、迎えにも来ん」

 

「私も母さんも子供じゃないんだから別にいいんじゃないかしら。それに母さんには仕事して稼いでもらわないとだし」

 

「まあなあ。でもナオコもナオコで、またアレなことになっとるようじゃし……」

 

「あれなこと」

 

「オトコじゃよ。まぁた、どうもタチの悪い男に入れあげとるようでなぁ」

 

「ああ……」

 

 そう、今は2004年。

 ということは、既に碇ユイは、エヴァンゲリオン初号機の中に溶けた後か。

 

 で、我が母は、未亡人にクラスチェンジした碇ゲンドウにコロッと転がされている……と。

 

「オトコ運悪いのはウチの血筋なんかねぇ。リツコは、ばあちゃんやナオコのようにはならんようになぁ……」

 

「頑張るわ」

 

 私の場合は仕事が恋人になりそうだけど。

 

 そう考えると仕事バリバリやりながら色恋に走っている母ナオコのバイタリティには一抹の尊敬の念を覚えないでもないが。

 とてもぼくにはまねできないな、とおもいました、まる。

 

 真似したくもないが。

 こちとら世界を救うのに忙しいんでね。

 

 色恋沙汰など、とてもとても。

 

 

「これから忙しくなるわね」

 

「なんじゃ、帰って来たばっかりなんじゃから暫くゆっくりせんのかい、リツコ」

 

「そういうわけにもいかないのよ」

 

 復学手続きや、必須単位の補填はもちろん、最新の論文へのキャッチアップも必要。

 2年間のチベット行きは後悔していないが、停滞は確かにあった。

 幼いころから積み立ててきていた知識の貯金はあるが、秘境に籠っていた間の、その穴埋めはしなければならない。

 

 さらに言えば。

 

 チベットで身に着けた、現実を改変する力に習熟するためにも、身の回りのあらゆる物事を深く理解し、洞察することが必要なのだ。

 

 ア(・)レ(・)は、自分のよく知っていることほど、持(・)っ(・)て(・)き(・)や(・)す(・)い(・)という性質があるようなのだ。

 想像力と理解力と認識力がものをいうのだろう。

 

 ある意味では私にうってつけの力だし、向き合いがいのある力だといえよう。

 

「はぁ」

 

「なによ、お祖母ちゃん」

 

「アンタもやっぱり赤木の女じゃなぁと思うてな」

 

 いや、それ絶対いい意味ではないよね?

 縁起でもないこと言わないでよ。

 まったくもう……。

 

 

 

#####

§

#####

 

 

 

 そういえば、最後に。

 

 なぜ私が、碇ユイの消失を止めなかったのか、だが。

 

 

 最初は直感に過ぎなかった。

 原作を知っているからこそ、その道から外れないように放置しようとしていたのかとも、自分の無意識を疑った。

 

 

 でも違った。

 

 私は、碇(・)ユ(・)イ(・)が(・)怖(・)か(・)っ(・)た(・)のだ。

 

 

 

 チベットに行き、その道を齧った今だからこそ言語化できるが。

 

 

 

 アレは化け物(カミサマ)だよ。

 

 人の世には居てはいけないタイプの。

 

 その化け物(カミサマ)が、わざわざ自分から羽化登仙してこの世から退場(そつぎょう)してくれるってのに。

 

 只人が止める理由があるわけがない。

 

 だいたい、彼女の道を邪魔して、それで目を付けられるだなんて考えただけで恐ろしい。

 

 

 そもそも、たとえ一度は止められたとて、改心させることなんか不可能なんだから、時間の問題でしかないしね。

 無意味無意味。

 またどうせ同じことになるだけさ。

 

 

 碇ユイに脳を焼かれて振り回された人たちや、彼女の息子のシンジくんにはお気の毒だけれどね。

 

 

 

 碇ユイに比べれば、まだゲンドウの方がマシだよ。

 

 

 だって彼は人間だからね。

 

 いくら政治的手腕に優れていたとしても。

 

 か弱い、孤独な、ただの人間に過ぎない。

 

 

 というわけで、一人の女が神の座へと消えて、残された男がその後を追う世界の出来上がり。

 

 

 私はその舞台の、道具係。

 

 だって、私は赤木リツコなんだから。

 

 

 

 もちろんゲンドウを侮るつもりもない。

 

 使徒撃滅は、碇ゲンドウにとっては『過程』に過ぎない。

 

 妻に再会しに行くための『もののついで』で、人類を救って見せるほどには有能な人間だ。

 

 

 だから、私がすべきはただひとつ。

 

 使徒を撃滅した上で。

 より良い着地ができるように、あのマダオの妄執を成就させてやることだろう。

 

 

 ネオンジェネシスは、あまりにも賭けの要素が大きすぎる。

 

 それまでに失われるものも大きすぎる。

 

 

 より良いプランが必要だ。

 

 人類は、滅ぼさせやしない。

 

 ならばそのために、さあ私に──── 赤木リツコにできることとは、なんだ?

 

 

 





■次回予告

 チベットで出会った師ストレイツォの弟弟子だという学者、京都大学形而上生物学専攻の教授、冬月コウゾウ。
 日本に戻った赤木リツコは、彼に会うべく京都を訪れる。

 そこで会ったのは、教え子であった碇ユイの訃報を聞いて、すっかりと意気消沈した一人の紳士だった。

 赤木リツコは知っている。
 この老紳士が、やがて立ち上がり、一人の女に再び会うために、世界を滅ぼす片棒を担ぐことを。

 だがそれはそれ、今は今。
 世界を救うための力を研ぎ澄まさせるために、赤木リツコはこの燃え尽きかけの老紳士からのインストラクションを求めるのであった。

 武人同士が通じ合うのに言葉は不要。
 必要なのは拳の交わし合いのみ。

 次回、『必殺! 形而上生物学パンチ!』
 それでは次回も、サービスサービスゥ!
 
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