気が付いたら私は赤木リツコになっていた 作:無茶振りされたあなたは最高に輝いている
・冬月教授:「行け、仮称:
・本来の『赤木リツコ』に尋ねて曰く:『その説明をする前に今の宇宙の状況を理解する必要がある。少し長くなるぞ』
・神秘を解体し尽くし、奇跡のような科学を、魔術のような科学を、万民に配布しましょう。それができるまで進み続けましょう、たとえ泥臭くとも。
・『赤木リツコ』より追伸、愉悦を添えて:『無茶振りされたあなたは最高に輝いている』
=====
「理論上は、でしょ? 何事も、やってみなくちゃ分からないわよ」
「さて、じゃあ冬月師兄の研究室に行きましょうか」
出町柳駅近くのビジネスホテルを出て、京都大学へ向かって歩き始める。
周囲には大学生が多く、同年代の若者とも多くすれ違う。
セカンドインパクト後も、京都は依然として学生の街だ。
歩く道すがら、考えを巡らせる。
内なる対話を経て、赤木リツコとしての私が向かうべき道が見えてきたように思う。
〝生来の『赤木リツコ』〟との対話用のトークンをここで1つ切ったのは勿体なかったかもしれないと若干後悔しつつ、とはいえ抱え落ちしてもしょうがないのでこれでよかったのだと思おう。
話すべきは話したということだろうか、既にまた観察者モードになったのか、内心に潜航しても、『赤木リツコ』からは反応がない。
だが、まあ、良いだろう。
せいぜい面白おかしく踊って、『彼女』を楽しませるとしよう。
それが恩返しになると信じて。
では、京都大学へと歩きながらだが、おさらいしておこうか。
まず、この世界で多くの人の命を救うには、大きく2つの課題があり、さらに追加で世界全体に仕掛けられた、より高次の課題が1つある。
●課題1:使徒撃滅。『生命の実』の系譜に打ち克つこと。
●課題2:人類単一化のための『補完計画』の無効化。ひいては、世界の黒幕の秘密結社ゼーレによる支配構造の打破により、その再発をさせないこと。
そして、世界全体のメタ構造にかかる課題が追加で一つ。
●課題3:第一始祖民族の置き土産の克服……つまりゴルゴダオブジェクトによる世界ループ構造の、その破却、ないし発展的解消。
課題1については播種船『白き月』に詰め込まれた『生命』の系譜アダムスと、播種船『黒き月』に詰め込まれた『知恵』の系譜リリスの排他制御による相克を前提原因として置いている。
でも、新劇場版では、月面のタブハベースから、アダムスの一体が発掘されていることから、あの宇宙の月こそが、『白き月』だともされてたかな。
だから新劇場版では、『白き月』は地球に落ちてないとかなんとか。
ただそうすると、宇宙の『白き月』と箱根の『黒き月』のサイズ差がとんでもないことになる。あまりに不均衡。
それに、セカンドインパクトの際に南極に現れた光の巨人たちは、どうやってやって来たのか、どうしてわざわざ地球に降りて氷河の中で眠っていたのか、という疑問も残る。
実際に使徒が襲い来る以上は、『生命』と『知恵』の排他制御というルールは生きていそうだし、そうすると『白き月』も、地球に落ちていると見るべきだろう。
可能性としては、上空の月は、かつて完全体の『白き月』と『黒き月』が衝突融合した結果のものであって、地球には、脱出艇として切り離された、それぞれの完全体播種船のコアの部分が『白き月(小)』と『黒き月(小)』として、それぞれ南極と箱根に落下した、とか。
地上のアダムスとリリスはその脱出艇に乗り込んでいた者たちなのだ………というのはどうだろうか。
つまり、上空の月は、一時期は正面衝突により破滅的な被害を被った船体が、最後まで残ったアダムスの一体……肉体はのちのMark06となり、魂は渚カヲルとなった者……が、修復プログラムを走らせて二つの播種船が融合した新たな月として復元した、とかいう可能性だ。
カヲル君は、そういう貧乏くじ進んで引きそうだよね、というのと、一人だけ月に残されてたなら寂しさが高じて、コロっとリリン代表:碇シンジに転んでしまうのにも納得感が出てしまうな……という。
それに、南極や箱根以外にも、播種船の不完全な残骸が落ちて、そこから各地の神秘宗教の源流が派生したとかいう理屈も付けられる。
まあ、これはある程度の整合性があるというだけの仮説というか与太話でしかないが。
現実問題として、使徒はこちらを襲ってきているわけだし、『生命』と『知恵』の排他制御だか相克だかのルールは発動してるのは間違いなさそう。
え? 怪獣とは『日本を襲うもの』でそこに理由はない? ウルトラマン的にはそれでも良いかもしれないが、この世界で生きる者としては理由があってほしいと切に思うよ。
うーむ、内なる『赤木リツコ』の見解を訊きたい……。
愉悦ポイントと引き換えにトークン発行してくれんかね。
閑話休題。
話を戻すけれど、第3の課題をクリアするには、課題設定者である第一始祖民族視点での評価を仮定することが必要だろう。
例えば、ゼーレの『補完計画』による単一化は、おそらく課題3に対して落第点。
補完計画で出来上がった単一生命は、他者への恐怖により引きこもるか、際限ない同化により他の生命を喰い潰すかの有り様となることが容易にイメージできる。
そんな有り様では、個として独立した神による社会を営むだろう彼ら第一始祖民族にとっては、赤子か獣にしか映らないだろう。
ゲンドウの計画はそもそも論外。
碇ユイに会って以降のことは何も考えていないか、あるいは会った時点で世界を凍結して永遠に引き込もるハラだろうからね。
なんというか、世界最高の技術で書いたラブレターというか、無理に例えるならそんな感じだろうか。
第一始祖民族からしてみれば、微笑ましいけど、それで? って感じだろう。
碇シンジのネオンジェネシスは、たぶん花丸正解。
与えられたものを拒否して自ら立つ気概を示すことは、第一始祖民族への回答として満点だろう。
そこから文明を高度化させて成熟するまで、かなりの時間を要するとしても、第一始祖民族にとっては、時間は既に克服済みの概念に過ぎないのでいつまででも待てるから問題ないのだろうし。
では、赤木リツコとして目指すべきはどこか、ということだが。
それは、課題3に対する『ネオンジェネシスではない別解』を示すこと、になるだろう。
つまり内なる対話で導き出した、『神の力のコモディティ化』だ。
万民に配給された奇跡のような科学。
ゴルゴダオブジェクト掌握か、またはそれと同等に積み上げた技術体系により、全人類を、今の文明の延長として、成熟した高度文明へと成長させること。
ゼーレの『補完計画』が、一神教的な価値観において、楽園を追放されたが故に相互理解が不可能になり個別に分かたれた人類を、再び一つの存在に還元させようとしている、『失楽園の否定』、『グノーシスの極致』なのであれば。
これから私が目指すべきは、多神教的な価値観において、超越した全能者たる個々が並び立って社会を構築するという、高天原、オリュンポス、ヴァルハラ、蓬莱/崑崙のような在り方の世界になるのだろう。
まあその前に、『課題1:使徒撃滅』と『課題2:ゼーレ打倒』が必要になるんだが。
これがマジでしんどすぎる。
正道では実現の道が見えないほどに。
やはりチベットの秘境で得た、曼荼羅や真言に関する知識がカギになるだろう。
実際これは大したものだった。
そのおかげで、波紋の呼吸は、この世に残る幾つものオカルトの流派の中でも、相当の強度を保っているのだろうしな。
曼荼羅や真言の他にも、北欧のルーンをはじめ、カバラ数秘術、セフィロトなどの神秘主義の秘奥は、おそらくは第一始祖民族の遺産に少なからずルーツがあるのだろう。
だから、実際にこれらは奇跡や魔術として効力を有するのだ、この世界においては。
そのような不可思議な話は、探してみれば枚挙にいとまがない。
一方で問題は、裏死海文書だ。
ゼーレの有する裏死海文書は、おそらく曼荼羅やルーン等のような断片的な知識の、その上を行く完全版の、第一始祖民族の播種船『黒き月』・『白き月』の仕様書であり、ソースコードそのものであり、操作説明書であり、実験計画書であり、緊急時の保守手順書なのだろう。
それゆえに、秘密結社ゼーレは、いまこれほどに世界を支配できているのだ。
「裏死海文書……やはりそこに記された内容を見たいわね……」
まあ、各地に伝承された神秘文字やモチーフを解析して、リバースエンジニアリングで裏死海文書の内容を復元することも可能かもしれないが……。
だがそのためには相当な演算リソースが必要だろう。
MAGIが完成すれば、あるいは……というところだろうか。
「うううむ………どこかに凄腕スパイが落ちてないかしら………」
地球や人類の未来のことを考えていて、子供に世界の行く末を委ねるような責任の押し付けをせず、だいたい何でもできちゃって、ジェームズ・ボンドばりに働く、そんなスパイ。
まあ、幸いなことにそんなスパダリじみた男に一人、心当たりがあるのだが、さて。
§
#####
考え事をしているうちに、いつの間にか冬月師兄の研究室前に到着していた。
時間通り、15時を少し回ったところだ。
研究所の扉に貼ってあるマグネット表では、確かに『冬月』『在室』のところにコマがあることを確認。
ノック。
「冬月教授。15時過ぎにお約束していた赤木です」
「開いている。入りたまえ」
「失礼します」
扉を開けて中へ。
中に入ると待っていたのは、一人の老紳士。
そう、ストレイツォ師父の弟弟子だという、波紋法の同門にして、形而上生物学の泰斗、冬月コウゾウ教授だ。
執務室内の机の上には、レポートが綴じられたファイルが積み重ねられており、その傍らに、ホルマリン液浸標本や、鉱物標本のような何かや、他にも得体の知れない試料が置かれている。
「リツコ君、君は確かに波紋の戦士としての矜持を示した。だが開示できるのは一部だけだ」
「構いません。ありがとうございます」
「今ここにあるものは自由に見て構わない。レポートは……まあ、ユイ君やゲンドウが居た頃のものが中心だな。よくまとまっていて、今のゼミの学生にも普段から閲覧を許しているものだ」
冬月師兄の動きは、その見た目とは異なり、
私もそうだが、冬月コウゾウ師兄もまた、
おそらくは実戦経験が豊富な彼の方が、敵対する幻想存在の解析からのフィードバックで、その練度は高そうだ。
その割に見た目が老いているのは、おそらくそうでないと嘗められるからだろうか。
男社会は、若ければいいというものではないからな。貫禄というものも必要だ。
それに若返るだけなら、極まった
むしろ、己が自然に老いた姿を、老いたことがないのに正確に
………などとつらつら考えつつも、私の手は既にレポートが綴じられたファイルを開いていた。
開いたファイルには目次がついていた。
これをまとめた誰かは、几帳面だったのだろうと、そう伺える。
「……接触記録。『仮称:
「それらのうちの幾つかのサンプルもそこに置いておいた。冷凍サンプルは、まあ、必要であればまたの機会だな」
「ありがとうございます、この機会にしっかりと学び、糧にさせていただきます」
他にも、別のファイルには、試作品目録のようなものも綴じられている。
これは……デュアルソー? なんともケッタイな……。
「まあ、読みながらで構わん。この老人の思い出話にでも付き合ってくれたまえ、リツコ君」
「老人だなどと、韜晦なさいますこと。
押しかけたのは私ですし、むしろ当時のことはこちらこそ聞きたいことですわ」
碇ユイ、あるいは綾波ユイ。
初号機の中に溶けて消失した彼女のことを中心に、戻らない日々を思う老紳士の話は、日没まで続いた。
私的には、碇ゲンドウ、あるいは六分儀ゲンドウへの理解が深まった時間でもあった。
同時に冬月コウゾウ師兄の思考回路にも触れることができて、彼の人となりもより深く知れた。
武人同士の手合わせは数時間もの対話に匹敵するが、それは数時間の対話をないがしろにしていいという訳ではないからね。
何にせよ、やがて立ちはだかるだろう、打倒するしかないだろう彼らの
§
#####
充実した京都旅行を経て、長野……第二東京へと戻ってきた。
「んー、大学にも、適当にレポート出さないといけないわね」
教科を担当している講師に無理を聞いてもらって、京都行きは研修旅行扱いにしてもらったのだ。
その分、復命書というか、レポートは必要だが。
まあ、レポートのネタには困らない。普通に書ける範囲だけでもね。
というか既に準備はしてあるからあとは出すだけだし。
「まあ、先に腹拵えか」
冬月師兄におごってもらった学食の鴨南版、おいしかったなあ。
でも今日はラーメンな気分なのだ……!
「外に行くかしら」
なお、ちなみにだが、私に一緒に食べに行く友人は居ない。
……友人は居ない。居ないのだ。
まあ、人工進化研究所ゲヒルンの赤木ナオコの娘ということで、遠巻きにされているのだ。
いきなりチベットに2年も留学していたのもあるし。
今は少しマシだが、チベットに行くまでは結構、こう、雰囲気が、ね? トゲトゲしてたというか、ほら、私も余裕がなかったから……。
チベットから帰ってきた今はどうかって言うと、それはそれで雰囲気が怖いらしい。熊とかそういう感じとか。
冬月師兄の完全な擬態を見た後では、自分の未熟が嫌になる。
真の達人であれば、漏れ出でる覇気を抑えるのも訳はないはずなのだ。
まあ、お手本は見た。
────
周囲の人々が、心なしか、深く息をしたような気がした。
どうやら上手くできたようだ。
さて、ラーメンだ!
「お隣、大丈夫?」
「ええどうぞ」
「ひょっとして赤木さん?」
「そういう貴女は葛城さんよね」
「そー、葛城ミサト。よろしくね!」
赤木ナオコの娘な私、赤木リツコと。
葛城調査隊の葛城ヒデアキの娘で生き残りの、葛城ミサト。
お互い大学でも腫物扱い。
名前と容姿だけは知っていた。
そのファーストコンタクトはそんなものだった。
みなさまお気に入り登録、評価、感想、ここ好き等ありがとうございます!
=====
■次回予告
生涯無二の親友となる二人。
赤木リツコと葛城ミサト。
しばらく交流を重ねる二人だが、あるとき長く葛城ミサトとの連絡が取れなくなる。
そして久しぶりに会った葛城の隣には男の影が……。
ミサトを得たくば我が拳を越えていけ!
貴様が彼女にふさわしいか見極めてやろう!
チベット仕込みの神秘の拳が轟き叫ぶ!
次回、『必然の邂逅! 葛城ミサトと加持リョウジ!(後編)』
それでは次回も、サービスサービスゥ!